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雑誌目次

雑誌文献

臨床検査67巻1号

2023年01月発行

雑誌目次

今月の特集1 臨床生理学のための解剖・生理

著者: 河合昭人

ページ範囲:P.5 - P.5

 臨床生理学は他の検査の学問より学ぶべき対象が多岐にわたっています.それは,いろいろな診療科からの依頼に応じて検査を行わなければならないからです.もちろん学生時代に一通り学んだうえで国家試験に合格し仕事に従事しているわけですが,就職してからは実務ばかりを教わり,基本となる解剖や生理学について知識が抜け落ちてしまっている検査技師がいるのではと考えています.教育研修の過程で試験を行った際,実技は優秀となっている者も筆記試験では赤点をとってしまう者もいます.

 本特集では,臨床生理学の基礎の部分となる解剖と生理を解説します.これで全てを網羅しているわけではありませんが,基本的な部分は抑えてあります.初学者でもわかるよう解説をしました.しかしながら,初めて見聞きすることもあるかもしれません.これをよい機会とし,ご自身の勉強の一助としてください.

 本特集が読者の方々の知識のブラッシュアップにつながれば幸いです.

循環器の検査に必要な解剖・生理

著者: 川良徳弘

ページ範囲:P.6 - P.11

Point

●生理的な循環の弱点に病的な影響は現れやすい.冠循環の弱点は心内膜側にある.

●大動脈,三尖弁,僧帽弁に挟まれる中心線維体は房室伝導軸の経路として重要である.

●大動脈弁狭窄,僧帽弁閉鎖不全を発見する第一のポイントは心雑音の聴取である.

●心臓の収縮性,拡張性の概念は心不全診療において欠かせない.

呼吸機能検査に必要な解剖・生理

著者: 東條尚子

ページ範囲:P.12 - P.18

Point

●換気には呼吸筋の収縮による胸腔の容積変化と肺の弾性収縮力が関与しており,肺気量位はこれらのバランスによって決まる.

●努力呼出時,中・低肺気量域の気流量は呼出努力の影響を受けず,肺弾性収縮圧,末梢気道抵抗,区域・亜区域支レベルの気管支断面積などによって決まる.

●肺拡散能に影響する要因には,拡散面積,拡散距離,毛細血管血流量,有効ヘモグロビン量,反応速度などがある.また,各種不均などの影響を受ける.

神経生理検査に必要な解剖・生理

著者: 湯本真人

ページ範囲:P.20 - P.27

Point

●末梢神経幹の経皮電気刺激による興奮は双方向性に伝導し,大径有髄線維(運動,固有感覚・触圧覚・振動覚)の興奮および,それに伴う応答が電位記録される.

●半視野刺激による視覚誘発電位では,半球間裂近傍の電源の向きによりparadoxical lateralizationがみられるが,電源自体は刺激側対側に局在する.

●聴覚は体性感覚・視覚と異なり(対側優位であるが)両側性に投射する.体性感覚・視覚の空間表象に相当する方向感は皮質下伝導路(上オリーブ核)で生成される.

聴力検査と平衡機能検査に必要な解剖・生理

著者: 和田哲郎

ページ範囲:P.28 - P.35

Point

●解剖生理を理解して,それぞれの臨床生理学検査の意義と適切な手技を考える.

●聴覚ならびに平衡覚が正常に機能する(検査所見が正常を示す)機序を理解する.

●検査異常所見をみて,正しく解釈できるようになる.

眼底検査に必要な解剖・生理

著者: 五十嵐多恵

ページ範囲:P.36 - P.41

Point

●眼球壁は外膜・中膜・内膜からなる3層の膜から構成されている.

●眼底を見るポイントは,視神経乳頭・黄斑部・網膜血管・網膜の所見を把握することである.

●代表的な眼底疾患には高血圧性眼底または高血圧性網膜症,糖尿病網膜症,緑内障がある.

今月の特集2 生殖医療への貢献

著者: 山田俊幸

ページ範囲:P.43 - P.43

 生殖医療は,子をもちたいという希望に応える医療です.その概要と,胚培養士がどう貢献しているかを学ぶのが本特集のテーマです.まず,不妊症,不育症の原因や現状を解説し,次に,その診断や対応についてオーバービューしています.さらに,生殖補助医療(体外受精)についてのポイントを解説しています.

 胚培養士については,わが国における培養士制度の経緯を含めた現状と問題点を紹介しています.臨床検査技師のキャリアパスの1つとして参考にしてください.

 最後に,特に社会的影響が大きい,生殖医療におけるリスク管理を解説しています.多くの方にとってあまり身近な領域ではないかも知れませんが,今後,ニーズが高まることが予想されます.社会的関心の高いテーマでもありますので,全ての項目を精読いただければ幸いです.

不妊症・不育症の原因と分類—現代社会における生殖医療の現状

著者: 髙橋俊文

ページ範囲:P.44 - P.48

Point

●不妊症とは男女(カップル)ともに挙児希望があり,1年間妊娠しない場合と定義される.

●不妊症カップルの増加の1つの要因として,女性の晩婚化・晩産化などの社会的不妊症がある.

●女性は年齢とともに妊孕性が低下するが,その原因は卵巣予備能の低下である.

●不育症とは,妊娠は成立するが流産や死産を繰り返して生児が得られない状態であり,通常2回以上の流死産の既往を伴う.

不妊症・不育症の診断と治療

著者: 松林秀彦

ページ範囲:P.50 - P.57

Point

●1年以上経っても妊娠しないときを不妊症と定義する.不妊症かどうかは別として,治療開始が望ましい時期は,妻が35歳未満なら1年,妻が35歳以上なら半年経っても妊娠しないときである.

●女性の一般不妊検査では,月経周期に応じて適切な時期に適切な検査をする必要があるため,最低でも1周期(約1カ月)を要する.男性は精液検査を行うが,通常は1回で済む.

●一般不妊検査の段階では,不妊症の原因の半数しか異常がみつからない.検査したくてもできない場所が存在するからであり,不妊治療ではステップアップという方法で治療を進めることになる.

●不育症には,反復生殖ロス(ESHRE,RCOG)と反復流産(ASRM,ICMART,WHO)が含まれる.不育症の要因は多岐にわたっているが,原因不明の部分も少なくない.

生殖補助医療(ART)の実際

著者: 浜谷敏生 ,   宇津野宏樹 ,   木村寛子 ,   宮崎康太郎 ,   福岡美桜 ,   田中守

ページ範囲:P.58 - P.63

Point

●体外受精・胚移植(IVF-ET)とは,複数個の卵胞発育を促して超音波下に採卵し,体外で受精させて分割期あるいは胚盤胞期まで胚培養して子宮腔内に移植する方法である.

●採卵周期では,卵巣予備能(OR)に応じて排卵誘発剤を用いた卵巣刺激(COS)を行うとともに,一方では排卵しないよう黄体化ホルモン(LH)サージの抑制を施すことによって,十分な数の成熟卵胞を発育させる.

●生殖補助医療(ART)は2022年4月に保険適用(妻の年齢が43歳未満)が開始された.実施施設には日本産科婦人科学会への登録,実績報告,学会見解順守の誓約が求められた.タイムラプスインキュベーターや子宮細菌叢検査は先進医療Aとして認められる一方,着床前遺伝学的検査(PGT)を行う採卵周期は全て自費診療となっている.

胚培養士の現状と課題—生殖医療の歴史をさかのぼって

著者: 福田愛作

ページ範囲:P.64 - P.69

Point

●体外受精で培養室を担当する技術者は胚培養士,または臨床エンブリオロジストと呼ばれる.どちらの呼称であれ実際に行う業務は同じであるが,わが国では2つの学会の認定が存在するため,本文中では統一呼称の培養士と記述する.

●培養士という職業は,1978年の世界で初めての体外受精の成功を機に生殖医療の担い手として誕生した,医療のなかでの新しい職種である.

●培養士が誕生して40年以上が経過した.生殖医療の心臓部を動かす培養士なくして,今日の生殖医療は存在できない.

●わが国においては,ヒトの命の始まりを担う培養士の国家資格化はされていない.したがって,その職務の重要性にもかかわらず公的機関での就職もままならない状態が続いている.

生殖医療とリスクマネージメント

著者: 石原理

ページ範囲:P.70 - P.74

Point

●体外受精など生殖医療には,その技術についてさまざまなリスクが懸念されてきた.機器や技術の進歩によりすでに解決したもの,未解決なものと,原理的に回避不可能であるものがある.

●“取り違え”をはじめとするヒューマンエラーに起因するリスクマネージメントは生殖医療の最重要課題である.自動管理の導入などのID連結と,適切な記録保存の重要性が特に強調される.

●災害や事故の際のリスク回避,また被害を最小限にとどめる対策とともに,日々のラボ業務のクオリティマネージメントの観点からの適切なシステム整備と研修・トレーニングが不可欠である.

今月の!検査室への質問に答えます・1【新連載】

臨床的に想定外であるAPTTの著明延長に遭遇した場合の解釈と対応について教えてください

著者: 岡周作 ,   谷田部陽子

ページ範囲:P.76 - P.79

はじめに

 活性化部分トロンボプラスチン時間(activated partial thromboplastin time:APTT)は血液凝固スクリーニング検査として用いられており,内因系および共通系の凝固因子異常が反映されます.しかし,APTT延長は検査前工程(プレアナリシス)に起因することが否定できないため,検体の観察を行い,病態による延長と鑑別することが重要です.

 本稿では,想定外に延長したAPTTへの対応および事例を用いたAPTT延長の具体的な要因を紹介します.

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目次

ページ範囲:P.2 - P.3

書評

著者: 池田龍二

ページ範囲:P.80 - P.80

書評

著者: 松村由美

ページ範囲:P.81 - P.81

「検査と技術」1月号のお知らせ

ページ範囲:P.4 - P.4

バックナンバー「今月の特集」一覧

ページ範囲:P.75 - P.75

次号予告

ページ範囲:P.83 - P.83

あとがき

著者: 涌井昌俊

ページ範囲:P.86 - P.86

 以前から各方面で注目されている“未病”という概念は,最近では医療政策や公的研究プロジェクトでも扱われています.本来は東洋医学に基づく考え方であり,3つに分類される体の状態の1つ,“恒常性が崩れかけている状態”に相当します.健康は“恒常性が健全に保たれている状態”,病気は“恒常性が崩れ,そのままでは元に戻らなくなっている状態”ということになります.起源や歴史が大きく異なる西洋医学も,恒常性を生命活動の基本と考える点は東洋医学と同じです.未病は,症候論的には無症状または疾患の存在を疑うに至らない軽度の体調変化でとどまっている状態です.中国には昔から“上工治未病”という言葉があり,上工,すなわち良医は未病の段階で異常を察知して介入するべきであると考えられています.超高齢化社会に突入したわが国にとって示唆に富む考えであり,恒常性という共通概念をもって西洋医学にも適用できる側面があります.西洋医学的な尺度で未病と病気の境に実際に線を引くことは容易ではありませんが,不可逆的進行や致命的重症化の回避は西洋医学でも重要な課題です.例えば健診の問診で,“おかげさまで全く悪いところはなく病気もせず,高血圧の薬を飲んで元気に過ごしています”と発言する人たちと遭遇します.自身の高血圧は“未病”ということなのでしょう.もし一切の投薬をせずに生活改善のみでコントロールできていれば,完璧な“上工治未病”の実現となります.

 恒常性という言葉は“生命活動における秩序性”とも換言できます.細胞小器官をもたない原核生物では細胞内の代謝物が制約なく自由に拡散しますが,真核生物では核,ミトコンドリア,その他の小器官の膜透過性や輸送体機構により代謝物の移動が巧みに制御されています.そのような区画化により秩序のある代謝活動が営まれています.熱力学的には,秩序のある状態はエントロピーの低い状態であり,無秩序な状態はエントロピーの高い状態です.したがって,原核生物は高エントロピーの生命体,真核生物は低エントロピーの生命体ということになります.真核生物は単細胞生物から多細胞生物までさまざまですが,原核生物は単細胞生物のみに限られます.無秩序では高度な社会は維持できないことを考えれば納得です.生命の進化は,エントロピーを下げて制御された多様性の獲得に成功したたまものともいえます.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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