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雑誌目次

論文

臨床検査67巻12号

2023年12月発行

雑誌目次

今月の特集 中枢神経系感染症アップデート

中枢神経系感染症の遺伝子診断

著者: 中嶋秀人 ,   原誠

ページ範囲:P.1371 - P.1377

Point

●感染性脳炎・髄膜炎の診断には病原体の同定が重要であり,PCRなどの遺伝子検査は特異性と感度が高く早期確定診断に有用と考えられる.

●マルチプレックスPCRは確定診断までの時間や治療期間の短縮,治療効果の向上,薬剤の適正使用において神経感染症の臨床診断に貢献すると考えられる.

●メタゲノム次世代シークエンシングは従来の検査での陰性例における病原体特定を可能とする新しい技術であり,今後の神経感染症における診断精度の向上が期待される.

●結核性髄膜炎の診断においても遺伝子検査を利用できるが,現段階では従来の検査との総合的なアプローチが必要である.

中枢神経系感染症の病理検査

著者: 高橋健太

ページ範囲:P.1378 - P.1386

Point

●感染症の病理検査では,形態検索と病原体検索を同一組織検体上で併せて行う必要がある.

●形態検索では組織中の病原体そのものの観察と,感染に伴う形態学的変化の評価を行う.

●病原体検索では,免疫組織化学による病原体のタンパク質,組織からのPCRによる病原体の核酸などが検査の対象となる.

●生検による中枢神経組織の検体採取は侵襲性が極めて大きい一方,病理検索で必ずしも確定診断に至るとは限らない症例もあり,各種培養検査や血清学的検査の併用が有用となる.

市中獲得中枢神経系感染症

細菌性髄膜炎・脳膿瘍

著者: 椎木創一

ページ範囲:P.1318 - P.1324

Point

●急性細菌性髄膜炎は内科的緊急疾患であり,速やかに腰椎穿刺を実施して髄液検査結果を基に抗菌薬投与を開始することが必要不可欠である.

●腰椎穿刺前の頭部画像検査は,意識障害や麻痺など占居性病変を疑う場合など限られた状況で実施する.

●髄液検体の一般検査にGram染色やPCR検査などの迅速検査を組み合わせることで,より正確な髄膜炎の病原体診断を“固有名詞”で行うことができる.

●抗菌薬にデキサメタゾンを併用投与することで細菌性髄膜炎の予後を改善させることができる.

●脳膿瘍は可能な限り膿瘍穿刺を行って起因微生物を同定しつつ治療的ドレナージを行うことで,予後を改善できる.

結核性髄膜炎・結核腫

著者: 永井英明

ページ範囲:P.1326 - P.1331

Point

●わが国の結核患者数は減少しており,罹患率は人口10万対8.2と10以下となり,結核低まん延国となった.結核性髄膜炎(TBM)も減少しているが,全結核に占める比率は横ばいである.

●TBMの診断は,脳脊髄液からの結核菌の検出により確定するが,検出率は高くないので,臨床的診断もありうる.

●TBMについては早期診断・早期治療開始が必要であるが,予後不良であり,後遺症を残す症例もある.

ウイルス性髄膜炎・脳炎

著者: 石川晴美

ページ範囲:P.1332 - P.1338

Point

●ウイルス性髄膜炎・脳炎にはneurological emergencyが含まれる.したがって,経験的治療導入を行い,検査結果を踏まえ,治療方針を決定する.

●研究レベルでしか行えない必須の検査が多くあり,血清・髄液の凍結保存が必須である.

小児における中枢神経系感染症

著者: 木戸口千晶 ,   庄司健介

ページ範囲:P.1339 - P.1343

Point

●症状が非特異的で他疾患との鑑別が難しいため,疑った場合は迷わず精査に進むことが重要である.

●年齢によって想定すべき原因微生物が違うため,初期の抗微生物薬選択も異なる.

●適切な治療を行っても死亡率や神経学的後遺症の発生率が高い.

●そのためワクチンでの予防が重要となり,新しいワクチンの開発も進んでいる.

医療関連・免疫不全患者における中枢神経系感染症

医療関連髄膜炎・脳室炎

著者: 細田智弘 ,   片山真

ページ範囲:P.1344 - P.1350

Point

●医療関連髄膜炎・脳室炎は,市中発症の細菌性髄膜炎よりも臨床症状や髄液の異常所見が軽微であるため,時に診断が難しい.

●coagulase negative StaphylococcusやCutibacterium acnesなどの皮膚常在菌が起因菌となることが多く,髄液培養でこれらが検出された場合には,コンタミネーションと決めつけずに患者背景を確認する.

●原則的にデバイスは速やかに抜去し,抗菌薬治療によって髄液培養が陰性化したことを確認したうえで,二期的にデバイスの再留置を行う.

造血幹細胞移植患者における中枢神経系感染症

著者: 冲中敬二

ページ範囲:P.1351 - P.1357

Point

●中枢神経系合併症を疑った場合は非感染性を含め原因の精査を行う.

●中枢神経系合併症の鑑別を検討する際に,移植後の時期は非常に重要な情報となる.

●感染性合併症の原因病原体としてはヒトヘルペスウイルス6(HHV-6)をはじめとしたウイルスが比較的多い.

●HHV-6脳炎は,生着前後までに軽微な精神・神経症状が出た場合に最初に疑い,経験的治療導入を検討する.

固形臓器移植患者における中枢神経系感染症

著者: 稲田誠 ,   岡本耕

ページ範囲:P.1358 - P.1365

Point

●固形臓器移植(SOT)患者における感染症には,医療関連感染症,日和見感染症,市中感染症,ドナー由来感染症などがあり鑑別が非常に多岐にわたる.

●SOT手術からの時期で分類すると,1カ月以内であれば医療関連感染症が,1〜6カ月であれば日和見感染症が,半年以上経過していれば市中感染症が多い.

●適切な診断のためには脳脊髄液(CSF)や中枢神経組織を用いて,PCRや特殊染色,特殊な培養などを行う必要があり,必要に応じて専門機関に検査を依頼する.

HIV感染者における中枢神経系感染症

著者: 松田隼弥 ,   三浦義治

ページ範囲:P.1366 - P.1370

Point

●エイズの指標疾患のうち,中枢神経系感染症には,トキソプラズマ症,クリプトコッカス症,進行性多巣性白質脳症(PML),サイトメガロウイルス(CMV)感染症,ヒト免疫不全ウイルス(HIV)関連神経認知障害が主に知られている.

●HIVに対する有効な治療が開発されてきている背景で,HIV-IRIS(免疫再構築症候群)が注目されるようになってきている.

今月の!検査室への質問に答えます・10

MRI検査で入れ墨やモニターリード線がなくてもやけどをしてしまうリスクはありますか?

著者: 伊藤隆一

ページ範囲:P.1388 - P.1391

はじめに

 結論からいいますと入れ墨やモニターリード線といった金属類がなくてもやけど(加熱)のリスクは“あります”.

 ではそれはなぜでしょうか?

 ここではまず,加熱の原理についての話から,実際MRI(magnetic resonance imaging)装置に入ったときの人体の状態,そして検査時の注意点や対策まで解説していきます.

AI・ビッグデータ時代の臨床検査のための情報科学・5

—検査のためのAI入門—深層学習による画像解析

著者: 佐藤正一

ページ範囲:P.1392 - P.1397

Point

●深層学習(DL)の基本原理の理解は,DLを活用するうえで必須である.

●DLの“教師あり学習”では正しいレベル(正解)がついた大量のデータが必要である.学習結果の品質にかかわるため,データの収集は計画的に実行する.

●学習アルゴリズムの動作を制御するパラメータの設定を適切に行うことが重要である.

●学習結果をさまざまなツールの機能を使って性能評価や問題点を分析し,よりよい解析につなげる.

医療紛争の事例から学ぶ・5

大腸内視鏡検査中の腸管穿孔事例

著者: 松本龍馬 ,   蒔田覚

ページ範囲:P.1398 - P.1400

はじめに

 令和3(2021)年5月の法改正(臨床検査技師等に関する法律施行令第8条の2の改正)により,臨床検査技師は,医師または歯科医師の具体的な指示に基づいて,診療の補助として内視鏡用生検鉗子を用いて消化管の病変部位の組織の一部を採取することができるようになった.この行為は,患者の身体への侵襲を伴う医行為(保健衛生上危害を生ずるおそれのある行為)であり,消化管穿孔などの偶発症・合併症のリスクを内在しており,時に致死的な経過をたどるおそれがある.

 連載第5回では,内視鏡用生検鉗子の操作時や検体採取時に消化管穿孔を生じた事案ではないが,裁判所がどのような点に着目して“手技上の過失”を判断するのかの理解を深めるべく,原審と控訴審とで評価が分かれた大腸内視鏡検査を受けた患者の直腸S状部(Rs)に穿孔が生じた裁判例〔(原審)岡山地裁平成29年7月11日判決1)/(控訴審)広島高裁岡山支部平成31年4月18日判決2)〕を紹介する〔請求額約260万円/原審:一部認容(約70万円)・控訴審:請求棄却〕.

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目次

ページ範囲:P.1314 - P.1315

書評

著者: 薬師寺泰匡

ページ範囲:P.1401 - P.1401

書評

著者: 石川ひろの

ページ範囲:P.1402 - P.1402

「検査と技術」12月号のお知らせ

ページ範囲:P.1316 - P.1316

バックナンバー「今月の特集」一覧

ページ範囲:P.1338 - P.1338

次号予告

ページ範囲:P.1403 - P.1403

あとがき

著者: 河合昭人

ページ範囲:P.1406 - P.1406

 2023年も残りわずかとなりました.またこの季節がやってきました.そうですその年に流行した言葉を選ぶ“あれ”です.過去,何度もこのあとがきで予想してきましたが,正解したためしがありません.ですが,今年こそ当ててみたいと思います! それでは候補を検討してみましょう.3月に行われたWBCで大活躍した侍ジャパン大谷翔平選手からの飛び出した“あれ”を忘れてはいけません.“憧れるのをやめましょう”です.個人的には憧れているからこそ,そのスポーツを始めたりするので,憧れるのをやめるということは並大抵のことではなかったかと想像します.同じく侍ジャパンから,たっちゃんがヒットを打ったときに行う“あれ”,そうです,“ペッパーミル”です.これはちょっと変化球的なところがあるかもしれません.言葉よりもアクションが話題になったからです.そして,最も有力候補は,“あれ”ですよ,“アレ”,“ARE”です.このあとがきを読んでいて,違和感を覚えた読者がいらっしゃると思います.それは“あれ”でした.阪神優勝を“あれ”に置き換えて岡田監督が使っていた言葉です.私の最後の予想は“あれ”でお願いします.

 というわけで,長きにわたり,このあとがきを他の編集委員の先生方と交代で執筆してまいりましたが,今回で最後となりました.AKB的な言い方でいえば“卒業”とでもいうのでしょうか.季節的にはちょっと早い卒業ではありますが,編集委員を拝命したのが2015年のことでしたので,かれこれ9年もの間,務めさせていただきました.任期中の大きな出来事といえば,やはり新型コロナウイルス感染症のパンデミックでしょう.このパンデミックは世界を一変させました.もちろん起こらなかったほうがよかったのですが,悪いことばかりではなくいい面をみつけようと思えば,会議がWeb会議になったことでしょうか.遠隔地(特に海外)にいる方と参集して会議をしようとすると,日程や場所,交通費などの調整が大変でした.しかし,Web会議だとそれらが解消され多くの国民に普及しました.しかし,昭和のおじさんからするとちょっと寂しい面もあります.会議が終わりすぐに“退出”ボタンをクリックし終了してしまうと,参集したときのような終了後のちょっとした雑談や相談などができなくなり,そこから得ていたヒントなどが聞けなくなり寂しい限りです.話が脱線しましたが,編集委員として職責を全うできたかの判断は読者の皆さまにお任せしたいと思います.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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