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雑誌目次

雑誌文献

臨床検査68巻1号

2024年01月発行

雑誌目次

今月の特集1 高齢者の予防医療—人間ドック・健診

著者: 山田俊幸

ページ範囲:P.5 - P.5

 超高齢化社会がもたらすさまざまな問題の解決には,とにかく高齢者が健やかであることが必須です.疾患を発症してからのケアではなく,疾患を予防することに注力することがより重要となるのは言うまでもありません.予防医療の核となるのが,人間ドック・健診です.私たち臨床検査に携わるものの活動分野の1つではありますが,予防医学の知識・経験が十分かというと自信のない方もいるのではないでしょうか.

 そこで本特集では,人間ドック・健診分野の専門家の方々に,高齢化社会に向けた専門分野の総論的な取り組みと,各論として,心疾患,腎臓病,運動器疾患,泌尿器科疾患,耳鼻科疾患,認知症の予防医療について解説をいただきました.超高齢者社会における予防医療の現状を理解し,臨床検査がどう貢献できるかを考える機会になりましたら幸いです.

高齢化社会に向けた人間ドック・健診の取り組み

著者: 德田治彦

ページ範囲:P.6 - P.12

Point

●わが国の高齢者の就労意欲は高く,健康寿命の延伸に資するような人間ドック・健診が求められている.

●高齢者の健康問題として“認知症”,“フレイル”をはじめとする日常生活の制約につながる病態を早期に把握し予防・進行防止につなげることが重要である.

●長寿ドックにおける要受診としての紹介先は,泌尿器外科が最多であった.一方,受診者の約半数が“フレイル予備軍”と推定された.

●特に基準値を変更する必要はないが,判定の際には年齢や治療中の疾患などへの配慮が必要である.

高齢者の心疾患予防

著者: 加藤公則

ページ範囲:P.13 - P.19

Point

●高齢者の心疾患予防の中心は,心不全予防である.

●心不全予防は,毎年きちんと健康診断を受けて,高血圧,糖尿病,脂質異常症などの生活習慣病を予防し,もし,これらの生活習慣病が治療の対象となった場合は速やかに治療を受けることである.

●生活習慣病で治療中の人は,年に一度は脳性(B型)ナトリウム利尿ペプチド(BNP)やN末端プロ脳性(B型)ナトリウム利尿ペプチド(NT-proBNP)の検査を受けて,心不全の合併をチェックし,軽度高値であったら,生活習慣病に対する治療の厳格化を推し進めることが大切である.

●高齢者は,塩分感受性が高くなり,塩分と高血圧の関連が強くなる.その対策としては,もちろん減塩が大切であるが,運動も大切である.

高齢者の腎臓病予防

著者: 戸田晶子

ページ範囲:P.20 - P.25

Point

●加齢に伴う腎機能低下の原因の多くは腎硬化症であり,高齢化に伴い血液透析導入疾患の2位は腎硬化症であるため,高齢者の腎臓病予防は重要な課題である.

●腎機能低下の早期発見が重要であるが,筋肉量低下や尿濃縮力低下などの高齢者特有の病態により,腎機能やタンパク尿の評価に注意が必要な場合がある.

●高齢者は腎予備機能の低下や複数疾患の合併などにより急性腎障害(AKI)を容易に発症しやすいため,患者に合わせたきめ細やかな医療が必要である.

高齢者の運動器疾患予防

著者: 大江隆史

ページ範囲:P.26 - P.30

Point

●高齢者の運動器疾患で手術に至るものは,骨粗鬆症を有する骨脆弱性骨折,変形性関節症,変形性脊椎症,脊柱管狭窄症が大部分を占める.

●高齢者では,骨粗鬆症,変形性脊椎症,変形性関節症が併存することが多い.

●高齢者では,運動器の問題を移動能力の低下の観点から総合的に考えることが必要で,それを踏まえて提唱されたのがロコモティブシンドローム(ロコモ)の概念である.

●高齢者の運動器疾患による障害の予防には,ロコモの概念を知ること,ロコモを構成する因子に対する予防を知ることの2つが重要であり,検査もその考えに沿って行うことで有効になる.

高齢者の泌尿器科疾患予防—前立腺癌と排尿障害

著者: 吉田正貴 ,   横山剛志

ページ範囲:P.31 - P.35

Point

●前立腺癌は日本人男性の癌の第1位となっており,PSA検診は確立されてきているが,今後は前立腺癌発症のリスクに応じた検診実施戦略の確立が必要と考えられる.

●排尿障害は高齢者の生活の質(QOL)に大きく影響し,フレイルや死亡率と関連することもあり,人間ドックや検診で問題と思われる排尿障害を早期に検出し,適切な診断や介入を行うことは重要と思われる.

●人間ドックや検診で排尿障害を検出するためには,症状質問票〔特に主要下部尿路症状スコア(CLSS)〕と超音波検査での残尿測定が重要である.

高齢者の耳鼻咽喉科疾患予防—加齢性難聴

著者: 小川郁

ページ範囲:P.36 - P.41

Point

●超高齢社会において聴覚障害(難聴)が急増しており,難聴対策が世界的にも喫緊の課題となっている.

●聴覚障害(難聴)はコミュニケーションの障害となり,認知症やうつの危険因子の1つであり社会的にも大きな問題となっている.

●根治的治療法のない加齢性難聴では予防と補聴器による介入が重要である.

●職場を定年退職後の高齢者にとって聴力検査を受ける機会がないことが大きな問題であり,高齢者の認知症やうつ予防の早期介入のために聴覚検診の整備が急務である.

認知症予防のエビデンスと社会実装

著者: 古和久朋

ページ範囲:P.42 - P.47

Point

●FINGER研究の成功に端を発した認知症予防を目指した多因子介入はエビデンスが出そろい,その社会実装の実現を目指すフェーズに移っている.

●認知症多因子介入の社会実装には,予防効果のエビデンス構築,リスク群の抽出,費用面,指導者育成など,解決すべき課題も多く残されている.

今月の特集2 補体をめぐる話題

補体標的治療薬

著者: 植田康敬

ページ範囲:P.93 - P.101

Point

●補体活性化経路は,古典経路,第2経路,レクチン経路の3経路により活性化され,C3の活性化を経て終末経路での膜侵襲複合体(MAC)形成に至る.

●C5阻害薬エクリズマブの発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)における成功の後,C5a受容体(C5aR)阻害薬,C1s抗体薬,C3阻害薬などさまざまな抗補体薬が登場している.

●今後,抗補体薬の開発の進展とともに,さまざまな疾患の病態形成における補体の関与が明らかとなり,抗補体薬の有効性が期待できる対象患者の層別化が進むことが期待される.

注目の補体異常症

発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)

著者: 西村純一

ページ範囲:P.66 - P.73

Point

●終末補体阻害薬(抗C5抗体)は,髄膜炎菌感染症対策が必要であるが,顕著な血管内溶血抑制効果に加え,血栓症発症リスクの軽減,溶血に伴う平滑筋攣縮関連症状の緩和など,さまざまな効果が示され,発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)のQOL,生命予後が劇的に改善した.

●終末補体阻害薬治療により,血管外溶血が顕在化し貧血の回復が十分でない症例が,新たな課題となった.

●近位補体阻害薬(C3阻害薬)により,血管内溶血に加え血管外溶血も抑制され,有意に貧血が回復したものの,一部の症例で大溶血発作のリスクが懸念された.

●近位補体阻害薬(D因子阻害薬)の上のせ(終末補体阻害薬併用)投与は,効果の確実性はあるものの,価格の問題が課題である.

●近位補体阻害薬(B因子阻害薬)の単剤投与は,今のところ良好な成績が得られているが,安定的に血管内溶血を抑制できるのか,感染症リスクの増大はないかという点について,慎重に見極めていく必要がある.

非典型溶血性尿毒症症候群(aHUS)

著者: 日髙義彦

ページ範囲:P.74 - P.80

Point

●非典型溶血性尿毒症症候群(aHUS)は,微小血管症性溶血性貧血,消費性血小板減少,虚血性臓器障害(主に腎障害)の3徴を呈する血栓性微小血管症(TMA)に分類される疾患である.

●aHUSの主病態は,補体制御機能異常に起因する血管内皮細胞傷害である.

●補体制御機能異常は,補体関連タンパク質の遺伝子異常(先天性)と,補体制御因子であるH因子に対する自己抗体(後天性)によるものがある.

●aHUSの治療薬として抗C5抗体薬が登場し,その予後が劇的に改善した.

遺伝性血管性浮腫(HAE)—病態解明と治療の目覚ましい進歩

著者: 堀内孝彦

ページ範囲:P.82 - P.87

Point

●遺伝性血管性浮腫(HAE)は古くから知られた疾患であるが,近年,病態解明と治療の2つの分野で大きな進歩があった.

●病態解明について,従来知られていた補体C1インヒビター(C1-INH)遺伝子に加えて2000年以降新たな原因遺伝子が次々に明らかにされた.

●治療法についてもここ数年目覚ましい進歩があった.発作の治療と発作の予防,いずれについても画期的な薬剤が相次いで登場している.

●これらの進歩を踏まえて,2023年に日本補体学会の「遺伝性血管性浮腫(HAE)診療ガイドライン」が4年ぶりに改訂された.

C3腎症

著者: 金恒秀 ,   水野正司

ページ範囲:P.88 - P.92

Point

●C3腎症は非典型溶血性尿毒症症候群(aHUS)と並ぶ代表的な補体異常による腎臓病である.

●腎生検病理組織像の蛍光染色において,C3がその他の染色と比較して有意に染色されていることから診断され,電子顕微鏡の所見によって,C3腎炎とDDD(dense deposit disease)にさらに分類される.

●既存の薬剤による治療効果は限定的であるが,現在さまざまな抗補体薬による治験が行われており,その効果が期待されている.

今月の!検査室への質問に答えます・11

S100タンパクのことをよく耳にします.臨床的な意味や意義を教えてください

著者: 岡田光貴

ページ範囲:P.102 - P.106

はじめに

 S100タンパクは,神経,皮膚,唾液腺,脂肪,軟骨などの正常な細胞に発現しています.これらの細胞に由来する腫瘍や,特定の疾患の病変部でもS100タンパクが産生されることがわかり,その性質は臨床検査に応用されています.S100タンパクの局在や機能に関する研究は現在進行形で活発ですが,その内容がまとめられた総説論文の出版は海外で盛んであり,日本語でまとめられたものは希少です.

 本稿では国内外の数十年にわたるS100タンパク関連文献に基づいて,S100タンパクに関する発見や臨床検査への応用,最新の動向などを紹介したいと思います.

AI・ビッグデータ時代の臨床検査のための情報科学・6

—臨床検査のためのAI入門—AIによる疾病分類技術

著者: 松村聡

ページ範囲:P.107 - P.113

Point

●基本的な原理について知ることでその派生した手法の理解につながる.

●機械学習においても説明可能性を検討できる手法がある.

●予測する際には特徴量のリーケージがないかの検討が必要である.

医療紛争の事例から学ぶ・6

病理検体の判定ミス

著者: 岡部真勝 ,   蒔田覚

ページ範囲:P.114 - P.116

はじめに

 臨床検査技師は,医師又は歯科医師の指示の下,病理学的検査を行うことを業とする医療従事者である(臨床検査技師等に関する法律第2条,同法施行規則第1条第4号).もっとも,臨床検査技師において実施可能な病理学的検査は,医行為(人体に危害を及ぼし,または危害を及ぼすおそれのある行為)と評価されない範囲(事実行為)にとどまるのであって,臨床検査技師において絶対的医行為である“診断”を行うことはできない.

 そして,臨床医が臨床症状と各種検査結果を総合して行う最終的“診断”に限らず,組織や細胞の形態や機能を観察して判定する“病理診断”についても,医師の専門的知識や技術を必要とし,患者の生命や健康に直接的な影響を及ぼすことが多いことから,“絶対的医行為”であるとの理解が一般である.そのため,病理診断を臨床検査技師が行うことは医師法に抵触しかねない.

 このように病理診断は病理医において行うべきものである.学会資格である“細胞検査士認定試験”に合格して“細胞病理検査”を専門とする“細胞検査士”を名乗る臨床検査技師も存在するが,細胞検査士においても顕微鏡での観察(スクリーニング)結果を報告しているにすぎず,病理診断を行っているわけではない.

 今回は,病理医と細胞検査士の評価の違いが争点の1つとなった裁判例を紹介する.この事案は,穿刺吸引細胞診による検体に関して細胞検査士は“良性”と判定したが,病理医が“悪性を疑う(乳頭癌を疑う)”と診断し,甲状腺左葉切除術などの手術を受けたところ,病理組織検査の結果,本件手術で摘出された腫瘤から癌細胞は検出されなかったというものである(平成30年4月12日東京地方裁判所1) 請求額約800万円/請求棄却).判決中では,細胞検査士の報告についても“診断”という表現が用いられているが,やや不正確な表現であることは否めない.

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目次

ページ範囲:P.2 - P.3

「検査と技術」1月号のお知らせ

ページ範囲:P.4 - P.4

バックナンバー「今月の特集」一覧

ページ範囲:P.25 - P.25

次号予告

ページ範囲:P.117 - P.117

あとがき

著者: 関谷紀貴

ページ範囲:P.120 - P.120

 新年あけましておめでとうございます.年末年始はゆっくりと1年の疲れを癒やすことができたでしょうか.昨年は,1898年から始まった観測史上最も暑い酷暑の夏となり,その後も暖かい冬になっています.私自身は11年半所属した職場から昨年10月に異動し,新しい環境に慣れてきたところで迎える初めての新年となります.

 新しい環境は通常ゼロからのスタートになります.初めましての方もいらっしゃいますが,年々,大小問わず既知のご縁のうえに支えられていることが多いと実感するようになりました.私は感染症を専門にしておりますが,ご支援をいただかないと成り立たない多くの専門家に囲まれて仕事をしております.臨床のメンターといえる先達の先生方,同世代の仲間,お互い学び合ったローテーターの先生方に加え,日々の臨床やAST活動,ICT活動において看護師,薬剤師の皆さまの助けなしでは満足にできないことばかりです.また,本誌の読者である臨床検査技師の皆さま,なかでも微生物検査を専門とする方には師匠と呼べる方も数多くいらっしゃいます.さらに,何者でもなかった私が現在専門家として活動できるのは,病院内外で感染症を専門としない方々からのご相談,ご依頼あってのことであり,つくづく恵まれた環境にあることを感謝するばかりです.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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