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雑誌目次

雑誌文献

臨床検査68巻11号

2024年11月発行

雑誌目次

今月の特集1 標準化とトレーサビリティ体系

フリーアクセス

著者: 山田俊幸

ページ範囲:P.1341 - P.1341

 私たちが付き合っている検査の値はどこからきたのだろうと不思議に思うことはありませんか.日常検査の値がその源からどのように伝わっているかの概念が“伝達性”で,日常検査の値が,その源に確かにたどれるかという概念が“トレーサビリティ”です.定量的検査の値を議論するうえでの基本中の基本です.本特集の冒頭でその概念を再確認ください.ところで,どの試薬・機器を使っても同じ項目ならほぼ同じ値が得られることは臨床検査が目指すゴールの1つです.その意味で,共用基準範囲の提唱は画期的なことでした.共用基準範囲の適用には,その検査が標準化またはそれに近いレベルにあることと,ユーザーが標準的測定法を採用し,外部精度評価で問題ない成績を収めていることが求められます.本特集では,臨床検査分野ごとに,トレーサビリティ体系の現状と標準化のレベル,その反映である外部精度管理調査の成績などを解説いただき,問題点と可能性を学習することにしました.

定量的臨床検査のトレーサビリティ体系

著者: 山下計太 ,   前川真人

ページ範囲:P.1342 - P.1348

Point

●臨床検査で国際単位(SI)への計量トレーサビリティ体系を確立できるのは一部のみで,制約と妥協を理解して検査室は活用しなければならない.

●ISO 17511:2020で,非SIトレーサブルな項目も含めて6つのカテゴリに分類に定義されている.

●国際同等性とは,国家間の計量トレーサビリティが同等のものであることを示し,グローバルスタンダーディゼーションに必須の概念である.

●不確かさは,単にばらつきを評価するものではなく,トレーサビリティ体系の上位に位置する一次基準測定操作法とその認証標準物質(CRM)への整合性を得るためのものである.

臨床検査室におけるトレーサビリティの確認

著者: 高木康

ページ範囲:P.1349 - P.1359

Point

●臨床検査値を診療に利用するには臨床検査の精密性と正確性が担保されている必要がある.

●正確性を確認する方法として標準物質によるトレーサビリティ体系があり,日常的に利用されている.

●標準物質は国内外の多くの学会・団体から供給されており,検査室ではこれらのなかから適切に選択してトレーサビリティの確認を実施している.

●現状では上位の標準物質をトレースした企業の標準物質が多くの検査室で利用されているが,国内外で認証された標準物質を利用している検査室もある.

●わが国の臨床検査精度管理調査でのばらつきが小さいのは,90〜95%の施設が標準物質によるトレーサビリティの確認作業を実施していることが大きく貢献している.

生化学検査における現状

著者: 末吉茂雄

ページ範囲:P.1360 - P.1365

Point

●検査値のトレーサビリティ体系は,測定操作法による差異,患者検体固有の誤差,測定におけるランダム誤差を考慮しなくてはならない.

●標準物質の値付け,試薬の原理による異なった反応性が,測定操作法に起因した誤差としてかたよりに影響を与える.

●標準物質はその性状など規格化されていることで,測定における干渉物質の影響を抑えられるが,患者検体では項目ごとに特有の影響があるため測定値の比例互換性が大切である.

●検査結果には,バリデーションとしてトレーサビリティ体系への整合性を確認し,不確かさを示すことが要求される.

免疫学的検査における現状

著者: 山田俊幸

ページ範囲:P.1366 - P.1371

Point

●免疫学的検査においても国際的な一次標準物質が存在するものがあるが,標準的測定法の規定が困難である.

●標準物質が存在し,測定法がほぼ類似していると測定値の収束性は良好である.C反応性タンパク質(CRP),αフェトプロテイン(AFP),前立腺特異抗原(PSA)などがそれに当たる.

●測定値をそろえるためにハーモナイゼーションという手法が取られ,甲状腺刺激ホルモン(TSH)において実施された.

●ハーモナイゼーションは有効な方法であるが,糖鎖抗原(CA)19-9のように適用が困難なものがある.

●免疫学的検査においては,測定法間差の理解と,ハーモナイゼーションを含む測定値の収束に向けた機運の高まりが必要である.

血球計数検査における現状

著者: 近藤弘 ,   永井豊 ,   竹田知広

ページ範囲:P.1372 - P.1376

Point

●認証標準物質(CRM)および国際単位(SI)へのトレーサビリティがない血球計数検査の測定量の付与は,校正階層最上位に当たる国際調和プロトコルの規定に従って実施する.

●異なるメーカーや機種の自動血球分析装置(HA)を用いたときに医学的に同等と許容される測定値を得るために,正確性保証のための調和標準物質として抗凝固新鮮血液が用いられる.

●不確かさ付与の観点から,血小板,白血球分類,網赤血球の国際調和プロトコルは,鏡検法よりも観察細胞数が多くかつ特異性の高いフローサイトメトリー(FCM)法に移行しつつある.

●国際調和プロトコルの検証と改良は継続して行う必要があり,その際に外部精度管理調査から得られる情報が果たす役割は大きい.

血栓止血検査における現状

著者: 福武勝幸

ページ範囲:P.1377 - P.1384

Point

●トレーサビリティとは個々の校正が測定不確かさに寄与する文書化された切れ目のない校正の連鎖を通して,測定結果を計量参照に関係付けることができる測定結果の性質である.

●世界保健機関(WHO)はWHO International Biological Reference Preparationsとして国際標準物質を登録している.

●血栓止血検査では単一物質の測定と異なり,多様性のある混合物や複合的機能の測定があり,標準物質の概念が確立できない検査項目がある.

●検査結果を共有して,有効活用することは重要な課題であり,Dダイマーなど多様性のある検査対象に応用できる共有化作業として,ハーモナイゼーションの概念が提案されている.

今月の特集2 中毒への対応

フリーアクセス

著者: 山田俊幸

ページ範囲:P.1385 - P.1385

 海外の臨床検査学では,中毒学(toxicology)は独立した分野として重要視されています.わが国においては事例の少なさからなのか,臨床検査のなかでの認知度は低いように見受けられます.しかし,救急現場において急性中毒は重要な対象疾患であり,診療支援としての臨床検査の充実はかねてから望まれていました.本特集ではまず,救急医の視点から急性中毒にどのように対応しているかオーバービューいただき,次いで最近の中毒物質の検出検査はどのような現状になっているか総論的に解説いただきます.さらに各論として,医薬品,化学物質,家庭で使用する薬品,自然毒につきトピックスをまじえて解説いただきます.取り上げる物質には限界があります.まずは,中毒という病態とその検査の入門編として学習いただき,さらなる知識の拡大へと向かうとっかかりにしていただけたら幸いです.

急性中毒の救急対応—押さえておきたい最新のトピックス

著者: 間藤卓

ページ範囲:P.1386 - P.1392

Point

●急性中毒の原因は多種多様で社会や環境により変化する.診断や治療法も日進月歩.それらをキャッチアップしながらも患者から目を離さず予断なく診療していくことが肝心である.

中毒物質測定の現状(簡易試薬から高精度分析まで)

著者: 宮城博幸 ,   本山拓也

ページ範囲:P.1393 - P.1399

Point

●意識障害を主訴に救急搬送される患者のなかには,医薬品や違法薬物を原因とする中毒症例が一定数存在する.

●意識障害の一次スクリーニング検査として尿中薬物中毒検出用キットが用いられるが,陽性と判定した薬物群についても,偽陽性を示すことがあり,判定には注意を要する.

●中毒原因物質の精査として分析機器を用いる場合,迅速な検査結果の報告を行うには,目的とする物質に適した前処理方法や分析機器を選択することが重要となる.

医薬品による薬物中毒

著者: 廣瀬正幸

ページ範囲:P.1400 - P.1405

Point

●中毒医療は緊急性が高く,適切な治療が求められるため,チームで迅速に対応しなければならない.

●臨床検査技師が提供する情報は主に“診断”に関する情報である.

●治療の必要性の判断に血中濃度の測定が有効な医薬品中毒がある.

●中毒に関する情報がまとまっているサイトや書籍を事前に知っておくと迅速に対応することができる.

化学物質による急性中毒

著者: 宮本颯真

ページ範囲:P.1406 - P.1413

Point

●製造業など特殊な状況下で生じる中毒は迅速な確定診断が難しいが,診断の補助になる緊急検査項目を理解することが,正しい診断の一助となる.

●疑う中毒物質によって,提出すべき検体やその保存条件が異なる.確定診断や事後検証のために,検体の採取・保存条件およびその時期を理解する.

●まれな化学物質中毒や未知の微生物感染への遭遇が疑われる際の,問い合わせ先を把握しておく.

生活で使用する薬品による急性中毒

著者: 米川力

ページ範囲:P.1414 - P.1418

Point

●生活で使用する薬品の急性中毒では予防が第一である.

●現場の状況や臨床症状から原因物質を特定する努力が必要である.

●原因物質に特異的な検査を積極的に行うことが必要である.

自然毒による急性中毒

著者: 田中保平

ページ範囲:P.1419 - P.1423

Point

●自然毒の知識は,常にアップデートが必要である.これまで無毒だと思われていたものが有毒と判明することもあれば,不明だった機序が判明することもある.

●外来生物・植物の移入・拡散・栽培,さらに近年の温暖化などにより,それまで生息しなかった生物による中毒・傷害が引き起こされることもある.

●中毒診療では推定中毒原因物質がわからないと診療も難渋することもあり,身体所見・血液検査・尿検査・心電図を行いながら診察を進めることが多い.

●生物毒は単一ではなく複数の毒素を保有している可能性を念頭に置く必要がある.

事例から学ぶ 検査室の経営管理に必要な知識・6

職場の経営意識向上についての実践

著者: 本間裕一

ページ範囲:P.1424 - P.1425

はじめに

 各検査室で,職員1人1人が経営意識をもって業務に当たっている組織は,なかなかないと思われます.2年に一度,4月に保険点数の改定が行われますが,そのときに,何々の項目が何点上がった,または下がった,新設で何点付いたなど,耳にすることがあります.しかしその後は何かの拍子に診療点数早見表で保険点数や加算の点数をみる程度が普通だと思われます.私は就職した初めの病院で,細胞検査士の資格取得時に部門の集計を任されました.そこで,1日で細胞診の検体を何件みて,保険点数がいくらだろう,今日はいくら稼いだんだろう,コストはどうだろうと,保険点数と診療材料の値段を調べたことが経営を意識する第一歩でした.そこから,過去に職員の経営意識がどのようにしたら芽生えるのかを考え実践してきた事例をお話ししたいと思います.

今月の!検査室への質問に答えます・19

尿タンパク濃度は混濁の有無に関係なく,遠心前後で異なることがあります.日常検査での前処理はどのような方法で行うべきでしょうか?

著者: 石澤毅士 ,   菊池春人

ページ範囲:P.1426 - P.1428

はじめに

 尿タンパク定量検査は慢性腎臓病の重症度分類にも使用され,腎臓の代表的な検査であるため日常診療で広く行われています.しかし,尿の性状は無色透明な尿から混濁尿を呈する血尿,膿尿,塩類析出尿などさまざまです.そのため,どのように測定前処理を行うかについて悩むことがあるでしょう.

 本稿では,測定前処理による検査データへの影響を中心に説明したいと思います.

リレーエッセイ 私のこだわり・6

入職して8年目の今頑張っている3つのこと

著者: 杉村亮太

ページ範囲:P.1429 - P.1429

 私は2017年4月に現在の病院に入職し,今年で入職8年目を迎えました.この8年間,私の職務は多岐にわたり,検査の実施から結果の分析,そして臨床へのフィードバックまで幅広く担当してきました.これらの経験を通じて,臨床検査技師としてのスキルを深めるだけでなく,チーム医療の一員としての責任と臨床への貢献の重要性を実感しています.そのなかで現在,私が特に注力しているのは「日常業務」「専門知識と技術の向上」「後輩の指導・育成」の3つの分野です.

短報

輸血部門におけるタスク・シフト/シェアへの取り組み

著者: 秋田誠 ,   土居靖和 ,   岡本康二 ,   重松恵嘉 ,   谷口裕美 ,   髙須賀康宣

ページ範囲:P.1430 - P.1433

Abstract

 医師の働き方改革のため,臨床検査技師等に関する法律が改正され,臨床検査技師が行うことができる業務の拡大が行われた.輸血部門においては,タスク・シフト/シェアをどこまで実施するかは,患者の安全性や人員も考慮し,診療科側と話し合ったうえで,できることから実施することが重要である.当院の経験では,医師の業務負担軽減という目的において,臨床検査技師が血液成分採血装置の操作を行うことの意義は大きいと考える.

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目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.1338 - P.1339

書評 フリーアクセス

著者: 下澤達雄

ページ範囲:P.1434 - P.1434

書評 フリーアクセス

著者: 小松京子

ページ範囲:P.1435 - P.1435

書評 フリーアクセス

著者: 佐藤之俊

ページ範囲:P.1436 - P.1436

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.1437 - P.1437

あとがき フリーアクセス

著者: 関谷紀貴

ページ範囲:P.1440 - P.1440

 2024年も残すところあと2カ月となりました.夏前は酷暑に戦々恐々としておりましたが,台風・長雨に伴う水難・土砂災害,交通機関の大幅な乱れなど,年々起こるイベントが増えているように感じます.日本の気候も亜熱帯に仲間入りしつつあるという話もあり,今後は考え方をリセットしたほうがよさそうです.

 6月号のあとがきで台湾紹介をさせていただきましたが,コーヒーと甘いものが大好きな私は,渡航先のカフェで一緒に堪能することが至福の幸せです.今から7年前,欧州最大の感染症関連学会に参加したときのことです.場所は“芸術の都”,オーストリアのウィーンだったのですが,音楽や美術,建築,演劇など多様な芸術分野でその地位を築いてきた古都に一度訪問したいと思っていました.この街は世界遺産を含め名所に事欠かず,シェーンブルン宮殿やホーフブルク宮殿でハプスブルク家の時代に思いをはせ,ウィーン国立歌劇場でモーツァルト,ベートーベン,シューベルト,ブラームス,マーラーなどが生み出した素晴らしい音楽を鑑賞できることは人類の財産です.また少し距離はありますが,ウィーン市内を一望できるドナウタワーの展望台で,美しい景色を見ながら食事を楽しむこともできます.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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