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雑誌目次

雑誌文献

臨床検査68巻12号

2024年12月発行

雑誌目次

今月の特集1 感染症とArtificial Intelligenceの可能性

フリーアクセス

著者: 関谷紀貴

ページ範囲:P.1445 - P.1445

 近年,医療分野におけるAI利用は活況を帯びています.画像診断,ロボット手術支援,診療録の解析,レセプト作成などの医療事務,ゲノム解析など,膨大なデータに対するパターン認識や正確性の向上を通して,医療の質改善や効率化につながることが期待されています.また,感染症領域においても微生物検査を含む日常診療から感染症危機管理まで,幅広い用途における可能性が模索されています.

 今回の特集は,感染症領域におけるAI活用をより身近なものとして捉え,現実のワークフローにおける活用に向けた基礎知識の整理を目的としています.

 初めに,医療とAIの現在について,人口減少・少子高齢化の観点を交えつつ全体像をご解説いただいています.次に,診療支援AIの現状・課題・展望についてポイントを整理していただき,その後,感染症領域への応用という観点から微生物検査,感染症臨床,薬物濃度モニタリング,感染症流行予測について具体例を交えつつご紹介いただきました.AI活用による感染症診療の質向上に向けた一歩として,本特集をご活用いただければ幸いです.

医療とArtificial Intelligenceの現在—人口減少と少子高齢化の日本での応用を見据えて

著者: 高橋慧 ,   坂口雄亮 ,   河野伸次 ,   浜本隆二

ページ範囲:P.1446 - P.1452

Point

●現在の人工知能(AI)研究は深層学習を含む機械学習(ML)技術が中核となっており,技術革新のスピードは速い.Transformerの登場に伴い生成AIが大きく注目されている.

●今後わが国では少子高齢化が進み,2025年には後期高齢者が700万人に達することが予想されている.AIを医療分野に有効に活用することが求められている.

●AIを適切に医療現場に導入していくことが,今後わが国においてますます求められていくことが予想される.患者にとって違和感がなく患者のbenefitを最大化させることが重要である.

Artificial Intelligenceによる診療支援

著者: 川本章太 ,   矢作尚久

ページ範囲:P.1453 - P.1459

Point

●理想的な診療支援人工知能(AI)は患者に寄り添い,単一タスクではなく継続的に複合的なタスクを実行する.

●診療支援AI構築には,医師の診断フレームに基づくデータ収集基盤を社会システムとして実装する必要がある.

●診療支援AIの実現により,予防医療の推進と個別化された継続的ケアが可能となり,バリューベースドケアへの移行が促進される.

微生物検査領域におけるArtificial Intelligence

著者: 平田耕一

ページ範囲:P.1460 - P.1464

Point

●画像認識における画像分類と物体検出について説明し,Gram染色画像に関連する適用事例として,菌の分類と検出,白血球貪食の分類と検出,Geckler分類の推定について紹介する.

●画像分類器DenseNetとMbileNetはかなり高い評価値で菌を分類できるが,菌の検出に適した物体検出器YOLOv8lやYOLOv8xでも菌によっては検出に失敗する場合もある.

●画像分類器VGG16とVGG19はある程度高い評価値で貪食像,擬貪食像,非貪食像を分類できるが,検出に適した物体検出器YOLOv5sでも貪食像と擬貪食像を区別した検出はあまりうまくいかない.

●画像分類器ConvNeXtはアノテーション不要でGecklerクラスを最も高い評価値で推定でき,白血球と扁平上皮細胞のアノテーションにより物体検出器YOLOv5mは品質クラスを最も高い評価値で推定できる.

感染症臨床におけるArtificial Intelligence活用の可能性

著者: 林俊誠

ページ範囲:P.1466 - P.1471

Point

●医療分野における人工知能(AI)の進展は急速であり,感染症臨床分野でも多くの研究が発表されている.

●GPTなどの言語モデルは医療分野でも高い精度を示し,診断や治療の補助に活用され始めている.

●感染症の診断補助やコンサルタントとしてのAI活用が進む一方で,適用には慎重さが求められる.

●AIの発展に伴い,感染症臨床におけるAIの活用は広がるが,信頼性と倫理的課題の解決が必要である.

治療薬物モニタリングとArtificial Intelligence

著者: 辻泰弘 ,   高橋早紀 ,   関弘翔

ページ範囲:P.1472 - P.1477

Point

●治療薬物モニタリング(TDM)の目的は,薬物の治療効果を最大化し,副作用を最小限に抑えることである.

●TDMでは血中薬物濃度を薬物治療の指標として投与計画を立案する.

●人工知能(AI)の研究は1950年代から進んでおり,第3次AIブームを経て医療分野にも応用され,診断や治療の効率化が期待されている.

●血中薬物濃度予測や治療の個別化にAIの技術を用いる研究が進んでおり,治療効果の予測に有用であることが明らかになりつつある.

感染症流行予測とArtificial Intelligence

著者: 平田晃正 ,   小寺紗千子

ページ範囲:P.1478 - P.1482

Point

●人工知能(AI)のなかでも深層学習と呼ばれる手法を用いて,新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染症(COVID-19)による新規陽性者数や死者数を予測する手法を概説する.

●新規陽性者数予測に用いた入力パラメータは,主要駅における人流,変異株の感染力,免疫保有率,SNSに代表される感情的な要素であり,それらの重要度は時間の推移とともに変化する.

●変異株やワクチンによる集団レベルでの免疫保有率,感染力などが分かれば,1〜2カ月程度の中期予測ができる可能性がある.

今月の特集2 日常診療に潜む再興感染症

フリーアクセス

著者: 関谷紀貴

ページ範囲:P.1483 - P.1483

 新型コロナウイルス感染症の流行により,新興・再興感染症対策の見直しが注目を集めています.特に,かつて世界的もしくは特定の国で健康問題となり,劇的な減少を経て再び問題となった再興感染症は,日常診療で出会う機会も十分想定されます.

 今回の特集は,近年問題となった再興感染症の基本的な特徴を理解し,標準的な診断検査を含めた診療マネジメントの質向上に役立てることを目的としています.

 性行為感染症では,国内では2010年以降増加し減少が得られていない梅毒,2022年以降世界的な増加を認め二度のPHEICが宣言されたエムポックスについてご解説いただきました.また,過去の大きな流行から罹患率が減少した一方で今後の再増加に注意を要する結核と麻疹,国内流行があったものの現在は輸入感染症としての側面が中心のデング熱と狂犬病について,ポイントを分かりやすく整理していただいています.本特集が,代表的な再興感染症への理解を深める一助となれば幸いです.

梅毒の地図—俯瞰と仰望のエッセンス

著者: 平井由児

ページ範囲:P.1484 - P.1491

Point

●梅毒はTreponema pallidum(TP)による細菌感染症である.

●早期梅毒(感染≦1年)では局所病変の1期,全身へ播種の2期梅毒に分けられる.

●“梅毒への感染”を示す特異的TP抗体検査(TPLAが代表的)と,“梅毒の活動性”を示す非TP抗体検査(RPR)がある.擬陽性・偽陰性があり,病歴・身体所見とも併せた解釈が必要である.

●梅毒の“治癒”は,RPRが診断時の≦1/2(自動化法)であり,陰性化ではない.

結核

著者: 吉山崇

ページ範囲:P.1492 - P.1497

Point

●結核症は産業革命,都市化とともに増加し,産業革命,都市化が落ち着くと減少傾向となるが,それが反転し増加するときにはその背景となる要因がある.

●結核菌が体に入って免疫反応を起こした状態を感染というが,感染者のうち発病して症状を有する,あるいは画像所見に異常をきたす,あるいは菌を排出する者は10%程度である.

●結核の感染の検査はインターフェロンγ遊離試験(IGRA),肺結核発病の検査は画像検査と細菌検査が主であり,臨床検査は診断に大きく関係するが,同時に,細菌検査室,病理検査室は院内感染の場ともなりうる.

麻疹

著者: 三﨑貴子

ページ範囲:P.1498 - P.1502

Point

●麻疹は麻疹ウイルスを原因とする急性熱性発疹性の感染症で,強い免疫機能抑制状態を生じて重症化する可能性も高く,二大死因は肺炎と脳炎である.

●麻疹含有ワクチンの導入により麻疹患者数は著しく減少したが,集団発生を防ぐためには2回のワクチン接種率95%以上を達成・維持する必要がある.

●麻疹の診断のためには,適切な時期に麻疹特異的免疫グロブリンM(IgM)抗体検査を行うとともに,咽頭拭い液,血液(EDTA血)および尿検体を採取してPCR検査を行うことが重要である.

エムポックス

著者: 石金正裕

ページ範囲:P.1503 - P.1507

Point

●エムポックスは,エムポックスウイルスによる急性発疹性疾患で,わが国では感染症法の4類感染症に位置付けられている.

●主な感染経路は,性的接触時の皮膚・粘膜接触である.

●典型的な症状は,前駆症状(発熱,頭痛,リンパ節腫脹)後の皮疹であるが,前駆症状を認めないこともある.

●確定診断のためには,行政検査による皮膚検体などを用いたPCR検査が必要となる.

●治療の基本は,対症療法による支持療法と疼痛コントロールである.

デング熱

著者: 古宮伸洋

ページ範囲:P.1508 - P.1513

Point

●デング熱は特定の蚊によって媒介され,発熱と皮疹を主な症状とするウイルス感染症である.

●東南アジアなどの熱帯地域の都市部で普通にみられ,わが国で報告される輸入感染症,熱帯感染症としては最多の疾患である.

●日本国内でも夏には流行する可能性があり,渡航歴がなくとも発熱+皮疹を主訴とする患者の鑑別疾患の1つに挙げる必要がある.

●特徴的な臨床経過(発熱期,クリティカル期,回復期)を理解することが診断,治療のために重要である.

●治療は対症療法が中心であり,重症化の予兆を見逃さないことが予後改善に重要である.

狂犬病

著者: 倉井華子

ページ範囲:P.1514 - P.1518

Point

●狂犬病は発症すれば有効な治療法はなく,100%死亡する疾患である.

●曝露後ワクチンのみでは発症を防ぎきれない場合もあり,リスクの高い地域/行動をする際には渡航前のワクチン接種が望ましい.

事例から学ぶ 検査室の経営管理に必要な知識・7

検査室で知っておくべき病院の数値

著者: 本間裕一

ページ範囲:P.1519 - P.1523

はじめに

 病院ではさまざまな数値を扱います.身近なところでは検査データや保険点数などですが,今回は病院経営に関わる数値についてお話しいたします.病院の経営会議に出席すると,必ずといっていいほど,新規入院患者数や病床稼働率,入院診療単価,外来診療単価,手術件数,平均在院日数などの数値(表1)が報告されますが,その数値は病院の経営を反映する数値であり,病院経営陣はこの数値を経営判断の一部としています.これらの数値をホテルの経営に例えると,新規入院患者数は新規にホテルに宿泊するお客さま,病床稼働率はホテルの客室利用率,入院診療単価は宿泊者の1人当たりの平均単価,外来診療単価はホテルのレストランや日中利用のお客さまの平均単価,手術件数はホテルでのパーティーや学会・結婚式,平均在院日数は平均宿泊日数といった感じで,常にホテルが満員で,新規のお客さまが増え,結婚式やパーティーがたくさん入り,連泊者が少なければ,長期の滞在の割引率も低く抑えられ,収入が最大限になるといったところでしょう.簡単に説明するとこんな感じですが,医療の世界はなんでも難しい用語を使い,なんとなく分かりづらくしている感があります.そこで,今回は基本的な数値について簡単に説明します.これらの数値は,検査室の経営にも影響を与えるので,皆さまも関心をもってこれらの数値に着目していただければと思います.

今月の!検査室への質問に答えます・20

努力肺活量検査で,努力呼気をさせた後,最大限の力で一気に吸気をさせて最大吸気位まで吸気させるのはなぜですか?

著者: 田村東子

ページ範囲:P.1524 - P.1527

はじめに

 努力肺活量(forced vital capacity:FVC)検査は,健診などでもよく行われる測定で,その測定方法は,安静呼吸が安定したのち,安静呼気位から最大吸気位まで吸気を行わせ,一気に努力呼気をさせて最大呼気位まで呼出させます(図1).努力呼気終了で測定を終了してもよいのですが,2021年発行の「呼吸機能検査ハンドブック」1)では,努力呼気終了後,最大限の力で一気に努力吸気をさせて,努力吸気肺活量(forced inspiratory vital capacity:FIVC)を測定することを推奨しています.FVCは最大吸気からの努力呼気が必要ですが,これまでの基準では最大吸気かどうか確認することが困難でした.FIVCを測定し,FVCと比較することで,測定開始時の吸気が十分かどうか判断することができます.

 本稿では,FVCの妥当性を判断するうえでFIVCを正しく測定することが重要であることを分かりやすく概説します.

リレーエッセイ 私のこだわり・7

疑問の解決にこだわる—研究テーマ創出の取り組み

著者: 岡田光貴

ページ範囲:P.1528 - P.1528

はじめに

 私は現在,大学教員として学生の教育と研究活動に従事しています.教員に重要なことの1つとして,“研究テーマを複数有している”ことが挙げられます.本学では例年,各教員の研究室に,大学4年生が6〜8名,大学院生が数名在籍することになります.このような事情から,教員は多くの研究テーマを創出する必要があります.そのためには,ふと頭に浮かんだ疑問を大切にし,解決する方法にこだわるのがよいです.以下に例を挙げますが,これから研究に取り組みたい方々の参考になれば幸いです.

学会印象記

日本医療検査科学会第56回大会

ページ範囲:P.1529 - P.1529

 2024年10月4〜6日に,パシフィコ横浜で日本医療検査科学会(旧 日本臨床検査自動化学会)第56回大会が開催されました.大会長は橋口照人先生(鹿児島大学病院検査部長).初日の挨拶では,「産・官・学連携は大変重要で,それらから生まれた検査機器は先達の知の努力が生んだ天才.これら先達の努力を理解できる大会としたい」と話されました.プログラムでは“フレイル”に伴う疾病構造の変化を見据えた高齢者医療に関する講演や,医療DXについての企画が随所に組まれ,シンポジウムや日常臨床に役立つ各種技術セミナーなど,大会長の「これからの医療に“+α”のものを提供したい」というお考えが形となった3日間でした.

 展示ホールでは「臨床検査機器・試薬・システム展示会 JACLaS EXPO 2024」が同時開催され,過去最高の140社余が出展し,最先端の機器に並び,多くの参加者で賑わっていました.

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ページ範囲:P.1442 - P.1443

書評 フリーアクセス

著者: 坂本秀生

ページ範囲:P.1530 - P.1530

書評 フリーアクセス

著者: 中山健夫

ページ範囲:P.1531 - P.1531

書評 フリーアクセス

著者: 山崎直也

ページ範囲:P.1532 - P.1532

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.1533 - P.1533

あとがき フリーアクセス

著者: 山田俊幸

ページ範囲:P.1536 - P.1536

 師走とは,僧侶がこの時期多忙になり走り回ることに由来します.年末と年度末は,身体的にも精神的にもストレスがかかり,心血管疾患の発作が起こりやすい時期とされています.どうぞ,気持ちだけでもゆったりと構えてお過ごしください.

 “走る”に関連していつも感じていることがあります.車の運転で,信号のない横断歩道で歩行者が待っている場合は停車するのが交通規則です.車を止めて歩行者を観察すると,私の印象では10人に5人は速足で横断し,2人は走りだします.お礼の会釈までする人もいます.ありがたいと思う気持ちに加え,急がせて済まない,走って転倒などしたら困るな,などと複雑な気持ちになります.海外経験は長くはありませんが,これは日本人に特徴的なことと感じます.過度に美化するのは不適切ですが,心遣いの表れと思います.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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