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雑誌目次

雑誌文献

臨床検査68巻2号

2024年02月発行

雑誌目次

今月の特集1 血栓止血領域における抗体医薬

著者: 涌井昌俊

ページ範囲:P.125 - P.125

 抗体医薬は文字通り抗体そのもの,または抗体由来の構造を利用した医薬品であり,当初は主に癌や免疫性疾患の分子標的療法として開発・実用化されてきました.近年では血栓止血領域にも活躍の場を広げており,臨床と検査にインパクトをもたらしつつあります.従来の抗体医薬のように標的分子の作用を阻害することで治療効果を発揮する製剤だけではなく,逆に標的分子に結合することで作用を促進する抗体医薬も登場しています.また,抗体の実体,すなわち免疫グロブリン分子の抗原特異性にかかわらない構造部分を利用した製剤も実臨床の向上に寄与しています.

 本特集では血栓止血領域で用いられる抗体医薬の現状と課題について,第一線のエキスパートの方々に解説いただきました.検査実地に必要な考え方の整理の一助になるとともに,治療の進化に伴走するために求められる検査の新たな方向性を探るヒントになれば幸いです.

特発性血小板減少性紫斑病(一次性免疫性血小板減少症)

著者: 柏木浩和

ページ範囲:P.126 - P.132

Point

●副腎皮質ステロイド不応性あるいは依存性特発性血小板減少性紫斑病(ITP)のセカンドライン治療として,ロミプロスチムおよびリツキシマブは,エルトロンボパグおよび脾臓摘出術とともに推奨されている.

●トロンボポエチン受容体作動薬であるロミプロスチムは高い有効率を示すが,毎週の受診が必要な皮下注製剤である.

●リツキシマブは短期間で治療を終了させられる点が長所であるが,長期的な有効率が低い.

●セカンドラインとして新たな治療薬が使用可能となってきており,どのように治療薬を選択するかが今後の課題である.

後天性血栓性血小板減少性紫斑病

著者: 齋藤健貴 ,   酒井和哉 ,   松本雅則

ページ範囲:P.134 - P.143

Point

●抗CD20モノクローナル抗体であるリツキシマブが後天性血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)の早期再発・難治例に対して適応拡大となったことで後天性TTPの予後が改善した.

●抗von Willebrand因子(VWF)抗体であるカプラシズマブの実用化により後天性TTPの死亡率の低下や急性期死亡の減少につながった.

●免疫抑制療法とカプラシズマブのみで寛解に至った急性期後天性TTP例も報告されており,血漿交換フリーレジメンの可能性についても模索されている.

●後天性TTP治療中のVWF分解酵素(ADAMTS13)の密なフォローアップのもとでのカプラシズマブ投与や,カプラシズマブの隔日投与など,カプラシズマブの費用対効果の最適化に向けた取り組みが行われている.

先天性血友病

著者: 鈴木伸明

ページ範囲:P.144 - P.151

Point

●エフトレノナコグ アルファやエフラロクトコグ アルファは各凝固因子にヒト免疫グロブリン1(IgG1) Fc領域を付加させることにより,薬物動態の改善効果を得ている.

●エミシズマブは抗体(IgG)の2本の可変領域をそれぞれ第Ⅹ因子(FⅩ),活性型第Ⅸ因子(FⅨa)と結合するようにデザインしたバイスペシフィック抗体であり,FⅧa機能の代替を果たす.

●コンシズマブはヒトIgG4をフォーマットにしたモノクローナル抗体であり,抗凝固因子である組織因子経路インヒビター(TFPI)を抑制することにより,2次的にトロンビン産生能を回復させる.

後天性血友病A・その他の自己免疫性後天性凝固因子欠乏症

著者: 藤井輝久

ページ範囲:P.152 - P.158

Point

●血液凝固因子に対して自己抗体が出現し,当該凝固因子を失活させることにより,突然の出血を起こす病態がある.そのほとんどが凝固第Ⅷ因子(FⅧ)に対するものであり,後天性血友病Aと呼ばれる.

●後天性血友病Aには出血事象に対する治療(止血治療)と自己抗体(インヒビター)の消失を目的とした治療(免疫治療)を併用する.止血治療においてはバイパス止血製剤を使用するが,出血予防を目的に定期投与も認められている.

●エミシズマブは,活性化凝固第Ⅸ因子(FⅨ)と第Ⅹ因子(FⅩ)に特異的に結合するバイスペシフィックかつFⅧ代替抗体で,バイパス止血製剤の定期投与と同様,後天性血友病Aの出血予防に使用できる.リツキシマブは海外では免疫治療の1つのオプションとして使用されているが,わが国では保険承認されていない.

抗体医薬療法における臨床検査の課題

著者: 松本彬 ,   小川孔幸

ページ範囲:P.159 - P.165

Point

●分子修飾型の半減期延長型凝固因子製剤は凝固因子活性測定に影響を及ぼすことがあるので注意が必要である.

●なかでもFc融合遺伝子組換え型半減期延長凝固因子製剤は凝固因子活性測定にそれほど大きな影響は与えない.

●バイスペシフィック抗体であるエミシズマブを投与すると活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)が過短縮し,APTTに基づいた測定原理を用いる血液凝固系検査はすべからく大きな影響を受ける.

●エミシズマブ投与下で第Ⅷ因子(FⅧ)活性やインヒビターを測定する際は,抗エミシズマブ・イディオタイプ抗体を用いる.

今月の特集2 人工物感染症

著者: 関谷紀貴

ページ範囲:P.167 - P.167

 感染症診療において,人工物が関与する感染症はマネジメントに難渋することが少なくありません.また,長期間の抗微生物薬投与を要する場合が多く,感染の持続,起因菌の耐性化,バイオフィルムの関与など,臨床現場とコミュニケーションを行ううえで医師と臨床検査技師が共有しておくべき知識も幅広いものとなります.

 今回の特集は,人工物感染症の特徴とマネジメントの基本を学び,治療に難渋した場合のディスカッションをより有意義なものとするため,基礎知識を整理し役立てることを目的としています.

 初めに,医療関連感染症において頻度が高いカテーテル関連血流感染症/尿路感染症についてご解説いただいています.次に,頻度は下がるものの難治例では患者予後に大きな影響を与えうる中枢神経系/心血管系の人工物感染症について,最後に高齢者に多い人工関節感染症,乳癌患者で問題になる乳房再建術後の人工物感染症についてご紹介いただきました.人工物感染症診療の質向上に向けて,本特集をご活用いただければ幸いです.

カテーテル関連血流感染症

著者: 菊池航紀

ページ範囲:P.168 - P.173

Point

●血管内カテーテル挿入患者の発熱時にはカテーテル関連血流感染症(CRBSI)を疑う.局所所見があればCRBSIの特異度は高いが,感度が低いため,局所所見を認めない場合にCRBSIを除外してはならない.

●カテーテル先端培養は,定性的液体培養だけではなく,半定量・定量培養を組み合わせ,必ず血液培養も同時に採取する.

●カテーテル抜去不可の場合,血管内カテーテルからの逆血と末梢血から血液培養を採取し,その陽性となる時間差(DPT)が2時間以上あれば,CRBSIの代替診断となる.

●CRBSIの治療は,カテーテルの抜去と抗菌薬である.同時に播種病巣の評価を行いつつ,血液培養・カテーテル先端培養のGram染色・培養経過に合わせて抗菌薬を適宜見直す.

カテーテル関連尿路感染症

著者: 篠原浩

ページ範囲:P.174 - P.179

Point

●カテーテル関連尿路感染症(CAUTI)は無症候性細菌尿との鑑別が難しく,また,その症候は非特異的であり,診断には他の感染巣の除外が必要である.

●CAUTIの原因微生物は,非CAUTIよりも多岐にわたる.

●CAUTIの予防の第一は不要な尿道カテーテルの抜去である.

中枢神経系における人工物感染症

著者: 河村一郎

ページ範囲:P.180 - P.183

Point

●中枢神経系における人工物留置のある状況で,発熱や倦怠感など非特異的な症状を認めた場合はそれら人工物に起因する感染症を鑑別に挙げる.

●中枢神経系における人工物感染症を疑う場合,抗菌薬投与前に髄液培養だけでなく血液培養も行い,デバイスを抜去した場合はその培養も確認する.

●原因微生物には,コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(特に表皮ブドウ球菌),黄色ブドウ球菌,アクネ菌,大腸菌などの腸内細菌科細菌,緑膿菌などのブドウ糖非発酵菌,カンジダがある.

●治療の基本は汚染デバイスの除去と適切な抗菌薬の投与であり,抗菌薬治療の原則は急性細菌性髄膜炎に対するものと同じである.

心血管系における人工物感染症

著者: 織田錬太郎

ページ範囲:P.184 - P.189

Point

●心血管系における人工物感染症には主に人工弁感染性心内膜炎(PVE),心臓植込み型電気デバイス(CIED)感染症,人工血管感染症がある.

●PVEは術後早期と後期で起因菌が異なる.診断や合併症の評価のために自然弁感染性心内膜炎(NVE)と比較して経食道心エコー検査(TEE)の役割が大きく,外科的治療を検討する症例も少なくない.

●CIED感染症には大きく分けてポケット感染と全身感染があり,いずれも多くの場合で治療のためにCIEDを抜去する必要がある.

●人工血管感染症は人工血管がある患者が発熱した場合や人工血管周囲に症状が出現した場合に疑う必要があり,抗菌薬治療に加えて根治には基本的に人工血管の抜去が必要である.

●心血管系に人工物がある患者が発熱した場合には,施行した手術の状況を確認し,感染症の懸念がないかどうかを検討することが極めて重要である.

人工関節周囲感染

著者: 沖中友秀 ,   的野多加志

ページ範囲:P.190 - P.196

Point

●人工関節置換術は患者の生活の質(QOL)向上が期待できる一方で,人工関節周囲感染(PJI)といった術後合併症の危険も潜んでいる.

●PJIは発症の時期によって“早期型”,“遅延型”,“晩期型”に分けられ,それぞれの症状や原因微生物が異なる.

●Parviziらが提唱しているPJIの診断基準は,高い感度と特異度を示し,人工関節感染の診断に有用である.

●治療の基本は抗菌薬治療と外科的ドレナージであり,外科的ドレナージはいくつかの戦術に分かれ,原因微生物によってアプローチや治療期間が異なる.

乳房再建術後の人工物感染症

著者: 赤澤奈々

ページ範囲:P.198 - P.203

Point

●乳房再建術後には,TE(tissue expander)やインプラントの感染症がある.

●乳房再建術後の人工物感染症は,遅発性に発症する場合も多い.

●起因菌は,ブドウ球菌が多いが,迅速発育抗酸菌や真菌が原因になることもある.

●サルベージ治療が検討される症例もあるが,感染コントロール不良の場合は人工物の抜去がgold standardである.

今月の!検査室への質問に答えます・12

MRSAの分類と近年の特徴について教えてください

著者: 荻原真二 ,   山口哲央

ページ範囲:P.204 - P.208

はじめに

 微生物検査をやっていて医師もしくは感染制御チームから“このMRSAは市中型ですか?”や“TSST-1を産生していますか?”といった質問を受けたことはありますか.なぜ,医師もしくは感染制御チームはメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillin-resistant Staphylococcus aureus:MRSA)の分類や毒素について確認してくるのでしょうか.それはMRSAが菌株によって病原性が異なり,地域や施設によって分離されるMRSAクローンの特徴が異なるからです.MRSAは奥深いもので,さまざまな分類法があり,毒素のデパートと呼ばれるだけあってさまざまな毒素や病原因子を産生します.そこで本稿ではMRSAの分類,MRSA分子疫学解析の特徴,さらには近年のMRSA疫学および検査への影響について解説します.MRSAは常に進化しています.ここで一度MRSAについて学び直してみましょう.

医療紛争の事例から学ぶ・7

補助業務に付随する説明

著者: 松本龍馬 ,   蒔田覚

ページ範囲:P.209 - P.211

はじめに

 医師の指示に基づいて診療の補助として採血や検体採取を行う臨床検査技師には,これらに付随する業務の一環として,各種検査に必要な問診や説明を行う役割が期待される.

 連載第7回では,健康診断の一環として実施された胃癌健診の際,健診受診者がバリウムを服用した後に,大腸穿孔,腹膜炎などを発症したことについて,看護師の説明義務違反,問診義務違反が問われた裁判例(東京地方裁判所平成27年5月22日判決1):請求棄却〈確定〉)を紹介する.タスクシフト/タスクシェアが進むなかで臨床検査技師には,採血や検体採取などの“診療の補助”業務についてもいっそうの活躍が期待されており,患者と接する機会が格段に増えることが想定される.本裁判例の判断のポイントを理解することは,臨床検査技師が上記業務を行う際にも参考となるであろう.

資料

目線カメラの動画を用いた技師間の手技統一の試み:末梢血単核球(PBMC)分離操作での例

著者: 福田俊 ,   森田瑞樹

ページ範囲:P.212 - P.215

Abstract

 施設に所属するどの技師が行っても同じ(ばらつきが小さい)結果が得られることは,精度の高い検査結果を返すために重要である.しかしながら,技師の手技の統一を行うに当たり確立された方法はない.筆者らの施設では,各技師による検体処理の様子を目線カメラで撮影し,その動画を相互閲覧することによって手技の確認および統一を試みた.検体処理として末梢血単核球(PBMC)の分離を対象とした.この結果,血液の重層前の再混和や重層の速さなど,標準作業手順書(SOP)には記載がないところで技師間の違いが発見された.動画の閲覧は非同期に行えるため技師の人数が多くても相互に確認がしやすく,またコメントが付いた箇所を後から確認できるなど,動画を用いた方法の効果を実感することができた.筆者らが動画の撮影,編集,閲覧・コメントに使用したのはいずれも安価かつ容易に入手できるものであり,この方法は施設によらず容易に導入できる.

INFORMATION

日本医療検査科学会第38回春季セミナー

ページ範囲:P.143 - P.143

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目次

ページ範囲:P.122 - P.123

書評

著者: 林俊誠

ページ範囲:P.216 - P.216

「検査と技術」2月号のお知らせ

ページ範囲:P.124 - P.124

バックナンバー「今月の特集」一覧

ページ範囲:P.158 - P.158

次号予告

ページ範囲:P.217 - P.217

あとがき

著者: 山田俊幸

ページ範囲:P.220 - P.220

 筆をとっている今は紅葉の最盛期で,週末の日光は大変な渋滞だったと聞きました.日光は誰もが知る景勝地で,都心から日帰り圏内であり,少し足を延ばすと鬼怒川,塩原,那須などのこれまた有名な温泉地があります.かようにこれら観光地は有名でも,それらが位置する栃木県というと認知度が低く,印象の薄い県としていつも下位にランクされています.私の勤務する大学は全国から生徒を集めるため全国行脚して大学説明会をやるのですが,特に西のほうで行う場合は地図で大学の位置を示し,高校生にわかりやすくディズニーランドから何時間などと説明することになっています.

 それでもこの雑誌が出る寒い時期は注目を集める季節です.それは冬場に収穫するいちごのかなりの部分を栃木産が占めるからです.収穫量は福岡,静岡を抑えて全国1位です.機会がありましたらぜひお取り寄せのうえご賞味ください.ただし,長距離の輸送に耐えられないものもあり,関東近辺の方にはお出掛けのうえ,いちご狩りを楽しんでいただけたらと思います.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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