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雑誌目次

雑誌文献

臨床検査68巻5号

2024年05月発行

雑誌目次

今月の特集 肥満と健康障害

内臓脂肪型肥満

著者: 武市幸奈 ,   松田やよい ,   小川佳宏

ページ範囲:P.644 - P.651

Point

●肥満は体脂肪分布の違いから,内臓脂肪型肥満と皮下脂肪型肥満に大別される.

●脂肪組織の機能にはエネルギー調節とアディポサイトカインの産生・分泌がある.

●内臓脂肪の過剰な蓄積は,アディポサイトカイン産生異常やインスリン抵抗性を惹起し,糖尿病,脂質異常症や高血圧症ならびに心血管疾患を誘発する.

●日本人は白色人種と比較して,非肥満やごく軽度の肥満であっても内臓脂肪蓄積がみられ,糖尿病などの代謝異常や心血管疾患の合併リスクが高い.

●肥満を体格指数(BMI)のみで評価するのではなく内臓脂肪蓄積の観点から捉えたメタボリックシンドロームの概念は,わが国の肥満診療において大きな意味をもつ.

肥満と健康障害

耐糖能障害

著者: 庄嶋伸浩 ,   山内敏正

ページ範囲:P.572 - P.575

Point

●肥満は,糖尿病および糖尿病合併症の発症と進展を助長する原因となる.

●食事療法および運動療法は,薬物療法と同等かそれ以上に糖尿病発症リスクを低下させる.

●肥満を合併する糖尿病に対して,食事療法および運動療法で血糖値の改善が不十分であれば薬物療法が選択できる.

●高度肥満を合併する糖尿病に対して,減量・代謝改善手術が有効である.

脂質異常症

著者: 小幡佳也 ,   西澤均 ,   下村伊一郎

ページ範囲:P.576 - P.584

Point

●脂質異常症は肥満症の重要な健康障害の1つであり,高中性脂肪(TG)血症と低高比重リポタンパクコレステロール(HDL-C)血症を特徴とする.

●肥満・内臓脂肪蓄積に伴うインスリン抵抗性により,超低比重リポタンパク(VLDL),カイロミクロン(CM),レムナント,small dense LDL(sdLDL)の増加といったリポタンパク代謝異常をきたす.

●リポタンパク代謝異常を正確に評価するためには,TG値,HDL-C値,低比重リポタンパクコレステロール(LDL-C)値の評価のみでは不十分であり,リポタンパク分画などの検査が有用である.

●治療の基本は生活習慣改善による減量・内臓脂肪の減少であり,これにより高TG血症,低HDL-C血症のみならず,上記リポタンパク代謝異常の改善も期待できる.

高血圧

著者: 横田健一 ,   曽根正勝

ページ範囲:P.585 - P.591

Point

●多くの疫学研究から肥満では高血圧を発症しやすいことが示されている.

●わが国では経時的に肥満が増加していることから,高血圧における肥満の寄与度は今後ますます大きくなるものと推測されている.

●肥満で高血圧を発症するメカニズムとして,血行動態の変化,交感神経活動亢進,レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(RAAS)活性化,インスリン抵抗性,アディポサイトカインの関与など複数の要因が推定されている.

●予防,治療ではまず減量や減塩を含む食事療法,運動療法などの生活習慣の改善が必要である.

●薬物治療では糖代謝異常やインスリン抵抗性の改善効果を有すると報告のあるアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)やアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬を優先的に投与することが望ましいが,しばしば治療抵抗性高血圧を呈し,複数種類の降圧薬投与を要することも多い.

高尿酸血症・痛風

著者: 西澤均

ページ範囲:P.592 - P.598

Point

●高尿酸血症は,遺伝素因に加え,肥満・内臓脂肪蓄積,飲酒などの環境因子によって惹起される.

●高尿酸血症の症候性合併症の1つが痛風であり,その再発予防のために血清尿酸値<6.0mg/dLを目指して治療介入を行う.

●肥満・内臓脂肪蓄積に伴う高尿酸血症は生活習慣改善指導による減量によって血清尿酸値の低下を期待できる.

●高尿酸血症は表現型であり,その成因と個々人の予防すべき合併症を念頭に薬物治療介入を検討する.

冠動脈疾患

著者: 大畑洋子 ,   宮本恵宏

ページ範囲:P.600 - P.607

Point

●わが国の冠動脈疾患(CAD)は諸外国に比較し罹患率が低い.年齢調整死亡率は,1950年代以降時代とともに増加したが,2010年以降は内科的治療・外科的治療の進歩などの医療の進歩が幅広く国民に還元され,低下している.

●肥満は動脈硬化性疾患のリスク因子であり,体容積指数(BMI)の高い患者,メタボリックシンドローム患者のスクリーニングは重要である.ただし,非肥満者でも糖尿病・高血圧・脂質異常症・喫煙などのリスク因子をもつ患者はハイリスクである.

●肥満患者は非肥満患者よりも心血管病の予後がよく,肥満パラドクスといわれているが,その理由は明らかではない.

●行動療法や外科的治療で10%以上体重減少し,肥満の是正が得られると,心血管リスクの低減が得られることが報告されている.

●グルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)受容体作動薬やGLP-1受容体・グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド(GIP)受容体共受容体作動薬は,大きな体重減少効果があり,心血管イベントを抑制することが報告されている.しかし,適正使用のガイドラインに従い使用される必要がある.

肥満と脳血管疾患

著者: 山城一雄 ,   卜部貴夫

ページ範囲:P.608 - P.613

Point

●肥満およびメタボリックシンドロームにより,脳卒中の発症リスクが上昇する.

●内臓脂肪型肥満は,アディポカイン分泌の調節不全により動脈硬化の原因となる.

●腸内細菌による炎症は,肥満と脳梗塞の病態に関与する可能性が示されている.

●脳卒中発症予防のため,肥満においては体重の適正化が推奨される.

非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)

著者: 谷貝知樹 ,   菅波孝祥

ページ範囲:P.614 - P.618

Point

●近年わが国において健康診断を受診する患者の3割は非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)であり,そのうち2割は炎症を伴う非アルコール性脂肪肝炎(NASH)である.

●進行したNAFLDの診断は画像検査で可能であるが,現在の診断法ではNAFLDとNASHを正確に区別するのは難しい.肝線維化は画像検査と血液生化学検査で比較的高精度に診断できる.

●NAFLD/NASHの治療では食事療法と運動療法による減量が重要であるが,達成率は高くない.治療薬の臨床試験も複数の候補薬で進んでいるが,現状承認された薬剤はない.

月経異常・女性不妊

著者: 横山真紀 ,   杉山隆

ページ範囲:P.619 - P.623

Point

●肥満は月経異常や女性不妊と関連する.

●背景メカニズムとしてインスリン抵抗性や高アンドロゲン血症を中心とした内分泌学的異常が重要である.

●肥満の病態とオーバーラップし,月経異常や不妊症をもたらす多囊胞性卵巣症候群(PCOS)がある.

●減量により肥満やPCOSに伴う月経異常の改善や妊孕能の回復が認められる.

●現体重の5〜10%の減量を目標とし生活習慣の改善を行う.

閉塞性無呼吸症候群・肥満低換気症候群

著者: 加隈哲也

ページ範囲:P.624 - P.628

Point

●成人の閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)発症の最大の要因は肥満であり,肥満の進行により,OSAは急激に重症化する.

●閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)では肥満を伴うことが多く,家人から睡眠中のいびきや呼吸停止を指摘される.日中の過度な眠気を催す高度肥満者においてはOSASの合併を疑うことが重要である.

●OSASの標準治療は持続気道陽圧(CPAP)呼吸である.一方,肥満を伴う患者においては,減量は有効な治療なので積極的に行う必要がある.

●肥満低換気症候群(OHS)が高度肥満を伴いOSASを高頻度に合併する.肺高血圧症や不整脈を発症する頻度が高く,突然死のリスクが高いので見逃さないように注意する.

肥満と運動器疾患

著者: 増田裕也 ,   中川匠

ページ範囲:P.630 - P.636

Point

●肥満と運動器疾患との間には深い関連があり,特に変形性関節症(OA)の発症機序には体重増加による関節への荷重負荷の増大が関与していると考えられてきた.

●肥満は手関節などの非荷重関節の関節症発症にも相関しており,OAの発症には荷重負荷の増大以外のメカニズムがあると考えられるようになった.

●OAの発症には,肥満による“軽微な慢性炎症”が深く関与している.

●その軽微な慢性炎症には,脂肪細胞が分泌するサイトカイン(アディポカイン)が関与する経路と,脂質異常症やインスリン抵抗性による全身的な炎症が関与している.

肥満関連腎臓病

著者: 大西康博 ,   和田淳

ページ範囲:P.637 - P.643

Point

●肥満症は慢性腎臓病(CKD)の危険因子であり,糖尿病性腎臓病(現在は糖尿病関連腎臓病の訳語が日本糖尿病学会と日本腎臓学会から提唱されている)や高血圧性腎硬化症と診断されないにもかかわらず肥満に腎障害を合併した症例は肥満関連腎臓病と呼ばれる.

●肥満関連腎臓病は,血行動態の変化,慢性炎症,アディポカインなどの内分泌的変化,および脂肪毒性が,単独ではなく相互に作用することにより発症する.

●肥満関連腎臓病の治療は食事・運動・行動療法による減量が第一であるが,レニン-アンジオテンシン系(RAS)阻害薬・ナトリウム・グルコース共輸送体2(SGLT2)阻害薬・グルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)受容体作動薬・選択的ミネラルコルチコイド受容体アンタゴニスト(MRA)といった薬物療法や手術療法の有効性も期待される.

事例から学ぶ 検査室の経営管理に必要な知識・1【新連載】

検査室の経営管理のすゝめ

著者: 本間裕一

ページ範囲:P.652 - P.655

連載のはじめに

 私は1991年4月に横浜市立港湾病院に就職し,その後,横浜市健康福祉局保健医療部医療政策課,横浜市立市民病院,横浜市脳卒中・神経脊椎センターと異動を経験し,病院検査室の立ち位置を病院の検査室側からと行政側からの両側面からみてきました.そのなかで病院経営の一員として常に思っていることがあります.それは臨床検査に関する知識・技術については誰もが追求し日々進歩を遂げており,一般的なマネージメントについては,日本臨床衛生検査技師会などによる“認定管理検査技師制度”による研修や多くの学会や研修会,書物で学ぶことができますが,検査室の実践的な経営や戦略的な考えは,臨床検査技師養成課程にも含まれておらず,各施設の長が手探りのなかでマネージメントを行い,常に模索していることと思われます.また,今の時代,病院経営に臨床検査技師がかかわることは当たり前となっており,国の政策を反映した,検査室運営に関する考え方や方向性を問われる状況が増えています.

 そこで今回,より実践的な検査室運営にかかわる知識について「事例から学ぶ 検査室の経営管理に必要な知識」を執筆することとなりました.内容的には,検査室の運営形態や収支報告書の作成,検査機器購入の考え方,職場での経営意識の向上,医療DX令和ビジョン2030における検査戦略などです.私自身の病院検査室や行政での経験,医業経営コンサルタントとしての検査部門の分析を基に,これらは必要な知識と思っています.今回は「検査室の経営管理のすゝめ」と題しまして,なぜ,このような知識が必要なのか,今までの経緯とともにお話ししたいと思います(表1).

リレーエッセイ 私のこだわり・1【新連載】

感染対策の門番として微生物検査で地域医療圏を守る

著者: 原祐樹

ページ範囲:P.656 - P.657

自身の無力・無知を痛感した日

 2015年,日赤愛知医療センター名古屋第二病院(以下,当院)において海外から持ち込まれた多剤耐性菌によるアウトブレイク事案1)を経験したが,これがその後の私自身のキャリアを方向付ける大きな事案となった.当時,微生物検査に配属されて7年が経過し,日常検査は当然のことながら感染対策チーム内でも頼りにされる機会も徐々に増えてきていた.さらに同年には認定資格を取得し,認定臨床微生物検査技師として順調にキャリアを形成していた.そうしたなかで,これまで出合ったことのない多剤耐性菌〔バンコマイシン耐性腸球菌,カルバペネム分解酵素(Klebsiella pneumoniae carbapenemase:KPC)産生Klebsiella pneumoniae,OXA-23産生Acinetobacter baumannii〕に対して全く歯が立たず,その多剤耐性菌が数日のうちに院内伝播を起こし,病棟閉鎖になるという事案が発生し,これまで築いてきた自信が砂上の楼閣であったと痛感させられた.この出来事を契機に感染対策の門番として自施設の耐性菌検査技術を高めることが必須であると考えるようになった.

今月の!検査室への質問に答えます・14

MitraClip®前後の心エコー検査の評価方法を教えてください

著者: 塩川則子 ,   出雲昌樹

ページ範囲:P.658 - P.661

MitraClip®

 MitraClip®(アボットメディカルジャパン社)とは左心系にある房室弁である僧帽弁の修復に用いられる医療デバイスのことで,経皮的僧帽弁接合不全修復術(transcatheter edge-to-edge repair:TEER)で使用されます.TEERは僧帽弁閉鎖不全症に対し非開胸下で経カテーテル的にクリップを用いて行う治療方法のことで,開胸手術による僧帽弁前尖と後尖を縫合するedge-to-edge repairをコンセプトとしています(図1).MitraClip®を使用したTEERは2018年4月から保険適用されており,その適応基準は左室駆出率が20%以上で安静時もしくは負荷時に重症の僧帽弁逆流があり,外科的手術が困難であることや僧帽弁逆流の改善により症候の改善が期待される症例について実施可能であり,わが国でも開胸手術が困難である高齢者や心機能が低下した症例に適応されています.

医療紛争の事例から学ぶ・9

刑事事件における被疑者の供述調書の取扱い

著者: 岡部真勝 ,   蒔田覚

ページ範囲:P.662 - P.664

はじめに

 業務範囲の拡大は,法的責任の拡大を伴う.重大な医療事故が発生した場合には,被害者救済を目的とした民事事件だけでなく,刑事責任が追及されることもありうる.そして,刑事事件の捜査段階で,医療従事者は被疑者あるいは証人的立場で供述を求められる.その際に作成される供述調書は,後の裁判で犯罪事実を証明する重要な証拠として用いられることになる.連載第9回では,刑事手続における被疑者の供述調書の取扱いについて解説する.

短報

石綿小体計測検査:石綿小体計測マニュアル(第3版)を中心に

著者: 田中真理 ,   向井春喜 ,   槇原康亮

ページ範囲:P.666 - P.670

Abstract

 肺癌は喫煙をはじめとする多くの原因で発症するため,石綿による肺癌の認定には石綿曝露量を客観的に推定する必要がある.石綿曝露の医学的判断の1つとして石綿小体計測検査が用いられている.今回,「石綿小体計測マニュアル(第3版)」が発行され,湿潤肺組織の消化法が採用となり石綿小体の形態学的判断が比較的容易となった.しかし,非腫瘍部肺組織が4cm3大に満たない場合は従来の乾燥肺消化法を実施することになり,改訂による利点が生かされないため,できるだけ非腫瘍部肺組織を保管しておくことが重要である.

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目次

ページ範囲:P.562 - P.563

書評

著者: 山田和範

ページ範囲:P.672 - P.672

「検査と技術」5月号のお知らせ

ページ範囲:P.564 - P.564

バックナンバー「今月の特集」一覧

ページ範囲:P.613 - P.613

次号予告

ページ範囲:P.673 - P.673

あとがき

著者: 藤崎純

ページ範囲:P.676 - P.676

 このたび,歴史ある「臨床検査」の編集委員として新たに加わることになりました藤崎と申します.「臨床検査」は私が学生の頃から研究室で親しんできた雑誌でありますが,初刊が1957年4月に発行されたことを知り,歴史の長さに驚くとともに今回の着任を大変光栄に思っております.

 私は臨床検査技師として28年間,生理機能検査に従事してまいりました.これまでの経験を生かしつつ,技師目線から日常業務に役立つ,興味深い企画や情報を提供できるよう努めてまいります.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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