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雑誌目次

雑誌文献

臨床検査30巻3号

1986年03月発行

雑誌目次

今月の主題 凝固線溶系の新しい検査 カラーグラフ

血液凝固異常症

著者: 松田保

ページ範囲:P.216 - P.218

 血液凝固の異常と言えば,以前はもっぱら出血性素因のみが問題とされたが,近年,極端な血栓傾向が存在するのに消費性凝固障害の結果,出血傾向も呈するDIC (汎発性血管内凝固)が注目され,次いでさまざまの先天性の血栓傾向の存在が明らかとなった.この場合,診断上,血液検査室の持つ役割はきわめて大きく,例えば,諸家によるDICの診断基準では検査室での凝血学的所見の異常が重視されている.

技術解説

von Willebrand因子の検査法

著者: 高橋芳右

ページ範囲:P.219 - P.227

 von Willebrand因子(vWF)は傷害を受けた血管の内皮下組織への血小板粘着(一次止血)に重要な役割を果たす.このvWFを異種抗体を用いロケット免疫電気泳動法などにより免疫学的に測定したものをvWF抗原(vWF:Ag)と言い,リストセチン存在下で血小板凝集を惹起する生物活性として測定したものをリストセチン・コファクター(RCoF)と言う.vWFは分子量220000のサブユニットが種々の程度重合し,正常血漿中では分子量500000(または800000)〜20×106の広範囲に不連続に分布するマルチマーから成る.vWFの存在様式がその生物学的機能の発現に密接な関係を持っており,分子量の大きな高分子マルチマーがいちばん活性が高く,低分子マルチマーは活性が低い.vWFの存在様式の解析法として,交差免疫電気泳動法とSDS—アガロースゲル電気泳動後にアイソトープで標識した抗体と反応させオートラジオグラフィーを行う方法がある.

フィブリノペプチドAの検査法

著者: 巽典之 ,   巽陽一 ,   藤井厚男

ページ範囲:P.228 - P.232

 これまでフィブリン(Fb)の生成・崩壊の過程の観察は,もっぱらフィブリノゲン(Fbg)やフィブリン分解物(FDP)の定量で行われてきた.しかし,これらの定量は感度および特異性の点で臨床サイドの要求を十分に満たしえないものであり,Fb形成過程をより精確に検索する目的で開発されたものが,フィブリノペプチドA (FPA)や—B(FPB)の測定である.今回はこのうち,FPAについて技術面での解説を中心に述べることにする.

Bβ15-42の検査法

著者: 長谷川淳 ,   小熊豊

ページ範囲:P.233 - P.239

 ラジオイムノアッセイによるBβ15-42の測定には,クロラミンT法による125I標識抗原の作製,被検血漿の作製,標準抗原,抗血清の稀釈など,比較的煩雑で,正確な操作が要求される.本項ではこうした測定上の要点を解説し,すぐにもBβ15-42の測定を実践できるように心がけた.現在の測定キットでは残念ながらBβ1-42とBβ15—42とを鑑別できないが,プラスミンの作用を直接的に把握しえる指標として,多くの凝固線溶学的病態の解析にBβ(1)15-42測定の果たす役割は大きい.今後はますますBβ(1)15-42の測定が重要となると思われ,多くの施設での検討が期待される.

PIVKAの検査法

著者: 櫻川信男

ページ範囲:P.240 - P.244

 PIVKA-IIはビタミンKが欠乏した場合に肝で産生される異常蛋白体とも言うべきもので,カルボキシル化が起こっていない状態のprotein induced by vitamin K absenceのうちのプロトロンビンを言う.これは,通常の組織トロンボプラスチン-Ca2+溶液ではトロンビンに活性化されない.したがって,この異常プロトロンビンを測定する方法が必要となる.
 臨床的意義はビタミンK不足を招く,経口抗凝固療法施行中や乳児の特発性ビタミン欠乏症,胆汁酸欠乏,腸内細菌死滅,腸管の異質障害および原因不明の場合もある.これらの出血症状の原因を可及的早期にビタミンK不足と確定してその補充をすることが臨床上,重要となる.

総説

凝固線溶反応の中間産物

著者: 齋藤英彦

ページ範囲:P.245 - P.251

はじめに
 血液凝固・線溶反応はともに一連のプロエンザイム-エンザイム転換反応が連鎖的に起こり,それぞれトロンビンとプラスミンを生成し,止血(血栓形成)および血栓溶解を引き起こす.従来血液凝固の研究や検査には,もっぱらフィブリン析出を反応のエンドポイント(終末点)とする方法が使われてきた.この方法〔例えば部分トロンボプラスチン時間(PTT)など〕は,in vitroにおいて血漿中の凝固因子を人工的に活性化したときのフィブリン析出までの速度を測定するもので,PTTを用いる凝固因子定量法では血中のプロエンザイム(または第V因子や第Ⅷ因子のようなコファクター)の総量を求めることになる.一方,線溶系においてもプラスミノゲンやインヒビターの総量を測定することが一般に行われている.このような血中のプロエンザイムの測定は,血友病などの先天性凝固因子欠乏症の診断には有用であるが,凝固亢進状態や線溶亢進状態の把握には適切ではない.
 その理由としては,血中凝固・線溶因子の濃度は産生と破壊(消費)とのバランスにより規定されるので,一時点における血中濃度がたとえ低下しているとしても,それが産生低下によるものなのかあるいは消費充進によるものなのかは不明であるからである.同様なことは凝固阻止因子(アンチトロンビンIII(AT III)など)についても言えることで,血中濃度低下を直ちに凝固充進により消費されたものと解釈することはできない.放射性同位元素で標識した精製凝固・線溶因子(例えばプロトロンビン)を静注して半減期を求めることから体内における動態を知ることができる.しかし,この方法はどこの施設でもできるものでもなく,またルチーンに使えるものではなく,そのうえプロトロンビンの消費の大部分はgenenal catabolic pathwayによるもの1)で,凝固によりトロンビンへ転換される部分は少ないため,血中半減期のデータを直ちに凝固充進に結び付けることは困難である.一方,シリコン塗布試験管を用いるシリコンPTTは凝固充進状態のスクリーニングに役だつという意見もあるが,通常のAPTTによる凝固因子測定法ではザイモゲンと活性化因子とを区別できないので,生体内における凝固動態を反映しない.

主題を語る

キニンと凝固線溶

著者: 安部英 ,   大石幸子

ページ範囲:P.252 - P.259

 キニン,カリクレインはケミカルメディエーターの一つとして疼痛や血圧その他の生体反応に特有の作用を持っているが,最近これらが凝固線溶系,ことにその初期相の反応に重要な影響を示し,異常血管表面や各種異物面での接触反応に重要な意義を持つことが注目されてきた.今,それはどこまで解明されているのだろうか.

検査と疾患—その動きと考え方・109

血液凝固異常症

著者: 松田保 ,   伊藤恵子 ,   上田幹夫 ,   神野正敏 ,   朝倉英策 ,   日月香代子 ,   北尾武

ページ範囲:P.261 - P.267

はじめに
 外傷を受けて血管が破れると,血液が血管外にあふれ出て出血を生ずる.この場合,血管の破綻部位には血小板が粘着,凝集して,これを機械的に閉塞すること,また凝集した血小板より遊離するトロンボキサンA2(TXA2)(「カラーグラフ」図1)により血管が収縮することによってある程度止血を生ずる.しかし,破綻した血管が大きい場合には,血小板のみでは十分ではなく,血液の凝固が必要である.
 血液の凝固は,血液が正常血管内膜とは異なる性質を有した表面と接触しても起こる.例えば血液を試験管に入れた場合である.ガラス製の試験管はプラスチック製の試験管に比べて"異物面"作用が強く,ガラス製の試験管に入れた血液はより早く凝固する."異物面"作用の本態は陰性荷電を有する表面とされる(「カラーグラフ」図2).

座談会

凝固線溶系の新しい検査

著者: 松田道生 ,   鈴木宏治 ,   池松正次郎 ,   風間睦美 ,   青木延雄

ページ範囲:P.268 - P.276

 血液凝固線溶系に関する研究の進歩は,近年著しい.その進歩の一翼を担っているのが,一般的な研究方法・技術の進歩であるが,逆に基礎的研究の進歩が研究方法から臨床検査のレベルまで,新しい進歩と新しい方法の導入を促しており,相互の発展を生んでいる.凝固線溶系の新しい検査について専門家に語っていただいた.

シリーズ・生体蛋白質の検査法・3

ヒト生体試料中の蛋白質定量の特殊性と取り扱い上の問題点

著者: 亀山恒夫 ,   川崎美津子

ページ範囲:P.279 - P.284

はじめに
 蛋白質の定量は生化学的実験の基本的な操作であり,生化学の研究が始まって以来,それと歩みをともにしてきたと言っても過言ではない.今日まで,数多(あまた)の方法が発表されたが,それぞれの方法には必ず長所とともに短所があるため,現在なお新しい方法が案出されたり,改良法の発表が跡を絶たない.それゆえ,蛋白質の定量に関する研究は昔から行われているが,現在なおも新しい研究開発の領域となっている.
 個々の測定法の具体的方法については,本誌の本シリーズに,他の筆者により詳細に解説される.これらの測定法を適所に正しく活用するためには,各種の測定法の一つ一つの操作,試料や試薬の性質を確実に理解して,どの測定にどの測定法を適用すべきかを正しく判断し,得られたデータを正しく評価せねばならない.

シリーズ・超音波診断・3

乳腺

著者: 田中一成 ,   竹原靖明

ページ範囲:P.286 - P.289

 最近では不特定多数を対象とする集検用の装置も開発され,われわれもそれについて報告をしてきたが,乳腺疾患の超音波診断は,主に触診で触れる腫瘤に対し,その質的診断のために行われている.

シリーズ・癌細胞診・15

リンパ節

著者: 社本幹博 ,   舟橋正範

ページ範囲:P.291 - P.294

 生体の免疫機能遂行に重要な役割を演じているリンパ節では,免疫担当細胞であるリンパ球がつねに産生されているため,種々の発育過程にあるリンパ球系細胞が存在する.また,さまざまな生体反応に応じてリンパ球は容易に芽球化現象などを起こすため,大型化など,その形態像もまちまちとなってくることも多い.したがって,通常われわれが悪盤腫瘍細胞の診断基準としているN/C比の増大,核小体の胆大,クロマチンの増量などといった判定基準は必ずしも当てはまらない.また,通常の細胞診に用いているPapanicolaou(Pap)染色よりは,リンパ球系細胞の鑑別にはMay-Grünwald-Giemsa(M-G-G)染色のほうが優れており,また慣れもあるため,他の領域の細胞診とはいささか異なっている.リンパ節はその性格上,リンパ節固有の悪性腫瘍である悪性リンパ腫,Hodgkin病のみならず,他臓器からの悪性腫瘍の転移,種々の炎症性疾患,全身性疾患の部分症など,多様な病変が現れるため,細胞診断に当たっては,診断者の医学的知識に対する幅の広さが問われると言っても過言ではない.針穿刺吸引法は外科的侵襲を与えることがないため臨床上有用性が高いことはもちろんであるが,生検リンパ節割面の捺印標本も迅速診断においては重要である.

研究

C1q固相エンザイムイムノアッセイ法による血中免疫複合体の測定

著者: 森山隆則 ,   信岡学

ページ範囲:P.295 - P.299

はじめに
 血中免疫複合体(CIC)の測定法には,原理の異なった数多くの方法が報告されているが,1978年WHO1)によって18種類の方法が比較検討された.これらの中でもっともよく検討,使用されているのは,C1qへの結合性を利用した方法である.
 1976年,Hayら2)はC1qをポリスチレンチューブに固相化し,125I標識抗ヒトIgGでCICを測定する方法を報告した.その後,Orozcoら3)はマイクロプレートに応用したRIA法を報告している.一方,エンザイムイムノアッセイ法(EIA)の普及に伴い,EIA法を利用した方法も数多く報告4〜11)されている.

資料

非発酵菌用・短時間同定キットノンファグラム(テルモ)の検討—第1報基礎的検討

著者: 狩山英之

ページ範囲:P.301 - P.305

はじめに
 ブドウ糖非発酵性Gram陰性桿菌(以下,非発酵菌と略す.)はopportunistic pathogenの一つとして注目されて久しく,かつ,その分離率も高い.感染症の確定診断には薬剤感受性試験と同時に,起因菌の迅速な同定も強く要望される.ところが,この非発酵菌を正確に同定するにはかなり多くの性状検査が必要であり,成績を得るまで長時間を要することが多い.当然,この菌群を能率的に同定することを目的とした各種の簡易同定システムが市販されてきた.それらの評価1〜9)はだいたい良好な成績を示しているが,追加試験の多さ,その精度,培養時間の長さなど,不満な点も指摘されている.
 以上のような現状において,培養時間が5時間程度で成績が得られるという超迅速性を持つ,国産初のドライタイプキット"ノンファグラム(テルモ)"が開発され,今回,その使用機会を得た.ノンファグラムは,使用菌液量が少なく,できるだけ短時間に,簡便に,正確な成績が得られるという点を特徴にする.このキヤッチフレーズの真偽を確認すべく,ATCC株を用いての基礎的検討と,臨床材料からの分離菌株を用いた検討とを行った.第1報として,ATCC株を用いての基礎的検討成績を報告する.

医学の中の偉人たち・3

Andreas Vesalius 近代解剖学の父

著者: 飯野晃啓

ページ範囲:P.306 - P.306

 Andreas Vesaliusは1514年,ベルギーのブルッセルで生まれた.父が宮廷薬剤師であったため子供のころから医学に興味を示し,ネズミ,イヌ,トリなどの小動物を解剖するのが好きであった.
 18歳のとき,医学を修める目的でパリ大学に留学し,解剖学をJacobus Sylviusの下で研鑽した.Sylviusは当時ヨーロッパでもっとも名の知れた解剖学者で,現在でも大静脈のSylvius弁など彼の名を付けて呼ぶ部分がいくつか残っている.Sylviusは解剖を助手や職人にまかせず,自ら執刀して従来の習慣を破った人である.

質疑応答

臨床化学 GOT,GPTの測定単位の変更

著者: T生 ,   大久保昭行

ページ範囲:P.307 - P.307

 〔問〕以前,Karmen単位で測定していたGOT, GPTを,測定機変更に伴い国際単位(IU/l)に変更したところ,健常者でGOT>GPTとなるはずがGOT<GPTとなってしまいました.(試薬メーカーのマニュアルではGPTの正常値のほうが高い.)どのように考えればよいのでしょうか.

臨床化学 LDHが高値の場合のアイソザイム検索

著者: M子 ,   須藤加代子

ページ範囲:P.308 - P.309

 〔問〕当施設のLDH活性値の正常域は130〜249 U/lですが,666U/lと高い検体に遭遇したのでアイソザイムを調べたところ,今までに経験したことのないパターンでした.いったい何が考えられるか,ご教示ください.

臨床化学 人工透析患者の低LCAT活性

著者: 小松隆則 ,   湯川進

ページ範囲:P.309 - P.311

 〔問〕人工透析患者では,LCAT値が正常値(60〜120U)を大きく下まわる低値を示す理由をご教示ください.

臨床化学 抗凝固剤が臨床化学検査に及ぼす影響

著者: 上村司 ,   中山年正

ページ範囲:P.311 - P.314

 〔問〕抗凝固剤の投入された試料では,投入されていない試料と比較して,どのような項目に差がみられるのでしょうか.また,それは抗凝固剤の濃度により違いがあるのでしょうか.

臨床化学 Good Bufferの特徴

著者: Q生 ,   関知次郎

ページ範囲:P.314 - P.315

 〔問〕生化学分野でGood Buffer (ドータイト試薬)がよく利用されるのはどうしてなのか,その特徴をお教えください.

臨床化学 SODの測定法および臨床的意義

著者: K生 ,   三宅可浩

ページ範囲:P.315 - P.317

 〔問〕SOD (super oxide dismutase)の測定法,SOD活性の臨床的意義,および測定時に血液成分(血球,血清)の何を対象とすべきかについてお教えください.

輸血 交差適合試験で自己対照が凝集

著者: S子 ,   竹内直子

ページ範囲:P.317 - P.318

 〔問〕Coombs試験をスイムウォッシュ(OAES法,Ortho社)で行っています.交差適合試験でCoombs試験を行ったところ,自己対照が凝集してしまいました.この患者さんの2週間前の交差試験では,異常はありませんでした.考えられる要因と対処法(特に緊急の場合)とをご教示ください.

微生物 SS寒天生培地の保存法の変化

著者: 中西寛治 ,   榎本省二

ページ範囲:P.318 - P.319

 〔問〕SS寒天培地は,以前粉末で作っていたときには栄研マニュアルでは「室温保存,冷蔵庫保存は寒天培地内の薬品が析出するので不可」とありましたが,現行のSS生培地については「2〜10℃保存」とあります.成書でも「冷蔵庫に入れないで室温におく」と,ゴシック体で強調してあったのですが,組成が変わったのでしょうか.

臨床生理 心電図における電位の意味

著者: 中村滋 ,   外山淳治

ページ範囲:P.319 - P.320

 〔問〕「心電図電位は電極が脱分極波断面を眺める立体角の大きさを反映する」そうですが,以下の三点から疑問を持っています.
(1)肢電極の位置を変えても,肢の曲げ伸ばしにも波形はほとんど変わらない.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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