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雑誌目次

雑誌文献

臨床検査35巻3号

1991年03月発行

雑誌目次

今月の主題 心・血管系ホルモン 総説

心・血管系ホルモン

著者: 高橋克敏 ,   藤田敏郎

ページ範囲:P.227 - P.232

 心臓血管系は全身性,局所性に作動する神経性あるいは体液性の機構による調節を受けて生体のホメオスタシス維持に参画している.ANPの発見によって心臓はポンプ機能のみならずみずから積極的にホルモンを産生し循環機能を調節しうることが明らかになった.また,EDRFの発見は血管機能調節における内皮細胞の役割が注目される契機となり,近年この分野には新たな知見が次々と集積している.生化学,分子生物学の発展によりサイトカインや神経ペプチドなどの多くの生理活性物質が発見されたが,これらの持つ多彩な機能が明らかになるにつれて免疫系,神経系を主な活躍の場とするこれらの物質が心臓血管系の調節にも参与する可能性が指摘されている.

測定法・病態生理

心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)測定法―エンザイムイムノアッセイによる測定法を中心として

著者: 藤田誠一 ,   片山善章

ページ範囲:P.233 - P.236

 α-ヒト心房性ナトリウム利尿ペプチドの血漿中の濃度は報告者により多少異なるが,約10~100pg/mlと非常に低いレベルである.したがって,その血中濃度の測定はラジオイムノアッセイ(RIA)が用いられているが,特定の施設,設備の必要性,廃液処理などの問題点があるので,本稿ではこのような問題を解決するために,われわれが開発したβ-ガラクトシダーゼ標識酵素を用いた競合法によるエンザイムイムノアッセイ(EIA)について述べる.

心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)測定法の病態生理学的意義

著者: 小田寿 ,   石井當男

ページ範囲:P.237 - P.241

 心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)はナトリウム(Na)利尿,血管拡張,アルドステロン抑制などの多彩な生理作用があり,その病態生理学的意義が注目される.血中ANPは,心不全,腎不全,高血圧,発作性上室性頻拍などの疾患で上昇することが知られており,腎不全,心不全では体液貯留や心機能を反映して上昇している.したがって血漿ANP濃度測定は,透析患者において至適体重(dry weight)を設定する1指標に,心不全では心機能の推移をみる1指標になりうることが示唆された.
 また,ANPは生体内物質であり,心不全や高血圧における臨床応用が期待されるが,そのためにANPやANP代謝酵素阻害薬を投与した際の血漿ANP濃度測定も,臨床効果判定に重要と考えられた.

エンドセリン測定法

著者: 鈴木伸宏 ,   藤野政彦 ,   眞崎知生

ページ範囲:P.242 - P.247

 血管収縮ペプチド・エンドセリンー1(ET-1)を高感度に測定するため,種々の特異性を有するRIAやサンドイッチーEIAが開発されている.測定値や測定結果は施設問で必ずしも一致していないが,これはET-1様免疫活i生(ET-1 LI)の存在様式が多様であることによる.健常人血漿中の平均ET-1濃度は1~4 pg/ml, big ET-1濃度は5~7pg/mlの範囲にあると考えられ,さらに大分子型ET (6 K)も存在する.尿中に高濃度に検出されるET-1 LIの主要な分子種は大分子型ET (6 Kあるいは10 K)であると考えられ,脳脊髄液中にもET-1 LIが検出される.また,ET-3も血漿および脳脊髄液中に存在することが確認された.

エンドセリン測定法の病態生理学的意義

著者: 江森俊明 ,   平田結喜緒

ページ範囲:P.248 - P.251

 主に血管内皮細胞において産生・分泌されるエンドセリンー1(ET-1)は,強力な血管収縮性ペプチドである.循環血液中に微量に存在し,生理的には血管トーヌスの調節に局所的に関与していると考えられる.またいくつかの病態(血管攣縮,高血圧,急性心筋梗塞,急性腎不全,血管障害など)では血中ET-1濃度の上昇が認められ,病態の進展にかかわっている可能性が強い.ET-1様免疫活性(LI)は尿中にも存在するが,腎尿細管から分泌されている可能性がある.腎疾患において尿中ET-1―LI排泄は増加し,腎障害の指標となりうる可能性がある.今後血中および尿中ET-1―LIの病態生理学的役割の解明が待たれる.

内皮細胞由来血管弛緩因子

著者: 石井邦雄

ページ範囲:P.252 - P.257

 内皮細胞由来血管弛緩因子(EDRF)は,内皮依存性血管反応の中心に位置し,心・血管系の恒常性維持に重要な役割を果たしている.内因性チオールのニトロソ化物がその本体と推測されるが,生理的な条件下ではきわめて不安定なため,いまだに構造が確定していない.したがって,EDRFの測定は,活性の増減を相対的に比較する方法や,一酸化窒素(NO)またはS-ニトロソ・システインなどを標準物質とする半定量的な方法に頼っている.本稿では,それらの中から,繁用されている摘出血管条片の弛緩反応と細胞のサイクリックGMP (cGMP)反応を指標とする2つの生物学的試験法を取り上げ,具体的手法と特徴,問題点について解説するとともに,化学的測定法にも言及した.

内皮細胞由来血管収縮因子

著者: 大橋俊夫

ページ範囲:P.258 - P.263

 エンドセリン以外の内皮細胞由来血管収縮因子,すなわち,血管平滑筋の緊張を局所的に増強させる内皮細胞産生物質として,(1)プロスタグランジンFやトロンボキサンA2,ロイコトリエンC4なとアラキドン酸代謝産物や(2)アンジオテンシンIIなどレニン-アンジオテンシン系関連物質,(3)白血球との相互作用によって産生・放出される物質が現在までに証明されている.本稿では,これら収縮物質の産生・分泌様式とそれら物質の生理ならびに病態生理学的意義について解説した.

血管由来のプロスタグランジン

著者: 石光俊彦 ,   上原譽志夫

ページ範囲:P.264 - P.269

 エイコサノイド(プロスタグランジンおよびその関連物質)は全身の臓器で産生代謝され,それぞれの臓器に特徴的な生理活性を持ち,さまざまな生体機能の調節に関与する.特に血管壁においては相反する作用を有するPGI2とTXA2のバランスにより血管の緊張性,血小板凝集および平滑筋細胞の増殖や肥大などが調節され,血管障害に対する防御機構の一端を担うと考えられる.動脈硬化,本態性高血圧症,虚血性心疾患,糖尿病などでは,血管系エイコサノイドの異常が認められる.エイコサノイドの測定法としては生検定法,免疫測定法,高速液体クロマトグラフィ法,ガスクロマトグラフィ質量分析法などがあるが,それぞれに長所と短所を有するため,目的に応じて適切な測定法が選択される必要がある.

鼎談

心・血管系ホルモンをめぐって

著者: 眞崎知生 ,   石井當男 ,   大久保昭行

ページ範囲:P.270 - P.277

 最近,心・血管系で産生される活性因子があいついで明らかにされて,循環生理学に新しい展開がみられている.これらの諸因子のうち,ANPとエンドセリンはわが国の学者によって発見されたものである.この鼎談では,ANPとエンドセリン研究に関する最新の情報を中心に,循環動態の調節機構,血中ANPおよびエンドセリン測定の臨床的意義,新しい因子の発見の条件,循環系の調節因子の将来的展望などが議論される.

カラーグラフ

代謝障害

著者: 奥平雅彦 ,   渡辺清治 ,   加賀田豊

ページ範囲:P.224 - P.226

肝臓病の病理・3

代謝障害

著者: 奥平雅彦 ,   渡辺清治 ,   加賀田豊

ページ範囲:P.279 - P.283

 肝臓は生体の化学工場として物質代謝の中心であり,代謝障害による変化は強く発現することが多い.代謝障害による形態変化として萎縮と変性について解説した.変性のなかで,臨床的にもっとも頻度の高い中性脂肪が肝細胞内に異常なほど多量に蓄積する脂肪変性について,やや詳細な説明を加えた.

TOPICS

糖化アルブミン

著者: 島健二

ページ範囲:P.285 - P.285

 糖尿病コントロール状態を表現する指標として血糖,尿糖がよく用いられていたが,これに最近は糖化ヘモグロビン(HbA1c,HbA1)が加わった.これらの指標の臨床的意義は必ずしも同一ではない.最大の相違は各指標に表現されるコントロール期間の相違である.すなわち,血糖は採血したその瞬間の(コントロールが安定しているNIDDMではそうではないが,不安定型尿病ではそのように言える),尿糖は尿が膀胱にたまっている期間の,糖化ヘモグロビンは過去1,2か月間の血糖変動(コントロール状態)を表現している.
 生体内においてブドウ糖は蛋白質と非酵素的に結合し,糖化蛋白となる.血中ヘモグロビンが基質になった場合が糖化ヘモグロビンで,生体内のあらゆる蛋白質は同じように糖化される.この反応では非酵素的結合反応であるため生成物の量は基質の量に比例するが,一方の基質である蛋白質(糖化ヘモグロビンの場合はヘモグロビン)は濃度がほぼ一定であるため,生成物量はブドウ糖濃度,すなわち血糖値に左右されることになる.糖化ヘモグロビンの場合,ヘモグロビン分子が合成され分解されるまでの期間の血糖値の総和が規定因子ということになり,これが糖化ヘモグロビンが過去1,2か月間の血糖変動の総和を表現しているゆえんである.

サイミュリン

著者: 岩田力

ページ範囲:P.286 - P.287

 サイミュリン(Thymulin)はいわゆる胸腺ホルモンの一種である.胸腺関連のホルモン様物質はサイモシン,サイモポイエチンなどいくつか知られているが,サイミュリンは最初血清中のサイモシン様活性物質として知られた.ロゼット阻止法と呼ばれるbioassayを用いてブタの血清より分離精製された活性物質は血清胸腺因子(facteurthymique sérique;FTS)と名づけられ,9個のアミノ酸よりなり分子量857であることが明らかにされた1)(図1).アミノ酸組成が明らかになったため合成のFTSが作られていったが,興味深いことに合成FTSにおいて活性があるものとないものとがたまたまあり,その原因を探る過程で活性発現には金属,なかでも亜鉛(Zn)の存在が必須であることが明らかとなった2).生体のなかでは種々の酵素がその活性発生のために亜鉛の存在を必要とするが,同様の機序と思われる.当初はFTSに亜鉛が結合した活性型をサイミュリンと呼んだが,現在はそのような区別はせず,一般的にサイミュリンと呼ばれるようになった.
 血清から抽出されたため,その胸腺依存性と胸腺における局在が問題になるが,マウスにおいて胸腺を摘除したものではサイミュリン活性はなく,逆に胸腺移植後に活性が出現することより胸腺依存性は明らかである.モノクローナル抗体を用いた組織染色でサイミュリンの胸腺局在も確かめられている.

国際疾病分類

著者: 田中義枝

ページ範囲:P.288 - P.288

 国際疾病分類(International Classification ofDiseases;ICD)は,WHOにより死亡および疾病統計を国際比較するための基準として定められ,各加盟国に使用が勧告されている.ICDの歴史は古く,1900年国際統計協会が国際比較のために採択したBertillonの死因分類に始まり,以後医学の進歩にあわせるため,ほぼ10年ごとに改訂され,1979年より第9回修正国際疾病分類(ICD―9)1,2)が適用されている.

虫歯菌病原因子の遺伝子的解析の現況

著者: 佐藤裕

ページ範囲:P.289 - P.290

 口腔内に生息するレンサ球菌のうちミュータンスレンサ球菌(mutans streptococci)と呼ばれる一群の菌は虫歯の原因菌とされている.mutansstreptococciはヒトの虫歯に関与するS.mutans,S. sobrinusを含め6菌種の総称で,他のレンサ球菌ともっとも顕著な違いは,グルコシルトランスフェラーゼ(GTase)によりスクロースから非水溶性グルカンを産生することである(浜田,本誌,33,704,1989).非水溶性グルカンは,これらの菌を歯面に付着させ,そこでのスクロースの代謝により生じた乳酸を局所に貯留せしめその酸が歯を侵すため,もっとも重要な病原因子とされている.GTaseには性質の異なる数種の酵素が存在するが,それらをコードする遺伝子が同定され,その産物との対応がつきつつある.S.sobrinusにおいては,非水溶性グルカン合成酵素(GTase-I)をコードする遺伝子(gtfI)が1つ1)と,水溶性グルカン合成酵素(GTase-S)の遺伝子が3つあり2),S.mutansにおいては,GTase-Iをコードするものが2つ(gtfB3),gtfC4))とGTase-Sのそれが1つ(gtfD)5)存在する.gtfBとgtfCはDNAレベルで90%近いホモロジーを有し4),隣接していることから,gtfB, gtfC遺伝子は元は1つの遺伝子が重複されたものと考えられる.一方,gtfBもgtfDと50~60%のホモロジーを有していることや6),gtfBが他菌種のgtfIと60%近いホモロジーのあること7)は,これらgtf遺伝子はある1つの先祖遺伝子から進化してきたことも推察され,今後GTase分子構造上どの部分が非水溶性グルカン生成に重要なのかが明らかになると思われる.またGTase以外にスクロース依存性の付着に関係しているグルカン結合蛋白質は,C末端にg躯やgmaとホモロジーがあり,この領域を介してグルカンとの結合が推定される8).一方,スクロース非依存性付着に関与している表層抗原蛋白質遺伝子pac, pagがS. mutans, S. sobrinmsよりそれぞれクローニング,シークエンスされており,その一部の配列を合成ペプチドとして,抗鶴蝕ワクチンを作製する試みがなされつつある9).このように虫歯菌の遺伝子的研究は付着因子に集中して行われてきたが,乳酸生成系(解糖系)も重要な因子であり,その遺伝子的解析も行われている.S. mutansは主にホスホエノールピルビン酸依存スクロースホスホトランスフェラーゼ輸送系(scrPTS)によりスクロースを取り込み乳酸を生成する.PTSはバクテリアに特有な糖輸送系で,S. mutansのような嫌気性菌では主要な系である.輸送される糖は,これに対応して形質膜に存在するエンザイムII(EII)により細胞内に輸送されると同時にリン酸化される.このリン酸基は解糖系の基質であるホスホエノールピルビン酸に由来する.そのscrPTSのEII遺伝子scrAと輸送産物スクロース6リン酸のハイドロラーゼ遺伝子scrBがクローニングされ10),DNA塩基配列も決定されている11).近年,大腸菌を中心にEII遺伝子群の解析が進み,グラム陰性菌,陽性菌を問わず種を越えて,それらの間に認められるホモロジーから,それらEII遺伝子はグラム陰性菌,陽性菌に分化する以前のある1つの先祖遺伝子から進化してきたものと考えられている12).S. mutansにおいて,酵素レベルではグルコース・マンノース系,フルクトース系,スクロース系のEIIが2つずつあり,これらの糖濃度が著しく変動する口腔内環境に適応して2つのEIIを調節しているらしい.その他マンニトール,ソルビトール,ラクトース,マルトースについてもEIIの存在が報告されており13),今後それらのEII活性と遺伝子の対応が望まれるところである.このようなS. mutansの多様な糖輸送系と調節系は,この菌が歯面に付着して後,そこで生き残っていくのに重要な因子と考えられる.このPTSをはじめ代謝系とその調節に関する遺伝子レベルの研究は,虫歯をつくらない細菌叢の確立に有用な情報を与えるものと筆者は考えている.

骨形成因子(骨誘導物質)

著者: 山崎安晴

ページ範囲:P.290 - P.291

 1965年Uristは脱灰凍結乾燥骨を同種の動物の筋肉内や皮下に移植すると数週間で同部に軟骨性骨化が誘導されることを発見し1),その原因となる物質はある種の蛋白質であることをつきとめ,それに骨形成因子(bone morphogenetic pro―tein:BMP)と名づけた.そして今,この骨形成因子(骨誘導物質)は最近の急速に進歩しつつある精製・微量分析および遺伝子工学的手法によりその正体の解明が進むとともに臨床応用が期待されている.
 骨誘導物質は塩酸グアニジンや尿素でしか骨基質から溶解抽出することができず,しかも非常に微量な物質であるため,多くの研究者によって精製が試みられてきたが,長い間その本体は不明であった.しかし,この1~2年の間にいくつかのグループが精力的に骨誘導物質の同定に取り組み,あいついで成功している.まず,最初に成功したのはアメリカのボストンにあるGeneticsInstitute (GI)社のWozneyらのグループ2)で,彼らは牛の骨粉から精製した蛋白質のアミノ酸配列から推定されるDNAプローブを合成し,最終的にヒトのcDNAライブラリーから4種類のcDNA (BMP-1, BMP-2 A, BMP-2 B, BMP-3)を分離し,その構造を決定した.その直後,NIDRのReddiらのグループ3)は,彼らがosteogeninと名づけていた骨誘導物質のアミノ酸配列を決定したが,それはWozneyらのBMP-3と同一の蛋白質であり,また東京医科歯科大の大井田を中心とするわれわれの研究グループ4)でもアミノ酸配列を決定したところ同様にBMP-3と同一であった.さらに最近のSampathのグループ5,6)も,精製の結果BMP-2 Aと新たにosteogenic proteinone(OP-1)と名づけた骨誘導物質の単離に成功している.これらの物質は遺伝子工学的に作られたリコンビナント蛋白質でも骨誘導能が検査され,その結果少なくとも骨にはBMP-2 A, BMP-37)およびOP-16)の3種類の骨誘導物質が存在することが明らかになった.これらの骨誘導物質は細胞の分化誘導に重要な役割を果たしている蛋白質として注目を集めているtransforminggrowth factor-β(TGF-β)と30~40%の相同性があることがわかり,TGF-βのスーパーファミリーに属することが示されている.TGF一β自体も骨芽細胞によって産生され,さらに骨基質のみならず軟骨基質中にも存在し軟骨や骨の分化機能の発現に深くかかわりを持つことを示唆するとの多くの報告から,今後,TGF-βスーパーファミリーの研究を通して未分化間葉系細胞から軟骨・骨への分化誘導という非常に重要で興味ある問題の解決が期待される.

ドレブリン

著者: 白尾智明

ページ範囲:P.291 - P.292

 発生過程において神経組織が作り上げられるときには,神経細胞は自分のあるべき場所まで移動し神経軸索や樹状突起を伸ばして標的細胞と選択的にシナプスを形成しなければならない.そのためには種々の特異的な蛋白質が,空間的ならびに時間的に一過性に出現する必要がある.ドレブリン蛋白質はそうした神経発生に関連した特異蛋白質の1つである.ドレブリン蛋白質には幼弱型E1, E 2と成熟型Aの3種の蛋白質アイソフォームがあり,神経細胞の発生が進むに従って順次交代に出現してくる1,2).分裂中の神経上皮細胞にはドレブリンは存在しないが,最終分裂を終えて神経細胞に分化した細胞はドレブリンE1を作るようになる.次に神経細胞はその細胞固有の場所に移動するわけであるが,その場所へ到達するとドレブリンE1を作るのをやめてドレブリンE2を作るようになる.したがってドレブリンE1は細胞の移動と関係していると考えられる.またドレブリンE2は成長中の神経突起に存在し,もう動かなくなった細胞体には存在しないので神経突起の成長に関係していると考えられる3).こうして神経細胞は軸索や樹状突起を伸ばして標的細胞とシナプスを作り,神経組織が完成するわけであるが,このような完成した神経組織ではドレブリンAが樹状突起にのみ存在している4).神経細胞の樹状突起は完成した神経組織においてもさかんにその形態を変えていることが報告されているので5),そうした樹状突起の形態変化とドレブリンAとの関係は興味深い.実際ドレブリンAを線維芽細胞由来の株化細胞に発現させると細胞の形態が変化して一部の細胞は神経細胞様の突起を持っようになることが最近わかってきている. それではドレブリン蛋白質はどのようにして細胞の形態変化とかかわっているのであろうか.ドレブリン蛋白質は細胞質可溶性画分に属する蛋白質であるが1),そのアクチンに対する結合能やアミノ酸配列6・7)から細胞骨格に結合している蛋白質ではないかとわれわれは考えている.生体内神経細胞においては免疫組織化学の結果からドレブリンは膜直下に高濃度存在しており,膜の内在性蛋白質と細胞骨格をつなぐ機能を持ちその結果細胞の形態変化に関与しているのではないかと期待される.

トキソプラズマ特異酵素

著者: 浅井隆志

ページ範囲:P.292 - P.293

1.はじめに
 細胞内寄生原虫であるトキソプラズマ(Toxoplasma gondii)の栄養体は,他の生物には見られない巨大なATP分解能力を潜在的に持っている.その能力はジチオールの化合物の存在下で発現され,そのときのATP分解能力は哺乳類の細胞の500倍にも及ぶ1).これはトキソプラズマ虫体が,強力な活性を持つATPaseを大量に持っているからである.この酵素はトキソプラズマに特異的に存在すると考えられ,その基質特異性からヌクレオシド三リン酸ヒドロラーゼ(NTPase)と呼ぶように提唱されている1,2).このNTPaseを,臨床検査への応用を含めて,本欄を借りて紹介したいと思う.

研究

妊娠中毒症における過酸化脂質ならびにビタミンEの動態について

著者: 飯岡秀晃 ,   赤田忍 ,   森山郁子 ,   久永浩靖 ,   南渕芳 ,   森本圭子 ,   石原由紀 ,   一條元彦

ページ範囲:P.295 - P.297

 過酸化脂質であるハイドロパーオキサイドとメチレンブルーの誘導体がヘモグロビンを触媒として反応し,メチレンブルーが等モル生成する現象を利用した新しい測定法(デタミナーLPO)を用いて,妊娠中毒症患者における過酸化脂質の動態を検討した.また併せて,活性酸素による過酸化脂質生成防御に寄与しているビタミンEの体内動態についても妊娠中毒症患者での変化につき検討し,以下の成績を得た.
 ①正常非妊娠婦人ならびに正常妊娠(32~34週),重症妊娠中毒症妊婦(32~34週)別におのおの20例の平均値ならびにSDを求めた.②血漿中の過酸化脂質の濃度(nmol/ml)は非妊娠婦人では,0.89±0.21で,また,正常妊娠婦人では,2.51±0.52で,重症妊娠中毒症妊婦では4.10±0.72であった.③血漿中のビタミンEの濃度(μg/ml)は非妊娠婦人では,6.65±0.98で,また,正常妊娠婦人では,14.5±2.9で,重症妊娠中毒症妊婦では12.6±1.2であった.赤血球中ビタミンE濃度(μg/ml packed cell)は,非妊娠婦人では,3,55±0.25で,また,正常妊娠婦人では,2.56±0.34で,重症妊娠中毒症妊婦では1.96±0.32であった.また,血小板中ビタミンE濃度(μg/gprotein)は,非妊娠婦人では99±20で,また,正常妊娠婦人では,232±24で,重症妊娠中毒症妊婦では205±32であった.

資料

赤血球恒数値を用いた精度管理法

著者: 中西守 ,   住勝実 ,   松岡瑛

ページ範囲:P.298 - P.301

 赤血球,血色素,ヘマトクリットにおける精度管理法について検討した.本法は患者検体の赤血球恒数値を用いて精度管理を行うもので,基本的にはBull法に改良を加えたものである.本法は正常値域内にある一定範囲内の血色素濃度の検体のみを用い,標準偏差を考慮にいれた管理限界値を使用し,つねに一定の基準値を基として算出したため,測定による変動以外の不確定な変動因子を排除し,より精度の高い方法となった.同一の基準値を用いることにより,精度管理調査用血球を用いなくとも各施設問の比較調査が行え,内部精度管理のみならず外部精度管理にも用いることができる.本法と精度管理用血球を併用すれば両者の欠点を補い,値の変化に迅速に対応でき,より正確性の高い精度管理が可能である.

cloned enzyme donor immunoassay(CEDIA法)による血清中ジゴキシンの測定法について

著者: 山田満廣 ,   大西将則

ページ範囲:P.302 - P.306

 血清中ジゴキシンの免疫学的測定法には,RIA法,EIA法およびFPIA法などがある.これらの方法のなかで,EIA法あるいはFPIA法は日常臨床検査法として普及していると考えられるが,測定に際して検体の前処理が必要であった.今回検討したCEDIA法は,その必要がなく,全自動測定法が可能な方法であり,再現性および他法(FPIA法)との相関など良好な成績を示したが,ビリルビン・ヘモグロビンなどの共存物質,肝障害および腎不全患者,さらには新生児などにおいてDLIFの影響が認められることは,注意しなければならない重要な点である.

編集者への手紙

DAPI染色における高濃度NaClの細胞核DNA定量への影響

著者: 庄野正行

ページ範囲:P.307 - P.308

 マウス末梢から分離したリンパ球にメタノール固定を施し,細胞核DNA定量のため,DAPI染色を行った.染色液中に一方にはNaCl濃度1mol/l,他方に0.1mol/lを対照とした.この両者の蛍光強度ならびにヒストグラムを比較すると,蛍光強度は顕著な差を示し約2倍あった.またヒストグラムは同様の分布を示し,高濃度NaCl添加の重要性を示唆した.

質疑応答 臨床化学

赤血球内ソルビトール検査の臨床的意義

著者: N生 ,   中埜幸治

ページ範囲:P.311 - P.314

 Q 赤血球内ソルビトール検査の臨床的意義についてお教えください.また,検体の取り扱い法についても併せてご教示ください.

尿中ジカルボン酸の臨床的意義

著者: K.N. ,   山口清次 ,   折居忠夫

ページ範囲:P.314 - P.317

 Q 尿中に出現するジカルボン酸について,どのようなものがみられるのか,またその臨床的意義などについてお教えください.

色素アフィニティクロマトグラフィーの特徴と利用法

著者: T子 ,   大島敏久

ページ範囲:P.317 - P.320

 Q 色素アフィニティクロマトグラフィーとはどのようなものなのでしょうか.また、どのような目的に用いると有用な技術なのでしょうか.

血液

血小板凝集惹起物質の測定意義について

著者: O生 ,   久米章司

ページ範囲:P.321 - P.322

 Q 血小板凝集機能検査では,凝集惹起物質として,ADP,コラゲン,エピネフリンを測定しますが,それらの物質の測定意義について,ご教示ください.

血色素濃度と出血量の相関

著者: 吉田健一 ,   松野一彦 ,   宮﨑保

ページ範囲:P.322 - P.324

 Q 出血性貧血の場合,出血量と血色素濃度の低下には相関があるのでしょうか.ご教示ください.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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