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雑誌目次

雑誌文献

臨床検査43巻2号

1999年02月発行

雑誌目次

今月の主題 深在性真菌症 巻頭言

深在性真菌症

著者: 奥平雅彦

ページ範囲:P.129 - P.130

 医学史によれば,病原真菌発見の歴史は病原細菌発見の歴史より約100年先行している.それは,真菌が細菌よりサイズが大きく,形態に特徴があるので,その存在が確認しやすかったからである.そして,比較的最近までmycology is morphologyと言われる時代が続いていた.
 真菌の感染に起因する真菌症は,臨床的に表在性真菌症と深在性真菌症の両者に大別されている.

総説

深在性真菌症の基礎

著者: 亀井克彦

ページ範囲:P.131 - P.139

 真菌は環境内の至る所に大量に存在しているが,それぞれ菌種に応じて,酵素や糖蛋白などさ象ざまな病原因子を持ち,たくみにヒトの生体防御機構を突破して感染する機会を窺っている.このためひとたびヒトの防御機構に不具合が生じると,真菌の侵入を許し,深刻な事態となる.特に近年の社会情勢の変化に伴い,深在性真菌症の増加,特に比較的弱毒菌とされてきた真菌群による感染や,AIDS患者における重篤なクリプトコッカス症の増加に留意する必要がある.

深在性真菌症の臨床

著者: 前崎繁文 ,   河野茂

ページ範囲:P.140 - P.148

 深在性真菌症は一般にimmunocompromised hostに発症する日和見感染症として重要な疾患である.造血器悪性腫瘍患者の抗癌化学療法に伴う好中球減少,あるいは骨髄移植をはじめとする臓器移植患者では深在性真菌症の発症が予後に大きく影響する.主な深在性真菌症はカンジダ症,アスペルギルス症,クリプトコックス症,ムーコル症などであるが,これまで病原性が低いと考えられていた真菌による感染症も散見されている.

解説

深在性真菌症の病理組織学的診断

著者: 伊藤誠

ページ範囲:P.149 - P.156

 深在性真菌症の病理組織学的診断について概説した.従来の菌形態に基づく鑑別に加えて,免疫組織化学的診断の導入により客観的で特異性の高い診断が可能になったが,AspergillusやCandidaに類似した糸状菌や酵母状真菌による感染も新興感染として加わり,鑑別すべき菌種は増加している.輸入真菌感染についての知識も不可欠になった.こうした最近の医真菌学の動向についての病理医の関心を喚起したい.

深在性真菌症の血清診断

著者: 大林民典

ページ範囲:P.157 - P.162

 深在性真菌症の血清診断法,特に菌体成分検出法は早期診断に貢献するものとして期待されている.確実な成果を上げているものにCryptococcous英膜多糖抗原を検出するラテックス凝集反応と接合菌以外のすべての真菌による深在性真菌症をスクリーニングするための(1→3)―β―D―グルカン測定系とがある.最近,深在性真菌症であることが判明したカリニ肺炎でも血清(1→3)―β―D―グルカンが上昇し,診断および治療経過の判定に役だっている.

深在性真菌症の遺伝子診断

著者: 村山琮明

ページ範囲:P.163 - P.175

 深在性真菌症は,罹患率,罹患する原因菌種ともにますます増えており,迅速な診断が求められている.培養検査の難しい深在性真菌症診断には,感度,特異性の点で,遺伝子診断が向いていると思われる.現行で最も感度の良いPCR法を中心に,ハイブリダイゼイション法,菌種(属)特異的PCR法,広範囲病原真菌スクリーニング用PCR法について概説した.

技術解説

深在性真菌症の微生物学的検査―直接鏡検および分離培養

著者: 阿部美知子 ,   鉢村和男 ,   内山幸信 ,   久米光

ページ範囲:P.176 - P.184

 深在性真菌症はCandidaのような内因性真菌あるいはAspergillusのような環境中に生息している真菌によって惹起されるが,検体中から分離される菌量が少ないことが多い.したがって培養法による検出限界や分離菌の意味づけという問題がいつもつきまとう.
 しかしながら,検査室が易感染性患者の検体を扱うときに,つねに本症を念頭に置いて地道に業務を積み重ねていくなら,必ずや朗報がもたらされると確信する.

話題

新しい抗真菌薬の展開―現在開発中のものも含めて

著者: 小川正俊

ページ範囲:P.185 - P.191

1.はじめに
 深在性真菌症は死亡率の高い重篤な感染症であり,近年,その発生頻度は増加の一途をたどっていると言われている.また多くは悪性腫瘍,自己免疫疾患などの基礎疾患,広域抗生物質,ステロイド剤,抗腫瘍剤,免疫抑制剤,さらに留置カテーテルなどの使用などの何かが原因で,免疫不全に陥った患者に発生しやすく,また臓器移植などのimmunocompromised hostや最近わが国でも増加してきたAIDS患者などに,その発生頻度が増加の一途をたどってきている.
 これらの真菌症対策に,多くの薬剤が臨床に供されているが,全身性真菌症に有効でかつ安全性の高い薬剤は,現在までにアムホテリシンB,フルシトシン,フルコナゾール,ミコナゾール,およびイトラコナゾールの5剤と数少ないのが現状である.

AIDS症例の真菌症

著者: 伊藤章

ページ範囲:P.192 - P.195

 AIDSにおける日和見感染症として最も多く遭遇する真菌感染としては,Candida albicansによるカンジダ症,Cryptococcus neoformansによるクリプトコックス症で,Histoplasma cap-sulatumによるヒストプラスマ症,Coccidioidesimmitisによるコクシディオイデス症はわが国ではまずない1).また,まれではあるが重篤な真菌症としては,Penicillium marneffeiによるペニシリウム症,Aspergillusによるアスペルギルス症,Mucorによるムーコル症なども生じる.無治療のHIV感染患者に最も頻発するカリニ肺炎の原因微生物であるPneumocystis cariniiは,最近ではribosomal RNAの解析から真菌に近い生命体であることが明らかになり,真菌症の1つとして取り上げられる3).β―D―グルカン値が高いこと,一部の抗真菌剤による治療でカリニ肺炎が良くなることも真菌症の裏付けともなっている.
 CD4陽性リンパ球数が200/μlから100/μlになるとカリニ肺炎や口腔カンジダ症,食道カンジダ症が,50/μl以下になるとクリプトコックス髄膜炎が認められやすくなる1).口腔粘膜カンジダ症はほとんどのAIDS患者にみられるが,食道カンジダ症は口腔カンジダ症に比べると少なく,全身性カンジダ症は剖検においてもまれである.肺以外のクリプトコックス症は多いが,全身播種性のヒストプラスマ症やコクシジオイデス症はわが国ではない.侵襲性アスペルギルス症がまれであるのは,AIDSでは多型白血球機能が正常であり細胞性免疫の役割はより少ないからであると考えられている.Vandenら1)によれば,エイズの全経過を通じて全患者の58~81%が1つあるいは2つ以上の真菌感染を生じ,10~20%が真菌感染が直接死因となっていると報告している.

IVH関連真菌症

著者: 舟田久

ページ範囲:P.196 - P.200

1.はじめに
 高カロリー輸液(静脈栄養intravenous hyper-alimentation;IVH)が,外科,内科を問わず,重症患者の治療管理に果たした役割は計り知れない.これに必要な中心静脈カテーテルは,刺入操作に伴って皮膚バリアを破綻させるだけでなく,栄養以外の目的にも供用されることを前提に長期間留置される.このため,留置例はつねにカテーテル汚染による直接的な血管内感染の危険に曝される.実際,IVH施行患者が増加するにつれて,真菌血症,とりわけカンジダ血症の増加と転移性病巣の形成による2次的合併症が注目されている.

コクシジオイデス症

著者: 折津愈

ページ範囲:P.201 - P.205

1.はじめに
 本来日本には存在しない真菌に外国で感染し,帰国または来日後に発症したり,または汚染地域からの輸入原材料(原綿など)の取扱者に発症する真菌症で,原因菌が微生物災害(biohazards)を起こす危険性の高い場合を輸入真菌症と定義している1).コクシジオイデス症とはヒストプラスマ症,パラコクシジオイデス症,マルネッフェイ型ペニシリウム症,ブラストミセス症とともに,わが国における輸入真菌症の1つである.極めてまれな疾患ではあるが,以下自験例を呈示し総説することにする.

ペニシリウム症

著者: 毛利忍

ページ範囲:P.206 - P.209

1.はじめに
 Penicillium marneffeiは,タイやベトナム,中国の一部など東南アジアに分布する二形性真菌であり,全身播種性の感染症の起炎菌となる.近年タイにおいて,AIDS患者の結核・クリプトコッカス症に次いで3番目に多い日和見感染症であるとして注目を浴びていた.日本では今まで感染者がいなかったが,われわれは1990年ごろにタイで感染したとみられる日本人患者を経験した1).日本における海外旅行が盛んなことや,HIV感染者が増えてきていることを考えると,P.marneffei感染もこれから多発することが予測され,注意が必要である.

真菌性眼内炎

著者: 矢野啓子

ページ範囲:P.210 - P.214

1.はじめに
 1974年Edwards1)が76例のカンジダ眼内炎について報告し,全身性カンジダ症の診断に対する眼底検査の有用性と眼内炎発症の危険因子について述べ,1970年以降に眼内炎が急増しており,IVHの普及と関連があることを指摘した.
 わが国では1980年以降眼内炎が急増し,そのうち90~100%がIVH留置例であり,報告者はIVHとの関連性を指摘した2,3).IVH留置症例の定期的な眼底検査で3.0~3.5%に眼内炎が発症することがわかり4,5),IVHの管理に対する関心が高まってきた6).原疾患は悪性腫瘍が多いが,良性疾患の外科手術後,食道静脈瘤の破裂,交通事故後外傷性血胸や腹部出血を生じた例など,生命予後の良い疾患での発症もあり後遺症による視力障害は,特に重大な問題を残す.

今月の表紙 血液・リンパ系疾患の細胞形態シリーズ・14

特殊急性白血病・MDS/AML

著者: 栗山一孝 ,   朝長万左男

ページ範囲:P.124 - P.125

 MDS/AMLとは,骨髄異形成症候群(myelo-dysplastic syndrome;MDS)から転化した急性骨髄性白血病(AML)を言う.病歴上MDS病期が確認され,骨髄中に芽球が30%以上を占めるようになるとMDS/AMLと診断される.
 MDS/AMLの診断に際しては,クリアーすべき2~3の問題がある.

シリーズ最新医学講座―遺伝子診断 Technology編

受容体型キナーゼ

著者: 廣田誠一 ,   北村幸彦

ページ範囲:P.215 - P.220

はじめに
 細胞の分化・増殖や組織の発生には,さまざまな増殖因子とその受容体(レセプター)とが関与している.TGF―βスーパーファミリーの受容体はセリン・スレオニンキナーゼ型受容体であるが,そのほかの増殖因子の受容体はほとんどがチロシンキナーゼ型受容体であり,増殖因子が結合することにより受容体の細胞質内領域に存在するチロシンキナーゼが活性化される.
 本稿では,受容体型チロシンキナーゼの構造とシグナル伝達機構について概説した後,遺伝子の突然変異による受容体型チロシンキナーゼの活性変化の検出の貝体例について述べる.

Application編

トリプレットリピート病

著者: 大須賀等 ,   池田穣衛

ページ範囲:P.221 - P.230

はじめに
 トリプレットリピート病(trinucleotide repeat dis-ease)とは,CAG,CCGなどの3塩基繰り返し配列が,健常人で認められる回数以上に伸長し疾患を発症したものを言う.DNA塩基配列の繰り返しは,比較的最近になり見いだされた遺伝子の変異で,この変異は疾患の原因と考えられる遺伝子内あるいは近傍の部位に認められ,疾患の発症と深い関係があると考えられている.トリプレットリピート病は,繰り返し塩基配列の認められる部位・種類により,異常に伸長した反復配列遺伝子がglutamineなどの蛋白に翻訳される場合と,実際には蛋白には翻訳されないものの,疾患に関連した遺伝子や蛋白の発現に影響を及ぼす場合とがある.既に15以上の疾患で塩基の繰り返し配列が正常に比し伸長していることが知られている.伸長したトリプレットリピートは,細胞分裂時や世代間で反復回数に変化が認められ,一般的に繰り返し回数は不安定であると考えられている.世代を経るごとに疾患の重症度を増し,通常重症度や発症年齢は反復繰り返しの長さと相関があり(図1,文献1)から転載),この現象は世代間促進現象(anticipation)と言われ,トリプレットリピート病の1つの特徴と考えられている.
 本稿では,各リピートの分子生物学・生化学的特徴と,臨床症状・遺伝学の特徴につき述べる.なお疾患の特徴・正式名称・略語は表1を参照されたい.

トピックス

立体画像による脳疾患の診断

著者: 北垣一

ページ範囲:P.231 - P.234

1.はじめに
 X線CT,MRIは人体の断層像を作り出すことにより体の内面の観察を可能にし,種々の疾患の診断に大きな飛躍をもたらした.しかし,これらの断層像に欠けている情報に,病理解剖において重要な臓器表面からの観察がある.立体表示することにより表面から観察できる.また立体表示のために目標臓器の輪郭を抽出し,臓器自体を分離することにより体積を算出できる.脳を例に挙げるとX線CT,MRIなどの頭部の断層画像から脳だけを分離するという第1の過程と,その表示という第2の過程から成る.第1の過程には,膨大な量の画像処理が必要で,人の手で直接行う場合は時間的肉体的に多大な労力を要するだけでなく,操作者の熟練度の違いによる結果のばらつきが生じる.しかし,これまでコンピュータですべてを処理させるのは困難であった.頭部から脳を分離するのは既存の構造から一部を抽出する過程であり,産業用の3次元表示のように設計されたものを表示するのとは異なるからである1)
 以下に筆者らが開発した脳自動体積測定・3次元表示法について解説し,その臨床応用の現状と展望について述べる2,4)

質疑応答 微生物

Campylobacterの検査法―菌種同定を中心に

著者: 中村文子 ,   W生

ページ範囲:P.235 - P.238

 Q Campylobacterの同定で,キットを使用しないで下記の方法で同定しています.NA(ナリジクス酸〉とCET (セファロチン)の感受性について変化してきているのではと心配です.下表で適切かどうかご教示ください.
 塗抹で螺旋状を示し,チトクロームオキシダーゼテスト陽性,カタラーゼ陽性のものについて

編集者への手紙

酵素的測定法による血中アンモニアの"マイナス値"

著者: 山田満廣

ページ範囲:P.239 - P.241

1.はじめに
 大阪赤十字病院の臨床化学検査部門においては,血中アンモニアの測定法として長年にわたり除蛋白操作を必要とする"藤井・奥田法1)"に基づく測定キット(アンモニアテスト:和光純薬工業株式会社)を使用してきたが,検査の性格ならびに付加価値などを考慮すれば,当然のことながら迅速性を備えた形での結果の報告が望ましいことは論を待たないであろう.
 このような観点から,当院では1996年11月に日立7170形自動分析装置の導入ならびに臨床検査システムの史新を機会に,測定法として協和メデックス株式会社の酵素的測定法2)"デタミナーNH3"を採用した.この際,試薬調製後の安定性を考慮し3試薬系としたが,これにより試薬調製の簡便化も同時に達成することが可能となり,これを日立7170形自動分析装置にアプリケーションを行い測定してきた.この間,ある種の検体においてアンモニア値がゼロまたはマイナス値を示す症例に遭遇したのでその原因などについて若干の検討を加えた.

コーヒーブレイク

挽歌・兄

著者: 屋形稔

ページ範囲:P.241 - P.241

 お盆が来るとお墓に入っている家族,友人などが身近に思い出される.兄弟7人の未っ子の私にとって4人の兄のうち3人に先立たれたのは止むを得ないが,姉たち2人は80歳を遥かに超えても元気である.すぐ上の兄は勉という名であったが略してMちゃんと呼んで私には最も親しく一番早死であった.56歳で急逝してちょうど20年になるが両親の死去の年齢に達せず逝ったのはM兄だけであった.親孝行で,故郷の親の墓に足繁くお参りしていたので早く招かれたのだろうと私たちは話し合った.
 事によせて男兄弟5人は故郷に集まっては町の保存建造物に指定された親父の建てた古い西洋館で酒を酌み交わすのが楽しみだった.M兄は無口であったが特に嬉しそうであった.札幌から仙台に異動の決まった朝,挨拶中に脳動脈瘤破裂で急死したが,その後の故郷の饗宴は心なし寂しいものになった.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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