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雑誌目次

雑誌文献

臨床検査54巻1号

2010年01月発行

雑誌目次

今月の主題 POCT,医療におけるその役割 巻頭言

POCTの活用―診療レベルの向上を期待して

著者: 松尾収二

ページ範囲:P.9 - P.10

 POCT(Point of care testing:臨床現場即時検査)とは,被検者の傍らで医療従事者が検査し,その結果を速やかに診療に活かす検査の仕組みである.最近,医療情勢の変化とともにPOCTの注目度が増し,病院だけでなく診療においても静かに普及しつつある.

 臨床検査はこれまで中央化された医療施設の検査室や検査センターを中心に展開され,低コストで迅速な検査を可能とするに至った.そして,このことがさらなる迅速化のニーズを生むこととなった.特に昨今,慢性疾患の診察前検査が日常化し,検査の報告が遅れると患者が直接検査室へ苦情を発する時代となっている.中央化された検査室において診療側の高いニーズに応えるには大がかりな設備投資と人手が必要であるが,その割には効果は小さい.そこで臨床検査本来の“いつでもどこでも”の考え方でPOCTを活用すればさらにきめ細やかな診療への支援が実現できるであろう.

総論―POCTの意味するところ

POCTとは何か,診療における意義は?

著者: 〆谷直人

ページ範囲:P.11 - P.16

 POCTとは,ポータブル分析器や迅速診断キットを用いて医療従事者が医療現場で行うリアルタイム検査であり,病院の検査室あるいは外注検査センター以外の場所で実施されるすべての臨床検査を包含している.そのため実施場所や活用法においては,広範かつ多様なケースが想定される.操作が簡単な迅速検査であるPOCTは,診療における重要な“武器”となる.ただし,小型で容易に持ち運べる簡便な機器・試薬をPOCTというのではなく,POCTはあくまでも検査の仕組み(システム)である.

〈POCTの意義を具現化するための方策〉

検査データ保証の考え方

著者: 菊池春人

ページ範囲:P.17 - P.22

 検査データを保証するための要因には,①検体,②測定,③データのそれぞれにかかわるものがあると考えられる.また,これら全体を支える要因として,マニュアルの整備,教育(トレーニング)がある.それぞれについて問題点,配慮すべき点があり,対応していく必要がある.これまでPOCTではデータ保証の難しさがあるため,あまり十分にはなされていなかったと考えられる.しかし,POCTが診療に役立つためには,データ保証をきちんと行っていくことが必要である.そのためには臨床検査技師のPOCTコーディネータとしての関与が不可欠であると考えられる.

POCTコーディネータの役割と育成

著者: 徳竹佐智夫

ページ範囲:P.23 - P.28

 従来,医師や看護師が独自に選定し活用していたPOCT(臨床検査即時検査)は,急速に増加し医療におけるPOCTの役割は重要となった.このため,POCTを管理運営する専門のコーディネータが必要となった.POCTが医療の現場に定着するためにはPOCTコーディネータと検査科,臨床検査技師の役割が重要である.POCTコーディネータは臨床検査の専門家である臨床検査関係者や臨床検査技師が適任で,POCTの管理運営のチームリーダーとして検査科やPOCT作業グループと連携してPOCTを使用する臨床検査技師や医師,看護師などが安心して使用できるようにする必要がある.

POCT機器の検査システム・電子カルテシステムへの接続

著者: 片岡浩巳

ページ範囲:P.29 - P.37

 POCT機器は,機器の種類が豊富である点と低価格で迅速に結果を得ることが可能である点から,大小規模を問わず多くの病院で導入されている.ところが,通信仕様の異なる多種多様な機種をオンラインで接続することは予算的に難しい問題があった.この問題は,通信の標準化を行うことで,どの機器も同じ仕組みで接続が可能となり,導入経費の抑制と保守性の向上が期待できる.一方で,POCT機器は臨床側の不特定多数のスタッフが利用することから,患者とデータのマッチングやデータ管理に対しても,従来の大型検査機器とは異なる視点で管理すべき課題がある.本稿では,臨床検査向けのPOCT機器のオンライン接続と,血圧計などの家庭用健康管理機器のオンライン接続の動向とシステムの仕組みを紹介し,それらの計測機器からオンラインで収集したデータを電子カルテに記録するシステムの必要性と実装時の注意点について述べる.

診療現場における医師,看護師の役割

著者: 山住俊晃 ,   田畑泰弘

ページ範囲:P.39 - P.44

 POCT(point of care testing)は迅速な検査結果の提供により,早期の診断治療を可能にして医療の質を向上させるが,一方で,測定人員や機器が各部署に分散するため,精度管理やコスト管理が難しいという問題がある.POCTでは,医師,看護師が直接検査にかかわる比率が中央検査部で行う場合より増す.医師は,POCTの意義を理解したうえで,その利点を生かせるよう検査を依頼し結果の解釈に備える必要があり,看護師は,検査の効率的な運用と精度保証に自ら積極的にかかわる姿勢が求められる.

各論─事例を通して学ぶPOCTの組み立て方と有用性

糖尿病診察におけるSMBGとPOCTとの区別

著者: 安田誠

ページ範囲:P.45 - P.49

 当施設では2006年に病院情報システムが導入され,それに伴い糖尿病支援システムを構築した.糖尿病支援システムとは,医師の指示から血糖測定,インスリン投与までの一連の業務をシステム化したものである.血糖測定においてはPOCT機器として,アボットジャパン(株)のプレシジョンPCxTMとPCx®ドッキングステーション,QCマネージャーを使用した.プレシジョンPCxTMはバーコード運用により多数の患者の血糖値が連続測定でき,情報の記憶ができる.ドッキングステーションを使用することによって,QCマネージャーに情報を自動転送でき,糖尿病支援システムとQCマネージャーのファイルを共有化させることで,データと機器の一元管理が可能となった.

慢性疾患の診察前検査

著者: 嶋田昌司

ページ範囲:P.51 - P.56

 日本人の寿命が延び続けている.喜ばしい事実である反面,慢性疾患を抱え長期にわたり診療を受け続ける患者数は増加し,身体的,経済的に負担を強いられることになる.POCTは簡便かつ迅速に診療の現場で,患者の傍らで検査できる一連の検査システムであり多額の設備投資も不要である.本システムの有効活用は多くの診療現場で診察前検査を可能とし,患者のQOL向上にも有効な手段である.一方で,簡便であるがゆえに検査実施者は臨床検査技師のように検査のプロでなくても医師,看護師などの医療知識を有する者であれば誰にでもなりえる.ただし,有効かつ安定したPOCTの運用のためにはコーディネータの活動が重要である.コーディネートされたPOCTは医療連携の幅を拡大し,今後の長寿国日本を支えるに必要な方策となりえるであろう.

感染症の迅速診断

著者: 細川直登

ページ範囲:P.57 - P.61

 感染症領域のPOCT検査はイムノクロマトグラフィ法がよく利用されている.インフルエンザ抗原,A群溶連菌(GAS)抗原,肺炎球菌尿中抗原,レジオネラ尿中抗原,RSV抗原,アデノウイルス抗原などが比較的利用頻度が高い.どの検査も特異度は非常に高いが感度はそれほど高くないので,除外診断には利用しにくい.検査結果で単純に疾患の有無を決めるのではなく,検査前確率を考慮し,病歴や診察所見と合わせて判断すべきである.

救急医療におけるPOCT組み立てのポイント

著者: 福田篤久 ,   久保田芽里 ,   石田浩美 ,   伊東宏美

ページ範囲:P.63 - P.66

 救急医療におけるPOCT組み立てポイントについて,救急医療全般・救急医療における薬毒物検査・同感染症検査・災害救急医療の四つに分け,POCT組み立ての基礎を考えてもらうべく,それぞれの特徴と検査技師が考えるべき臨床現場の動向を述べた.救急医療全般では重症度より緊急度が重視されること,薬毒物検査では日本中毒学会提言15項目の紹介とその意義,感染症検査では早期に原因菌の絞り込みと同定,さらに敗血症の早期発見の重要性,災害救急では複数患者の同時搬入・情報の錯綜・少ないスタッフという劣悪な環境下において迅速性・正確性を両立させるためには必要最小限の検査項目を選択することの重要性を述べた.また,システムとしてのPOCTは救急医療における緊急検査の理念と非常に高い相同性を有するだけでなく,コスト以上に患者にとって利用価値の高いものであることも解説した.

一般内科診療所におけるPOCTの有用性と問題点

著者: 大西利明

ページ範囲:P.67 - P.71

 POCTは開業診療にとっていつでも迅速に検査結果が判明し,有力な診療手段となっている.糖尿病を考えると検査結果は病歴や身体診察で知ることはできず,POCTがなければ診療は成り立たない.POCTは多くの場合,患者への不要な検査を減らし,迅速診断・治療につながる.しかし,病態に合わない検査結果が出た場合にはPOCT機器の限界を考えるべきである.多くの開業医がPOCTを取り入れれば医療費の抑制にもつながり,QOLの改善をもたらすと考えられる.POCTの精度管理において臨床検査技師の果たす役割は大きくなると考えられる.

POCTにおける生体検査の活用―携帯型心電図検査の有用性

著者: 笠巻祐二 ,   渡邊一郎 ,   平山篤志

ページ範囲:P.73 - P.77

 POCTとは,小型で操作が簡便な検査機器,試薬を用いて,診察室,ベッドサイド,在宅など患者の傍らで行うことができる検査であり,かつ結果の迅速性が求められる検査システムである.心イベントにおけるPOCTの代表的検査システムである携帯型心電図検査法は,通常の外来あるいはベッドサイドで患者の症状の評価を行うとともに,簡便な心電図記録と電話伝送などを利用した健康管理システム,ペースメーカークリニックでの利用,さらには病診連携,産業医の現場と専門医との連携,デイケア現場と専門医の連携などネットワークを拡大することにより今後ますます普及していくことが期待される.

話題―道具を知り,動きを知る

イムノクロマト法の原理と応用

著者: 原哲郎 ,   前田正彦

ページ範囲:P.79 - P.83

1.はじめに

 迅速簡易検査におけるイムノクロマト法としてわが国で,1980年代に尿中のヒト絨毛性ゴナドトロピンを検出する妊娠検査薬が登場し,数分程度で簡単に妊娠が判定できることからOTC(over the counter)薬として1992年より一般薬局で販売されてきた.また,1990年代後半には,患者検体から病原微生物抗原を迅速に捉えられるイムノクロマト法を用いた迅速抗原検査薬1~3)が相次いで体外診断薬の認定を受け市販され,診療保険点数が付くようになってきた.

 2005年に発表された日本呼吸器学会の「成人市中肺炎診療ガイドライン」4)では,市中肺炎の起炎菌として最も検出率が高く,菌血症を起こすなど重篤化しやすい肺炎球菌感染症について,早期に適切な治療を行うため,肺炎患者の尿中に可溶性抗原が排泄されることを利用したイムノクロマト法による尿中抗原検出キット「BinaxNOW®肺炎球菌」5)などの使用を推奨している.本法は培養法に比べて,操作が簡便で,検出に要する時間も15分間と短い.インフルエンザウイルス抗原検出キットに代表されるように,近年イムノクロマト法を利用した検査試薬が急速に広まっており,緊急検査をはじめ,POCTにおける感染症や心筋マーカーなどの様々な分野においてイムノクロマト法による検査試薬の研究開発が進められている.

POCTにおける遺伝子検査の活用

著者: 玉造滋 ,   坂倉康彦 ,   桜井みどり

ページ範囲:P.85 - P.91

1.はじめに

 1980年代にPCRが開発され1),感染症,遺伝病の検査や法医学など,様々な遺伝子関連検査にその技術が応用されてきた.当初,PCRアッセイ技術は大学病院の研究室で専門家の手で構築され,特殊検査の扱いを受けていた.しかし,広くヒトの診断に用いるべく慎重に改良が重ねられ,ロシュ・ダイアグノスティックス社(以下,弊社)のアンプリコアシリーズの普及とともに,感染症の検査(核酸検査領域)を中心として大学病院や市中病院の中央検査室において実施が可能となっていった.

 その後さらなる技術革新により,現在では病院における少数検体から,検査センターにおける多数検体までをルーチン検査として扱えるようになっている.これらの検査は一般に,①体液から標的となる核酸の抽出,②その核酸増幅に続いて,③増幅されたDNA(アンプリコン)を検出するといった3段階で進められる.アンプリコンの検出には従来,電気泳動が用いられてきたが,病院での一般ルーチン検査に適用させるため,弊社では酵素免疫法(ELISA法)類似の96穴マイクロプレートでの検出系を開発し,アンプリコア製品に用いてきた.さらに1990年代にはreal-time PCR技術2)の導入により,PCRと並行して蛍光シグナルを発生させ,遺伝子増幅をリアルタイムでモニターすることが可能となり,PCRの終了と同時に遺伝子の定量や定性の判定結果が得られるようになった.検査工程の自動化も進められ,ウイルス検査などの血清や血漿を用いる検査は,検体の懸架後は結果の報告まで検査技師の手を煩わせない完全自動化が実現している(コバスタックマン「オート」シリーズ).

 しかし,多数検体処理を目的とするため,システムが比較的大がかりであり,イムノクロマト法(妊娠診断薬やインフルエンザ簡易検査のスティックをイメージされたい)や尿試験紙のように,“診療・看護などの医療現場での臨床検査”での利用には至っていない.

 近年ではバイオテクノロジー,電子機器技術,さらにはマイクロ流路技術の進歩により,PCR関連機器の小型化が進み,抽出装置と増幅検出器が一体化したパーソナルなreal-time PCR装置も登場しはじめている.さらに,安く簡便な核酸抽出・増幅システム,電気泳動装置あるいは増幅を伴わない直接検出系などが登場しており,これらを組み合わせれば近い将来にPOCT-PCRが可能になるかもしれない.

 本稿ではこれまで試みられてきた遺伝子関連検査領域のPOCTについて紹介し,その課題について考察する.

POCTのための新しいデバイスの開発

著者: 桑克彦

ページ範囲:P.93 - P.97

1.はじめに

 POCTは,診療現場での即治療を目的として用いられる検査の一つである.特に欧米においては急速に普及している.アメリカでは,当初は医療費の削減効果を狙ったものであった.しかし,その目的は果たせなかったものの,患者からの診療,特に治療に対するインフォームド・コンセントへの理解と協力が非常に得やすくなったというメリットがある.

 POCT用デバイスは,その使用対象により狭義のPOCT用デバイスと広義のPOCT用デバイスがある.前者は医療機関において,検査室での測定性能と同等の能力をもち,かつ品質管理(quality control;QC)も含めて,測定情報は検査室で管理可能となるものである.特に,測定値の記録およびその管理が重要であることから,デバイスには情報端末が必須である.これをコネクティビティ(connectivity)という(note参照).

 これに対して後者は,医療機関以外での使用,すなわち家庭での使用も含めて,モニターとして使うものである.最近のPOCT用デバイスは,後者の使い方を指していることが多い.したがって,POCTは診断や治療およびモニタリングも含めて,検査室外で行われる検査のための簡易デバイスであるといえる.

 本稿では,このようなPOCT用デバイスについての要件と血糖モニタリング装置についての技術開発状況を例に示す.

米国,そして標準化の動き

著者: 坂本秀生

ページ範囲:P.99 - P.102

1.はじめに

 Point-of-Care Testing(POCT)の普及は分析能の向上と測定装置の小型化だけでなく,熟練した者が使用せずとも正しい値が得られることで急速に発展してきた.患者の側で測定可能ということもあり,その緊急性から“黒か白か”を判別できれば多少の測定誤差は気にしないという風潮も以前はあったようである.しかし,POCTが身近になった現在では半定量的な要素としてではなく,より精度の高い検査結果を求められている.

 本稿ではPOCT普及が著しい米国での使用例を紹介し,どのように米国でPOCTが運用されているかを述べる.

今月の表紙 代表的疾患のマクロ・ミクロ像 悪性腫瘍・1

肺癌のマクロ・ミクロ像

著者: 小松京子 ,   海野みちる ,   坂本穆彦

ページ範囲:P.6 - P.8

 肺癌は2003年の肺癌取扱い規約(第6版)新分類に新WHO分類を採用しており,両者に整合性がとれている.肺癌は前浸潤性病変・扁平上皮癌・小細胞癌・腺癌・大細胞癌・腺扁平上皮癌・多形,肉腫様あるいは肉腫成分を含む癌・カルチノイド腫瘍・唾液腺腫瘍・分類不能癌などに分類されており,それぞれに細分類や特殊型が存在する.本稿では主な腫瘍である,扁平上皮癌・腺癌・小細胞癌の症例を提示する.

シリーズ最新医学講座・Ⅰ 死亡時医学検査・12

Aiの動向

著者: 山本正二

ページ範囲:P.103 - P.109

はじめに

 2003年に有志が集まってオートプシー・イメージング(Ai)学会が創設されてから5年が経過し,その後,医師で作家の海堂尊が『チーム・バチスタの栄光』(宝島社)を初めとする一連のベストセラー作品で訴えているとおり,Aiを取り巻く状況は刻々と変化している.これは,通常新しい医療行為が学会を通じて普及するという形をとるのに対し,Aiが一般社会にまず認知され,その後その概念に賛同する施設で実施され,普及していったという形態をとったからである.いわば中央主導の施政ではなく,地方からの自然発生的な必要性を満たすための要求がAi普及の原動力である.

 本来ならば,2005年から始まった第三者機関による医療関連死調査分析モデル事業をたたき台にした,医療関連死死因究明制度について言及すべきであるが,第3次試案を2008年に出して以降,会議に大きな進展はみられない.これは,解剖を土台とした死因究明制度が現在のシステムでは運営が困難であること,また,Aiを取り入れなければシステムが運用できないことを示している.そこでAiを取り巻く現在の状況について解説したい.

シリーズ-ベセスダシステム・1

ベセスダシステム概説

著者: 坂本穆彦

ページ範囲:P.111 - P.117

はじめに

 ベセスダシステム(The Bethesda System;TBS)とは,近年新たに提唱された子宮頸部細胞診における報告様式である.

 わが国の細胞診における婦人科領域の検体の占める比率は極めて高く,全体の80%台であり,その多くが子宮頸部細胞診である.それだけに子宮頸部細胞診の動向が細胞診全体に与える影響は大きいものがある.

 従来より,わが国における細胞診の判定はパパニコロウ(Papanicolaou)分類(表1)が標準的に用いられ今日に至っている.ただし,子宮頸部領域では,この分類に準拠しつつも,特殊化した独自のものに準拠し,クラス(class)分類と称して用いてきた(図1).これは日本母性保護医協会(現,日本産婦人科医会)が作成したので,日母分類1,2)と呼ばれている.

 ところが,2008年になって日母分類の作成母体である日本産婦人科医会は,子宮頸部細胞診において今後は日母分類を廃し,ベセスダシステムを用いることを機関決定した3).それを受けて,2009年4月よりわが国の各施設では準備が整い次第,順次ベセスダシステムの導入を進めている.

 筆者は2009年,日本産婦人科医会が主催した「日母子宮頸癌細胞診報告様式の改訂のためのワーキンググループ」3)の会議に,日本病理学会代表の委員のひとりとして出席した.ほかにも日本産科婦人科学会,日本臨床細胞学会,日本婦人科腫瘍学会からの代表も一同に会していたので,文字通り関連各学会あげての検討の中でベセスダシステム導入が決められた.この導入に反対した学会は皆無であった.

 本稿では,新たに用いられることとなったベセスダシステムの概容について述べる.なぜベセスダシステムを導入するに至ったかについての経緯や,日母分類にどの様な問題点があったのかについての具体的かつ詳細な内容については別稿にて解説される.

Coffee Break

国際スキー連盟(F.I.S.)のAlpine course専門委員に選出される―会議の模様とトラブル

著者: 佐々木禎一

ページ範囲:P.38 - P.38

 新年そして冬の候となったのを機に,今も強烈に印象に残っているスキー関係の思い出を3回にわたって紹介しようと思う.今回は1969年スペインのバルセロナで開催された国際スキー連盟Fédération Interationale de Ski(略してFIS)の会議に出席した際の経緯と,それにまつわる裏話を紹介してみよう.

思い出よもやま―貧しい時代の豊かな心

著者: 寺田秀夫

ページ範囲:P.50 - P.50

 私は1948年(昭和23年)新潟医科大学卒業後1年間のインターン生活を送り,1949年第二内科に入局した.当時はまだ終戦後の混乱期の名残で,現代と比べると物質的・精神的に異常な時代であった.医局員のほとんどが無給で,生活のため銀行・デパート・会社・刑務所・裁判所などでネーベン(Neben:副)の仕事を見つけ,また医局の最大の財源が結核の集団健診や種痘,ツベルクリンの集団予防接種であった.ないないづくしの貧しい医局生活であったが,それだけに医局員同志の心の結びつきは堅く,交流は豊かであった.

 医局対抗試合で,野球・バスケット・ピンポンなどで汗を流し,また,戦後再び流行してきた社交ダンスのレッスンを夜間医局の集会所で医師・看護師一緒になってお互いに足を踏み合ったりしながら受けた楽しい思い出もある.

映画に学ぶ疾患

「レスラー」―ボクサー脳

著者: 安東由喜雄

ページ範囲:P.84 - P.84

 人生とは,居場所,死に場所を求める営みであると言えなくもないが,年齢を重ねるごとにこのことが重要になっていく.人は若い頃に一生懸命しっかりとした仕事をして良い人間関係を構築しておかないと後にひどいつけがやってくる.体力,気力,そして知力が衰えてきたとき,頼りになるのは経験,感性,友人,家族など限られたものになるからだ.映画「レスラー」を見ていてそんなことを考えた.

 ランディ(ミッキー・ローク)は,かつては人気レスラーで,ザ・ラムのニックネームを持ち,血の気の多いプロレスファンの心を釘づけにしていた時期がある.20年前は,マディソン・スクエア・ガーデンでの興行でスタジアムを一杯にした.プロレスはショウであることに間違いはないが,技に切れや威圧感がなければプロレスファンを引きつけることはできない.体を張って生きるプロスポーツ選手の宿命ではあるが,年老いたランディは地元でどさ回り興行をしながら,試合のない時はアルバイトして日銭を稼ぐ生活だ.人は貧すれば鈍する.若いころからの不摂生も祟り,ある日のプロレス興行の後,突然気分が悪くなった後,意識不明となり,救急車で病院に運ばれる.心筋梗塞らしい.バイパス手術を受けて九死に一生を得たランディであったが,二度とリングには上がれない体になっていた.

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あとがき

著者: 濱﨑直孝

ページ範囲:P.120 - P.120

 今月の主題は「POCT,医療におけるその役割」です.POCTとはpoint of care testingの略です.患者への診断・治療が行われている傍らで検査を行い,診断・治療を迅速かつ適切に行うために工夫されている臨床検査のことを一般的にPOCTと略して呼んでいます.昔から診療に際しては,視診,触診,聴診などの理学的検査は医師自身の手で行われてきました.目で見て,手で触れて,音を聴いて,患者の診療に役立てるこれらの理学的検査所見は現在でも診療には欠かせない重要な検査所見です.科学が進歩するにつれて,このような理学的所見に加えて,尿,糞便や血液など生体成分を分析して診療を行うようになりました.このような検査を臨床化学(clinical chemistry),あるいは,臨床検査(clinical laboratory medicine)と呼ぶようになりました.尿を分析して患者のアミノ酸代謝酵素の異常を見いだしたフェーリングの偉業(1934年,フェニルケトン尿症の発見)以来,診療における臨床検査の有用性が広く認められることになり,現在では,臨床検査データがなければ診断・治療はできないまでになっております.

 臨床検査は,20世紀半ばまでは,患者の傍らで行われておりました.しかしながら,科学技術の進歩に伴い正確かつ迅速な分析機器が臨床検査領域に導入されることになり,患者の傍らで検査をするのではなく,病院全体の臨床検査用検体を一か所に集めて検査をする方向(中央化された臨床検査)に進みました.特に日本ではその傾向が著しく,わずかな検体量を用いた迅速・正確・精密な検査が,高度な精密機器の普及により全国ほとんどの病院で行われるようになりました.この“中央化された臨床検査”の医療への貢献度は計り知れないほど大きいものです.しかしながら,“中央化された臨床検査”で失われたものもあります.それは,“患者の傍らで,患者の状態に応じて医師が必要な検査であると思う検査を行う検査方法”です.“中央化された臨床検査”では,医師自身が直接関与しない形で検査データが得られるがゆえに,ついつい検査データの解釈が疎かになったりすることも起こるようになってきました.そのような欠点を補うべく普及してきたのがPOCTです.本主題を参考にして,皆様の病院でもPOCTをより有効に利用されることを願っております.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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