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雑誌目次

論文

臨床検査59巻5号

2015年05月発行

雑誌目次

今月の特集1 1滴で捉える病態

著者: 山内一由

ページ範囲:P.391 - P.391

 一般に分析学でいう1滴は数十μLです.微量ピペットの1滴なら,さらにその1/10以下になります.メートル単位の空間で日々生活している私たちにとっては想像もできないほど狭い世界ですが,含まれている生体情報は膨大です.例えば,1μLの血液中にはグルコースだけでも約3.0×1015個にも及ぶ数の分子がその他の多様な生体分子とひしめき合い,数百万個以上存在する血球成分の間隙を埋め尽くしています.1つ1つの細胞に目を向ければ,細胞内も種々のタンパク質や核酸をはじめとする多彩な生体成分で満たされています.そこにはいまだ機能が明らかとなってない成分も存在するはずです.わずか1滴の生体試料であってもあらゆる病態を捉える可能性を秘めているのです.検体の微量化は臨床検査における重要な課題ですが,たった1滴の試料を用いた臨床検査の確立はその究極の目標といえます.その実現は医療に革命的な進歩をもたらすに違いありません.

微量化がもたらす効能

著者: 〆谷直人

ページ範囲:P.392 - P.394

Point

●POCT製品の検体量はナノグラムである.

●POCTはプライマリ・ケアの医療現場で活用される.

●POCT製品の特性を最大限に発揮するのは災害時の仮設診療所における検査である.

●健康状態を簡単に知ることができる検査が注目されている.

在宅医療革命

著者: 大澤進 ,   杉本晋哉 ,   米久保功 ,   川口正人

ページ範囲:P.397 - P.404

Point

●特定健康診査の受診率は46.2%と低く,目的が達成されていない.

●手指採血による郵送検査は時と場所を選ばない.

●希釈された血漿成分は37℃でも約1週間安定である.

●手指採血即時希釈血漿分離法は健診未受診者の取り込みに有用である.

メタボロミクスによる癌診断の新たな展開

著者: 酒井新 ,   西海信 ,   小林隆 ,   東健 ,   吉田優

ページ範囲:P.405 - P.410

Point

●メタボロミクスは,有機酸,アミノ酸,脂肪酸,糖などの多種多様な低分子量代謝産物(メタボローム)を対象とした研究である.

●質量分析(MS)を応用した測定技術が急速な発展を遂げ,メタボロミクスの解析手法として普及したことで,癌の診断バイオマーカー探索研究が広く行われるようになった.

●大腸癌,膵癌などの消化器癌に対する血清メタボローム解析により,早期診断に有望なバイオマーカー候補が検出された.

●今後,さらに研究データを蓄積することにより,メタボロミクスによる癌の早期診断が可能になることが期待される.

Alzheimer病診断革命

著者: 滝川修

ページ範囲:P.411 - P.418

Point

●Alzheimer病,特にその前段階である軽度認知症(MCI)の診断を補助する血液マーカーの開発が強く求められている.

●MCIの血液マーカーとしてマイクロRNA(miRNA)が注目されている.

●半導体イオンイメージセンサの使用により,血液1滴でmiRNAの測定が可能になる.

質量分析を用いた疾患早期診断技術

著者: 松山正佳 ,   嶋田崇史 ,   佐藤孝明

ページ範囲:P.420 - P.428

Point

●現在の臨床検査に用いられる酵素免疫測定(ELISA)で得られる情報には限界がある.

●質量分析を用いる際は,測定するターゲット分子に適切なシステムを選択する必要がある.

●種々の疾患に対するバイオマーカーの同定には適切な前処理が重要である.

●臨床検査の現場に適応した質量分析システム開発には大規模コホート研究が必要である.

唾液ストレス計測バイオチップ技術

著者: 脇田慎一

ページ範囲:P.429 - P.434

Point

●健常者のストレスの健康工学的な可視化を目指す.

●先端的なバイオチップ技術を用いて,ストレス計測評価用装置の開発を行っている.

●ストレス科学に基づいて,ストレス計測評価バイオチップの実証実験を進めている.

今月の特集2 乳癌病理診断の進歩

著者: 手島伸一

ページ範囲:P.435 - P.435

 乳癌は,わが国では女性の臓器別悪性腫瘍のなかで罹患率が第1位を占めています.検診の普及や画像診断の発達に伴い早期病変が多く指摘されるようになり,穿刺吸引細胞診や生検組織診で小さな病変を正確に診断することの重要性が増しています.また,病理でのHER2やホルモンレセプターなどの検査が予後の予測や化学療法を行ううえで必須なものとなっています.そして,乳癌の個別化医療(コンパニオン診断)が他の固形癌に先駆けて広く行われるようになりました.そのため,病理部門で診断しなければならない項目が多岐にわたるようになってきました.

 本特集ではこのような状況を踏まえ,乳癌の細胞診や病理に関する近年の重要な進歩を取り上げました.いずれもわが国の最先端の施設で行われている仕事ですが,われわれの日常の細胞診検査,病理診断,病理業務にすぐにでも役に立つ内容です.参考にしていただければ幸甚に存じます.

乳腺穿刺吸引細胞診の進歩と精度管理

著者: 北村隆司 ,   土屋眞一

ページ範囲:P.436 - P.443

Point

●小型で細胞異型に乏しい乳癌細胞がみられる非浸潤性乳管癌,乳頭腺管癌,硬癌,浸潤性小葉癌に言及して,それらを診断するうえで理解しておかなければならない所見の見方・考え方を中心に解説した.

●小型乳癌細胞を診断するうえで重要な点は,背景を含む標本全体の所見と出現する細胞の細胞異型および集塊の構造であり,それらを総合的に判断して最終診断する必要がある.

●乳腺穿刺細胞診検査には施設間差がみられ,その“正確さ”と“精密さ”を完全に担保・保証する精度管理は不可能である.このため,日本臨床細胞学会「乳腺穿刺吸引細胞診の精度に関するワーキンググループ」では,各判定区分での悪性の危険度を示した.今後はこの点について広く臨床医等に理解してもらう必要がある.

乳管・小葉内増殖性病変の病理診断

著者: 堀井理絵

ページ範囲:P.444 - P.449

Point

●乳管上皮細胞由来のductal lesionには,UDH,FEA,異型乳管過形成(ADH),非浸潤性乳管癌(DCIS),浸潤性乳管癌(IDC)が含まれる.

●FEA,ADH,low grade DCIS,low grade IDCは遺伝子発現状況が共通しているため,一連の多段階発癌モデルに属していると考えられており,その発癌モデルは,low grade-like molecular pathwayと呼ばれる.

●手術標本で診断されたFEAやADHは,low grade DCISの早期の組織像あるいは前駆病変と考えてよい.

●針生検標本でFEAやADHと診断された病変には,真のFEA,ADHに加えて,良性の閉塞性腺症やUDH,悪性のDCIS,さらには,IDCの乳管内癌巣が含まれる.したがって,針生検標本でFEAやADHと診断された場合,予測されるその病変の最終診断に基づいて,再針生検,切開生検,経過観察から適切な取り扱い方法を選択すべきである.

乳腺良悪性の鑑別に有用な免疫染色

著者: 前田一郎 ,   小穴良保 ,   高木正之

ページ範囲:P.450 - P.458

Point

●HMWKは乳腺の良悪性の鑑別に有用である.良性過形成性病変ではモザイク状に陽性で,低悪性度悪性病変では陰性となる.

●シナプトフィジン(syn)は悪性のマーカーとして有用である.わずかでも陽性であれば悪性を念頭に置き,腫瘍細胞の1%以上の陽性細胞を確認したときには悪性を疑い,10%を超える場合には悪性を強く疑う.陰性の場合は良悪性の判定はできない.

●エストロゲン受容体(ER)は乳管内乳頭状病変,非浸潤性乳管癌(DCIS),papillary typeと乳管内乳頭腫(IDP)の鑑別に有用である.DCISではhomogeneousとなり,IDPではheterogeneousとなる.

乳癌のコンパニオン診断

著者: 畑中豊 ,   松野吉宏

ページ範囲:P.459 - P.465

Point

●コンパニオン診断薬の位置付けが明確化された.

●乳癌における有効性予測のコンパニオン診断は,病理診断〔免疫組織化学(IHC)法・ISH法〕が中心的な役割を担っている.

●コンパニオン診断では,高い精度保証が要求される.

乳癌の遺伝子診断(Oncotype DX®)

著者: 川端英孝 ,   木脇圭一 ,   藤井丈士

ページ範囲:P.466 - P.470

Point

●ホルモン受容体陽性,HER2受容体陰性乳癌のサブタイプに化学療法を施行するかどうかが大きな臨床的課題となっている.

●このサブタイプに多遺伝子アッセイ法を用いて,予後予測と化学療法の治療効果予測を行うのがOncotype DX®検査である.

●Oncotype DX®はホルマリン固定パラフィン包埋の腫瘍組織から逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)法を用いて21種類のRNAを抽出し,決められたアルゴリズムに基づいて再発スコア(RS)を算定する.

●わが国では保険適用となっておらず,約40万円の高額な自費検査である.

今月の表紙

生命の神秘(精子)

著者: 島田達生

ページ範囲:P.390 - P.390

 ワー,こりゃー何だ! たくさんのオタマジャクシが網に引っ掛かってうごめいている.とても数えきれない.よく見てみると,卵円形の頭から長いしっぽが伸びている.これはオタマジャクシではなくて精子だ.

元外科医のつぶやき・5

乳癌診療と臨床検査技師

著者: 中川国利

ページ範囲:P.419 - P.419

 私は現在血液センターに籍を置いているが,38年間にわたり外科勤務医として消化器疾患とともに乳癌診療にも携わってきた.そして乳癌診療では,検査技師は超音波検査や病理検査など多岐にわたり関与しており,検査技師なくして乳癌診療は成り立たない.

 超音波で詳細に検査をしたいときには医師自身も行うが,乳癌検診では検査技師が行う施設が多い.乳癌は男性の100倍と圧倒的に女性に多く,また病巣はデリケートな乳房にある.そこで乳癌検診では,診察を行う医師ばかりではなく,看護師,放射線技師,そして検査技師に至るまで,全て女性職員によるレディースクリニックとして対応している施設もあり,評判を呼んでいる.男性医師しかいない前の施設でも,医師を除く他の職種はできるだけ女性職員で臨み,好評であった.

INFORMATION

第21回第1種ME技術実力検定試験

ページ範囲:P.428 - P.428

検査レポート作成指南・1【新連載】

心エコー検査編

著者: 戸出浩之

ページ範囲:P.472 - P.480

 心エコー検査は,機器の準備や患者情報の収集,依頼目的の把握に始まり,適切な画像の描出と記録,読影と計測などのさまざまな工程により構成されるが,その最後にあるのが報告書の作成である.本来,心エコー検査を依頼した医師は,記録された全ての動画像や静止画像を確認し,計測値をしっかりと吟味した後,総合的な判断を下すべきである.しかし,全ての医師が心エコーに精通しているわけではなく,画像の細かい所見の読み方,計測値の意味や誤差要因などを十分に理解しているとは限らない.また,心エコーに詳しい循環器専門医であっても,日々の業務に追われ心エコーの判読のために時間を作るのが難しい現状がある.そこで,それらを補うのが,心エコーを熟知し実際に検査に携わった技師が書く報告書である.

 したがって,心エコー検査でどんなに明瞭な画像を記録していても,再現性に富む正確な計測がなされていても,最後の報告書が不完全であったなら,検査で得られた情報が十分に伝わらず,診療に生かすことができない.すなわち,心エコー報告書は担当医の依頼に対する検査担当者の応えであり,検査の目的を十分に把握し,得られたデータを根拠としてエビデンスに基づいた考察がなされ,検査目的に応える回答が記載されなければならない.

検査説明Q&A・5

心エコー報告書に右房内に遺残弁ありと記載がありました.臨床上問題になることはありますか?また,エコーではどのように描出されますか?

著者: 西智子 ,   柴山謙太郎 ,   渡辺弘之

ページ範囲:P.481 - P.483

■右房内の遺残弁

 右房内に認められる遺残弁とは,胎生期の遺残構造物である静脈洞弁を指す.静脈洞弁のうち,下大静脈開口部付近に付着するものをユースタキオ弁(eustachian valve),冠静脈洞開口部付近に付着するものをテベシウス弁(thebesian valve)という(図1).また,下大静脈付近に付着し,右房内で大きく浮遊する膜様構造物を認めることがあり,これはキアリ網(Chiari network)といわれる.キアリ網は静脈洞弁に多数の穴が開いて網状になったものであり,1897年にChiariにより発見され,かつては剖検や心臓手術の際に偶発的に発見されていた.2%程度の頻度で認められ1),心窩部アプローチや,四腔像,短軸像(大動脈弁レベル)で右房を描出する際に確認される.

遺伝医療ってなに?・5

“見たいもの”と“見えるもの”のギャップ

著者: 櫻井晃洋

ページ範囲:P.484 - P.486

DNAの塩基配列決定は,20年以上にわたってジデオキシヌクレオチドを反応系に加えたDNA合成と電気泳動によるSanger法が主体だったが,21世紀に入って,新たな塩基配列解読技術が多くのベンチャー企業や研究組織によって開発され,DNA解析の低コスト化と解析時間の短縮という点で驚異的な進歩を遂げている.こうした新しいDNA解析装置を“次世代シーケンサー(next generation sequencer:NGS)”と呼んでいるが(NGSにも世代があり,原理や特性に違いがある),当初は非常に高価だった解析装置も1,000万円を切るものが現れてきて,NGSはすでに“現世代”シーケンサーとなっている.

 Sanger法によるこれまでの遺伝子解析が,候補遺伝子を1つずつ調べていくものであるのに対し,NGSでは全ての遺伝子(エクソームあるいはゲノム)を一度に網羅的に解析することが可能である.Sanger法が一本釣り(図1)だとすればNGSは曳網漁(図2)のようなものである.したがって解析すべき遺伝子を特定できないような症例の遺伝子診断に圧倒的な強みを発揮する.例えば,既知の症候群では説明できないような多発奇形をもつ小児,あるいは原因遺伝子が多数知られていて個々の遺伝子の解析では非常に手間がかかる先天性難聴や神経疾患の遺伝子診断などである.2013年のNew England Journal of Medicineに報告された研究1)では,遺伝性疾患が疑われるが診断が確定していない患者(大多数は神経疾患を有する小児)を対象にNGSによる網羅的な遺伝子解析(全エクソーム解析)を行い,約25%の症例で原因遺伝子を同定している.Sanger法による候補遺伝子アプローチではほとんどが原因遺伝子を同定できないか,できたとしても非常な労力を要したであろうことを考えると,大変な進歩である.そうであれば,いろいろ原因遺伝子をあれこれ予測して解析するよりも,早くて安上がりな網羅的解析がより選択されていくのは必然といえる.

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「検査と技術」5月号のお知らせ

ページ範囲:P.434 - P.434

バックナンバー一覧

ページ範囲:P.443 - P.443

次号予告

ページ範囲:P.489 - P.489

あとがき

著者: 河合昭人

ページ範囲:P.490 - P.490

 今回,新たに編集委員を任されることになりました河合です.今まで築きあげてこられた「臨床検査」の名に恥じぬよう努力してまいりますので,読者の皆さまよろしくお願いいたします.

 5月号の特集は「1滴で捉える病態」「乳癌病理診断の進歩」です.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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