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雑誌目次

論文

臨床検査62巻8号

2018年08月発行

雑誌目次

今月の特集 女性のライフステージと臨床検査

著者: 山内一由

ページ範囲:P.883 - P.883

 性別と年齢は臨床検査値の判読に際し,最低限留意すべき重要な患者属性です.特に,月経周期,妊娠,出産,閉経といったライフイベントが不可避な女性の場合には,年齢を強く意識しつつデータに目を向ける必要があります.女性に備わっている生体制御機構は,男性より複雑かつ精緻であり,しかもライフステージの影響を受けてその様相は大きく変化します.したがって,女性患者のほうが男性患者に比べて検査値の解釈は断然難しくなります.検査の進め方もまた然りです.

 本特集では,女性患者を対象とした臨床検査の進め方,検査結果の解釈および有効な活用法について理解を深めることを目的として,女性の各ライフステージ〔思春期,成熟期(生殖期),更年期,老年期〕に好発する疾患を対象とした臨床検査を取り上げました.

 近年脚光を浴びている“女性医療”を支援する臨床検査の今後のあり方について考える契機となれば幸いです.

女性医学の現状と意義

著者: 倉林工

ページ範囲:P.884 - P.889

Point

●産婦人科の専門領域に,周産期医学,婦人科腫瘍学,生殖内分泌学の3分野に続く第4の柱として,ヘルスケアを実践する女性医学が誕生した.

●女性医学とは,QOLの維持・向上のために,女性に特有な心身にまつわる疾患を主として予防医学の観点から取り扱うことを目的とする.

●検査技師を含む多職種による医療スタッフには,女性医学の概念を十分理解し,これからの女性のヘルスケアの担い手として活躍する場がある.

月経の異常

著者: 高村将司 ,   甲賀かをり

ページ範囲:P.890 - P.896

Point

●月経は,視床下部・脳下垂体・卵巣からのホルモンによって調節されている.同ホルモンは月経周期に伴い正常値も変動するため,適切な時期に測定することが重要である.

●無月経,月経不順の原因は多岐にわたるが,卵胞刺激ホルモン(FSH),黄体化ホルモン(LH)の値によって,大まかに原因部位を特定することが可能である.家族歴の聴取,全身所見,既往歴も鑑別診断の参考になる.

●月経困難症は内診,超音波検査において原因をおおむね特定することが可能である.子宮内膜症の診断で用いる糖鎖抗原125(CA125)は月経期に高値を示すため,必ずその時期を外して測定する.

●MRIは,子宮内膜と病変の関係性や,深部子宮内膜症の評価に適している.子宮鏡は子宮内膜ポリープの評価,子宮内膜組織診は子宮体癌の除外診断に用いられる.

妊娠合併症

著者: 岡﨑有香 ,   荒田尚子

ページ範囲:P.898 - P.904

Point

●妊娠により身体の多くの機能はダイナミックに変化するため,それに伴い検査値も非妊時とは異なった値を示す.

●妊娠性一過性甲状腺機能亢進症は一般妊婦の2〜3%にみられ,Basedow病との鑑別が重要である.

●妊娠糖尿病は適切に診断・加療することが合併症予防のために重要である.また将来の糖尿病のリスクにもなるため,定期的な経過観察が大切である.

●妊娠高血圧症候群(HDP)の管理には,妊娠中の生理的な血圧変化を把握しておくことが大切である.また将来,心血管系の合併症のリスクが高まるため,産後も生活習慣に留意する必要がある.

閉経と糖代謝異常

著者: 佐藤麻子

ページ範囲:P.905 - P.909

Point

●高齢女性の糖尿病有病率は高い.

●閉経によるホルモン変化が糖代謝に影響を与える可能性はあるが,明確なエビデンスはない.

●閉経期ホルモン療法(MHT)は,糖尿病新規発症リスクの低下や2型糖尿病女性の血糖コントロール改善に関与している.

●閉経後の女性は,定期的な糖代謝機能の検査を行うことが大切である.

閉経と脂質代謝異常

著者: 若槻明彦

ページ範囲:P.910 - P.917

Point

●閉経後のエストロゲン低下により,低密度リポ蛋白(LDL)コレステロールとトリグリセリド(TG)は上昇する.高TG血症は,LDLを動脈硬化に促進的な小型粒子に変化させる.

●閉経後脂質異常症の管理は,生活習慣の改善を基本とし,脂質管理目標値に達しない場合は,薬物療法を考慮する.

●薬物療法の際,更年期症状のある女性にはホルモン補充療法(HRT)が適応となるので,HRTの脂質代謝改善効果に期待してもよい.HRTで脂質管理目標値に達しない場合は,スタチンなどの併用を考慮する.

閉経と微小血管狭心症

著者: 天野惠子

ページ範囲:P.918 - P.924

Point

●微小血管狭心症とは,表在冠動脈に器質的狭窄やスパズムを伴うことなく,微小循環の調節異常(血管収縮の亢進および拡張反応の低下)に起因する狭心症である.

●閉経前後の女性に多く,胸痛の背景としては,労作時よりも,安静時・就寝時に起こることが多い.胸痛は数分で消失することが多いが,半日や1日続くこともある.

●胸痛発作回数は,年数回が最も多い.しかし,なかには頻繁に起こり,かつ,年余にわたって続く場合もある.胸痛の誘因としては,心身のストレス,不眠,寒冷が挙げられる.

●典型的な胸痛というよりは,顎や喉,耳の後ろへの痛み,背部痛,肩の痛み,時には胃痛など非典型的な症状として訴えることも多い.

●硝酸薬に対する反応は半数以上で不良で,カルシウム拮抗薬が有効である.

閉経と骨粗鬆症

著者: 望月善子

ページ範囲:P.926 - P.935

Point

●閉経によるエストロゲン分泌低下が骨吸収を亢進させ,骨量は急激に減少するため,閉経後に骨粗鬆症の頻度が増加する.

●骨粗鬆症診療の目的は骨折の予防であるため,自覚症状がなく進行する骨粗鬆症に対し,できるだけ早期に骨粗鬆症と診断し,治療介入することが重要である.

●閉経後骨粗鬆症を予防するためには,若年期により高い最大骨量(PBM)を獲得し,閉経期の骨量減少を抑制することが大切である.

生殖器系の疾患—子宮編

著者: 奥川馨 ,   加藤聖子

ページ範囲:P.936 - P.941

Point

●子宮疾患の診断をする際は,各ライフステージで好発する疾患が存在することを念頭に置く必要がある.

●子宮内の腫瘤や腫大した子宮の観察,診断には,経腟超音波検査やMRIが有用である.

●成熟期の患者の治療を行う際は,妊孕性温存の希望があるかどうかを確認し,症例ごとに治療法を検討する必要がある.

生殖器系の疾患—卵巣編

著者: 佐藤豊実

ページ範囲:P.942 - P.947

Point

●卵巣の機能性疾患は月経の異常を伴うことが多く,本特集の原稿「月経の異常」で解説されている.卵巣の器質的疾患は,最終的には病理検査で確定診断となる.

●胚細胞腫瘍は思春期から成熟期前期に,子宮内膜症性囊胞は成熟期に,成熟囊胞性奇形腫は成熟期から更年期に,卵巣癌は更年期から老年期に発症のピークがある.

●卵巣に発生する器質的疾患の多くでは,発症年齢,内診所見,画像検査,腫瘍マーカーなどが診断の助けとなる.病理診断時には免疫組織学的検査が診断の決め手となることがある.

●卵巣腫瘍(特に卵巣癌)では,治療開始前に静脈血栓塞栓症(VTE)を併発していることがまれでなく,D-dimerによるスクリーニングと必要に応じた下肢血管超音波検査,造影CT検査が望ましい.

乳腺の疾患

著者: 山下啓子

ページ範囲:P.948 - P.954

Point

●主な乳腺疾患は,乳癌,乳腺症,線維腺腫,葉状腫瘍,乳腺炎である.良性乳腺疾患の多くは閉経前の女性に生ずる.乳房の悪性疾患のほとんどは乳癌である.

●日本人女性の乳癌罹患率は,過去20年間でいずれの年齢においても約3倍増加しており,40歳代後半と60歳代前半に発症のピークがある.

●マンモグラフィあるいは乳房超音波検査で乳癌が疑われる場合,局所麻酔下に病変部の針生検を行い確定診断する.

●浸潤性乳癌の場合,乳癌組織におけるサブタイプ〔ホルモン受容体,ヒト上皮成長因子受容体2型(HER2)の状態と増殖能による〕の評価は,治療方針決定に不可欠である.

甲状腺の疾患

著者: 片井みゆき

ページ範囲:P.955 - P.961

Point

●女性は甲状腺疾患の発症頻度が,男性より著明に高い.女性はライフステージ,妊娠・出産のライフイベントに応じて好発する甲状腺疾患が異なる.

●妊娠・出産に伴い甲状腺機能は影響を受け,さらに妊婦の甲状腺機能異常は児の発育や甲状腺機能へも影響を及ぼす.Basedow病や橋本病は妊娠可能年齢にも多くみられ,注意が必要である.

●女性では妊娠一過性甲状腺機能亢進症,出産後甲状腺機能異常など,妊娠・出産に伴う女性特有の甲状腺機能異常が生じる.また近年,不妊と(顕性・潜在性)甲状腺機能低下症の関係が注目され,治療介入も行われている.

●女性の更年期症状と甲状腺機能異常による症状は共通点が多く,更年期女性の甲状腺機能異常は見逃されやすい.更年期障害の除外診断として,甲状腺機能異常がないかの注意が必要である.

全身性自己免疫疾患

著者: 河野千慧 ,   村島温子

ページ範囲:P.962 - P.969

Point

●全身性自己免疫疾患の発症には性差や年齢差があり,若年発症のものほど性差が大きい傾向にある.

●若年〜高齢まで各年代で発症し長期的な管理を要するため,健康状態のみでなく,時に妊娠などのライフイベントにも影響を及ぼしうる.

●以前と比べて治療成績は向上したが,一方で罹病期間の長期化に伴う難治性病態や合併症が問題となっており,これらのマネジメントも重要である.

Crosstalk 地域医療×臨床検査・8

先輩からの申し送り

著者: 寺裏寛之

ページ範囲:P.925 - P.925

 特定の地域との継続的な付き合いが,地域医療の特徴の1つとされている.自治医科大学はこの継続性の担保について,各都道府県単位でユニークな方式をとっている.同一地域に地域医療従事者を2〜3年程度のスパンで派遣して,継続的に診療をリレーするやり方である.卒業生の多くは地域を転々として経験を積む.このリレーのなかで,先輩からの申し送りを受ける.例えば,北海道では特に東部で勤務するときにエキノコックス症を念頭に置かなければならない場面もあるとか1,2),岩手県沿岸では秋ごろの急性腹症に対して消化管アニサキス症を積極的に鑑別するといった具合である3)

 岩手県立千厩病院での80歳代後半の女性の話である.庭の手入れを趣味にしていた.あるとき,数日前から倦怠感を自覚し,ベッドから起き上がることも困難となってしまった.さらに38℃台の熱もでてきたために受診した.診察をしたところ,血圧は128/93mmHgで,咽頭痛はなく,頸部リンパ節腫脹もなかった.さらに,心雑音や異常呼吸音もなく,腹部には平たん・軟性で圧痛はなく,肝腫大もなく,下腿に浮腫もなかった.ただし,体幹部に1cm程度の紅斑が散在していることに気づいた.左大腿内側に発赤を伴う痂皮化した硬結も認められた.血液検査では,WBC 4,800/μLで,CRPは6.1mg/dLと上昇がみられた.その他に,AST 71U/L,ALT 32U/L,ALP 193U/L,γ-GT 25U/Lと,肝機能関連ではASTのみの上昇があり,CKは356U/Lと上昇していた.

Essential RCPC・4

高度の蛋白尿と低アルブミン血症で入院となった20歳代,女性

著者: 菊池春人

ページ範囲:P.970 - P.974

症例

20歳代(前半),女性.

生理検査道場・4

—24時間自由行動下血圧測定②—判読の極意

著者: 成田圭佑 ,   江口和男

ページ範囲:P.975 - P.979

はじめに

 当講座第3回は24時間自由行動下血圧測定(ambulatory blood pressure monitoring:ABPM)の「判読手順と異常値メカニズム編」というテーマで,検査手技と正常範囲などを述べた.今回は前回の基礎的な内容を踏まえ,実際の症例におけるABPMの検査結果をどのように判読すればよいかというABPMの判読の手順を述べる.

検査説明Q&A・38

ウエスタンブロット法によるHIV抗体検査の感度を,検査として,また臨床的にもどう考えればいいですか?

著者: 外島正樹

ページ範囲:P.980 - P.983

■はじめに

 ウエスタンブロット(Western blotting:WB)法は,電気泳動の優れた分離能と抗原抗体反応の高い特異性を組み合わせて,蛋白質混合物から特定の蛋白質を検出する手法です.WB法の手法が発表されたのが,スイスにあるフリードリヒ・ミーシェル研究所のハリー・トービン1)により1979年のことでした.その後,米国・シアトルのフレッド・ハッチンソンがん研究センターのニール・バーネット2)により,DNAをブロッティングするのがサザン(Southern)だからと,蛋白質は“ウエスタン(Western)”と命名されました.シアトルが米国の西だったことから,そう名付けたそうです.

短報

TRACP-5b高値が多発骨転移をきたした原発性前立腺癌診断のきっかけとなった1例

著者: 野口隆史 ,   友寄英二

ページ範囲:P.984 - P.985

Summary

 骨粗鬆症の診断,薬物加療を行ううえでの代謝動態の評価のため,骨代謝マーカーの検査を行うことが一般的となりつつある.酒石酸抵抗性酸性ホスファターゼ(TRACP-5b)は破骨細胞の機能を直接表す有用な骨吸収マーカーであるが,従来のマーカーと比較して日内変動や腎機能の影響を受けにくいマーカーとして広く使用されており,閉経後の骨吸収だけでなく,病的な骨代謝亢進の病態を反映する.今回,軽微な外傷で発症した橈骨遠位端骨折を契機に骨粗鬆症の診断となり,TRACP-5bの異常高値をきっかけとして前立腺癌およびその多発骨転移の診断に至った症例を経験したので報告する.

Salon deやなさん。・14

「怒涛の連続出張!」

著者: 柳田絵美衣

ページ範囲:P.986 - P.986

 「なんで,こんなことになったんだ〜!」と叫ぶ柳田!

 まずは札幌で開催される日本臨床細胞学会のワークショップで発表.発表後に間髪入れずダッシュで新千歳空港へ向かい,成田空港に飛ぶ.そして,成田からシカゴへ飛び,数日後にボストンへ飛ぶ.老体に鞭を打つ…….そんな出張予定だった.

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目次

ページ範囲:P.880 - P.881

「検査と技術」8月号のお知らせ

ページ範囲:P.897 - P.897

バックナンバー一覧

ページ範囲:P.969 - P.969

次号予告

ページ範囲:P.987 - P.987

あとがき

著者: 関谷紀貴

ページ範囲:P.990 - P.990

 4月下旬,穏やかな春の陽気に包まれたラテンの国,スペインの首都マドリードに行く機会がありました.この数年は継続して参加しているECCMID(欧州臨床微生物感染症学会)という学会参加が目的でしたが,毎年開催地が異なるため,訪問先の空気や文化を感じることが楽しみの1つになっています.今回は空き時間を利用して,ピカソのゲルニカを展示している美術館,気軽に食事を楽しめる市場,文豪ヘミングウェイも訪れた老舗カフェ,レアル・マドリードの本拠地サンティアゴ・ベルナベウなどを訪れましたが,どこも活気に溢れていたことが印象的でした.

 スペインといえば,国際女性デーに指定されている2018年3月8日,男女格差と性差別に反対する異例の全日ストライキが行われたというニュースが驚きをもって報じられました.およそ530万人もの女性が参加し,“女性が止まれば世界は止まる”というスローガンのもと,全国でさまざまなイベントが開催されたようです.その後,6月にスペイン社会労働党のペドロ・サンチェス氏が新首相に就任しましたが,全閣僚17人中11人が女性という,同国史上で最も女性閣僚の割合が高い政権が生まれました.同首相は,先の運動を忠実に反映した内閣であると述べていますが,社会において女性が置かれている状況を正確に理解して改善活動を進めるためには,女性の政治指導者が増えていくことは基本的に望ましいことであると感じます.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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