WITHコロナにおける検査室の感染対策・1【新連載】
新型コロナ感染症と戦った検査科の2年—永寿総合病院における新型コロナ感染症の教訓
著者:
原田典明
ページ範囲:P.104 - P.108
はじめに
東京都台東区の人口は約20万人であり,このうち1万人以上をアジア系外国人の住民が占める.普段から中国語,韓国語が飛びかい,世界からの観光客でにぎわう人気スポットも多い.公益財団法人ライフ・エクステンション付属永寿総合病院(以下,当院)は同区東上野にある病床数400床,診療科26科の急性期総合病院である.地域中核病院として診療,健診業務を通じて,広く東京下町の医療サービスに長年奉仕してきた.2019年12月に厚生労働省から「中華人民共和国湖北省武漢市における原因不明肺炎の発生について」1)の報告があり,2020年1月6日には同省から“本非定型肺炎の集団発生に係る注意喚起”2)が事務連絡として発出された.これが新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)惨禍の始まりとなった.中国の旧正月である春節の時期とも重なったため,この時期は観光客で溢れており,この時点ですでに当院の位置する地区にもウイルスは少なからず浸透していたかと思われる.
当院は基本的な感染対策は講じてきた.事実,初期の隅田川の屋形船の感染患者への対応では対策は十分に機能したように思われた.しかし,感染防御の隙間から侵入を許し,気づいたときにはクラスターのただ中に置かれていた.患者,職員併せて感染者は192名にものぼり,入院患者43名の尊い命が失われた.苦しい毎日を送ったため,今なお心の傷が癒えない職員が間近にいることも知っている.このような惨事を決して繰り返してはならない.この誓いを深く胸に刻み,病院長のリーダシップの下で職員は一丸となってコロナウイルス感染対策に傾注してきた.行政,地域医師会,医療関連施設の指導・協力を仰ぎ,また,全国の方々からの温かいご支援をいただきながら現在に至っている.
本稿では,さまざまな医療資源が枯渇し病院内外の医療環境が目まぐるしく変わるなか,よりよい着地点を求めて感染制御に取り組んだ当院,そして検査室の日々を教訓も交えつつ,ありのままに述べる.いつ何時もたらされるかわからない院内感染制御について,少しでも参考にしていただければ幸いである.