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雑誌目次

雑誌文献

臨床検査27巻12号

1983年11月発行

雑誌目次

今月の主題 輸液と臨床検査 カラーグラフ

輸液オスモティックネフローシス

著者: 飯高和成 ,   前田順子 ,   鈴木かおる ,   和久茂仁 ,   芹沢俊明

ページ範囲:P.1446 - P.1448

 今世紀初めごろから,脳浮腫の改善や利尿の目的で,ショ糖やマンニトールなどの高張輸液を受けた患者や,血漿増量剤のデキストランを投与された患者の腎の近位尿細管上皮細胞に水腫状,空胞状腫脹が出現することが相次いで報告され,ショ糖腎症と呼ばれた.その後,Allen1)は浸透圧の関与で空胞が発生すると考え,オスモティックネフローシスという言葉を提唱した.しかし,近年では,空胞の発生機序としてパイノサイトーシスが注目されており,オスモティックという言葉は不適当とする見解もみられる2〜4)
 しかしながら,数多くの動物実験や人体例の報告がなされており,尿細管上皮細胞の空胞状腫脹への輸液の関与は腎の再吸収のメカニズムを解明するうえで興味深い問題であろう.

技術解説

体液浸透圧の測定法

著者: 北岡建樹 ,   中山文義 ,   越川昭三

ページ範囲:P.1449 - P.1456

 体液の浸透圧,特に血漿浸透圧は生体のホメオスターシスの維持上重要であり,浸透圧調節機構により一定の範囲内(280〜290mOsm/kg H2O)に制御されている.このため日々の食事・代謝などによる浸透圧の変動が多少生じても,この防御機構により巧妙に調節されている.しかし,この防御機構のどこかに障害があれば,体液浸透圧の異常を認める.実際,日常臨床において体液浸透圧の異常を生じる疾患や病態は多い.
 体液浸透圧は臨床的には血清Na濃度と相関し,簡略式として血清Na濃度,血液尿素窒素値(BUN)および血糖値(BS)より,〔Na〕×1.86+BUN/2.8+BS/18として表されている.しかし偽性低Na血症などの場合には,必ずしも血漿浸透圧と血清Na濃度が平行しているものではない.現在では浸透圧測定装置が普及しているので,実際の浸透圧を測定することが正確である.

輸液量の計算法—特にパーソナルコンピューターの活用

著者: 古川俊之 ,   秋場優子 ,   木下重博 ,   原正一郎 ,   中沢真也

ページ範囲:P.1457 - P.1465

〈輸液診断の特質と問題点〉
 輸液療法の特徴は,正確な量の処方が要求されることである.過剰な成分の輸液はかえって電解質異常の原因となることはよく知られていて,医原病の一つに挙げられている.反対に量不足の輸液では十分な治療効果は期待できないから,輸液の薬効量の範囲ははなはだ狭い.この点で輸液は強心配糖体と同じように,中毒量と最低有効量の幅が狭いという制約が厳しいと言える.
 正確な処方が要求されるからには,厳密な診断や計算の手法がもちろん存在する.したがって,その理論体系をマスターすれば,輸液診断は支障なくできるはずであるが,問題はそう簡単ではない.

電解質とCO2量(HCO3)の測定法

著者: 横松守 ,   小出輝

ページ範囲:P.1466 - P.1476

 体液は細胞内液と細胞外液に分かれるが,その量は体重の約60%に相当する.体液には各種の有機および無機物質が含まれ,これらは電解質と非電解質に分けられる.電解質には陽イオンとしてNa,K,Ca2+,Mg2+などがあり,陰イオンとしてC1,CHO3,SO42—,HPO42—などがある.非電解質としてはブドウ糖,尿素,クレアチニンなどが含まれる.非電解質は一般に細胞内液,細胞外液に均等に分布するが,電解質は両者間の分布に大きな差がみられ,生体の機能にきわめて重要な役割を演じている.したがって,電解質を測定することは,種々の疾患における病態の把握と治療に重要な指針を与えてくれるものと思われる.各種電解質の測定は一般に血清または血漿を用いて行われるが,最近は測定機器の自動化や,多数の電解質を同時に測定できるマルチチャンネルのアナライザーが普及してきており,多くの検体を短時間で処理できるようになってきている.

総説

医原性体液異常

著者: 佐中孜 ,   市原直美 ,   杉野信博

ページ範囲:P.1477 - P.1482

 輸液療法に際しては「過ぎたるは及ばざる如し」が正しく,脱水症状に対して短時間に補正しようと負荷量を大きくすると,高齢者や高血圧患者などに心血管系の障害をきたすことになる.また,輸液製剤も今日では多岐にわたるため,その選択には注意を要し,不適正な組成の輸液による体液異常を経験することもまれではない,この意味で誤った輸液療法は危険であり,また薬剤により惹起される体液電解質異常も臨床家として十分注意しなければならない.
 本稿は医原性体液異常を,輸液療法と薬剤とに二大別して記述することとしよう.

座談会

検査成績からみた輸液の選択基準

著者: 藪田敬次郎 ,   安藤明利 ,   森田孝夫 ,   林四郎

ページ範囲:P.1484 - P.1492

 その成否が患者の一生を分けるほどに,輸液の意義は大きい.その実施に当たっで,基準とされる臨床検査項目,データは何か.臨床家はそのデータから,患者の状態をいかに読み取り,輸液を選択しているのか.患者の安全を確保するために,具体的にどのように輸液が行われているのか.各科に泌須となった輸液について,それぞれの専門の立場からお話しいただく.

検査と疾患—その動きと考え方・83

熱傷

著者: 八木義弘 ,   木所昭夫

ページ範囲:P.1493 - P.1500

 症例:71歳,男性,独り住まい.
 主訴:重症熱傷.

私のくふう

脳波用改良皿電極

著者: 老克敏 ,   青山信昭 ,   小島博

ページ範囲:P.1483 - P.1483

 脳波用電極には,頭皮上電極として皿状電極,保持型電極,針電極などがある.これらの中で皿電極は,電極のりの保持が良く,長時間の記録ができるが,欠点として,リード線が長いため,それがもつれ合ったり,引っ張られて外れたりする煩わしさを生じることがある.今回われわれは,このようなリード線の煩わしさをなくした,改良皿電極を作製したので紹介する.

学会印象記

第8回国際細胞学会議(モントリオール)/第3回日本臨床化学会夏期セミナー

著者: 高橋正宜

ページ範囲:P.1501 - P.1501

演題数に現れた日本の経済事情
 モントリオールの語原は"ほんとうの山"というところにあるらしいが,丘のような山を囲んでセントローレンス川の流れる,美しい都市である.フランス系居留地として発達したカナダ第一の大都市であるが,合衆国の都市にみられるような騒がしさもない静かな町並みは,第7回国際細胞学会議の南ドイツミュンヘンを思わせる風情があった.
 今回の第8回国際会議は市の中心地にあるQueenElizabethホテルを会場として6月19日から23日まで開催され,一般講演275,展示21,特別講演7,招請講演9,パネル6,スライドセミナー1を消化する厳しい日程となった.口演出題国は32か国に及び,出題数の多い国別にみると日本が80題で1位を占め,主催国のカナダが51,米国が38,中華人民共和国12,インド10,西ドイツ10,スウェーデン8,などという状態で,中南米諸国はほとんどみられず,各国の代表者がパネルに参加したにすぎなかった.これは学術的進歩を必ずしも物語るものではなく,諸外国の経済的な外貨事情の一面が大きいことを,アルゼンチンのLencioni教授が羨望をもって指摘した.日本の細胞学会の会員数が4,000人を超えることを説明し,80題の出題が決して膨大なものでないことを話題として強調せざるをえなかった.

対談

臨床化学検査における透析患者血清の特殊性

著者: 和田孝雄 ,   中山年正

ページ範囲:P.1502 - P.1511

 透析患者の検査結果は透析前後で大きく異なっているが,病状を知り,透析の効果を知るために,前・後のデータはどのように活用されているのか.異常値を示すことを常とする透析患者血清は,許される限界付近の測定条件下での測定を余儀なくされているが,出される結果には高い精度が求められる.透析患者血清の特殊性に,臨床と検査の両側から迫ってゆく.

分離分析の技術Ⅱ・11

薄層ゲル濾過法—(1)蛋白質の分子量測定

著者: 須藤加代子

ページ範囲:P.1514 - P.1522

 薄層ゲル濾過法(thin layer gel filtrationあるいはchromatography.以下,TLGC)を用い蛋白質を分子の大きさの差異を利用して分離しようとする試みはJohanssonら1,2),Hofmann3),右田4)により報告されている.さらに1968年河合ら5,6)により日常検査法として確立され,その臨床応用が報告されている7〜10).TLGCによる分子量の測定はMorrisら11),Andrews12),Radola13)により詳細な検討がなされている.
 臨床検査において血清および尿中蛋白質の分子量を測定することは,M蛋白質の分子量測定,蛋白複合体の存在の確認,膜成分の血中への流出の確認,濾出蛋白の分子量の測定による腎臓の状態の把握など,その必要性が増してきている.TLGCは試料が微量(5〜10μl)でかつ短時間(5〜20時間)に分画可能であり,溶媒を種々変化(pH変化,塩濃度変化,尿素添加,2—メルカプトエタノール添加など)させることにより,その蛋白の性状を推定できるという特長を持っている.また,薄層ゲル濾過後に免疫反応を併用することにより,さらに情報が増加する14〜17).また,酵素蛋白の同定には,検出法を酵素活性染色に変化するだけですべて応用可能である18)

基礎科学からの提言・5

生物学的個体差の物差

著者: 増山元三郎

ページ範囲:P.1524 - P.1533

 もう10年近くも前のことである.科学技術庁の"化学物質および重金属の安全性評価手法に関する総合研究"に引き出され,そのデータ解析を担当させられた.その際いろいろな関係文献を読み,ヒトの生化学的個体差の組織的定量的研究の見当たらないことに不安を覚えた.これはその不安を解消するために行った研究のあらましである1,19)
 以下にみられるように,適当な生化学的物差を使えば,一見複雑にみえるヒトの個体差に関して美しい簡単な法則が得られ,これは哺乳類の実験動物に拡張でき,他方自動分析器の作動特性のチェックにも利用できるのである.

第4回医学書院臨床検査セミナーより・1【新連載】

臨床脳波

著者: 大田原俊輔

ページ範囲:P.1539 - P.1548

 私は小児神経学専攻の臨床家ですが,これまで長い間診療あるいは研究の重要な武器として脳波を使ってきましたので,今日は「臨床脳波」という題を選ばせていただきました.
 さて,臨床脳波には広大な領域がありますが,ここでは脳波で何がわかるかということをお話ししたいと思います.

研究

胸腹水試料における細胞の長期保存について

著者: 中島昭 ,   原田英一 ,   菅野剛史 ,   喜納勇

ページ範囲:P.1549 - P.1555

 細胞診のための胸水・腹水の試料の保存は,通常4℃の冷所にて行われ,保存期間が1〜3日間までの試料が各種検索の対象として用いられている1).しかし症例によっては,後日に新たな検索を試みようとすることはしばしば経験され,細胞の長期保存は必要不可欠なことと思われる.
 今日,組織培養において,培養細胞の株の保存は日常的に行われている2)ので,穿刺試料の保存も十分可能であることが推定される.

資料

日立遠隔病理診断システムの使用経験

著者: 川北勲 ,   千田龍吉 ,   坂口弘

ページ範囲:P.1557 - P.1559

はじめに
 遠隔病理診断システム(Pathology Transfer Sys-tem)は,通常の電話同線を用いて光学顕微鏡(以下,光顕)の像を遠隔地に送り,そこで病理組織診断を行う機械である.この機械が日立電子株式会社で開発され,われわれも開発当初よりこれに関与しテストをしてきたわけであるが,今後使用する立場すなわち送受信側から,このシステムの目的,機械の概要,実験での使用経験,今後の問題点などについて述べることにする.

質疑応答

臨床化学 BCP法によるアルブミン測定

著者: 五十嵐富三男 ,   中山年正 ,   T美

ページ範囲:P.1561 - P.1563

 〔問〕 BCP法はBCG法よりもアルブミン特異性が高いとのことですが,値は少し低く出るようです.BCG法と比較して,どのくらい差が出るのでしょうか.また,BCP法におけるA/G比範囲は,他施設ではどう処理されているのでしょうか,お教えください.

臨床化学 クリアランス値補正時の体表面積値

著者: 安藤明利 ,   杉野信博 ,   T子

ページ範囲:P.1563 - P.1564

 〔間〕 日本人の体位の向上,その他を考えてみると,平均体表面積を1.48�としてクリアランス値の補正を行うことは実情に合わなくなってはいないのかと,疑問を感じています.私の病院では外国人の入院もありますので,日本人の場合と外国人の場合と,実情に合った補正法をお教えください.

免疫血清 各検査法で差が出たCRPの判定

著者: 富井正邦 ,   K子

ページ範囲:P.1564 - P.1565

 〔問〕CRP測定の簡易法としてはレシチン法とラテックス法を行い,〔−〕,弱〔+〕,〔+〕,強〔+〕と判定しています.ある患者血清でレシチン法強〔+〕,ラテックス法〔−〕,CRP毛細管法〔−〕となり,また他の患者血清でレシチン法強〔+〕,ラテックス法〔−〕,CRP毛細管法5〔+〕となりましたが,このような場合どう考え,判定はどうすればいいのでしょうか.
 また,髄液の場合はレシチン法では〔+〕でCRP毛細管法では〔+〕ということが多いのですが,なぜでしょうか.さらに,髄液のCRPが〔+〕の場合は細菌感染症を疑うとのことですが,なぜでしょうか.

免疫血清 緒方法における異常反応

著者: 鈴田達男 ,   天野栄子 ,   岩倉伸子 ,   中島麗子 ,   J生

ページ範囲:P.1565 - P.1566

 〔問〕 緒方法の結果の判定で         13333・3         23333・3         22223・3のような場合,成書では異常反応としていますが,この反応系中で補体が消費されるので陽性ではないのでしょうか.また,この異常反応の原因は何か考えられますか,お教えください.

病理 酵素抗体液による非特異反応とその吸収による除去法

著者: 川生明 ,   S生

ページ範囲:P.1567 - P.1568

 〔問〕 近年,市販の酵素抗体液が用いられていますが,非特異反応の有無を知る方法と,吸収の具体的な要領を教えてください.

臨床生理 心室容量区分と臨床的意義

著者: 名越秀樹 ,   N美

ページ範囲:P.1568 - P.1569

 〔間〕 心室容量区分とその臨床的な意義についてお教えください.

一般検査 尿pH測定の意義

著者: 宇佐美一彪 ,   G生

ページ範囲:P.1569 - P.1570

 〔間〕 尿のpH測定の意義を日常検査手技として説明してください,放置された尿では臨床的な意味がないと思いますので,この点にもお触れください.

一般検査 糞便のTriboulet反応の臨床的意義/診断学 胃力メラ,胃透視はブドウ糖負荷試験(GTT)に影響があるか

著者: 木野智慧光 ,   N子 ,   坂本信夫 ,   佐藤祐造 ,   C子

ページ範囲:P.1571 - P.1573

 〈問〉私どもの検査室には1日10件以上の糞便のTriboulet反応の検査依頼がありますが,排液処理の問題があるため将来廃止したいと考えています.絶対に糞便のTriboulet反応が必要なのはどのような病態の場合か,またTriboulet反応を廃止する場合これに代わる検査法があるでしょうか,ご教示ください.

 〔問〕短期ドック入院患者のGTTの成績に,かなり高頻度に(1)2時間値の下がりが悪い(110〜130mg/dl)(2)2時間値が1時間値より高値であることが認められ,臨床側から臨床症状に合わないと問い合わせを受けます.
 ドック患者は空腹時に採血した後,胃カメラ検査を行い,終了して30分後にトレーランGを50g経口投与してGTTを実施しています.

雑件 輸血前の血液型に関する諸検査の健保点数

著者: 遠山博 ,   K生

ページ範囲:P.1573 - P.1574

 〔問〕手術前あるいは輸血前に血液型(ウラ,オモテ),Rh型(D)抗体スクリーニング,クロスマッチなど,同一患者についても月1〜2回検査を実施する場合がありますが,健康保険点数はどの程度認められますか.クロスマッチは生食水法,アルブミン法,プロメリン法で,必要に応じてアルブミン—Coombs法を使い,不規則抗体があれば同定を行っています.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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