icon fsr

雑誌目次

論文

臨床検査45巻3号

2001年03月発行

雑誌目次

今月の主題 酸化ストレス 巻頭言

酸化ストレスと疾病・老化予防

著者: 越智宏倫

ページ範囲:P.235 - P.236

 日本を初めとする先進国においては,高齢化が急速に進み,医療費の増大が国・企業の負担を重くし,国民の生活をも脅かしている.これらの課題を解決するためには,中高年者の健康寿命をさらに延長する必要がある.そして,できれば今の社会制度を漸次変更して,能力があり健康な中高年者の活用をすることによって,活力のある社会を構築することが必要である.現在のように,健康で社会的に寄与できる人を本人の意思とは無関係に,一律に,60歳定年という形で一方的に閉め出しているのは,社会的損失であり,無理があると思われる.また,早い人では,40歳代で,高血圧・糖尿病・動脈硬化・心筋梗塞・脳卒中・痴呆といった生活習慣病にかかり,こういう人々を営利を目的とする企業では雇用することは難しいと思われる.そういう面で,こういった病気が顕在化する前の未病の段階で対策をとり,健康寿命の延長をすることにより,快適加齢・生涯現役の人を増やすことが輝ける未来のある希望の国日本を作るために必須の条件となる.
 現在,癌をはじめ上述のような生活習慣病の90%以上は,活性酸素やそれに由来するフリーラジカル・過酸化脂質などによる酸化ストレスが発症の要因になっていることが明らかである.近年,遺伝子解析が進み,高血圧など生活習慣病になりやすい遺伝的素因の存在が知られるようになったが,たとえ遺伝子素因があっても,生活習慣をコントロールすることにより,発症を予防できることもわかってきている.

総論・酸化ストレスと生体

酸化ストレスと生体防御機構―バイオピリンを含めて

著者: 山口登喜夫 ,   杉本昭子

ページ範囲:P.237 - P.246

 現在,地球の大気中の酸素(約150mmHg)は,生物に呼吸という酸化反応によるエネルギー獲得を可能にし,一方でオゾン(O3)層により太陽からの強烈な紫外線を遮断して生存圏を広げる大きな恩恵をもたらした.しかし,生物はその誕生時の状況を色濃く保存しており,生体の内部とりわけ細胞内は,極めて還元的(約1mmHg)である.この意味で酸素は,生物にとって基本的には危険因子であり,エネルギー代謝では,おそらく酸素分子を一分子ずつ厳格に制御するよう進化してきたものと思われる.したがって,生物は酸化的攻撃(酸化ストレス)とそれに対する防御反応の微妙なバランスのうえに成り立っていると言える.

遺伝子変異

著者: 尾関宗孝 ,   豊國伸哉

ページ範囲:P.247 - P.253

 酸化ストレスにより生じたDNA損傷は遺伝子変異,ひいては発癌や細胞死,老化を引き起こす.これには活性酸素により生じた8―ヒドロキシグアニンや2―ヒドロキシアデニンといった損傷塩基がかかわっている.最近の研究でその変異誘発機構が解明されると同時に,その修復機構についても関連酵素のクローニングが進むなどさまざまな知見が得られつつある.今後これらの研究成果が,酸化ストレスにより生じる病態の治療や予防に応用されることが期待される.

チオレドキシンによるレドックス制御機構

著者: 谷戸正樹 ,   中村肇 ,   増谷弘 ,   淀井淳司

ページ範囲:P.255 - P.263

 遺伝子の転写・発現,蛋白質の細胞内局在,および細胞の増殖や死の調節などのさまざまな生物現象に,細胞の酸化還元状態を調節するレドックス制御が関与していることが明らかとなってきている.細胞のレドックス制御においてチオレドキシンが重要な役割を果たすことを示す知見が得られている.本稿ではレドックス制御の概念について述べた後,チオレドキシンによるシグナル伝達のレドックス制御と,種々の病態におけるチオレドキシンの関与,チオレドキシンによる生体防御について概説する.

技術解説・酸化ストレスマーカー測定

バイオピリン

著者: 塩地出 ,   芳村一

ページ範囲:P.265 - P.269

 ビリルビンは生体内で抗酸化物質として働き,活性酸素と反応して酸化的分解物が生成する.バイオピリンはこの反応生成物と考えられ,抗ビリルビン・モノクローナル抗体24G7によって認識されるためELISA法で測定されるようになった.この測定系を用いた検討の結果,さまざまな酸化ストレスの負荷によるバイオピリンの尿中排泄量の増加が確認され,さらにその臨床的意義の検討が進められている.また,バイオピリンに属する物質についても研究されており,構造決定されたバイオトリピリン-a,-bはHPLCによって半定量的に分析されている.

DNA酸化損傷バイオマーカー8-OHdGの測定

著者: 蔵重淳

ページ範囲:P.271 - P.280

 癌をはじめ生活習慣病の90%以上は,活性酸素やそれに由来するフリーラジカル・過酸化脂質などによる酸化ストレスが発症の要因になっている.したがって疾病・老化を予防するためには各個人が体内の酸化ストレスの大きさを把握しライフスタイル修正などによりコントロールすることが最低限必要になる.体内の酸化ストレスの大きさを把握する手段として,DNAの酸化損傷物8-OHdGを測定することが有用である.8-OHdGの測定法について,ELISA法を中心に解説する.

チオレドキシンの定量法

著者: 衣笠公博 ,   松川寛和 ,   夛田孝清 ,   谷口嘉之 ,   松尾雄志

ページ範囲:P.281 - P.283

 チオレドキシン(TRX)が生体内の酸化還元状態(レドックス状態)の制御と密接に関連していると考えられるようになっている.これまでに病態と総TRX (酸化型および還元型)量との関連性についての報告はあるものの,TRXのレドックス状態と病態との関係についての報告は少なかった.近年,われわれは還元型TRXに特異的に反応するモノクローナル抗体を調製し,抗原固相化競合EIAによる酸化型TRXと還元型TRXの分別定量について基礎的な実験を行った.

話題

精神的ストレスマーカーとしての唾液中クロモグラニンA

著者: 中根英雄 ,   浅見修 ,   山田幸生 ,   矢内原昇

ページ範囲:P.284 - P.287

1.はじめに
 ストレスは,生体の定常状態(恒常性)が脅かされた状態と定義することができる1).生体はストレス状態に適応し,恒常性を回復しようとするが,このストレスに対する反応は大きく2つの系に分別されている.その1つは交感神経―副腎髄質系で,もう1つは視床下部―下垂体―副腎皮質系であり,前者は後者よりも早期に反応するとされている1).交感神経―副腎髄質系と視床下部―下垂体―副腎皮質系からは,ストレスホルモンとして,それぞれカテコールアミンおよびコルチゾールが分泌され,心拍の亢進や血糖の上昇を促し,生体のストレス対処能力を高めるように作用する.したがって,カテコールアミンやコルチゾールを指標としてストレス評価が可能である.カテコールアミンは血液および尿,コルチゾールはこれらに加えて唾液を用いた測定が実用化されている.しかし,ストレス評価実験ではサンプリング行為自体がストレスになることは好ましくない.この点で唾液は,非侵襲性が高く,フィールドでの実験で頻繁なサンプリングを行っても被験者負担が少なく,検体として恰好である.しかし,唾液中カテコールアミンはルーチン的な測定が困難なことから,カテコールアミンに代わる唾液中の交感神経活動指標物質を探索した.

MDA-LDL

著者: 久保野勝男 ,   北野壮一 ,   櫻林郁之介

ページ範囲:P.289 - P.292

1.はじめに
 酸化LDLとは,LDLを構成している各成分が連鎖的に酸化変性を受けて生成される物質を総称している.したがって,酸化LDLは単一の物質ではない.
 1983年,GoldsteinとBrownはマクロファージがnative-LDLよりも変性LDL (acetyl-LDL)をよく取り込むことを見い出し,マクロファージ上に変性LDLに対する受容体が存在することを報告した1).現在この受容体はスカベンジャー受容体として知られ,クローニングを含めて多くの研究がされている2)

酸化ストレスマーカーとしての血中酸化型α1アンチトリプシン測定法

著者: 上田昌伺 ,   真柴新一 ,   内田壱夫

ページ範囲:P.293 - P.296

1.はじめに
 α1アンチトリプシン(AT)は血清中に存在する代表的なセリンプロテアーゼインヒビターであり,好中球などの炎症細胞から放出されるプロテアーゼを不活性化することで組織障害を抑制する.一方でATは炎症時に好中球などから放出されるフリーラジカルにより酸化され失活することも知られている.この酸化失活は活性中心のメチオニン残基の酸化が原因であるとされており1),フリーラジカルの関与が考えられている疾患において酸化失活したATが検出されている2)
 本稿では,われわれが作製した抗ヒト酸化型AT抗体を用いた血中酸化ATの測定について述べる.

血管内皮細胞の酸化LDL受容体LOX-1

著者: 沢村達也

ページ範囲:P.297 - P.301

1.はじめに
 酸化LDLが動脈硬化の病態生理に重要な役割を果たしているのではないかと考えられるようになって10年以上がたつ.これは動脈硬化巣で特徴的に見られる泡沫細胞形成の過程にLDLよりも何らかの修飾を受けたLDLがマクロファージにより取り込まれることによるらしいという観察と,修飾を受けたLDLとして酸化LDLが実際に生体内に存在し,泡沫細胞の誘導が可能であることから始まった.
 一方,近年の一酸化窒素,エンドセリンなどの内皮細胞由来の血管弛緩,収縮因子,IL-8やMCP-1などのケモカイン,セレクチンやVCAM-1, ICAM-1などの細胞接着因子など血管内皮細胞の機能に重要な分子の相次ぐ発見により,血管内皮細胞の血管機能における役割の重要性が注目を浴びるようになってきた.そしてこれらの分子の病態における動態の解析の結果,酸化LDLが内皮細胞の機能変化を引き起こすという点でも重要な因子であることがわかってきた.酸化LDLで誘導される"endothelial dysfunction"と呼ばれる内皮細胞の変化は一酸化窒素の産生低下や各種増殖因子,接着分子の産生亢進などを指し,高脂血症や動脈硬化症下での血管弛緩能の低下や内膜における平滑筋増殖,白血球の血管への接着,侵入などの血管機能変化を導くと考えられている1,2)

再灌流による組織障害―再灌流心筋障害

著者: 林秀晴

ページ範囲:P.302 - P.305

1.はじめに
 再灌流による組織障害は,脳,肝臓,骨格筋を含む種々の臓器で報告されているが,本稿では心筋における再灌流障害に関して概説する.急性心筋梗塞患者で冠動脈内の血栓が自然溶解したり,異型狭心症患者で冠動脈の攣縮(spasm)が解除すると,血流の再開により再灌流が起こる.近年,急性心筋梗塞症の治療として,冠動脈バイパス手術のほかに血栓溶解療法やバルーンカテーテルを用いた冠動脈形成術(percutaneous transmural coronary angioplasty; PTCA)による再灌流療法が一般化している.このため,血流の再開が心筋や血管に却って障害をきたす再灌流障害の発生機構の解明とその対策が,重要な課題となっている.

今月の表紙 帰ってきた寄生虫シリーズ・15

糞線虫

著者: 藤田紘一郎

ページ範囲:P.232 - P.233

 糞線虫(Strongyloides stercoralis)は熱帯・亜熱帯地域に広く分布し,2億人の感染者がいると推定されている.日本では沖縄を中心に南西諸島に広く分布している.寄生世代の雌成虫は,ヒトの小腸上部粘膜内に寄生して単為生殖によって産卵する.虫卵は粘膜内で孵化し,ラブジチス型(R型)幼虫となって腸管腔内に現れ,糞便中に排泄される.R型幼虫には感染力がなく,外界で発育してフィラリア型(F型)幼虫となってはじめてヒトに経皮感染する.また,一部のR型幼虫は雌雄の成虫となり外界で自由生活を行い,交尾後産卵し,孵化したR型幼虫はF型幼虫に発育してヒトに経皮感染する.
 経皮感染したF型幼虫は血流によって肺に運ばれ,発育後気管をさかのぼり,咽頭,食道を経て小腸上部に寄生する.便秘や発熱時,免疫抑制時には幼虫が腸管下降時に発育してF型幼虫となり,大腸粘膜から組織に侵入して肺に運ばれ,自家感染が起こる.

コーヒーブレイク

郡山の学会から

著者: 屋形稔

ページ範囲:P.288 - P.288

 20世紀最後の第47回日本臨床病理学会は福島医科大学吉田浩教授の主宰で「21世紀への飛翔」というキャッチフレーズで郡山市で開かれた.吉田氏は夙に誠実な人柄と幅広い学問を積み重ねてきた学徒で,総会もそれを反映して暖かい雰囲気であった.このときにまた学会名称改定の議が認められ,日本臨床検査医学会と改められることになった.あたかも2001年は学会発足後50年の節目となるので1つのエポックとなる学会でもあった.
 私にとっても郡山は3代前までの先祖の墓石が並んでいるゆかりの土地でもある.昔相馬藩からここへ移ってきて以来,代々漢法医であったから墓碑名もすべて代が変るだけで屋形玄伯と刻してある.明治の始め祖父が3里ほど離れた須賀川に開校した医学校を卒業して西洋医となり,仙台医学校を出た父も須賀川の近くに開業して私を育ててくれた.

シリーズ最新医学講座―免疫機能検査・3

妊娠成立の免疫機能

著者: 藤井知行 ,   武谷雄二

ページ範囲:P.307 - P.312

同種移植片としての胎児
 胎児と胎盤の胎児側成分である絨毛細胞はその組織適合性抗原を半分父親から受け継いでおり,免疫学的に父親の性質を有している.したがって,胎児は,母体からみると半同種移植片ということになる.妊娠は,受精卵が子宮内膜の中に入り込んで着床し,胎盤を形成して母体との物質交換系を確立することで成立する.免疫学的にはこの現象は胎児が子宮の中に移植されている状態とみなすことができ,母体にとって異物である胎児は,本来は母体免疫系から拒絶されるべき運命にあるということになる.しかし,実際は拒絶を免れ,母体内で約9か月間発育する.この現象は従来の移植免疫学では説明が困難で,何らかの特殊な免疫機構の存在が考えられる.この特殊な免疫機構の仕組みを最初に唱えたのがMedawarである.

トピックス

呼吸器領域における蛍光内視鏡診断

著者: 池田徳彦 ,   清水恵理子 ,   垣花昌俊 ,   古川欣也 ,   奥仲哲弥 ,   小中千守 ,   加藤治文

ページ範囲:P.313 - P.314

1.はじめに
 癌の部位別死亡者数で,肺癌は男性において1位になり,女性でも増加を続けている.肺癌撲滅のためには早期肺癌の発見と癌予防が必須と考えられる.早期肺癌の発見を目指した検診において,胸部X線検査と喀痰細胞診が行われているが,喀痰細胞診によって発見された癌は比較的良好な予後を期待できる.しかし上皮内癌や異型扁平上皮化生などの微細な病変は通常の白色光気管支鏡では所見を捉えることが困難な場合がある.この問題を解決すべく,正常組織と病変部における自家蛍光の差に着目することにより従来の内視鏡では不可視の病変を診断する診断法(蛍光診断)が開発された.

細胞診モノレイヤー標本―有用性とその将来

著者: 高松潔 ,   照井仁美 ,   長島義男 ,   齊藤深雪 ,   太田博明 ,   野澤志朗 ,   向井萬起男

ページ範囲:P.315 - P.318

1.はじめに
 Papanicolaouらにより細胞診が1つの技法として開発されてから,はや半世紀がたとうとしている.この間に細胞診は癌検診などの手法として広く浸透し,その存在意義が確立されており,細胞診の有用性については異論はないであろう.しかし,従来のスライドグラスへの直接塗抹法では,採取した検体の20~30%程度しか塗抹されず70~80%の細胞が採取器具上に残存されたまま廃棄される,スライドグラス上に均一に塗抹されない,標本の背景にある血液,粘液,debrisなどにより不明瞭域を作ることがある,などといった問題点があり,正確な診断の妨げ,特に偽陰性の原因となっていることが指摘されている1~3).また,近年のコンピュータ技術の進歩に伴う画像処理能力の飛躍的発展は,従来の顕微鏡を用いたヒトの目による細胞診断を自動化する可能性を現実のものとしつつあるが,この細胞診断の自動化のためにも背景がきれいで細胞の重なりの少ない標準化された標本が必要となる.そこでこれらの問題を解決するために,近年米国を中心に,新しい標本作製法により作製されたモノレイヤー標本4,5)が臨床に導入されており,本邦においても利用が可能になっている.
 本稿ではモノレイヤー標本の実際について概説する.

質疑応答 臨床生理

エアーカロリック検査の温度設定

著者: K生 ,   國弘幸伸 ,   神崎仁

ページ範囲:P.319 - P.320

 Q 平衡機能検査の1つとしてエアーカロリック検査を行っています(20°,50℃,1分間刺激).検査終了後に吐き気・嘔吐など気分を悪くする患者さんが時々あり困っております.
 このようなことを少なくし,臨床的にも役立つデータを得るには,温度設定をどのくらいにすればよいのでしょうか.ご教示下さい.

研究

新しい抗α-synuclein抗体の作成とその特性に関する検討

著者: 原幸子 ,   太田茂子 ,   大森智弘 ,   林恵美子 ,   今関ひろみ ,   谷合修 ,   三宅和夫 ,   松下幸生 ,   高橋久雄 ,   村松太郎 ,   臼田信光 ,   荒井啓行 ,   樋口進

ページ範囲:P.321 - P.325

 Synuclein蛋白は,α,β,γの3種類あり,なかでも,α-synuclein蛋白は,ヒトの4番染色体に位置するアミノ酸140からなる蛋白で,その機能は十分に解明されていないが,神経変性疾患の中心的役割を担っているのではないかと考えられている.
 われわれはα-synuclein蛋白のC末端のアミノ酸配列からポリペプチドを合成し抗α-synuclein抗体(α-SYN)を作成した.α-SYNは鮮明にLewy小体を免疫組織染色で認識した.Western blotting法でも,脳組織およびrecombinantα-synuclein蛋白と反応し,吸収試験において特異性を確認した.これらから,われわれの作製したα-SYNは,免疫組織染色,Western blotting法に極めて有用な抗体であると考えられる.

リサイクルを主軸にした環境保全型パパニコロウ染色

著者: 野畑真奈美 ,   中根昌洋 ,   中村清忠 ,   中井美恵子 ,   山田義広

ページ範囲:P.327 - P.330

 刈谷総合病院では,医療における環境対策を推進するために積極的に活動している.
 環境に配慮したパパニコロウ染色は,病理科の取り組みの1例である.リサイクルによる循環型の溶剤利用システムを取り入れ,使用する科学物質は,低毒性のものへの移行や削減を図っている.リサイクルは,日常業務に無理なく組み込まれ,標本の質もほとんど変化が見られなかった.これにより使用量,廃棄量の大幅削減が可能となった.

学会だより 第42回日本臨床血液学会総会

20世紀から21世紀へ:Genomeからpostgenomeの時代の臨床血液学

著者: 加藤淳

ページ範囲:P.326 - P.326

 第42回日本臨床血液学会総会は,川崎医科大学血液内科教授八幡義人会長のもと,2000年11月8~10日3日間にわたり倉敷市で開催された.本学会の特徴としては,八幡会長の方針で一般演題660題のうちから特に優れたものを選抜したplenary oral ses-sion 25題が新設されたことと,教育講演がこれまでになく25題と数が多く充実していた点が挙げられるが,特に教育講演は血液学を志して間もない比較的若い会員の間で好評であった.また今回から日本臨床血液学会学会賞が設けられたが,今後若い世代の研究意欲を鼓舞することであろう.
 学会の構成は,会長講演,一般演題のほかに,招請講演,会長推薦講演は,シンポジウムが各6題であった.会長講演は,"Genomeからpostgenoneの時代へ:赤血球膜異常症の研究から"という題名で,赤血球膜異常症の発症機序について,1974年から今日に至るまで川崎医科大学で検索された約800症例を中心とした総説であったが,わが国の第一人者としてその道一筋に歩んで来られた八幡会長の真摯な研究姿勢に感銘を受けた会員は少なくなかったであろう.

第47回日本臨床病理学会総会

変貌を遂げる日本臨床病理学会

著者: 磯部和正

ページ範囲:P.338 - P.338

 第47回日本臨床病理学会総会は,福島県立医科大学臨床検査医学教授の吉田浩総会長のもと,2000年11月2~4目の3日間郡山市の産業展示館ビッグパレットふくしまで開催された."21世紀への臨床検査への飛翔"というテーマのもと,総会長講演,特別講演2題,招待講演2題,教育講演12題,シンポジウム11テーマ61題,フォーラム7題,R-CPC2症例,一般演題(口演157題,ポスター237題),専門部会講演会3題,機器試薬セミナー12題,標準委員会,臨床検査標準化協議会報告とテーマに相応しい内容の会であった.
 本総会は今回で47回と半世紀近い歴史を持つが,臨床病理学会が11月3日付けで,日本臨床検査医学会という名称に変更になった.全国の大学医学部の講座名の多くが臨床検査医学であり,また,臨床検査医学のほうがより内容を表していることを考えるといたしかたないと言える.2000年が臨床病理学会の最後の年となったわけである.2000年の臨床病理学会は,10月30,31日に仙台市で開催された第40回日本臨床化学会年会に連続して開催されたが,2001年度は合同で8月にパシフィコ横浜で開催される.これも時代の流れで,学会開催の統合化が進められている.

21世紀の医療を支える臨床検査医学

著者: 石橋みどり

ページ範囲:P.339 - P.339

 20世紀最後そしておそらく"臨床病理"という名の最後の学会となるであろう"第47回日本臨床病理学会総会"は福島県立医科大学の吉田浩教授を総会長に,郡山市にある福島県産業展示館"ビッグパレットふくしま"で2000年11月2~4日の3日間開催された.
 郡山は丁度紅葉の季節で,街のあちこちにある銀杏や家の外壁に絡まるツタの葉が美しく色づいていた.

資料

心エコー図検査時に観察された食道病変

著者: 谷内亮水 ,   清遠由美 ,   山﨑由紀 ,   北添寛 ,   沼本敏

ページ範囲:P.331 - P.334

 われわれは,1996年11月~1999年10月までの3年間に心エコー図検査時に,左房後方の腫瘤エコーとして観察された7例の食道病変を経験した.病変は,食道癌4例,食道裂孔ヘルニア2例,アカラシア1例であった.食道癌4例中3例は低エコーの中心に強いエコーを有する所見であった.腫瘍でない3例は,消化管の一部が腫瘍様に描出されたものであった.食道病変を有する患者の心エコーを行う場合には,その観察を行うことも重要である.

編集者への手紙

血清尿素窒素(BUN)測定時に認められた分析機器間における測定値の乖離現象

著者: 山田満廣 ,   河村ゆき江 ,   南口隆男 ,   小味渕智雄

ページ範囲:P.335 - P.337

1.緒言
 当病院臨床検査部門の臨床化学検査では,血清尿素窒素(BUN)の測定にアンモニア消去法に基づいた(株)セロテックのウレアービ・GLDH-UV法による"UN-SL試薬"を採用し,これを日立7170形および7350形自動分析装置に適用のうえ日常検査に対応している.さらに,7170形については当直時間帯を含め24時間体制の中で稼働している.この間,1999年10月末より7170形と7350形自動分析装置間において明らかな測定値の乖離が認められるようになった.そこで同社の協力を得,その原因を追求すべく小実験を施行したのでその結果について報告する.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up
あなたは医療従事者ですか?