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雑誌目次

雑誌文献

臨床検査49巻9号

2005年09月発行

雑誌目次

今月の主題 キャピラリー電気泳動法 巻頭言

期待される「キャピラリー電気泳動法」

著者: 片山善章

ページ範囲:P.933 - P.934

臨床化学分析法を試料中の成分を対象にして分類をすると共存分析法と分離分析法となる.共存分析法とは臨床化学分析の大部分を占め,多成分系の中から1つの成分を特異的に分析する方法である.臨床検査の内容から分類をすれば,自動分析装置で分析されている日常検査である.最近はRI法で分析されていた超微量成分が,高感度免疫学的測定法が開発されて,しかも自動化されて簡単に,短時間に分析できるようになり,腫瘍,心筋,感染症マーカーやホルモン検査までが日常検査に分類されるようになってきたことは周知のとおりである.

 一方,分離分析はガスクロマトグラフィー(GC),高速液体クロマトグラフィー(HPLC),電気泳動法などで分析する方法であり,GCは歴史的にも古くから利用されてきた分離分析法であるが,試料の前処理が必要であるために方法としては臨床検査の分野では普及しなかった.それに代わるクロマトグラフィーとしてHPLCは,現在ではHbA1cやカテコールアミン測定法として広く普及している.

総説

キャピラリー電気泳動法がもつ多面的分析能

著者: 本田進

ページ範囲:P.935 - P.947

〔SUMMARY〕 キャピラリー電気泳動法は高い分離能をもち,高感度で再現性の高い分離分析法であり,しかも自由溶液中で行われるため,この単相性に基づく特性を兼ね備えている.このゆえに多モード分析が容易であり,高信頼性分析が達成できる.また,インキャピラリー誘導体化ができ,微量試料を用いた高速自動分析が可能である.さらに,分子間相互作用のリアルタイム解析ができるため,分子生物学的に価値が高い.試料溶液が微小であるため単一細胞分析にも向いており,今後の発展が予測できる.本特集ではこのような多面的分析能をもつキャピラリー電気泳動の臨床分析への応用の可能性について述べる.〔臨床検査 49:935-947,2005〕

キャピラリー電気泳動法により得られるエレクトロフェログラムの標準化

著者: 廣川健 ,   育田夏樹

ページ範囲:P.949 - P.959

〔SUMMARY〕 キャピラリー電気泳動法は迅速かつ高分離能でバイオ関連試料・環境試料などの分析に広く利用されているが,データの標準化という面で分光分析法など他の分析法に較べ立ち後れている.その主な理由は,得られるエレクトロフェログラムの泳動時間(定性指標)がハードウエアに依存するためである.われわれは,キャピラリーゾーン電気泳動法では泳動時間の代わりに基準温度での実効移動度を,ミセル動電クロマトグラフィーでは容量比を用いることにより,支持電解液が同じであれば,異なる実験条件であっても比較可能なフェログラムが得られることを明らかにした.本稿では,このような標準化法の概要と応用例について紹介する.〔臨床検査 49:949-959,2005〕

各論

生体試料中の薬物分析

著者: 北橋俊博

ページ範囲:P.961 - P.967

〔SUMMARY〕 キャピラリー電気泳動法による生体試料中の薬物分析に関して,分析条件を確立するまでの手法,すなわちキャピラリー内での分離モードの選定,高感度分析法,試料の前処理法,確立した測定法の評価法について概説し,筆者が開発した方法による臨床検査で実施できる各種薬物の分析例を紹介して,これから実際にキャピラリー電気泳動法を用いて分析をしようとする場合の参考になるように論述した.〔臨床検査 49:961-967,2005〕

キャピラリー電気泳動法の臨床検査への展開

著者: 宇治義則 ,   姫野真悟 ,   吉田千晶

ページ範囲:P.969 - P.974

〔SUMMARY〕 日常臨床検査法には高い特異性に加え迅速性,簡便性,良好な再現性,経済性などが要求される.キャピラリー電気泳動法は,これらの要件を満たし得る分析法の一法と考えられる.本稿ではキャピラリー電気泳動法を用いた日常検査法として,蛋白分画,酵素アイソザイムの分析,M蛋白の同定,HBs抗原の測定,血清リポ蛋白分画の測定について自験例を概説した.〔臨床検査 49:969-974,2005〕

血清蛋白分画のパターン分析による病態解析

著者: 三宅紀子 ,   山田俊幸

ページ範囲:P.975 - P.980

〔SUMMARY〕 キャピラリーゾーン電気泳動法(CZE)は分解能に優れている.このため,Alb~γ-globulinの5分画の増減だけでなく,各分画内の代表的成分の増減を推定できる.ここで蛋白分画で病態が推定できる疾患についてCZEでみられる変化をまとめた.さらに,M蛋白血症の検出感度などについてもまとめた.〔臨床検査 49:975-980,2005〕

技術解説

キャピラリーDNAシークエンサー

著者: 穴沢隆 ,   植松千宗

ページ範囲:P.982 - P.988

〔SUMMARY〕 多数のキャピラリーに効率良くレーザービームを照射し,高感度に蛍光検出する技術の開発により,DNAシークエンサーはスラブゲル型からキャピラリー型に発展した.その結果,塩基配列の解読スループットは二桁程度も向上し,ヒトゲノム完全解読に大きく貢献した.また,繰り返しの自動操作が可能となったため,分析コストが著しく低減し,信頼性が向上した.今後,DNAシークエンサーはライフサイエンスの基本技術であり続けると同時に,臨床を始めとする様々な産業分野に応用されることが期待される.〔臨床検査 49:982-988,2005〕

話題

キャピラリー電気泳動法の考古学への応用―文化財科学のできること

著者: 佐々木良子

ページ範囲:P.989 - P.997

1.はじめに

 近年,三内丸山遺跡(青森県),加茂岩倉遺跡(島根県),飛鳥池古墳・キトラ古墳(奈良)など,遺跡の発掘結果が報じられることが多く,その発掘遺物の分析・保存に当たり,様々な科学的手法が用いられていることもよく知られるようになってきた.遺跡が発見されると,その遺跡や遺物が歴史的にどのような意味をもつのか,すなわち出土した遺物について,その時代を推定し,材質や作製技法より作製の目的や製作者を考えるのが,考古学を含めた歴史学の役割である.文化財科学は,遺跡の探査,年代測定,遺物の材質分析,保存処理の分野で貢献している1,2)14C年代測定法,年輪年代分析法などの年代測定については,弥生時代の開始をめぐって近年考古学会などで論議がなされている3).また文化財保存科学の成果が遺構の硬化や転写,更に遺物のさび取り,脱塩,樹脂による補強などの技術として用いられており,例えば,地層の剝ぎ取り面の展示として博物館でみることができる.最近ではこのような技術に日本古来の装こうの技術を取り入れ,キトラ古墳の壁画の剝ぎ取りを行っている.このように,現在では考古学を含む歴史学の調査・研究に文化財科学という学問領域が貢献している.ここでは保存・展示の基礎となる“遺物の材質分析”について分析化学的アプローチを紹介する.

糖鎖解析―糖鎖の変化と病態

著者: 掛樋一晃 ,   木下充弘

ページ範囲:P.999 - P.1005

1. はじめに

 生体内の蛋白質のうち約50%は糖鎖が結合した糖蛋白質であるといわれている.糖蛋白質中の糖鎖は,発生,分化,癌転移,蛋白質の輸送機構,老化,ホルモンの活性調節など広く生命現象に関与することが明らかになりつつある.また,糖鎖は炎症,リウマチ,肝硬変などの種々の疾患や癌化に伴い特徴的な構造変化を起こすことが明らかにされつつあり,診断マーカーとしても糖鎖は注目されつつある.

 癌や炎症などの様々な病態時に糖蛋白質の糖鎖が質的あるいは量的に変化することが注目され,これらを解析するための技術も目覚しく進歩した.なかでも,キャピラリー電気泳動法(CE)は現在最も高感度かつ高分解能分離が期待できる分析法であり,紫外部吸収検出だけでなく,レーザー励起蛍光検出法を組み合わせることにより10-15~10-18molという超微量の糖鎖を検出することができるため,生体組織や血清などから得られた微量の複合糖質試料中の糖鎖解析にも対応できる.

 本稿ではCEを利用する糖鎖解析について,蛋白質より遊離したN結合型糖鎖を解析する方法と,糖鎖構造の違いに基づく蛋白質のマルチフォームであるグライコフォームを糖鎖構造の違いに基づき直接解析する方法の臨床応用について解説する.また,CEの高速化を目指したマイクロチップ電気泳動によるグリコサミノグリカン類の簡易分析法についても紹介する.

HbA1C測定標準化と毛細管電気泳動法

著者: 梅本雅夫

ページ範囲:P.1007 - P.1010

1.DCCTのレファレンス法

 DCCT(the Diabetes Control and Complication Trial)1)のHPLCを用いるレファレンス法(reference method)を基にした,米国NGSPによる標準化2)の成果が,2003年のCAP(the College of American Pathologists)サーベイで著しい効果を上げ,それが国際的に認知され,同様のシステムが日本,スウェーデン,英国などの主要国で採用された.しかし,このDCCTのレファレンス法はHPLCを用いており,DCCTと全く同じシステムを採用しない限り,用いるカラム,溶出条件などによりHbA1Cの値は異なる.すなわちDCCTの基準はSI単位のように確固たる基礎のもとに確立をされたものでないため,時間的,地理的に一定の値を維持するのは極めて困難といえる.

 1998年に発足したIFCC HbA1C WG (the IFCC Working Group on HbA1C Standardization)は,2002年にHbA1Cの明確な定義と測定方法を発表した3).これはSI単位にトレーサブルな測定方法であり,時間的にも地理的にも一定の値を提供できることから,現在では各国の標準化の中心的存在,すなわちグローバルスタンダードとして認知されている4,5).これは,IFCCの値に統一するのではなく,各国がそれぞれの値を維持できるような,世界的な基準を提供することとして理解されている.しかし,ヨーロッパ,日本などにおいて,近い将来にIFCCのレファレンス法による値に統一するための努力が行われている.

マイクロチップ電気泳動による酸化ストレスマーカー迅速アッセイ

著者: 宮道隆 ,   脇田慎一

ページ範囲:P.1011 - P.1014

1.はじめに

 近年,生体の感染防御などの抗酸化制御システムを逸脱した,強い酸化力を有する活性酸素種(ROS),活性窒素種(RNS)やフリーラジカルなどが,生活習慣病などの疾患に関与することが報告され,大きな関心を集めている.酸化ストレスは,生体内の酸化力が抗酸化力を上回った状況と定義され,DNA,蛋白質,脂質などに直接反応して酸化損傷を与え,さらに,その酸化損傷物質は細胞内情報伝達などのシグナル分子として機能することも明らかにされている.

 酸化ストレスマーカーには,ROS,RNSやフリーラジカルおよびその代謝物,さらに,核酸,蛋白質や脂質の酸化損傷物など数多く報告されている1).これらのマーカーを使った酸化ストレス評価は,酸化ストレスの種類や強さ,傷害の進行度を反映したものであり,種々の疾患の予防医学的観点から重要である2).酸化ストレス応答は個体差や生活環境による変動があるため,マーカー濃度の経時的変化の観察が重要であると考えられる.現在,マーカーの分析には,おもにHPLC, ELISAや比色キットが用いられているが,煩雑な操作や長い測定時間に課題がある.

 筆者らは,半導体微細加工技術により作製したマイクロ流体デバイスを利用する迅速なアッセイ法の研究開発を行っている.例えば,分離分析のマイクロ流体デバイス化により,物理的な,試料,試薬や廃液の少量化のみならず,化学的な,界面反応や伝熱の迅速化および分離能の大幅な向上が原理的に可能となる.ここでは,典型的なRNSである一酸化窒素(NO)の代謝物および,8-ハイドロキシ-2′-デオキシグアノシン(8-OHdG)などのDNA酸化損傷代謝物の簡便かつ迅速なアッセイ法を報告する.

CE-MSを用いたメタボローム解析

著者: 西岡孝明 ,   曽我朋義

ページ範囲:P.1015 - P.1020

1.はじめに

 mRNAや蛋白質の網羅的解析によって多量のデータが得られるにもかかわらず,それらが複雑なクラスターやネットワークで互いに関係づけられているので,ごく一部のデータしか利用されていない.多くのデータはその生物学的意味を解釈できずに放置されている.この解釈がバイオインフォマティクスの課題といえる.

 この課題に対して,メタボロームが1つの解決策を与えることがわかってきた.すなわち,メタボロームのデータの上にトランスクリプトームやプロテオームのデータを重ね合わせると,これまで不明瞭であった後者2つの生物学的意味がわかりだしてきたのである1).すなわち,メタボロームはゲノム情報が環境と相互作用するシステムである,ことが認識されつつある.したがって,メタボロームの化学分析は,ゲノム科学をはじめ科学や医療,創薬,生物工学の分野で必要不可欠な技術となっている.

 本章では,われわれが実用化に成功したCE-MSを用いた水溶性代謝物質のメタボローム化学分析法について技術解説を行う.

製薬製剤の品質管理

著者: 西博行

ページ範囲:P.1021 - P.1026

1.医薬品の品質評価

 医薬品の安全性・有効性は,その品質が十分に確保されていることにより担保される.医薬品の品質は,製造(Good Manufacturing Practice;GMP)と評価法が定められている「規格及び試験方法」により保証されるが,その規格の例としては日本薬局方(Japanese pharmacopoeia;JP)が参考になる.また,新規医薬品であれば,日米EU医薬品規制調和国際会議(International Conference on Harmonization;ICH)で合意されている,品質に関するQ(Quality)パートに様々なガイドライン1)が出されており,その中のQ6AおよびQ6Bに指針がある.

 医薬品の品質評価を行う試験項目には,その製造法や医薬品の物性,安定性などを考量し,定量法をはじめ,様々な項目が合理的に設定されている.また,製剤であればその製剤に特有な性能を評価する試験項目が加えられる.例えば,エアゾール剤であれば噴射時間と噴射量の関係などがある.医薬品の品質はこのようなGMP下での製造と多種多様な試験により担保されるが,試験項目のエッセンスとしては,性状,確認試験,純度試験それに定量法が挙げられる.この純度試験や定量法の多くに,高速液体クロマトグラフィー(high performance liquid chromatography;HPLC)を代表とする分離分析法が採用されている.

今月の表紙 染色体検査・3

染色体核型記載法(ISCN 1995)

著者: 別府弘規

ページ範囲:P.930 - P.932

 細胞遺伝学における検査結果である染色体核型の記載方法は“International System for Human Cytogenetic Nomenclature”(ISCN)で規定されている.その染色体命名法の基礎はDenver Conference(1960)で作成された,ヒト基本核型の表記にはじまる.その後Paris Conference(1971)で分染法による核型記載法が決定された.Stockholm Conference(1977)では,それまで決まっていた命名法を統一し,名称もISCNとして“ISCN 1978”として発表された.その後,白血病や腫瘍の核型記載法として“ISCN 1991”が発表され,現在広く使われているのは,FISHの記載方法を取り入れた“ISCN 1995”である.

 今回は,白血病・腫瘍を対象として実施する染色体検査で,比較的よく目にする染色体異常について,“ISCN 1995”を用いた記載方法を解説する.

コーヒーブレイク

永年の友

著者: 屋形稔

ページ範囲:P.968 - P.968

 少年の頃小説や映画で評判になった蛇姫様という人情,チャンバラのドラマがあった.これは徳川の代に烏山藩という小国を舞台にしていたので一度栃木県にあるこの町に行ってみたいものと考えていた.

 はしなくも旧制高校を終えて大学に進むと,この町出身で二高(仙台)から来たAと一緒になった.お互い寮生活で委員長をやっていたことから友人になるのに時間がかからなかった.しかし爾来60年もの長い間あまりいさかいもせず,大切な時は扶け合って(私の方が扶けられることが多かった)今日に及ぶとは思いもしなかった.

「患者様」と正しい医療

著者: 寺田秀夫

ページ範囲:P.1006 - P.1006

 過日,某新聞の「日本語の現場」というテーマの連載の一つとして「患者様」という言葉が取り上げられていた.近年病院で広く使われているこの“患者様”という呼び方に読者の7割以上の方が批判的な意見をメールやファックスで寄せていた.

 その理由として患者さんを金を払ってくれるお客さんというイメージ,もみ手しながら客を待ち構えているような姿が目に浮かび,銀行やデパートで耳にする「様」を連想するという.

シリーズ最新医学講座 臨床現場における薬毒物検査の実際・7

確認分析法(臨床現場におけるGC/MSの活用)

著者: 原克子 ,   小宮山豊 ,   山本透 ,   高橋伯夫

ページ範囲:P.1027 - P.1035

はじめに

 ガスクロマトグラフィー質量分析(Gas Chromatography―Mass Spectrometry;GC/MS)1)は,ガスクロマトグラフィーと質量分析の組合せた機器で,高感度であり気化しやすい多成分混合物や微量化合物の定性,定量に用いる分析機器である.血液や尿などに含まれる種々の成分をまずGCで別々に分離(ガスクロマトグラム)し,分離された個々の成分を直接MSに導き試料分子に直接中性子を衝突させイオン化し,生成された分子イオンおよび分解イオンのマススペクトル(EIフラグメントイオン:検出器を通過したすべてのイオンを記録するtotal ion current;TICや特定の化合物に特徴的なイオンを検出するselected ion monitoring;SIM)を測定する.GC/MSには,化合物の分子量はもとより,その構造について多くのライブラリが備え付けてあり,容易に同定および定量が行える.これまでは,環境化学分析(特に最近では,ダイオキシン類分析),犯罪に関係した科学捜査に関する分析(科学捜査研究所),法医学の分野で広く用いられてきたが,病院の臨床現場,特に日常検査での分析には,高速液体クロマトグラフィー(HPLC)が主流とされ,GC/MSでの分析はほとんどなされていなかった.しかし,東京の地下鉄サリン事件,和歌山毒物カレー事件,新潟アジ化ナトリウム事件および薬毒物混入事件などを機に,中毒災害やテロリズム被害の防止に向けた認識が高まり,国内での対応策および中毒起因物質の分析施設が要求された.その一環として1998年当時の厚生省(現在の厚生労働省)より,全国の高度救命救急センターおよび救急病院に分析機器(GC/MS,HPLCなど)の配備2)がなされ,病院の中央検査部においても薬毒物分析が行われるようになった.

 高度救命救急センターを有する当院もこれを受け,薬物,農薬,自然毒などの分析を行っており,GC/MSでは,主に農薬,自然毒,未知物質の同定を行っている.分析対象症例が中毒事故であるため,患者搬入時より適切な治療と特異的な拮抗剤投与など開始されるため,臨床現場への早急な起因物質の推定ならびに測定結果の報告が要求される.本稿では,当院におけるGC/MS分析での早急な臨床対応が可能な前処理や,中毒症例の経時的分析と治療について紹介する.

トピックス

アミノ酸トランスポーターの役割と意義―LAT 1(L-type amino acid transporter 1)の腫瘍性病変での発現

著者: 齋藤生朗 ,   堀田綾子 ,   坂本穆彦

ページ範囲:P.1036 - P.1038

1.はじめに

 近年の薬理学・分子生物的研究の発達により,生体内への薬物ないし物質の取り込みに関与する膜輸送蛋白質(トランスポーター)が多数解明されている1~3).中でもLAT 1(L-type aminoacid transporter 1)を中心としたアミノ酸トランスポーターは,細胞増殖に要するアミノ酸の細胞質内への取り込みに関与しており,正常組織のみならず,腫瘍性病変での発現が多数確認されている4~18).また,LAT 1抑制を応用した治療薬の開発も試みられている19).本論では,LAT 1を中心としたアミノ酸トランスポーターについての概略とその腫瘍性病変における発現とその応用について述べる.

資料

国内で販売されている10種類の高感度キットを用いた異なるHBV genotype由来HBs抗原の検出

著者: 水落利明 ,   岡田義昭 ,   梅森清子 ,   水沢左衛子 ,   佐藤進一郎 ,   山口一成

ページ範囲:P.1039 - P.1042

〔SUMMARY〕 国内で販売されている10種類の高感度HBs抗原検出キットを用いて,HBV(B型肝炎ウイルス)genotype A, B, C由来のHBs抗原(HBVウイルス外被抗原)の検出を行った.すべてのキットにおいて,genotypeの違いにかかわらずHBs抗原(0.2IU/ml)は陽性と判定された.しかし,キットによってはgenotype間での検出感度に明らかな差が見られるものがあった.ミュータント(変異)HBs抗原検出における問題点と比較してその原因を考察した.

学会だより 第46回日本臨床細胞学会春期総会

がん検診における細胞診の意義を考える

著者: 金城満

ページ範囲:P.1043 - P.1045

第46回日本臨床細胞学会春期総会は福岡西方沖地震から3か月がたち,復興への槌音の響く福岡市の国際会議場で5月25日開催された.

 1983年以来老人保健法により実施されてきた子宮がん検診は子宮頸癌による死亡率を着実に減少させた.一方がん検診による死亡率の減少が明確でない腫瘍もあり,今後の行政の対応が問題となっている.そのような社会的背景で,本学会長の柏村正道教授は長年関与された子宮頸癌検診の経験から,「がん検診の明日をめざして」を本学会の主題とされ,子宮がん検診,肺癌検診,乳がん検診などの話題を主に取り上げることになった.

がん検診の大切さを改めて認識して

著者: 是松元子

ページ範囲:P.1045 - P.1046

第46回日本臨床細胞学会春期総会は産業医科大学産婦人科柏村正道学会長のもと2005年5月26,27,28日福岡国際会議場で開催された.日本臨床細胞学会は春期大会(総会)と秋期大会と年二回開催されるが,このところ首都圏での開催が続いており,久しぶりの地方都市での学会で,特に九州では13年ぶりの開催ということで,2,600人の参加があったそうである.新緑の季節,好天に恵まれ広々とした開放的な会場でゆったりとした,整然とした雰囲気の学会であった.

 今学会のメインテーマは「がん検診の明日をめざして」というもので,長く子宮がん検診に携わってこられた学会長の思いが感じられるテーマであった.メインテーマに沿って,シンポジウム1では「肺がん検診の明日は」シンポジウム2では「乳がん検診と細胞診」ワークショップ3では「Liquid Base Cytology(Thinlayer法のがん検診への応用)」と各臓器の検診にかかわる問題点が様々な視点から発表された.会長講演では「子宮がん検診の現状と今後の展望」と題され,柏村先生が取り組んでこられた子宮がん検診の歴史について,また精度管理の方法や重要性に関して講演された.日常的であるが重要なお話であり,大きなメインホールは聴衆であふれていた.われわれ細胞検査士も何らかの形で検診細胞診に携わるものが多いが,特に昨今の行政検診の見直しにより検診業務を主体とする職場に勤務する細胞検査士は配置転換を余儀なくされたり,職を失う危機感があったりと不安定な環境に置かれている.色々なことが時代によって変化するのはある程度自然なことではあるが,体がん検診の中止や頸がん検診の隔年実施は納得いくものではないと思われる.検診の有効,無効を何で判断しているのか.欧米に比べてのわが国の検診率の低さをどう解決するのか.与えられた検体について精度の高い結果を出すことに日々努力していくことはもちろんであるが,臨床医,細胞診専門医,細胞検査士の協力によって安定した検診体制の確立を目指していきたいものである.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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