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雑誌目次

雑誌文献

臨床検査51巻11号

2007年11月発行

雑誌目次

今月の主題 メタボリックシンドローム健診での注意点 巻頭言

わが国におけるメタボリックシンドローム健診の意義と臨床検査標準化

著者: 濱﨑直孝

ページ範囲:P.1157 - P.1158

 厚生労働省「標準的な健診・保健指導の在り方に関する検討会」は2006年(平成18年)5月26日に2008年度(平成20年度)から医療保険者に実施を義務付ける健診・保健指導プログラムをまとめた.40歳から74歳の被保険者に糖尿病などの生活習慣病,とりわけメタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)予防のための健診(特定健診)を義務化する試みである.健診結果の判定基準を策定して,それぞれの基準で保健指導を的確に行い,これらの疾病の予防を目的とするものである.これまでの厚生労働省の姿勢は,ともかく検診を行うという「プロセス重視の保健指導」であったのを,2008年度からは,健診の結果を基に標準化された保健指導を実施し「結果を出す保健指導」へ大きく方針を変換したことを意味している.厚生労働省としては,メタボリックシンドローム特定健診では,その健診結果に基づき,保健指導が必要な人,医療が必要な人,などに階層化を行い,それぞれの階層ごとに保険・医療指導を行うことで,国民の健康維持向上に役立てる方針である.この方針は予防的視点から,健診を基にして保健指導を徹底し,疾病に至る人々を減少させ,医療費削減を目指しているもので,2015年に2兆円の医療費削減が目標であるといわれている.

 この特定健診項目は,問診,身体計測(身長,体重,BMI,腹囲),理学的検査(身体診察),血圧測定,ならびに臨床検査8項目である.臨床検査8項目の内訳は,中性脂肪(TG),HDL-コレステロール,LDL-コレステロール,AST,ALT,γ-GT,空腹時血糖(または,HbA1C),尿検査(蛋白,糖)の8項目であり,計画当初の時点で検査対象とされていたクレアチニン,尿酸の臨床検査2項目は最終案では除外されている.このような健診項目の結果を基に,全国共通の判断基準を策定し保健指導を充実させるのが厚生労働省の狙いである.全国共通の判断基準を策定するためには,健診手順が全国一定の基準に則って行われなければ,全国的な判定基準を策定することは不可能になってくる.その意味で,特定健診実施に当たっての手順を定めることは非常に重要なことになる.

総論

メタボリックシンドローム健診の目的と概要

著者: 門脇孝

ページ範囲:P.1159 - P.1166

 糖尿病や心血管病の予備群として,内臓脂肪蓄積を基盤に血糖・血圧・脂質の異常が1人の患者に重積するメタボリックシンドロームの重要性が認識されている.2008年(平成20年)4月から開始されるメタボリックシンドローム健診は,現在1,900万人と推定されるメタボリックシンドローム有病者,予備群者を抽出し,リスクに応じて階層化して保健指導を行うことを目的としている.本特定健診では従来の基本健診とは異なるセットの健診項目とその基準値についても定められている.本健診の目的とその概要について,健診の具体的内容に重点をおきながら,概説した.

疾病の診断治療における長期的・体系的健診の重要性

著者: 清原裕

ページ範囲:P.1167 - P.1171

 久山町の疫学調査によれば,わが国の一般住民では生活習慣の欧米化によって時代とともにメタボリックシンドローム(MetS)の構成因子である肥満,耐糖能異常,高脂血症の代謝性疾患が急増している.最近の久山町集団の追跡調査では,MetSは脳梗塞,虚血性心疾患など心血管病発症の有意な危険因子となる.MetSに他の危険因子が合併すると心血管病のリスクが相乗的に上昇し,危険因子が集積した状態そのものが一つひとつの危険因子の影響を超えて心血管病のリスクを高めると考えられる.一方,診断基準によってMetSの頻度は2~4倍変化するため,日本人に最も適した診断基準を策定するうえで,今後さらなる疫学的な検証が必要である.

メタボリックシンドローム健診に対する日本医師会の考え方

著者: 内田健夫

ページ範囲:P.1173 - P.1179

 2008(平成20)年度4月より,特定健診・特定保健指導が医療保険者に義務づけられて実施される.特定健診は,市町村国保被保険者,健保等の被扶養者ともに,受診率向上,受診者の利便性から,地域医師会との契約により身近な個々の医療機関で,受診できるようにすることが求められている.また特定保健指導については,対象者の行動変容への動機づけの点から,初回面接においては医師が直接かかわり,保健師,管理栄養士等,他の職種と連携して実施されることが望ましい.

健診項目のエビデンス

著者: 福井次矢

ページ範囲:P.1181 - P.1185

 2004・05(平成16・17)年度の厚生労働科学研究で,一般健診項目の有効性評価を行った.エビデンス・レベルを評価した後,健診項目としてどの程度奨められるのか評価した.ランダム化比較試験などで健康アウトカムが改善するかどうか直接検証した研究は少なく,様々な研究の結果を組み合わせて(研究の連鎖で)判断が必要な項目が多かった.

 メタボリックシンドローム関係の血圧測定(推奨レベルA),身長と体重(BMI)の測定,空腹時血糖・HbA1c,脂質の測定(推奨レベルB)は,健診項目の要件をほぼ満たしていた.

健診検査のピットフォール

著者: 只野壽太郎

ページ範囲:P.1187 - P.1194

 2008年4月から老人保健法で行われてきた基本健康診査が医療保険者の義務となり,40歳から74歳を対象としたメタボリックシンドロームの特定健診と保健指導が実施される.これに伴い多くの健診施設では,健診内容の見直しや新しいシステム作りに追われている.健診の基本は,あくまで受診者データの総合判定による適切な指導に尽きるがデータ判定には様々な落とし穴がある.ここでは健診時の落とし穴の一部を紹介する.

検査前手順の重要性

著者: 高木康

ページ範囲:P.1195 - P.1201

 検査データの変動因子には,被検者の生体内代謝変動のほかに,分析前因子,分析時因子,分析後因子がある.精度管理の充実により分析時因子,分析後因子が極めて小さくなった現在では,これら因子のなかで,分析前因子による変動が特定健診でのデータの誤解釈・誤指導の原因となる確率が高い.食事や筋肉運動,日内変動などの生理的因子,検体の採取や保存・運搬などのサンプリング・ハンドリング因子が特定健診項目に与える影響について熟知する必要がある.さらに,特定健診での各施設に見合う適切な検査前手順を記載した手順書を作成して,利用する必要がある.

各論―検査前手順の注意点

血圧測定

著者: 髙橋伯夫

ページ範囲:P.1203 - P.1207

 血圧は,一定の日内変動を示し,自律神経の変動でも刻々と変化する指標であるので,測定するごとに値は変動する.したがって,個人の血圧を絶対的な指標で評価することには無理がある.特に健診では,完全に検査前手順を守って測定することが極めて困難であるので,その値はあくまで目安であり,スクリーニングに過ぎないことを認識すべきである.他方,健診の場で高血圧であることは,少なくとも境界域の高血圧である可能性が高い.

中性脂肪,HDL-C,LDL-C測定

著者: 栢森裕三 ,   康東天

ページ範囲:P.1209 - P.1212

 2008年(平成20年)4月から開始される「標準的な健診・保健指導プログラム」の血液検査8項目のうち,脂質項目として中性脂肪,HDL-C,LDL-Cの測定が義務付けられた.このプログラムでは,医療保険者は複数の健診機関で実施された健診結果のデータを一元的に管理し,被保険者の健康指導をすることが求められている.一元的にデータ管理を行うためには,健診実施施設の臨床検査データの施設間差を許容される範囲に抑える必要がある.そのためにはこれらの項目の検査前手順を遵守することが求められる.

血糖,HbA1c測定

著者: 富永真琴

ページ範囲:P.1213 - P.1216

 空腹時血糖検査では最後の食事から10時間の空腹を守る必要がある.被検者にはこのことをあらかじめパンフレットなどでよく周知していただくことが大切である.採血には解糖阻止剤入りの採血管を用いる.ヘモグロビン(Hb)A1c検査は空腹の条件は不要である.採血には凝固阻止剤入りの採血管を用いる.いずれも採血後,転倒混和の操作を丁寧に行うことが大切である.

AST,ALT,γ-GT測定

著者: 前川真人

ページ範囲:P.1217 - P.1219

 メタボ健診項目のなかでも,AST,ALT,γ-GTの3項目は,検体の溶血と運動によるASTの上昇,飲酒によるγ-GTの上昇を除くと,受診者側の状態による影響は少ないといえる.室温,冷蔵,冷凍における血清検体の保存安定性も比較的良好であり,分析前条件には干渉されにくい項目である.

尿検査(糖・蛋白)測定

著者: 菊池春人

ページ範囲:P.1220 - P.1222

 メタボリックシンドローム健診では尿検査(尿糖,尿蛋白)が主に試験紙によって検査されると思われ,この検査法での注意点について述べた.健診前手順として注意すべき点としては,食事,運動,薬物服用があるが,運動以外は現実的には調整が難しいかもしれない.できれば,食事から採尿までの時間,具体的な薬物服薬状況などについての情報を得ておくことが望まれる.また,尿検査については検体採取から分析まで,分析手順の標準化についても確認する必要がある.

トピックス

厚生労働省新ガイドラインでの精度管理への考え方

著者: 高木康

ページ範囲:P.1223 - P.1226

1.特定健診と臨床検査

 2008年(平成20年)4月からスタートする新たな特定検診の具体的目標は,①2015年には2008年に比較して糖尿病などの生活習慣病有病者および予備群を25%減少させること,②中長期的な医療費の伸びを抑制すること,の2点である.このメタボリックシンドローム健診(メタボ健診)では,より科学的に受診者の将来発症する疾病予防を行うことになり,客観的に身体の病態を反映する臨床検査値がその指標の一つとして用いられることとなった.すなわち,この特定健診はメタボリックシンドローム予防を中心に設定されており,メタボリックシンドロームの診断基準は表1に示すように,検査値が重要な診断基準となっている.今回の特定健診でもこれら検査に脂肪肝検出のためのAST(aspartate aminotransferase),ALT(alanine aminotransferase),γ-GT(γ-glutamyltransferase),動脈硬化のためのLDL(low-density lipoprotein)-コレステロール,空腹時血糖の代わりとなるHbA1c,尿検査の糖と蛋白が加えられている.

 これら検査値は階層化の指標としても重要である.例えば,空腹時血糖が100mg/dl以上になると「保健指導」をすることになり,運動や食事の指導を行う.さらに,126mg/dl以上になると「受診勧奨」となり,しかるべき医療機関への受診をすすめることになる.

健診の実情

著者: 山門實

ページ範囲:P.1227 - P.1232

1.はじめに

 2008(平成20)年度より高齢者の医療を確保する法律(以下,高齢者医療法)が施行されるのに伴い,国の定めた「標準的な健診・保健指導プログラム」(確定版)に基づき新たな健診が実施される1,2).この健診は2015(平成27)年度における医療費適正化に実質的な成果を目指す政策目標の一つとして,糖尿病等の患者・予備群の減少率を2008年に比べて25%減少させることを目的としたものであり,いわゆるメタボリックシンドロームに特化したもので,メタボリックシンドローム健診(以下,メタボ健診)と考えられる.すなわち,メタボ健診は特定保健指導の必要な受診者を抽出することを目的とした健診であり,また,その結果に基づいた特定保健指導も特定健診とともに保険者に義務付けられる点が従来の健診と異なる点である.本稿では,健診の実情について,健診の現状を概説するとともに,メタボ健診についても概説する.

郵送検診の実情

著者: 関根和人

ページ範囲:P.1233 - P.1237

1.はじめに

 わが国では少子・高齢化社会の到来,バブル崩壊後の経済の低成長から回復の兆しがみえ始めているが,国民医療費の増大は相変わらず大きな問題となっている.このため,国は保険料率のアップ,自己負担の増加,医療の標準化(DRG/PPS)等の医療費の抑制策を推進するとともに,「健康日本21」,「健康増進法」などの一次予防,二次予防に力を入ている.こうしたなかで国民一人一人に,健康に対する“自分の健康は自分で守る”の意識が芽生え始めている.これは健康食品や健康補助食品(サプリメント)の爆発的売上増や体脂肪計の家庭への普及率が高いことに代表される.また,“いつでも,どこでも,簡単に検診が受けられる”郵送検診が注目を集め普及しつつあり,検診項目も癌検診,性感染症,生活習慣病項目等多くの項目で行われている.

 本稿では今後の新しい健診スタイルとして市場が拡大しつつある“郵送検診の実情”について解説する.

郵送検診の評価

著者: 松尾収二 ,   佐守友博

ページ範囲:P.1239 - P.1243

1.はじめに

 メタボリックシンドローム健診に郵送検診が使えるかどうかがこの項のテーマであるが,郵送検診は不明な点が多い.被検者自ら検体を採取するのでいい加減な検査ではないか,濾紙に検体を採取して大丈夫か,高温の郵便ポストで大丈夫か,測定や精度管理はどうなっているのか,等々多くの疑問がある.しがし残念ながらこれらの疑問に答えるだけの十分な検討データは公表されていない.実はこの点が問題なのである.

 本稿では限られた情報を基にメタボリックシンドローム健診に郵送検診が使えるかどうかについて言及した.また筆者は健診において臨床検査関係者が考えるべきことがいまだ多くあることに気づいた.この点も併せて記した.

 なお郵送検診という名称については様々な意見があるが,本稿では編者の方針に従った.

内臓脂肪の画像診断

著者: 山根光量 ,   善積透 ,   徳永勝人

ページ範囲:P.1245 - P.1251

1.はじめに

 全身の脂肪分布を評価する方法としては,体密度測定法1)や体水分測定法に代表されるような体の成分を脂肪組織と除脂肪組織(lean body mass;LBM)の二つで構成されると考えた2成分モデル(2-compartment model)解析があり,50年以上前から体組成評価の研究分野に用いられてきた.この2成分モデル解析は,LBMの密度や水分量などを一定と仮定し体脂肪量を算出している.これらの因子は加齢,性別,人種などによって異なり計測値に誤差を生じやすく,近年では体組成を原子,分子,細胞,組織の各レベルで解析を行う,多成分モデル(multi-compartment model)による体組成分析法も報告され2),正確性の向上も図られてきている.一方,この体組成評価に関係した放射線や医用画像が使用されるきっかけとなったのは,1982年にわれわれが世界で初めて,X線CT画像を使用しその断面像から直接的に脂肪組織の面積を測定し,全身の脂肪量を求めた方法である3,4).本法は体脂肪量を求めるため全身を頭部,上腕(左右),前腕(左右),胸部,腹部,大腿(左右),下腿(左右)の11の円柱と仮定し,それぞれの中点の脂肪面積値と各部の長さを乗じ,その総和を求めることによって得られる4)(図1).また,このスライス幅を狭くしより多数の断面像を撮像した画像より求めた脂肪量と,各部位単スライスより求めた脂肪量ではほぼ同様の測定結果が得られることも確認されている.X線CT画像を用いた方法の特徴は,全身の脂肪量測定と同時に身体各部位の正確な脂肪量の測定が可能になったことである.特に腹部においては内臓脂肪(visceral fat)と皮下脂肪(subcutaneous fat)を区別して計測できるようになった点である.このことから,現在の診療・研究において重要な「内臓脂肪型肥満」(図2)の概念が確立された.現在,腹部脂肪分布評価に関する方法としては,二重エネルギーX線吸収法(dual energy X-ray absorptiometry;DEXA・DXA)5),超音波法(ultrasound diagnosis)6),MRI法7)などを用いた方法が報告されているが,わが国においては普及台数,脂肪計測自体の測定意義の確立,測定精度,ソフトの開発状況などの点においてCT装置を用いた計測が一般的であり,“golden standard”となりうると考えられる.本稿では,内臓脂肪の画像診断について解説する.

今月の表紙 腫瘍の細胞診・11

唾液腺の良性腫瘍

著者: 坂本憲彦 ,   海野みちる ,   坂本穆彦

ページ範囲:P.1154 - P.1156

 本稿では唾液腺の良性腫瘍を中心に記載し,次号は悪性腫瘍について述べる.

 解剖学的に唾液腺は,大唾液腺(耳下腺・顎下腺・舌下腺)と小唾液腺とに大別され,分泌物を産生する腺房とそれを運ぶ導管から構成される.

シリーズ最新医学講座 臓器移植・11

生体肺移植

著者: 伊達洋至

ページ範囲:P.1253 - P.1258

はじめに

 生体肺移植では通常2人の健康なドナーが,愛情に基づいて右あるいは左下葉を提供する.これらを,レシピエントの両肺として移植する.提供される肺は比較的小さいが,虚血時間が短いなどの長所があり,レシピエントは十分な肺機能を得ることができる.1998年10月に岡山大学において,日本ではじめての生体肺移植が成功した1).それ以降,2007年6月現在までに日本では97例(脳死肺移植34例,生体肺移植63例)の肺移植が施行された.生体移植が脳死移植に先行するのは,ドナー不足が深刻な日本の特徴と言えよう.

 ここでは,岡山大学で施行した47例の生体肺移植経験を基に解説する.

研究

ゼラチン液を用いた尿細胞診塗抹処理の検討―ゼラチン法

著者: 佐々木政臣 ,   若狹研一 ,   大澤雅彦 ,   伊倉義弘 ,   安藤加奈江 ,   塩見和彦 ,   塩田晃子

ページ範囲:P.1259 - P.1261

 尿細胞診剥離防止対策として,沈渣に0.5%のゼラチン液を加え再度遠心後,沈渣をすり合わせ塗抹し半乾き状態にした後,固定液に入れパパニコロウ染色を行った.尿100検体を対象とし,何も入れない直接法とゼラチン法の出現細胞数と染色性の比較検討を行った.対物20倍の視野中細胞数では,0~3個が直接法では41%もあったものがゼラチン法では27%と減少し,細胞数の多い16~21個が直接法で4件,ゼラチン法で8件,22個以上が直接法で8件,ゼラチン法で15件とほぼ倍に増加したことは剥離防止効果が示唆された.細胞の染色性も良好で,ゼラチンによる共染は認めなかった.

私のくふう

高機能寒天を用いたリゾチームの測定

著者: 太田英孝 ,   林芳和 ,   林俊治

ページ範囲:P.1263 - P.1264

1.目的

 リゾチームは細菌の細胞壁を分解することで溶菌反応を起こす酵素であり,その測定は単球性白血病などの診断に有用である.Lysoplate法は寒天内における分子拡散を利用したリゾチーム測定法である1).加熱死菌を含む寒天平板に小さな孔を空け,リゾチームを含む試料を孔に入れると,その周囲に円形の透明領域(溶菌円)が形成される.この円の直径からリゾチームを測定する.本法は測定範囲が広く,手技も簡単だが,欠点も持つ.本法で用いる1%寒天は強度が不十分で,試料孔の形が崩れやすい.孔の形が崩れると,溶菌円は正円形にならず,測定値が不正確になる.また,溶菌円の直径とリゾチーム濃度の対数が相関するため,直径測定時の小さな誤差がリゾチーム濃度の大きな誤差になる.

 一方,高い強度と分子移動効率を併せ持つ高機能寒天が電気泳動用に販売されている.この高機能寒天をLysoplate法に用いたところ,良好な結果が得られたので報告する.

海外文献紹介

長期凍結保存中の尿アルブミンの見かけの喪失:HPLC法と免疫比濁法との比較

著者: 鈴木優治

ページ範囲:P.1179 - P.1179

 尿アルブミンの測定は患者の看護や疫学研究などで用いられるが,その際尿試料はしばしば凍結保存される.免疫比濁法により検出された尿蛋白質は-20℃で凍結された試料では30%低下する.この免疫比濁法に代わり,免疫反応性および免疫非反応性のアルブミンを検出できる尿アルブミン評価のためのHPLC法が導入された.著者らはこの方法が試料保存温度,特に凍結により影響されるかどうかについて検討した.尿試料は295例を採取し,新鮮尿,-20℃で4,8,12か月保存後の尿および,-80℃で12か月保存後の尿アルブミンを免疫比濁法およびHPLC法により測定した.免疫比濁法の測定では,平均値は-20℃で4,8,12か月保存後の尿でそれぞれ21%,28%,34%低下し,-80℃で12か月保存後の尿で5%低下した.HPLC法の測定では,平均値は-20℃で4,8,12か月保存後の尿でそれぞれ33%,43%,55%低下し,-80℃で12か月保存後の尿で29%低下した.尿凍結後のアルブミンの喪失は凍結温度だけでなく,検出方法にも依存していた.凍結の影響はHPLC法のほうが大きく,-80℃保存尿であれば,免疫比濁法が適用できる.

2型糖尿病における,身体活動および体重減少の骨格筋ミトコンドリアへの効果および血糖コントロールとの関係

著者: 鈴木優治

ページ範囲:P.1216 - P.1216

 2型糖尿病患者は増加し続け,座りがちな生活様式と肥満はその危険因子と認識されている.2型糖尿病患者では骨格筋のミトコンドリア(Mit)容量の減少が起こる.身体活動および体重減少の介在により2型糖尿病のMit機能障害が治療できる程度ははっきりしない.著者らは中程度の体重減少と組み合わせた中強度の運動が2型糖尿病患者の骨格筋Mit容量を増加させることができるかどうかと,インスリン抵抗性の改善と高血糖との関係を検討した.検討では,運動・体重減少の施行前および4か月後の筋肉生検,Mitの形態学,DNA含量および酵素活性の測定を行った.また,血糖コントロール,生体成分,健康状態,インスリン抵抗性を測定した.集中的で短期間の生活様式の修正は2型糖尿病の骨格筋におけるMit内容物と機能を回復させた.骨格筋の酸化能力の改善は生活様式介在の高血糖およびインスリン抵抗性に対する有益な影響を仲介する構成要素と考えられた.

肝臓癌患者におけるビタミンB群欠乏および抗酸化状態の低下

著者: 鈴木優治

ページ範囲:P.1243 - P.1243

 本研究では,腫瘍-節転移状態の異なる肝臓癌における酸化ストレスおよびビタミンB群の状態について検討した.患者は2グループ(Ⅰ+Ⅱstage,Ⅲ+Ⅳstage)に分け,酸化状態を評価するために,酸化脂質,α-トコフェロール,β-カロチン,ビタミンC,グルタチオンおよび抗酸化酵素の血漿レベルを測定した.また,血液ビタミンB群と血清グレリンを測定し,両者の関係についても評価した.Ⅲ+Ⅳstage患者では,Ⅰ+Ⅱstage患者および健常者よりもグレリンが低く,コレステロール,中性脂肪および尿酸が高かった.肝臓癌患者では,血漿酸化脂質レベルは健常者よりも高く,グルタチオンペルオキシダーゼ,スーパーオキシドジスムターゼおよびカタラーゼ活性は減少していたが,キサンチンオキシダーゼ活性は増加していた.血漿グルタチオンおよびビタミンCや赤血球中のビタミンB2およびB6のレベルは著しく低かった.得られたデータは肝臓癌患者がビタミンB群補充を必要とすることを示していた.また,血漿グルタチオンレベルは肝臓癌患者の酸化状態を評価するための適当な生物マーカーと考えられた.

コーヒーブレイク

師弟の縁

著者: 屋形稔

ページ範囲:P.1202 - P.1202

 昭和24年はわが人生の最良の年といってよいであろう.生涯の師と仰いだ鳥飼龍生先生が40歳の若さでわが母校の内科教授として着任され,初めての弟子として私達同期4名の入門を許可された年であるからである.実際に在任された実年数は8年半にすぎなかったが,次の任地となった仙台の地から数年前他界されるまでの計50年間を師として導いていただいた.

 後日私の一生の仕事になった検査医学を含めた臨床医学の真髄を,不肖の弟子に手を取って教えて下さったのみならず人生の処し方まで寡黙の中に教示された師恩は,まさに海山より深く高いものであった.医学界で抜群と目された臨床手腕や,内分泌学の開拓期から全盛期に至る多くの業績は語るまでもない.すべての弟子達が敬慕したのは真似のできない高邁な人柄と,患者や人間に対する優しさであろう.私はキリストや釈尊に直接導かれた弟子達のありがたさに匹敵すると考えている.

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あとがき

著者: 濱崎直孝

ページ範囲:P.1266 - P.1266

 厚生労働省がメタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)予防のための健診義務化を発表して以来,医学関連部門ではその準備に大わらわである.医療関係者にとってすらも目新しい言葉であった,“メタボリックシンドローム”という言葉がテレビのコマーシャルにまで登場し,老若男女に広く普及してしまっている.“成人病”が“生活習慣病”に呼び方が変化したように,これからは,“メタボリックシンドローム”が“生活習慣病”に変わって使用される可能性がある.世間的には,“メタボリックシンドローム”を短縮した“メタボ”という言葉が大手を振って通用しているようである.

 ともかく,厚生労働省の「プロセス重視の保健指導」から「結果を出す保健指導」への方針転換は,非常に良い方向転換であると考えている.厚生労働省はこの新方針の成果として,医療費削減を主要な目的として掲げているようであるが,そのような小さな(?)意味合いではなく,もっと本質的な重要な医療改革の契機になる可能性があると小生は思っている.予防医学の重要性が謳われてから随分時間が経過しているようであるが,いまだに,現実の医療制度のなかで予防医学を実践できるような体制は構築されていなかったといっても過言ではない.今回のメタボリンクシンドローム健診義務化は,現実の医療の場に予防医学を制度として組み込む契機になる可能性があるし,そこまで進めてゆくべきだと考えている.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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