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雑誌目次

論文

臨床検査53巻13号

2009年12月発行

雑誌目次

今月の主題 前立腺癌 巻頭言

前立腺癌の臨床と研究に臨まれるもの

著者: 坂本穆彦

ページ範囲:P.1623 - P.1624

 前立腺の二大疾患としては腺癌と前立腺肥大症が挙げられる.癌は前立腺の外側域,肥大症は内側域と好発部位が分かれる.癌は単クローン性増殖を示すので,そのルーツとなる細胞をまずたどってみる.前立腺を組織学的にみると,多数の複合管状腺が尿道を取り囲んで分布し,それらは数十本ある導管につながっている.導管は個々に尿道に開口している.上皮細胞は基本的には円柱上皮の形状を呈し,間質には平滑筋成分が豊富である.この様な構造の中から前立腺癌が発生するわけであるが,そのほとんどが腺房細胞由来の腺癌である.WHO組織分類では,この通常型(common type)に相当するものを腺房腺癌(acinar adenocarcinoma)と呼び,頻度の低い腺癌である導管由来の導管腺癌(ductal adenocarcinoma)とは分けて扱っている.

 前立腺は乳腺と構造が似ているので,いろいろな類似点を論じられることがある.前立腺の腺房に当たる乳腺小葉由来の小葉癌(lobular carcinoma)は乳癌では特殊型に属している.つまり,小葉癌の乳癌全体における頻度は低い.他方,乳癌でよくみられるものは導管癌である.導管癌は前立腺では稀である.腺癌の発生母地別にみた頻度は通常型と特殊型の比率が,前立腺癌と乳癌とでは正反対の状態である.この違いは何によるものであろうか.

総論

前立腺癌の疫学

著者: 米田操 ,   白石泰三

ページ範囲:P.1625 - P.1630

 前立腺癌には臨床癌とラテント癌がある.本邦の臨床癌は増加傾向にあるが,国際的にはまだ低く,米国の罹患率は数倍高い.ラテント癌は剖検時の病理学的検索ではじめて発見される癌で,臨床癌の前段階の癌と考えられている.頻度の国際比較では臨床癌と同様の傾向を示すが,その差は臨床癌ほどではない.本邦での年次推移をみるとラテント癌も増加傾向にある.前立腺癌の原因としては遺伝的要因と環境要因が複雑に関与しており未解明の点が多い.

前立腺癌のアンドロゲン依存性とその消失

著者: 深堀能立 ,   本田幹彦 ,   神原常仁 ,   吉田謙一郎

ページ範囲:P.1631 - P.1639

 前立腺癌のアンドロゲン依存性増殖とその逸脱機序については,近年次第に明らかになってきているものの,多種多様な機序が複雑に関連し合い,体系的理解が困難になりつつある.本稿では,前立腺癌組織内アンドロゲン動態やアンドロゲン受容体のnongenomic作用も踏まえた観点からこれらを整理・体系化し,前立腺癌のアンドロゲン依存性とその消失について概説した.

前立腺癌の診断手順と治療の選択

著者: 田中宣道 ,   平尾佳彦

ページ範囲:P.1641 - P.1648

 前立腺特異抗原(PSA)の登場以来,前立腺癌の診断・治療は大きく変化し,限局性前立腺癌の占める割合は飛躍的に増加してきた.現在,従来の根治的前立腺全摘除術に加えて3D-CRTやIMRTなどの外部照射,密封小線源治療や高線量率ブラキセラピーなどの組織内照射などの放射線治療,さらにPSA監視療法など多岐にわたる治療選択が可能となっている.本稿では,前立腺癌の診断手順と,治療法の選択について概説する.

前立腺癌の発生と進展―分子生物学的アプローチ

著者: 井上貴博 ,   小川修

ページ範囲:P.1649 - P.1654

はじめに

 前立腺癌は罹患率の高い悪性腫瘍の一つで,米国では2009年には約192,000名の新患者数(米国男性の悪性疾患のうち罹患率は第1位,悪性疾患の約25%),約27,000名の死亡者数(第2位,9%)が推定されている1).わが国においても前立腺癌の罹患率は増加傾向にある.2020年には男性において肺癌,結腸癌と並んで最も頻度の高い癌になると推定され,2020年の前立腺癌による死亡率は,2000年の前立腺癌死亡率の実測値に対して約2.8倍にもなると予測されている2)

 近年,腫瘍マーカーであるPSA(前立腺特異抗原)の普及もあって,限局性前立腺癌の状態で発見される症例が増加しており,これらは前立腺全摘術や放射線治療(外照射療法,小線源治療など)により根治が期待できる.一方,転移を有する進行癌や,根治的治療(外科的治療,放射線治療)後に再発・転移をきたす症例も存在する.その多くには内分泌療法(アンドロゲン除去療法,androgen deprivation therapy:ADT)が行われる.ADTは一時的には有効であるが,ほとんどの症例で数年以内に去勢抵抗性癌(Castration resistant prostate cancer:CRPC)に変異する3).最近はドセタキセルを用いた化学療法でCRPCの治療も様変わりしてきているが4,5),ドセタキセル治療も根治治療ではなく,ひとたびCRPCの状態に変異すると有効な治療法はない.したがって,この変異機序の解明が臨床上重要な課題である.

 また前立腺癌の臨床的な自然史は多彩である.転移をきたし骨転移に伴う激しい痛みとともに急速に死に至る悪性度の高いものから,患者の生涯を通して症状を引き起こさない緩徐な進行をたどるものまで様々な臨床経過をとる.したがって,PSAスクリーニングが普及し前立腺生検を積極的に行うことによって,前立腺癌の過剰診断・過剰治療が相当数存在すると指摘する研究報告もある6)

 このような背景を踏まえ,前立腺癌の分子生物学的研究の最近のトピックスを取り上げ,概説する.

各論 〈各種診断法〉

PSA

著者: 川村幸治 ,   鈴木啓悦 ,   神谷直人 ,   今本敬 ,   市川智彦

ページ範囲:P.1655 - P.1659

 PSAは前立腺癌の発見,治療において最も有用な腫瘍マーカーであるが,癌特異的ではなく前立腺特異的な蛋白であるため血清PSA値が比較的低値の症例ではその特異度に問題を生じる.この問題を解決するために様々な補助診断の手法が提唱されているが,現状ではこれらの手法によって完全に癌症例と非癌症例を鑑別することは不可能であり,今後画期的なマーカーの出現も含めたさらなる診断技術の進歩が望まれるところである.

PSA以外の腫瘍マーカー

著者: 桶川隆嗣

ページ範囲:P.1660 - P.1666

 前立腺癌の診断では血清PSA値が導入されて早期癌発見につながり,多大な貢献を果たしてきた.一方,PSAのバイオマーカーとしての限界が明らかになってきた.診断,予後予測の面で特異性が高く汎用性に優れたバイオマーカーが必要である.近年の技術革新と研究の進展,データーベースの向上により,有望なバイオマーカーが報告されている.最近,米国食品医薬品局(Food and Drug Administration;FDA)では,転移性前立腺癌におけるCellSearch Systemよる末梢血循環癌細胞(circulating tumor cells;CTC)の臨床診断の使用を許可し臨床の場で使用されている.

経直腸的超音波検査

著者: 沖原宏治

ページ範囲:P.1667 - P.1671

 経直腸的探触子(プローベ)の実際や,経腹的超音波検査との相違点,基本的な超音波解剖,泌尿器科医が前立腺癌の診断を行う際の考え方を述べた.

グリソン分類

著者: 寺戸雄一

ページ範囲:P.1672 - P.1676

 グリソン分類は,1966年にグリソン(Donald F. Gleason)により提唱された前立腺癌の組織学的分類法である.今日,前立腺癌の予後を予測する最も有用な組織学的分類法とされ,世界で広く利用されている.グリソンの最初の提唱から時代とともに修正が加えられ,現在,2005年に開催された国際泌尿器病理学会(ISUP)による会議で提唱された「新グリソン分類」が利用されている.

前立腺癌の細胞診―転移巣での判定のために

著者: 古田則行 ,   坂本穆彦

ページ範囲:P.1677 - P.1681

 前立腺癌の細胞像は比較的特徴的であり,かつては細胞診が診断に重要な役割を担っていた.現在では治療前診断としての役割は終えているが,原発不明癌の転移巣推定においてその役割を果たしている.

病理組織学的治療効果判定

著者: 佐々木毅

ページ範囲:P.1683 - P.1686

 前立腺癌治療後の病理組織学的治療効果判定は,他癌の効果判定に比較してやや様相を異にしている.他癌では,細胞の変性の程度のみでなく,治療前と比較した腫瘍の縮小率などを併せて判断するが,前立腺癌の場合は癌細胞の変性のみで効果判定をしなくてはならず,しかも検体の種類や治療方法に限定条件はなく,すべての検体,治療法が対象となる.そのため,病理組織学的治療効果判定が,全体の治療効果を反映しているとは必ずしも言えない場合もあり,その結果解釈を常に検体採取方法と併せて判断する必要がある.

トピックス

前立腺癌の診療に関するノモグラム

著者: 赤倉功一郎

ページ範囲:P.1687 - P.1690

1.前立腺癌診療におけるノモグラムの利用

 ノモグラムとは,一般に,ある特定の関数の計算を行う目的で作成された計算図表を指す.医学臨床においては,特定のアウトカムの確率を予測するための計算手段として,ノモグラムが作成され用いられている.前立腺癌患者の病態や病状には大きな差があり,予測される予後や選択可能な治療選択肢も多彩である.そこで,前立腺癌の診療において,種々のパラメータを用いて,リスクを評価したり予後を予測する手法として,多くのノモグラムが開発発表されてきた.

 パラメータとして統計学的に有意な予後推測因子が選定され,各々のパラメータに重み付けをして点数化し,総計を求めて全体の推定値を計算する(図)1).具体的には,血清前立腺特異抗原(prostate specific antigen;PSA)の値,臨床病期,組織学的悪性度(主にグリソン・スコア)などがパラメータとして用いられる.また,推定するアウトカムとしては,生検陽性率,手術摘出標本の病理学的病期,再発率,生存率など,様々なものがある(表1).一般に,ノモグラムによるアウトカム予測は,専門医の判断や単純なリスク分類よりも優れているとされている2)

insignificant cancerの扱い

著者: 大園誠一郎

ページ範囲:P.1691 - P.1693

1.はじめに―insignificant cancerの背景

 本誌の読者は泌尿器科専門医以外の方がほとんどと思われるが,前立腺癌の知識をお持ちでも,その中でinsignificant cancer,すなわち「臨床的意義のない癌」の詳細についてご存知の方は少ないと推察される.臨床的意義がない訳だから,当然のこととして症状で患者を苦しめることはなく,ましてや転移もない早期の段階で,治療対象として認識される癌でないことは容易に想像がつく.

 2~3の事実を挙げると,ラテント癌として見つかる前立腺癌が多いことはよく知られている.また,膀胱癌で全摘術を施行した前立腺組織や,前立腺肥大症でTURP(transurethral resection of prostate:経尿道的前立腺切除術)を施行した切除切片から病理学的に癌(偶発癌)が証明されることはしばしば経験する.これらの事実は,言い換えれば,超高齢者にPSA(prostate specific antigen:前立腺特異抗原)が高いと言う理由で無理に生検を奨め,結果的に癌が出たからと言って,果たしてそのすべてに対する治療の必要性があるのかという疑問を投げかけている.

 冒頭に述べた,治療対象とならない癌が存在するなら,癌に対して治療をする,しないは大きな問題であり,その鑑別が重要であることは言うまでもない.しかし,実際の日常診療では期待平均余命や患者の希望が医師の判断に大きく影響し,不必要な治療が少なからず施されている.このことは,治療により患者のQOL(quality of life)を大きく損なうことが想定されるし,逼迫する医療経済にさらに拍車を掛けることにもつながりかねないが,そもそもの原因はinsignificant cancerの定義づけが明確になされていないことに起因する.

 そこで,以上の臨床的背景を踏まえて,本稿ではinsignificant cancerの考え方とその治療方針について概説する.

前立腺癌におけるMRIの有用性

著者: 小出晴久

ページ範囲:P.1694 - P.1696

1.はじめに

 前立腺癌における画像診断の役割は病巣の検出,さらには治療方針を検討する際に重要な前立腺局所の病態把握(病期診断)である.もし癌の存在診断,局在診断が可能となれば,不要な生検を回避することができ,また通常の系統的生検に加え癌の局在に合わせた生検を追加することにより診断率の向上にもつながる.前立腺癌の診断においては従来より,CTよりも経直腸超音波(transrectal ultrasonography;TRUS)やMRIのほうがzonal anatomyを明瞭に描出し,病巣を検出できることが多いため有用性が高いとされている.

前癌病変

著者: 瀬川篤記 ,   小山徹也

ページ範囲:P.1697 - P.1700

1.歴史的な経緯と本稿における基本方針

 これまでに前立腺癌の前癌病変として可能性を論じられた病変は,前立腺上皮内腫瘍(prostatic intraepithelial neoplasia;PIN),腺症(adenosis)ないし異型腺腫様過形成(atypical adenomatous hyperplasia;AAH),異型小型腺房増殖(atypical small acinar proliferation;ASAP)などがあり,それぞれに,過去に用いられたり現在も通用する同義語が存在する(表).研究の進展に伴い,現在では高度前立腺上皮内腫瘍(high-grade prostatic intraepithelial neoplasia;HGPIN)のみを前立腺癌の前癌病変とみなす傾向にある.WHOもその立場をとっており,2002年のWHO分類,いわゆるblue bookでは,軽度前立腺上皮内腫瘍(low-grade intraepithelial neoplasia;LGPIN)をatypical hyperplasiaと改称して前癌病変から除外し,HGPINを単にPINと呼んで,病理組織診断に記載すべき唯一の前癌病変と定義した1).この立場はWHO規約の最新版である2004年の“Pathology & Genetics”にも,基本的に踏襲されている2).一方ASAPは,前癌病変とは必ずしもいえないが,前立腺癌のリスク増大因子としての意義はHGPINと同様に高く3),病理組織学的あるいは臨床的に重要である.

 本稿ではHGPINについて主に述べ,ほかの病変についてはHGPINと比較検討しながら適宜解説する

前立腺癌検診の意義

著者: 田中秀一

ページ範囲:P.1701 - P.1703

 前立腺癌のPSA(前立腺特異抗原)検診は,血液を採取することで簡単に実施できることから,急速に普及した.これにより,前立腺癌は早期発見されるようになり,よく治るようになったと考えられている.

 ところが,厚生労働省「がん検診の適切な方法とその評価法の確立に関する研究」班(以下,「厚労省研究班」)は,2008年,「有効性評価に基づく前立腺がん検診ガイドライン」を公表し,PSA検診について,「対策型検診(住民検診)として実施することは推奨できない」との報告をまとめた.「死亡率減少効果の有無を判断する証拠が現状では不十分である」ことが理由だ.約70%の市町村は前立腺癌検診を住民検診に導入しているだけに,大きな波紋を呼んだ.

今月の表紙 帰ってきた真菌症・12

スエヒロタケ(Schizophyllum commune)

著者: 亀井克彦

ページ範囲:P.1620 - P.1622

 スエヒロタケ(Schizophyllum commune)は文字通りキノコ(真正担子菌)の一種である.キノコは真菌の仲間であるが,ヒトに感染あるいは定着するキノコは大変少ない.これまでにスエヒロタケやCoprinus cinereus(和名:ヒトヨタケ)など数種類が知られているに過ぎず1),大部分の症例はスエヒロタケによって占められている.スエヒロタケは決して珍しいキノコではなく,全国各地の朽ち木などで頻繁に見ることができる(図1)が,わが国では食用には用いない.

 本菌による感染は,わが国では大部分がアレルギー性気管支肺真菌症(allergic bronchopulmonary mycosis;ABPM)であり,拡張した気管支内に本菌が定着して,Ⅰ型あるいはⅢ型のアレルギー反応により気管支粘液栓子(図2)を形成したり,無気肺,好酸球性肺炎,気管支喘息などを引き起こす(図3).気管支喘息の合併はアレルギー性気管支肺アスペルギルス症(allergic bronchopulmonary aspergillosis;ABPA)に比べると比較的少ない.欧米ではアレルギー性副鼻腔真菌症(allergic fungal rhinosinusitis;AFRS)の報告が多く2),また稀に侵襲性の感染を起こすこともある3).組織内の本菌の菌糸はアスペルギルス症に酷似しており,鑑別は容易でない(図4).本菌によるABPMは1989年に初めて報告されて以来4),急速に増加し,数多く報告されており5),臨床検査において遭遇する機会も多くなってきた.

シリーズ最新医学講座・Ⅰ 死亡時医学検査・10

遺体画像―剖検対比(cadaver imaging-autopsy correlation)

著者: 岡輝明 ,   深谷信義 ,   天野淳 ,   松田諭 ,   服部英行

ページ範囲:P.1705 - P.1710

はじめに

 画像診断の進歩はめざましい.単純X線写真や断層写真を苦心して読影していた時代から高精細CTやMRIを自由に使いこなせる時代になり,さらに精密な画像へ,高速に,機能検査もと,様々な要求に応えてその進歩は日進月歩である.いまや細胞の輪郭すら見えるようになってきている.

 現在,医療の現場で画像(診断)は日常的に欠くことができないツールであるが,医学以外のフィールド,例えば考古学や古病理学の領域でも画像診断の機器は多いに活用されている.ツタンカーメン(トゥトアンクアメン)王やアイスマンこと「オッツィー」のミイラがCT撮影され,その内部構造の解析や死亡原因の推測に利用されていることはよく知られている.また,法隆寺の聖徳太子像調査に先立ってX線写真撮影を行ったところ,胎内仏である救世観音がくっきりと写っていた.乱世にその姿を顕すとされる観音である.この秘仏を作りあげた仏師がその写真を見たら,さぞかし驚くであろう.

 テレビドラマや映画でも,犯罪捜査に画像所見が有力な手がかりを与えるシーンがしばしば出てくる.まるで魔法を使ったかのように事件解決にいたるさまは痛快でインパクトがあり,画像の威力をわかりやすく伝えてくれる.しかし,いつでも,すべてのことがたちどころにわかるのであろうか? 現実はドラマのようにはゆくまい.ドラマはあくまでドラマである.画像でわかることもあるがわからないことも同じだけ,あるいはそれ以上にあるのではないかと思う.

 遺体の画像撮影は古くから行われてきたが,2000年ころから遺体のCT撮影が注目されるようになった.本稿ではこのような背景を踏まえて,遺体画像と剖検臓器所見の対比の意義について概説する.

シリーズ最新医学講座・Ⅰ 死亡時医学検査・11

心肺停止状態における臨床検査

著者: 貞広智仁 ,   織田成人 ,   篠崎広一郎

ページ範囲:P.1711 - P.1716

はじめに

 本シリーズではこれまで死亡時,もしくは死後の各種画像検査について述べられてきた.今回のテーマは心肺停止状態における臨床検査,すなわちまだ死亡宣告する前の段階での臨床検査についてであり,いわゆる死後の議論とは趣旨が異なることを念のため初めにお断りしておく.

 さて,一口に心肺停止状態といっても,目の前で人が倒れた,といった急激なものから,入浴してから数時間してお風呂で発見された,といった基本的に死亡状態が予想されるものまで時間経過は様々である.この経過によっては病院に運ばれたとしても特別な検査,処置が行われず,ただ死亡宣告のみが行われるという場合もあるが,本稿では積極的な蘇生治療が行われるうえで実際にどういった臨床検査が行われるのか,ということを中心に述べたい.

 この臨床検査は目的別に,①心肺停止の原因検索とその解除,②心肺蘇生の有効性の評価,③転帰の予測,④死因検索,に大別されると考えられる.各項目について,心肺蘇生のガイドラインや自施設でのこれまでの経験を基に解説する.

シリーズ最新医学講座・Ⅱ iPS細胞・11

iPS細胞研究における私見

著者: 須田年生

ページ範囲:P.1717 - P.1721

はじめに

 2007年11月に,京大・山中伸弥教授によってヒトiPS細胞の作製技術が発表された.マウスiPS細胞の樹立からわずか1年後のことであった.iPS細胞は,ES細胞のように多系統の細胞に分化させることができ,しかも,患者自身の体細胞から作製することができるために,再生医療実現化の切り札のように言われている.日本で開発された画期的な技術であることから,iPS細胞研究の進め方に関してホットな議論が続いている.

 本稿では,あらゆる施策に光と影があるという観点に立ち,iPS細胞研究のあり方について私見を述べたいと思う.

学会だより 第50回日本臨床細胞学会総会

第50回日本臨床細胞学会総会―伝統そして飛躍 築きあげた伝統へのrespectと未来へのprospect

著者: 小松京子

ページ範囲:P.1722 - P.1722

 日本臨床細胞学会総会第50回学会が,新装されたばかりの京王プラザホテルにて,2009年6月26日(金)~28日(日)に開催された.テーマは―伝統そして飛躍―.第50回の記念すべき学会に相応しく,多岐にわたる特別講演・招請講演・学術プログラムや,50回記念企画が提供された.初日のメイン会場では,日本臨床細胞学会50回記念パネル―臨床細胞学飛躍の展望―という今回ならではのセッションが開かれた.展望を語られたのは長い間臨床細胞学会で活躍してきた方々である.過去から未来を見据えた展望の話に,フロアからの意見も活発で,時間を若干超過しての終了となった.

 最新情報を網羅したワークショップやシンポジウムのあとには,学会長自ら,現在全国レベルで展開されているベセスダシステムの導入に関する講演を行い,多くの会員が聴講した.今最も現場で必要とされているベセスダシステムの情報に関してはシンポジウムも企画され,具体的にどのように報告していけば良いのか,大変参考になった.班研究報告は,甲状腺の低分化癌である.新しい分類の知見を知ろうと会場は会員で溢れていた.会員は最新情報の習得意欲も旺盛であるが,現場ですぐに役立つ教育講演にも積極的で,教育講演会場はすべて満室で座るどころか,立ち見をする場所も見つからないほどであった.

最新の知見が日常業務に直結する学会―第50回日本臨床細胞学会総会

著者: 小松明男

ページ範囲:P.1723 - P.1724

 第50回日本臨床細胞学会総会は2009年6月26日~28日までの3日間,平井康男癌研究会有明病院細胞診断部長を会長として,新宿の京王プラザホテルで開催された.

 学術的な魅力に加え,総会,50周年,東京という三要因が加わったためか,筆者の見る限り大盛況であった.弁解になるが,筆者が拝聴を希望していた演題のうちいくつかは,聴衆過剰なため,他会場への予定変更を余儀なくされた.たまたま参加者数が本学会の十分の一前後の学会に最近いくつか参加させていただいた.本学会に参加させていただき,あらためて数は力,そして力のあることは良いことだと実感した.

随筆・紀行

スリランカと臨床検査

著者: 屋形稔

ページ範囲:P.1640 - P.1640

 最近の新聞報道はスリランカで4半世紀続いた内戦がようやく終結し,人口2割弱のタミール人が北部海岸に追いつめられたという.しかし余燼はまだ消えやらぬらしい.

 インド洋に浮かぶ仏教国で名高いこの島の名を初めて目にしたのは平岩弓枝のサスペンス小説『青の伝説』で,仏都キャンデイが舞台になっていた.島はセイロンとも呼ばれ,有名な紅茶の産地でもあった.1985年頃である.

Coffee Break

検査部内でヒトデの研究―その経緯と成果(その2)

著者: 佐々木禎一

ページ範囲:P.1682 - P.1682

 私は前報で検査部内でヒトデの研究をせざるを得なくなった経緯と,そのための準備を短期間に開始したことを紹介した.今回は得られた膨大な研究成果を取捨選択して紹介したい.

 1.ヒトデは独特な悪臭を持ち,また以前からサポニン系の有毒物質の存在も指摘されており,終戦直後空き地の虫除けや肥料や飼料にも試用されたこともあったが,役には立たなかった様であった.それでまずこれらの除去を試みた.すなわち希alcohol(初めmethanolだったが食品化も念頭にethanolを使用)で容易に悪臭とサポニン様物質を除去できた.

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あとがき

著者: 坂本穆彦

ページ範囲:P.1726 - P.1726

 筆者は現在,日本泌尿器科学会・日本病理学会・日本医学放射線学会による三学会共編の『泌尿器科・病理 前立腺癌取扱い規約』第4版(金原出版)の病理編担当の委員長として,ほかの5名の病理系委員とともに,来年刊行を目指した改訂作業を進めているところである.約10年ぶりの改訂だが,前世紀末に比べても,前立腺癌の診断・治療には大きな変化がみられる.

 前立腺癌の最終検査である針生検組織診は今日では十数片ないし20片程度の検体採取が行われる.つまり,その片数分だけ繰り返し前立腺に針が穿されるわけである.筆者はすでに前立腺癌“適齢期”に突入して久しいが,これまで何となくPSA検査を敬遠してきた.しかし,今年は一念発起して検査を受けたところ,値は低く,胸をなでおろしたところである.この安堵感には,ただ単に癌ないしその可能性の宣告を免れることができたということのほかに,あの生検をとりあえず逃れることができたという気持ちも含まれている.しかし,このPSA測定はこれからも適当な間隔をおいて受け続けることになるが,検査結果を待つたびごとに同じ思いをしなければならないのかと思うと気が重くなる.ところで10年ほど前は“6箇所生検”といって,6片の組織を採取するのが一般的であり,それでも随分,採取片の数が多い大変な検査だと思っていたが,現在は前述の様にその2~3倍の片数が採取される.時代とともに侵襲性を増し,患者の苦痛度が高まるとは,検査としては珍しい部類に属するのではないだろうか.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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