シリーズ最新医学講座・Ⅰ 死亡時医学検査・10
遺体画像―剖検対比(cadaver imaging-autopsy correlation)
著者:
岡輝明
,
深谷信義
,
天野淳
,
松田諭
,
服部英行
ページ範囲:P.1705 - P.1710
はじめに
画像診断の進歩はめざましい.単純X線写真や断層写真を苦心して読影していた時代から高精細CTやMRIを自由に使いこなせる時代になり,さらに精密な画像へ,高速に,機能検査もと,様々な要求に応えてその進歩は日進月歩である.いまや細胞の輪郭すら見えるようになってきている.
現在,医療の現場で画像(診断)は日常的に欠くことができないツールであるが,医学以外のフィールド,例えば考古学や古病理学の領域でも画像診断の機器は多いに活用されている.ツタンカーメン(トゥトアンクアメン)王やアイスマンこと「オッツィー」のミイラがCT撮影され,その内部構造の解析や死亡原因の推測に利用されていることはよく知られている.また,法隆寺の聖徳太子像調査に先立ってX線写真撮影を行ったところ,胎内仏である救世観音がくっきりと写っていた.乱世にその姿を顕すとされる観音である.この秘仏を作りあげた仏師がその写真を見たら,さぞかし驚くであろう.
テレビドラマや映画でも,犯罪捜査に画像所見が有力な手がかりを与えるシーンがしばしば出てくる.まるで魔法を使ったかのように事件解決にいたるさまは痛快でインパクトがあり,画像の威力をわかりやすく伝えてくれる.しかし,いつでも,すべてのことがたちどころにわかるのであろうか? 現実はドラマのようにはゆくまい.ドラマはあくまでドラマである.画像でわかることもあるがわからないことも同じだけ,あるいはそれ以上にあるのではないかと思う.
遺体の画像撮影は古くから行われてきたが,2000年ころから遺体のCT撮影が注目されるようになった.本稿ではこのような背景を踏まえて,遺体画像と剖検臓器所見の対比の意義について概説する.