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雑誌目次

論文

臨床検査21巻5号

1977年05月発行

雑誌目次

カラーグラフ

原虫性疾患

著者: 高田季久

ページ範囲:P.472 - P.473

 我が国の寄生虫病の激減に伴い,医師ならびに臨床検査技師諸兄の寄生虫病に対する認識及び診断能力が低下しているのは極めて残念なことである.ところが海外旅行が盛んになるにつれて,いわゆる輸入寄生虫病が増加し,早期の診断及び治療を怠ったために不幸な結果を招いた例が年々増加している.
 それらのうち,原虫性疾患の代表的な例として,アメーバ赤痢及び熱帯熱マラリアの実例をあげ,更に最近抗免疫剤,抗癌剤の連用により,しばしば誘発され致死率の極めて高いPneumocystis cariniiによるニューモシスチス肺炎の増加が注目されているので,各種染色法による所見の相違を示してみる.

解説

著者: 高田季久

ページ範囲:P.474 - P.474

 人に寄生する原虫類は主要なものとしておよそ30種余りが知られている.それらを大まかに分類すると,赤痢アメーバなどを含むアメーバ類(根足虫類),ランブル鞭毛虫や腟トリコモナス左どの消化管泌尿生殖器寄生鞭毛虫類,トリパノソーマやリーシュマニアを含む血液組織寄生鞭毛虫類,マラリア,トキソプラズマなどの胞子虫類,大腸バランチジウムの属する繊毛虫類,及び分類上の位置は明らかではないが胞子虫類ではないかとされているニューモシスチスや住肉胞子虫などがある.
 これらのうち,媒介昆虫や地理的条件などの関係で,日本国内では実際上伝播の起こらないものとして,トリパノソーマやリーシュマニアなど,比較的限られた諸外国にのみ分布しているものや,かつては我が国でも見られたが,現在では原発生のものはその姿を消してしまったマラリアなどがあげられる.

技術解説

スライドの作り方

著者: 中澤淳

ページ範囲:P.475 - P.483

 学術講演会にはスライドの映写がつきものである.最近幾つかの学会で,示説方式が採用されているが,講演方式もまだ多く,分かりやすい良いスライドを作ることがいつも要求されている.多くの人がそうしているから,ただ物真似でスライドを作っている人が多いようであるが,作る前には一体何のためにスライドを使うのかということから根本的に考えたうえで取り掛かりたいものである.そうしないと,スライドは見にくく,内容が理解されないうちに話が終わってしまい,ただ人の前で話をしたという演者の自己満足だけが残るということになりかねない.
 筆者は生化学が専攻であって,取り扱う材料,内容は臨床検査に携わる入たちとはかなり違う.しかし,良いスライドを作るうえでの基本的心構えは共通のものがある.日ごろ教室内で議論しているこの問題をそのまま書くことから始めたい.

細菌性毒素と抗毒素の検出法・3—致死毒(1)

著者: 本田武司 ,   三輪谷俊夫

ページ範囲:P.484 - P.492

致死毒とは
 ごく微量投与して数日以内に動物を急性死せしめる物質を致死毒と呼び,シアン化合物のような無機化合物からアルカロイド,タンパクなど種々のものが知られている.近年タンパク毒素の精製法ならびに生物活性の解析方法が進み,致死活性を持つ細菌性タンパク毒素の作用機序が物質レベルで解明されるようになってきた.
 細菌毒素の致死活性は,毒素を経口的または注射(腹腔内,静脈内,筋肉内,皮下など)によって動物に投与し,その動物が死亡するかどうかを調べることによって判定する.更に死に至る時間や,死に要する最少毒素量などをもって,その毒素の致死活性を表すことができる.毒素投与後,死に至る時間は一般的に言って,投与毒素量が多いほど短くなるが,腸炎ビブリオの耐熱性溶血毒(致死毒)のように投与後数分以内に殺すような即時的な致死毒もあれば,破傷風菌のneurotoxinやボツリヌス毒素,ジフテリア毒素のように比較的大量投与しても数時間あるいは日単位で死亡させる,言わば遅延型致死毒とも言うべき毒素もある.

第5回樫田賞受賞論文・1【新連載】

MalloryのPTAH染色法における酸化剤の検討—殊に過ヨウ素酸を用いた場合の染色効果について

著者: 杉山繁雄

ページ範囲:P.493 - P.496

序論
 PTAH (リンタングステン酸ヘマトキシリン)染色法は1901年Malloryにより発表されて以来,中枢神経系においてグリア線維と神経線維ないし結合織などを染め分ける方法として賞用されている.最近ではグリア線維染色のみならず,線維素,筋原線維(殊に横紋)などの証明にも広く用いられている.PTAH染色法は染色結果がやや不安定であり,かなり難度の高い染色法の一つである.染色結果が必ずしも常に安定しない原因として,組織の固定条件,PTAH染色液の成熟度ないし染色性,酸化剤の使用条件などが大きく影響していると考えられる.そこでPTAH染色の染色性を左右するこれらの要因のうち,著者は殊に酸化剤の効果を重要視し,その使用条件につき種々の検討を行った.PTAH染色過程において一般に酸化剤として過マンガン酸カリウム液が用いられているが,この過マンガン酸カリウム溶液の濃度及び浸漬時間を種々組み合わせ,最も適切な過マンガン酸カリウム溶液の使用条件を詳細に検討した.同時に酸化剤として過マンガン酸カリウムの代わりに過ヨウ素酸を用い,その濃度,浸漬時間など使用条件につき詳細な検討を加えるとともに,過マンガン酸カリウムを使用した場合の染色結果との比較検討をしてみた.

総説

β2マイクログロブリン

著者: 金衡仁 ,   河合忠

ページ範囲:P.499 - P.504

β2マイクログロブリンとは
 β2マイクログロブリン(β2-microglobulin,以下β2-mと略す)は1968年に初めてBerggårdとBearnによりWilson病及び慢性カドミウム中毒患者の尿から分離精製された,分子量11,800の低分子タンパクで,100個のアミノ酸残基を持つ一本のポリペプチド鎖から成り,正常人の血液,尿,髄液などの体液中に微量含まれている1).1972年にPetersonらによりβ2-mのアミノ酸配列が決定され,その構造が免疫グロブリン(IgG1)の不変部(特にCH3)のそれと類似性が強いことが指摘された2)
 β2-mはリンパ球をはじめとする種々の有核細胞によって産生され3〜5),細胞の活動性が盛んなほどその産生は亢進する.またβ2-mはHLAのサブユニットであることが判明し6,7),生体の免疫機構に関与するタンパクとして注目されている.

臨床化学分析談話会より・45<関東支部>

臨床と検査室のタイアップ—人工透析と腎移植をめぐる諸問題

著者: 溝口香代子

ページ範囲:P.505 - P.505

 第199回分析談話会関東支部例会(1977.2.15)は,定例会場の東大薬学部記念講堂にて行われた.当日はみぞれ模様の天候と悪い交通事情にもかかわらず,熱心な会員で盛会となった.
 "人工透析と腎移植をめぐる諸問題"というテーマで,北里大・遠藤忠雄先生には腎移植について,また虎の門病院・三村信英先生には人工透析について話題提供をしていただいた."診断へのアプローチシリーズ・腎"の続きとして,腎不全の治療の実際と,臨床と検査室の緊密なかかわりが具体的に示された.

臨床検査の問題点・90

負荷心電図

著者: 宮下英夫 ,   平塚玲子

ページ範囲:P.506 - P.512

 検査室での負荷心電図は,その大半が運動負荷で,とりわけマスター試験がなじみ深い.そこで今月はマスター試験について,患者へ負荷をかけることの意義,注意点,事故予防について検討し,更には将来の負荷心電図を展望してみる.

検査と疾患—その動きと考え方・5

急性化膿性閉塞性胆管炎

著者: 斎藤厚

ページ範囲:P.513 - P.517

 患者 76歳男子,無職.
 主訴 右季肋部痛.

Ex Laboratorio Clinico・5

腸炎ビブリオ物語

著者: 三輪谷俊夫

ページ範囲:P.518 - P.524

はじめに
 腸炎ビブリオが,恩師藤野恒三郎博士(大阪大学名誉教授)によって発見せられてから26年を経過したが,現在でも依然として我が国における細菌性食中毒の半数近くは腸炎ビブリオによるものである.
 我が国で誕生し,我が国で発展した腸炎ビブリオの学問の普及によって,ここ数年来諸外国においても集団食中毒事件例の報告が相次ぎ,世界的に関心が持たれるようになってきた.

座談会

感受性検査の成績はどう活用されているか

著者: 真下啓明 ,   石山俊次 ,   大越正秋 ,   小酒井望

ページ範囲:P.526 - P.534

 最近は化学療法剤の種類も増え,細菌学的検査の中で薬剤感受性検査の占める比率もかなり大きい.検体採取から成績が出るまで48時間以上かかるこの検査が果たして臨床にどう役立っているのか.今月は,最も普及しているディスク法(結核菌を除く)について,内科,外科,泌尿器科の専門家に,感染症治療の場でどう活用されているのか話し合っていただく.

新しい心機能検査法・5

RIによる心機能検査

著者: 平川顕名 ,   桜井恒太郎 ,   松村忠史 ,   本原征一郎

ページ範囲:P.535 - P.540

 同位元素を用いた臨床検査の利点は,体外計測が可能なため患者の苦痛や危険が少なくてすむことにあり,主にスクリーニング検査として応用されてきた.従来,これらの検査はシンチスキャナーあるいはガンマカメラによる映像記録とシンチレーションカウンターによる動態検査とに分かれて発展してきたが,電子計算機による情報処理技術の発達は両者を一つに集約しつつある.また,同位元素のもう一つの特徴である生体の機能を直接に映像化する働きは,観血的検査法も代わりえないものとして注目されている.今回は表1に掲げた心機能検査法のうちから,特に我々が日常臨床で診断に頻用している体外計測法の幾つかを解説し,新しい試みや装置についても紹介する.

新しい赤血球の検査・5

ポルフィリンをめぐって

著者: 佐々木英夫 ,   原正雄 ,   小池和夫 ,   蛯谷功 ,   富永真琴 ,   山谷恵一 ,   八幡芳和 ,   金子兼三

ページ範囲:P.541 - P.547

 ポルフィリンはヘモグロビンやVB12の構成成分としてよく知られた生体色素であり,生体内では鉄,銅,コバルト,亜鉛などと結合した金属ポルフィリンとして存在し,殊に鉄と結合したヘムはグロビンとともにヘモグロビンの二大要素として重要である1)
 グロビンの代謝異常であるヘモグロビン病は分子病の代表として早くから注目され,研究も進みほぼやりつくされた感さえある.

研究

結核菌の薬剤耐性検査における希釈法とリング拡散法の比較研究

著者: 山岡弘二 ,   斎藤肇

ページ範囲:P.548 - P.550

はじめに
 抗結核剤の増加に伴い,結核菌の薬剤耐性検査に現在一般に用いられている希釈法では多大の時間と労力とを要するために,それを簡易化しようとする種々の試みがなされてきた.その一法として直立拡散法があり,これは1薬剤1本の培地で検査ができるという簡便さはあるが,首曲がり試験管の取り扱いや,成績判定法の難しさなどの問題が残されている.
 最近,平峰1〜3)は1枚の平板培地上で2種ないし3種の薬剤の耐性検査を行いうるリング拡散法を考案し,本法は従来の希釈法ならびに直立拡散法と90%以上の成績の一致がみられ,しかも判定が容易であるので,結核菌の耐性検査を能率的に行いうるものと推奨している.

新しいキットの紹介

カンジダ検出の簡易法—Microstix-Candidaの有用性

著者: 阿部美知子 ,   高木千鶴 ,   鈴木明 ,   久米光

ページ範囲:P.551 - P.555

緒言
 腟壁のびまん性発赤ないし腫脹を伴った掻痒を主訴とする外陰門腟炎は,糖尿病患者や,妊産婦に多い.その起炎菌として,トリコモナス原虫,カンジダ,大腸菌及びヘモフィルスなどがあげられるが,特に大量の抗生物質が投与された際には,菌交代現象に基づくカンジダ性腟炎が高頻度に見いだされる.
 起炎菌の種類によって腟炎の治療方法が大きく異なるため,検査材料からの病原体の分離及びその同定は確実に行われねばならない.

トロンビン時間法によるフィブリノゲン定量法の検討

著者: 小林柾樹 ,   森田久 ,   小栗隆

ページ範囲:P.556 - P.558

はじめに
 出血性素因の検査として,フィブリノゲンの定量はルーチン検査において不可欠なものである.従来より定量法としては,血漿に塩化カルシウム溶液またはトロンビン溶液を添加した後,いったんフィブリノゲンを形成させ,このフィブリン量を秤量する方法1),あるいは,得られたフィブリンをNaOHにて加水分解し,フェノール試薬にて発色させて,比色・測定しチロジン量より定量する方法1)が,一般に実施されている.
 また,このほかフィブリノゲンの免疫抗体である抗フィブリノゲンを用いる免疫学的な方法2,3)や,フィブリノゲンがトロンビンによってフィブリンに変換される時間を測定することによりフィブリノゲンを定量する方法4〜6)などがある.

Laboratory Instrumentation

光学顕微鏡

著者: 古屋武吉

ページ範囲:P.560 - P.563

 近年,医学生物学の急速の進歩につれ,顕微鏡の性能向上に強いニーズが生まれ,数年前までは夢と考えられていた高性能レンズも広く一般に普及するに至っている.しかし,優れた機械も正しい使い方をしなければその性能を発揮することができないので,日常我々が経験する誤りやすい使い方を考慮して,以下に正しい使い方をまとめてみた.

検査室の用語事典

呼吸機能検査

著者: 田村昌士 ,   遠藤和彦

ページ範囲:P.565 - P.565

38) Dynamic Compliance (Cdyn);動的コンプライアンス
 肺コンプライアンスは胸腔—口腔圧差によって変化する肺容量の変化量の割合として表され,肺の硬さを示す.Cdynは換気中のコンプライアンスで肺気量依存性であると同時に換気数によって変化することがある.Cdynの換気数依存性は肺内の時定数の不均等分布があれば著しくなる.一方これは末梢気道病変の早期検出の指標ともなる.

免疫・血清学的検査

著者: 松橋直

ページ範囲:P.566 - P.566

51) Bruton type agammaglobulinemia;ブルトン型無ガンマグロブリン血症
 伴性遺伝によりB細胞が欠損し,γグロブリンが減少している免疫不全症候群.

質疑応答

臨床化学 タンパク分画とA/G

著者: F子 ,   富田仁

ページ範囲:P.567 - P.569

 〔問〕血清タンパク分画をセルロースアセテート膜法による電気泳動で行っていますが,この結果から計算でA/Gを求めると,かなり高い値になってしまいます.このままA/Gとしてデータを提出してもよいでしょうか.

血液 Pseudothrombocytopenia

著者: I生 ,   新谷和夫

ページ範囲:P.569 - P.570

 〔問〕最近,血球自動計数機を使用している場合に血小板数の異常な低値を示す検体がありました.pseudothrombocytopeniaと言われていますが,その発生機序,検出法についてお教えください.

免疫血清 リンパ球の種類

著者: Y生 ,   新保敏和 ,   矢田純一

ページ範囲:P.570 - P.573

 〔問〕リンパ球のsubpopulationとsubsetという言葉の意味をお教えください.

微生物 A群溶血性レンサ球菌のM型別法とT型別法の長所と短所

著者: H生 ,   宮本泰

ページ範囲:P.573 - P.575

 〔問〕A群溶血性レンサ球菌の型別を行う場合,M抗原とT抗原がありますが,その長所と短所をお教えください.

病理 膵ラ氏島の染別法

著者: M子 ,   佐々木憲一 ,   菊地津和

ページ範囲:P.575 - P.576

 〔問〕膵ラ氏島のα細胞,β細胞,δ細胞の染別に苦心しております.確実な方法あるいは留意点についてお教えください.

検査機器 比色計のフィルターの特性

著者: I子 ,   桑克彦

ページ範囲:P.576 - P.578

 〔問〕比色計のフィルターの特性を調べたいのですが,具体的にお教えください.

雑件 技師とMEの学び方

著者: H子 ,   石山陽事

ページ範囲:P.579 - P.580

 〔問〕臨床検査技師として検査室で毎日働いていますが,検査の装置,特に電気的に複雑な装置の取り扱いについて工学的な知識が足りなくて困っています.どのような勉強をしてゆけばよいのでしょうか.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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