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雑誌目次

雑誌文献

臨床検査26巻13号

1982年12月発行

雑誌目次

今月の主題 妊娠 カラーグラフ

妊娠に伴う細胞診

著者: 大橋浩文

ページ範囲:P.1564 - P.1566

 Papanicolaou (1917)によって創始,開発された腟細胞診は,悪性腫瘍の診断に不可欠な検査法となり,現代医学の一分野に体系づけられた.一方,腟分泌物として剥離する扁平上皮細胞はホルモン環境によって著明に変化する1〜3).ことに,妊娠・分娩・産褥の際に母体の内分泌環境は大きく変動し,その影響の下に腟細胞像は変動することが明らかにされている4,5).その細胞像について概説する.

技術解説

妊娠反応

著者: 谷沢修 ,   杉田長敏 ,   高木哲 ,   森政雄

ページ範囲:P.1567 - P.1572

 妊娠を早期に診断することは,産科診療上必要なばかりでなく,広く医療の分野で要請される問題と言えよう.妊娠時には子宮内で発育を続ける胎児あるいは胎盤のために,母体のは数々の臨床上の徴候が現れてくる.すなわち,無月経,子宮の増大,乳房の変化など性器に関係したもののほか,早朝空腹時の悪心・嘔吐を主訴とする"つわり",頻尿感などが妊娠早期にみられる.しかし,これらの徴候は必ずしも妊娠に特異的とは言えず,より客観的な妊娠診断法が古くから求められてきた.
 妊娠反応として最初に用いらてたのは妊婦尿による生物学的妊娠反応であり,ほぼ1930〜1960年の30年間はこの方法によった.すなわち,妊娠時に胎盤で産生し尿中に大量に出現するヒト絨毛性ゴナドトロピン(human chorionic gonadotropin;HCG)の小動物の性腺に対する反応を見る方法で,特異性において優れているものの,動物を用いるための煩雑さは避け難かった.次いで1960年以降は,HCGの抗原性に着目した免疫学的妊娠反応による手法が開発され,その特異性の高いことと感度,手技の簡易迅速さのゆえに,現在では妊娠反応として広く臨床的に用いられている.さらに,本法はHCGの有無—定性反応にとどまらずHCGの定量測定を行うことにより,さらに広い臨床応用がなされている.本稿では,妊娠反応の種類,実施方法,臨床上の意義などについて述べてみたい.

羊水分析

著者: 島田信宏

ページ範囲:P.1573 - P.1579

 周産期医学(perinatal medicine)が著しく発展した今日では,その臨床上で羊水分析による種々の胎児診断は欠くことのできない存在となり,外来での診療項目にも加えられている.臨床の実際で,羊水穿刺により羊水を採取し,それを分析して行う羊水分析は,妊娠中期での胎児の先天異常診断,後半期での胎児の成熟度,あるいは感染の診断,またRh式血液型不適合妊娠では胎児溶血性疾患の診断などに用いられている.ここでは,その手技と検査データの臨床的意義について解説する.

不妊症に必要な臨床検査

著者: 飯塚理八 ,   河上征治 ,   眞田利男 ,   橋本透

ページ範囲:P.1580 - P.1588

 不妊検査を行ううえでまず必要なことは,基礎体温の測定である.これに沿って一般検査は進めていく.
 男性側の一般検査は精液検査である.禁欲期間をきちんととって検査をするが,結果は一度の検査で決めず,何回かの検査を総合して判断する.

総説

妊娠経過と検査値

著者: 目崎登

ページ範囲:P.1589 - P.1596

はじめに
 妊娠とは,一個の受精卵が約10か月(実際には平均38週)の間に3,000gを超す胎児に発育し,それをはぐくむために子宮は腹腔を満たすほどの大きさになって,それらを栄養するために母体の循環機能をはじめとするあらゆる生理機能が大きく変化する現象である.その結果,母体には大きな負担がかかるわけであるが,本来,妊娠は生理的な現象であるがゆえに,大部分は特別な異常をみることなく分娩に至る.しかし,なんらかの合併症や機能異常の部分を持っている妊婦では,負荷に耐えかねて異常が発生しやすいし,また,その異常は母体のみならず胎児にも発育遅延や胎児死亡あるいは早産による未熟児出生などの危険を招来することがある.さらに妊娠,分娩は胎盤の着床異常(前置胎盤や常位胎盤早期剥離)のように,妊娠自体の異常によっても母児の生命が危険に脅かされる可能性も大きい.
 以上のように多くの危険をはらんでいる妊娠経過を管理し,危険を未然に防止しながら,成熟児を安産に導くように監視し指導するのが,妊婦管理の目的である.したがって,最初から異常があるわけではないので,予測される危険発生を早期に発見するためには,総合的なスクリーニング検査を実施せざるをえない.検査項目は母児のあらゆる状態に応じて多いほどよいに決まっているが,実地臨床の場では能力的に限界があるので,通常はルーチン的な検査に限られる.

臨床検査の問題点・158

母子血液型判定の問題点

著者: 中嶋八良 ,   藤原ムチ

ページ範囲:P.1598 - P.1603

 母子血液型の判定は,親子鑑別を除いては,臨床的には,新生児溶血性疾患に関連した母子免疫上の問題の発見,処置に,その大きな意義がある.今回は,妊産婦の出産に至るまでの,ABO, Rh,その他の母子血液型不適合を中心に,経時検査の方法やその結果に基づく判定のしかた,また出生後の交換輸血の問題点などについてお話し合いいただいた.

検査と疾患—その動きと考え方・72

妊娠中毒症

著者: 小林一夫 ,   大和竜夫 ,   今川信行 ,   林茂興 ,   小幡功

ページ範囲:P.1604 - P.1611

 症例1 26歳,主婦.
 主訴 無月経9週1日.

座談会

妊娠に伴う細胞診の問題点

著者: 大橋浩文 ,   石束嘉男 ,   西谷巌 ,   高橋正宜

ページ範囲:P.1612 - P.1620

 妊娠は生理的な変化でありながら,内分泌において特殊な変化を示す生体変化であり,複雑な問題を有している.今回は,細菌学および細胞診学の立場から,妊娠と細胞叢,癌との関係をめぐって,特に内分泌学上の観点をも交えてお話し合いいただいた.また,癌とのかかわりにおいては,妊娠の続行と分娩後の処置などにも言及していただいた.

学会印象記

第14回日本臨床検査自動化学会

著者: 松宮和人

ページ範囲:P.1597 - P.1597

明日の臨床検査を探る
 第14回日本臨床検査自動化学会は本年9月10日,11日の両日,学会長馬場茂明教授(神戸大学医学部第2内科)のお世話で,神戸市の神戸ポートアイランド神戸国際会議場と国際展示場で開催されました(参加者約1,200名).
 馬場先生は「本学会が医療関連学会の中でも最新の知識と技術の統合が発表されるユニークな学会であり,医・薬・理・工・農学の学際的機関として発展し,そこには身体的健康,精神的健康,社会的健康の三位一体を目ざしての討議と展示会がこの会の特色である」と述べておられます.したがって,今回の学会内容も会長のフィロソフィーが,シンポジウムをはじめ各所に生かされています.

負荷機能検査・36

発汗試験

著者: 石田肇

ページ範囲:P.1621 - P.1624

はじめに
 発汗試験は,臨床的に,外傷,その他で末梢神経の損傷した場合,あるいはこれを修復して治癒過程にある場合に応用され,手の外科の機能再建手術後の経過観察や,カウザルギーや反射性交感性ジストロフィーなどに対し,交感神経切除術などを施行した場合に,その効果判定に応用されている.末梢神経損傷の際には,無発汗帯と知覚異常,脱出部位との分布がよく一致するので,他覚的な知覚脱出部の検索を目的として行われる定性的な検査である.
 発汗の機序としては,一般に体温調節性発汗(thermo regulatory perspiration)と精神的・感情的発汗(emotional perspiration)の二種に分けられているが,後者は,異常な精神的緊張やストレスに際し"手に汗をにぎる"という表現のごとく,主として手掌,足底,腋窩に発汗するものであるのに対して,体温調節性発汗は,前額,唇,躯幹,四肢などに発汗するのが特徴である(図1).

材料別細菌検査の進め方・12

法定伝染病の原因菌の同定はどこまでやるか

著者: 佐久一枝 ,   播金収 ,   鷲津良道 ,   山中喜代治 ,   増谷喬之 ,   小栗豊子 ,   三輪谷俊夫

ページ範囲:P.1626 - P.1633

はじめに
 現行の伝染病予防法は1897(明治30)年に施行された.ここで言う伝染病とは,特定の病原体または毒素によって引き起こされる疾病である.その発生には散発および集団発生があり,発病者がはっきりせずに感染者のみの流行がみられた場合には不顕性流行と言われる.
 伝染病の発生には感染源,感染経路,宿主の感受性の三つの条件が必要で,これを伝染病発生の三大要因と言う.伝染病予防法は,この三大要因に対する対策のために設定された.

分離分析の技術Ⅰ・12

SDS-PAGEスラブ電気泳動—赤血球膜蛋白質の分離

著者: 八幡義人 ,   宮島厚介

ページ範囲:P.1635 - P.1643

はじめに
 ヒト成熟赤血球は細胞膜研究のプロトタイプとしての意義を有し,この研究は著しい進歩を遂げている1,2).臨床的には,わが国における溶血性疾患の多くは,なんらかの形で膜代謝障害をその病因としている3).この中で,膜蛋白異常がその主体と考えられる疾患群があり,従来からナトリウムドデシル硫酸塩(sodium dodecyl sulfate;SDS)による膜蛋白可溶化法を用いたポリアクリルアミドゲル(PAG)電気泳動法(SDS-PAGE)4〜9)を使って,その病態研究が行われている.この場合,ディスク型SDS-PAGE法(図1)を使うのが一般的であるが,その分離能に限界がある(図2)ため,最近では,平板(スラブ)型SDS-PAGEを行う試みがなされている10〜13).平板法の場合,二次元展開を行うことが可能だからである.
 そこで,本稿では,ヒト成熟赤血球膜ゴースト(ghost)蛋白を試料に,SDS-PAGEのスラブ型について述べ,その利点および実施の概要を示すことにする.

第3回医学書院臨床検査セミナーより・2

肝機能の病態とその意義

著者: 山崎晴一朗

ページ範囲:P.1644 - P.1655

 本日は「肝機能の病態とその意義」ということについてお話しいたしますが,ご存じのように,肝機能の歴史がとりもなおさず臨床検査の歴史と言ってもよいぐらいに,肝機能検査が普及してきました.私が大学を出たころは,Meulengracht法と高田反応ぐらいしかなかったのですが,終戦後ふたを開けますとたくさんの肝機能検査が入ってきました.肝機能検査が多すぎて,どうしてこんなにたくさんいろいろな検査をやらねばならないかと思ったくらいです.
 1970年を境にしてA型,B型肝炎以外に非A・非B(non-A, non-B)という型が出てきました.その推移をみながら,お話ししたいと思います.

編集者への手紙

膵島β細胞染色—グルタルアルデヒドを用いたアルデヒド—フクシン染色変法について

著者: 前田明 ,   中田朗

ページ範囲:P.1656 - P.1657

1.はじめに
 1950年,Gomori1)はp-アルデヒドと塩基性フクシンを用いた弾性線維の染色法として,いわゆるアルデヒド—フクシン染色法を報告した.その中で彼は八種類のアルデヒドについて検討を加えている.その後p-アルデヒドと同じアセトアルデヒドの重合体であるm-アルデヒドを用いた方法2),クロトンアルデヒドを用いた変法3)などもみられるが,最近Buehnerら4)は数種のアルデヒドを用い,その染色性などについて比較検討を行っている.Gomoriによって試みられたアルデヒド類を含め,これら検討されたアルデヒドの中には,まったく染色性を示さないものも多いが,今回われわれは電顕用として市販されているグルタルアルデヒドを用い,染色液調整を試みたところ良好な染色性を示すことがわかった.
 またアルデヒド—フクシン染色は膵島β細胞の証明法として推奨されているので5),われわれは剖検例の膵組織を用い,種々検討を加えた.なおβ細胞の同定には従来のアルデヒド—フクシン染色をもあわせ行い,比較同定を試みた.

資料

PSP自動測定器"PSP-AUTO"の検討—現機種と試作改良機種について

著者: 牛山由美子 ,   仙名清次郎 ,   林茂子 ,   金井正光

ページ範囲:P.1663 - P.1667

はじめに
 フェノールスルホンフタレイン(phenolsulfonphthale-in;PSP)は,体内で酸化破壊されることなく,静注されたPSPの大部分が近位尿細管から排泄されるので,一定時間後の尿中PSP排泄量は腎血漿流量とよく相関し,腎機能のスクリーニング検査としてきわめて重要なものである.またPSPの分画排泄量曲線は,尿路などの死腔の有無や程度の診断にも利用されている1,2)
 PSP検査の従来法は,PSP静注後の尿にアルカリを加えて発色させた後,水を添加して1,000mlに希釈し,比色するもので,この操作は,大量の検体を処理する場合にはかなりの場所と時間を要するため,測定法の簡易化と自動化が強く望まれていた.

質疑応答

臨床化学 ミエリン塩基性蛋白質

著者: 永井克孝 ,   S生

ページ範囲:P.1669 - P.1670

 〔問〕 ミエリン塩基性蛋白質の意義と測定法をお教えください.

臨床化学 ヘパリン血漿と血清との差

著者: 菅野剛史 ,   M生

ページ範囲:P.1670 - P.1671

 〔問〕 血清遊離脂肪酸を酵素法で測定していますが,同時に採血した試料であるにもかかわらず,ヘパリン血漿のほうが血清より高値が得られました.この原因は何でしょうか.

臨床化学 ZTTが高値のときの血清希釈

著者: 仁科甫啓 ,   M子

ページ範囲:P.1671 - P.1672

 〔問〕 ZTTが高値(70単位以上)のときの血清希釈についてお教えください.

臨床化学 ICG検査のRmax

著者: 浪久利彦 ,   山城雄二 ,   M生

ページ範囲:P.1672 - P.1675

 〔問〕 ICG検査について,以下のことをお教えください.
 1) ICG検査のRmaxの臨床的意味,正常値,肝臓の予備能力との関係.

血液 妊娠と血液成分の変動

著者: 熊坂一成 ,   N生

ページ範囲:P.1675 - P.1677

 〔問〕 妊娠によって変動する血液成分と月数との関係を教えてください.

免疫血清 同一抗体でもみられる螢光強度の差

著者: 工藤俊雄 ,   K生

ページ範囲:P.1678 - P.1679

 〔問〕 モノクロナール抗体を用いた螢光抗体法でリンパ球のサブポピュレーションの検査を行ったところ,同一抗体でも検体によりかなりの螢光強度の差がみられました.この理由をお教えください.

一般検査 尿蛋白と尿糖とは相関するのか

著者: 斎藤正行 ,   H子

ページ範囲:P.1679 - P.1679

 〔問〕 尿蛋白は20%スルホサリチル酸法,尿糖はテステープにて検査しています.蛋白が〔+〕以上(特に2+,3+)に出た場合,糖も〔±〕,〔+〕になり,逆に糖が〔+〕(特に2+,3+)に出た場合,蛋白も〔±〕,〔+〕になるという結果がよくあります.蛋白と糖とがいっしょに出るのはなぜなのでしょうか,蛋白と糖との関係について教えてください.

診断学 髄液の細胞と蛋白とがバラつく髄液ドレナージ患者

著者: 元持雅男 ,   S子

ページ範囲:P.1680 - P.1681

 〔問〕 髄液をドレナージしている脳外科の患者の髄液の細胞数(細胞種類)と蛋白とが大きくバラつくので困っています.検体の外観にも血液混入が見られますが,技術ミスではないとのことです.1日で2倍にもなったりする,このバラツキの原因を教えてください.また,臨床医から「投薬しているのに細胞数が増加したり,投薬していないのに細胞数が少なかったりする」と言われました.薬剤と細胞数の関係も教えてください.

雑件 生理検査における統計的処理は

著者: 三田光男 ,   K生

ページ範囲:P.1681 - P.1682

 〔問〕 生理検査で統計をとる場合,相関係数がどの程度で強い相関とか弱い相関と言えるのでしょうか,基準を教えてください.また,有意水準の決めかたなどに生化学検査と違いがあるのですか.

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「臨床検査」 第26巻 総目次

ページ範囲:P. - P.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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