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雑誌目次

雑誌文献

臨床検査32巻4号

1988年04月発行

雑誌目次

今月の主題 DNA診断に必要な測定技術 巻頭言

DNA診断技術と臨床検査

著者: 河合忠

ページ範囲:P.354 - P.354

 ほんの10年前までは,DNA技術は医学における画期的な研究手法の一つである,というのが臨床検査専門家の間の支配的な考えかたであった.しかし,比較的再現性のよいDNA操作技術が確立され,しかもさまざまなDNAプローブが身近に使えるようになったために,その臨床検査への応用が急速に注目を浴びつつある.DNA診断技術といっても特別な施設と設備が必要なわけではなく,要はどの分野に効率的に適用するかだけの問題である.特に,これからの医療界の動向を考えると,より診断特異性の高い検査がますます重要視されると思う.その中でのDNA診断の重要性は一層高くなることは明らかである.現実に,ごく一部ではあるが,日常臨床検査に導入され始めている.
 DNA診断とは,一口に言って遺伝子の変化を検索することである.その場合,外界からヒトの生体に侵入して来る外因性遺伝子と,生体に由来する内因性遺伝子とに分けて考えることができよう.外因性遺伝子とは微生物の遺伝子であって,これを同定できれば感染症の病原体を診断できることになる.特に,同定の難しいウイルス,同定に長時間かかる真菌,結核菌などではその重要性は大きい,内因性遺伝子の変化については,ウイルス毒性物質などの外因によって起こる場合,遺伝的に起こる場合,突然変異によって起こる場合などが考えられ,感染症,遺伝病,悪性腫瘍などへの関与がある.そのほかにも,いくつもの因子が重複して発病する場合の"素因"といわれる状態を把握するのに大きな意義をもってくるかもしれず,いわゆる原因不明の難病の解析に有用となるであろう.

総説

DNA診断

著者: 榊佳之

ページ範囲:P.355 - P.362

 DNA診断は,遺伝病や感染症などの病因となる変異や病原体をDNAレベルで検出することを可能にした.その結果,病気の発症前診断や早期診断が可能となってきた.DNA診断の基本原理はDNA・DNAまたはDNA・RNAハイブリダイゼーション(混成体形成)にあるが,その過程の簡略化と高感度化に有効な方法が開発された.それはDNA合成酵素を用いて目的のDNA領域を増幅するもので,微量サンプルしか得られない出生前診断などに特に有効な方法と考えられる.また最近,ヒトのDNA多型マーカー(RFLP)の連鎖地図がゲノム全体をカバーできるようになったので,多数の遺伝性疾患の連鎖解析が可能となった.DNA診断の今後の課題の一つはその多因子病への応用であるが,うつ病,高脂血症,ある種のがんではその遺伝要因の同定が可能になりつつある.非RI標識プローブ,分析の自動化などもこれからのたいせつな課題である.

技術解説

DNA取り扱いの基礎技術

著者: 成松久

ページ範囲:P.363 - P.378

 遺伝子工学の手法を駆使して各種の遺伝的疾患やウイルス感染の診断と原因究明に急速な進歩がみられる.本稿ではまず遺伝子DNAの取り扱いの原理と,もっとも基本的に使用される手法について概説するので本誌他稿の導入となれば幸いである.核酸の取り扱い技術についてはまだまだ多くのものがあり,とても書き切れない.技術参考書としてもっとも優れた3冊を紹介するので手元に是非そろえておけばよい.
 1."Guide to Molecular Cloning Techniques"Methods in Enzymology Vol.152, edited by Shelby L.Berger & Alan R.Kimmel, Acadmic Press, New York, 1987.

DNAプローブの作成法

著者: 野島博

ページ範囲:P.379 - P.385

 DNA診断において,プローブの品質の良さは重要である.DNA (RNA)プローブの放射性同位元素(主として32P)は5'末端標識,3'末端標識,均質標識の三つに大別されるが,それらの原理と,実際にプローブを作成する際の技術的基礎について概説する.また最近開発されてきたさまざまな非放射能プローブについてその原理と実際について説明してゆく.

FAPのDNA診断

著者: 中里雅光 ,   松尾壽之

ページ範囲:P.386 - P.390

 家族性アミロイドポリニューロパチー(FAP)は,1アミノ酸置換(バリン→メチオニン)をもつ異常トランスサイレチン(プレアルブミン)がアミロイド線維として全身臓器に沈着する遺伝性疾患である.このアミノ酸置換は,トランスサイレチン遺伝子上の1塩基置換(グアニン→アデニン)に起因している.この塩基置換により制限酵素Nsi I, Bal Iに対する新しい切断部位が生じる.Southern blot法を用いて,この変異トランスサイレチン遺伝子を検出することができ,FAPのDNA診断が可能になった.本稿では,FAPの成因を蛋白化学,分子生物学的知見をもとに述べ,DNA診断法の解説を行う.

ATLのDNA診断

著者: 中村正孝

ページ範囲:P.391 - P.397

 成人T細胞白血病(ATL)は,西南日本に好発するきわめて悪性な白血病である.ヒトレトロウイルス(human T-cell leukemia virus type I:HTLV-I)がATLの原因であることがつきとめられて以来,ATLの診断として,HTLV-Iに対する抗体の有無の検査が主体となってきた.したがって,血清免疫学的検査法が用いられ,実際,凝集法,間接蛍光抗体法などが検査実験室で行われている.一方,遺伝子操作技術のめざましい発展により,種々の疾患を遺伝子レベルで解析することが可能となりつつある.ATLの場合,宿主細胞に組み込まれたHTLV—IのプロウイルスDNAを検索することが即HTLV-Iの感染を証明することになる.本稿では,サザーンハイブリダイゼーション法によるプロウイルスDNAの検出法を詳しく解説し,その問題点にも触れる.

AIDSのDNA診断

著者: 栗村敬

ページ範囲:P.398 - P.400

 AIDSの病因ウイルスであるHIVに感染する可能性があるということは,多くの人々に恐怖心を呼んでいる.その原因の一つはAIDSの高い死亡率によるものである.ほかの面よりみるとHIVキャリアの予後を的確に推定する方法がなく,キャリアの全員がつねに発症に直面しているような感覚をもたねばならないからである.血液中のT4/T8比のようなものでなくウイルスの動向を直接知ることができる検査法が望まれ,もしウイルスの動きをいち早く知ることができれば,限られた対策を効果的に用いることができ,AIDS発症阻止に大きな助けとなる.その可能性について論じ,AIDS問題の一部でも解決に向かわせることを考えたい.悲観論の存在は無意味である.

HBVのDNA診断

著者: 丸山昭治

ページ範囲:P.401 - P.408

 DNA,RNAプローブを用いたHBウイルスの検索法は,およそ三つに大別できる.in situハイブリダイゼーションは病理組織材料を用いてウイルス感染の有無,感染様式,活動性などをみるもの.SouthernプロッティングまたはNorthernプロッティングは泳動によってメンプレン上に展開したDNA,RNAからHBV相当ジーンを検索し,ウイルスの組み込み様式,増殖形態などをみるもの.ドットプロットハイブリダイゼーションはウイルスDNAの高感度定量測定法であり患者血清の感染性や組織抽出液のウイルス存在量などをみるものである.これらは表題の意を十分に尽くそうとすればそのすべてに触れなければならないが,紙面の都合上,本誌読者に関係のある患者血清を対象としたルーティン検査法に限定して概説する.

細菌感染症のDNA診断

著者: 吉川昌之介

ページ範囲:P.409 - P.415

 DNAプローブを用いハイブリダイゼーション法によって細菌を同定する技術を解説した.
 第一の問題はアイソトープ使用の是非であるが,アイソトープを用いない方法が競って開発されている.第二の問題は分類学と臨床的細菌同定のギャップであって,これに対処するためには用いるプローブを目的,菌種などに応じて適切に選ばねばならない.全DNAまたはその一部を用いて事足りる場合は,検体の方にラベルするフォトビオチン法が有望である.特異性の高い病原性遺伝子や16SrRNA遺伝子由来のプローブは検査室で作る訳にはいかず,キットとして市販される方向に行くであろう.早晩,抗生剤感受性テストもこの方法に委ねられるであろうし,全体として機械化の方向に進むものと思われる.

座談会

DNA診断への展望

著者: 村松正實 ,   畑中正一 ,   高久史麿 ,   河合忠

ページ範囲:P.416 - P.424

 1950年代後半に始まった分子生物学の急速な進歩は,DNA技術を生物学的研究手法から臨床医学的応用手法へと普及させつつある.臨床応用面で,まずDNA技術を導入しなければならないのが臨床検査の分野である.検査に携わるものはDNA技術を身につけることは当然であるが,DNA診断はどのように展開されて行くのであろうか.

生物電気化学分析法・4

イオンセンサと臨床分析

著者: 宮城宏行

ページ範囲:P.426 - P.433

 イオン選択性電極は,簡便に溶液中の特定イオン濃度を測定できるため,今日では血清電解質分析計などとして,広く臨床分析に応用されている.しかし,イオン選択性電極の最大の特長である「選択性」の意義を的確に理解しなければ,不適切な分析に応用するなどの問題が生じかねない.
 ここでは,イオン選択性電極についてより一層理解を深めていただくことを目的として,その原理から,選択性の意義と測定方法の実際,さらには臨床用イオン選択性電極とこれを用いた電解質分析計などについて解説した.また,筆者らの研究を基に,最近の電解質分析計の性能とその評価方法を紹介した.

特別座談会

臨床工学技士の誕生をめぐって

著者: 荒井太紀雄 ,   川崎忠行 ,   下杉彰男 ,   河合忠 ,   瀬尾攝 ,   都築正和

ページ範囲:P.441 - P.448

 新しい医療職として,臨床工学技士法が昨年5月に成立し,この秋には第1回国家試験が実施され,初の臨床工学技士(CE)が誕生しようとしている.人工透析,ICU,人工心肺などの生命維持装置の操作および保守・点検を仕事とするとされているが,臨床検査業務とはどんなかかわりをもつのか—今回は特にCEに関連の深い方々にお集りいただき,その誕生の経緯,経過,そしてこれからの展望を語っていただく.

編集者への手紙

胆嚢上皮に認められたナフトールAS-Dクロロアセテートエステラーゼ活性

著者: 引野利明 ,   福島辰郎 ,   福田利夫 ,   町並陸生

ページ範囲:P.449 - P.450

 エステラーゼ染色の中でナフトールAS-Dクロロアセテートエステラーゼ(NASDCIEと略)染色の組織内活性分布は主として好中球や肥満細胞などの血球と報告されている.
 今回われわれは上記の活性分布以外でも消化管,ことに胆嚢上皮の細胞質内にはNASDCIE活性が高く存在することを認めた.この胆嚢上皮の細胞質内活性部は凍結切片ではNASDCIE染色にって比較的軽度の大小不同の赤色顆粒状物として明瞭に識別されるが,パラフィン切片ではほとんど染色されず非水溶性封入剤によっても退色されやすかった.このことは当該染色部がパラフィン切片で染色される組織内好中球の染色性とだいぶ性質の異なる染色性をもつNASD—CIEであることが推察された.そこで,若干の基礎的検討を行い,その染色性と局在について光顕的に検討した.

血球計数装置の較正

著者: 巽典之 ,   津田泉

ページ範囲:P.451 - P.451

 血球計数器は精密性の優れた機器としての評価は高い.この機器の調整はこれまで管理用の血液(コントロール血液)を用いて行われてきた.ところが最近較正用血液(キャリブレーション血液)が導入されたことから血球計数器ユーザー間にいささかの混乱が生じている.
 管理用血液は「使用指定期間中にその性状が一定に保持されるよう」調整された半人工血で,一定の許容範囲のあるアッセイ値が定められている.この血液は測定の精密性をモニターするQC用のものであって値が正確である必要はない1,2)

私のくふう

多目的処理のための電顕—硬化ブロックのトリミング方法

著者: 引野利明 ,   阿部倫子 ,   福島辰郎 ,   福田利夫 ,   町並陸生

ページ範囲:P.452 - P.452

 周知のとおり,電顕における硬化ブロックのトリミング形状の適否は良い切片を迅速に得るためのたいせつな要因である.
 今日では酒井の方法を始めとした種々のトリミング方法があり,それぞれの目的に応じたトリミングが行われているが,今回われわれがくふうした通常の電顕,電顕酵素組織化学,免疫電顕などの多目的処理のためのトリミング方法はあまり行われていないようである.すなわち①切片の切り離れが良く,収縮やバイブレーションなどのトラブルが少なく,伸展性の良い切片が得られ,免疫電顕などの薄切などにおいても良好な薄切性を得ることができる.②ボート内の水が試料面に付着することを回避できる.③ダウンストロークの際のナイフ刃先に与える衝撃や破損が少なく,メスきずなどの少ない切片が得られ,ダイヤモンドナイフ使用においても刃先を極力いためないこと.などである.

質疑応答

臨床化学 凍結あるいは心停止による酵素活性値の低下

著者: 吉田享子 ,   菅野剛史

ページ範囲:P.453 - P.453

 〔問〕心筋梗塞の患者(72歳,女性,既往歴:DM,インスリン治療中)で下記のデータを得ました.この血清を3日間の凍結後,再測定したところ,No.4のLDH,GPTが激減していました.どのように解釈すればよいかご教示ください.なお,アイソザイムではV型優位,位置は正常でした.

臨床化学 δビリルビンの性質と測定法

著者: N生 ,   野上清信 ,   嶋村賢司 ,   中甫

ページ範囲:P.454 - P.456

 〔問〕δビリルビンについて,その性質,現在の測定方法,および臨床的意義をご教示ください.また,ジアゾ試薬を用いる測定法では,直接,間接ビリルビンのどちらに測定されているのでしょうか.

臨床化学 血清でLPLが測れない理由は

著者: T子 ,   栢森裕三 ,   片山善章

ページ範囲:P.456 - P.457

 〔問〕脂質代謝を検討する際にLPLの測定を行っているのですが,LPLの測定が血清でなく血漿で行われる理由をご教示ください.ヘパリン静注後に採血し,血清で測定できるのではないでしょうか.

臨床化学 ヘモグロビンFの測定

著者: N生 ,   清瀬闊

ページ範囲:P.457 - P.459

 〔問〕グリコヘモグロビン測定に関して,検体のヘモグロビンF分画(成分)は,方法によってどのくらいの影響を受けるでしょうか.その対策と,ヘモグロビンFの成人の正常値や,高値に出会う頻度などについても,合わせてご教示ください.

血液 好酸球の増加する病態とそのメカニズム

著者: K生 ,   大屋敷純子 ,   外山圭助

ページ範囲:P.460 - P.461

 〔問〕血中好酸球の増加する病態とそのメカニズムについてご教示ください.

微生物 ニューモシスチス・カリニの検出法

著者: H生 ,   吉田幸雄

ページ範囲:P.461 - P.463

 〔問〕ニューモシスチス・カリニの検出・診断法について,最近の進歩も含めてご教示ください.

一般検査 亜硝酸塩テストが陽性であるのに顕微鏡検査では細菌が認められない理由は

著者: Q生 ,   小栗豊子

ページ範囲:P.463 - P.464

 〔問〕尿試験紙で亜硝酸塩を調べたところ陽性でしたが,顕微鏡では細菌が認められませんでした.この理由をご教示ください.①ヘキストやマイルス三共など各種の尿試験紙で〔+〕,②古い試験紙を避けて新しい試験紙を使っても〔+〕,③尿を赤く着色する薬剤(フェナソピリジン)は使っていません,④尿(透明),pH=6.0,混濁(清),比重=1,015,尿蛋白,尿糖などは正常,⑤患者の臨床診断はATL(成人T細胞白血病)で,コランチル,ガスター,ザイロリック,ブラバロン,アストモルシンB,アンコチル,プレドニンなどを内服していたということです.

診断学 抗核抗体の診断的意義

著者: I生 ,   吉野谷定美

ページ範囲:P.464 - P.465

 〔問〕抗核抗体の診断的意義について,ご教示ください.また,蛍光抗体法で検査する場合,どのような核材を用いるのが望ましいのでしょうか.

診断学 筋疾患への超音波診断の可能性

著者: K生 ,   谷口信行 ,   伊東紘一

ページ範囲:P.465 - P.466

 〔問〕筋疾患への超音波診断の可能性はあるのでしょうか.原理を含めて説明して下さい.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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