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雑誌目次

論文

臨床検査66巻5号

2022年05月発行

雑誌目次

今月の特集1 自然免疫を担うリンパ球たち

著者: 涌井昌俊

ページ範囲:P.571 - P.571

 近年,“T細胞とB細胞は抗原受容体をもち獲得免疫を担うリンパ球,NK細胞は抗原受容体をもたずに自然免疫を担うリンパ球”という認識に少し変化が生じています.NK細胞とは異なる抗原受容体をもたないリンパ球である自然リンパ球や,非古典的な抗原提示を受けるT細胞に関する知見が集積しています.いずれも自然免疫を担う役者として大いに注目されており,臨床的意義についても徐々に明らかになりつつあります.

 本特集では「自然免疫を担うリンパ球たち」というくくりのなかで,抗原受容体をもたないリンパ球(NK細胞,自然リンパ球)と,自然免疫を担うT細胞とB細胞(γδT細胞,iNKT細胞,MAIT細胞,B1a細胞)について,第一線のエキスパートの方々に総論・各論で解説いただきました.臨床検査の舞台に登場する日もそう遠くはないと見込まれる免疫の個性派俳優たちについて理解の一助となれば幸いです.

自然免疫と獲得免疫

著者: 河本宏

ページ範囲:P.572 - P.580

Point

●“病原体から体を守る仕組み”を広く免疫と呼び,生来備わってすぐに発動する仕組みを“自然免疫”,2回目の感染時に強く現れる仕組みを“獲得免疫”という.

●自然免疫系の仕組みは,病原体に直接攻撃を加える仕組みと,センサーとして働く仕組みに分けられる.

●病原体の侵入があると,まず自然免疫系が働き,同時に獲得免疫系を活性化する.獲得免疫系では,抗体やキラーT細胞が病原体の排除に働き,さらに自然免疫系の細胞を動員する仕組みも働く.

●獲得免疫系の細胞のなかには,自然免疫系のような働きをする細胞群がある.

抗原受容体をもたないリンパ球

NK細胞

著者: 海老原敬

ページ範囲:P.582 - P.587

Point

●NK細胞は,ウイルス感染細胞や腫瘍に対して細胞傷害活性を発揮するだけでなく,早期にインターフェロンγ(IFN-γ)や腫瘍壊死因子α(TNF-α)を産生して炎症を誘導する.

●ILC1は組織に常在し,NK細胞と同様にIFN-γやTNF-αを産生するが,細胞傷害活性は低い.

●末梢血NK細胞には,未熟CD56highNK細胞(10%程度)と成熟CD56dimNK細胞(90%程度)が存在し,CD56dimNK細胞は細胞傷害活性能が高い.

●炎症(ウイルス感染,自己免疫疾患,腫瘍など)によってCD56dimNK細胞が炎症部位に遊走し,末梢血CD56dimNK細胞の頻度が減少することが多い.

自然リンパ球(ILCs)

著者: 竹田知広 ,   松本健治

ページ範囲:P.588 - P.593

Point

●自然リンパ球(ILCs)は主に粘膜や組織に存在する,抗原特異的受容体を欠くリンパ球様の細胞である.サイトカインなどの環境因子によって活性化し,自然免疫応答や組織の恒常性を維持している.

●ILCsの表面細胞形質はCD45陽性,系統マーカーが陰性であり,NK細胞,ILC1,ILC2,ILC3,LTi細胞の5つのサブセットに分類することが提唱されている.

●近年,アレルギー疾患や腫瘍などさまざまな疾患の病態に関与することがわかってきており,今後,治療のターゲットとなる可能性がある.

自然免疫を担うT細胞とB細胞

γδT細胞

著者: 千住博明 ,   迎寛 ,   田中義正

ページ範囲:P.594 - P.600

Point

●成人末梢血γδT細胞の多くがVγ9Vδ2陽性であり,ブチロフィリン2A1/3A1依存的にピロリン酸モノエステル系抗原を認識する.

●γδT細胞はNKG2D,DNAM-1,CD16など,NK細胞に特徴的な細胞表面マーカーを発現し,自然免疫系エフェクター細胞のフェノタイプを示す.

●抗原刺激されたγδT細胞は,CD80,CD86,HLA-DR,HLA-DQなどを発現し,抗原提示細胞様のフェノタイプを示す.

●γδT細胞は,窒素含有型ビスホスホン酸やそのプロドラッグを用いて容易に拡大培養できるため,がんに対する細胞輸注療法剤として期待される.

iNKT細胞

著者: 石井絢菜 ,   髙見真理子 ,   本橋新一郎

ページ範囲:P.602 - P.607

Point

●インバリアントナチュラルキラーT(iNKT)細胞は末梢血リンパ球の0.1%以下を占めるリンパ球分画であり,強力な抗腫瘍効果を発揮するとともに,感染症や自己免疫疾患など幅広い免疫応答に関与する.

●iNKT細胞が発現するインバリアントなT細胞抗原受容体は,抗原提示分子CD1d拘束性に糖脂質を認識する.

●iPS細胞由来iNKT細胞を用いた養子免疫療法の開発として,頭頸部がんを対象とした医師主導治験が開始されている.

MAIT細胞

著者: 千葉麻子 ,   村山豪 ,   三宅幸子

ページ範囲:P.608 - P.613

Point

●MAIT細胞は,MR1分子に提示されたビタミン類縁体などの非ペプチド抗原を認識する自然リンパである.

●MAIT細胞は特定のT細胞受容体(TCR)α鎖,ヒトではVα7.2-Jα33を発現する.

●MAIT細胞はヒト末梢血単核球の1〜5%を占める大きな細胞集団である.

●多くの免疫性疾患においてMAIT細胞は血液中で減少しているが,炎症部位には集積しており,活性化マーカーの発現や炎症性サイトカインの産生能の亢進がみられる.

●マウスモデルを用いた解析から,MAIT細胞は全身性エリテマトーデス(SLE)や関節炎などの自己免疫疾患,炎症性腸炎や脳梗塞などの病態悪化に寄与すると考えられている.

B1a細胞

著者: 山本夏男

ページ範囲:P.614 - P.620

Point

●獲得免疫を担う通常のB細胞(B2細胞)と異なり,B1細胞は抗原刺激がなくても自然抗体を産生する.

●B1細胞は発生学的にもB2細胞と異なり,体腔に常在し,感染後リンパ組織に移動する.

●CD5を発現するB1a細胞は非感染時にも活性化誘導シチジンデアミナーゼ(AID)を用いて特異抗原に対する親和性を調節している.

今月の特集2 フローサイトメトリー

著者: 涌井昌俊

ページ範囲:P.621 - P.621

 フローサイトメトリーは,微細な粒子を流体中に分散させ,その流体を細く長く流すことで個々の粒子を光学的に分析する測定手法です.リンパ球サブセット解析や造血器腫瘍診断に用いられ,古典的な臨床検査として確立している感がありますが,今も多くの課題が存在しています.また,免疫学・血液学の進歩に伴い診断・治療への新たな応用も進んでおり,血球計測,微小残存病変検出,分子標的薬のコンパニオン診断,骨髄不全の鑑別,細胞療法の細胞製剤評価と多岐にわたっています.このように,フローサイトメトリーはいまだ多くの可能性を期待できる手法として進化中であるともいえます.

 本特集では,フローサイトメトリー検査の現状と課題について第一線のエキスパートの方々に解説いただきました.検査実地に必要な考え方の整理のための一助になるとともに,デジタル化時代の医療におけるフローサイトメトリー検査の方向性を探るヒントになりますと幸いです.

フローサイトメトリー検査の現状

著者: 小池由佳子

ページ範囲:P.622 - P.626

Point

●フローサイトメトリー(FCM)による細胞表面マーカー検査は,主にリンパ球サブセット検査と造血器腫瘍表面マーカー検査に大別される.

●検体として,血液,骨髄穿刺液,胸水・腹水・心囊水などの体腔液,脳脊髄液,気管支肺胞洗浄液などが検査可能である.また,リンパ節や節外組織の生検材料なども細胞浮遊液を作製することによって検査することができる.

●当日検査が基本であり,採取後は迅速に検査を施行する.やむを得ず保存する場合は,採取後24時間以内に測定することが望ましい.

血球計測

著者: 常名政弘

ページ範囲:P.628 - P.633

Point

●血球数算定の基本的な原理は電気抵抗法,白血球分類はフローサイトメトリー(FCM)法である.現在では血球数算定にも細胞化学染色などを用いたFCM法が利用されている.

●近年,血小板の光学的測定が可能となり,血小板数に影響を及ぼす要因である破砕赤血球などの干渉が軽減された.さらには,巨大血小板の計測が可能となり,日常業務が飛躍的に改善している.

●一方で,採血時の問題(検体凝固)や正しく採血されたとしても,寒冷凝集やエチレンジアミン四酢酸(EDTA)依存性偽性血小板減少など試験管内の問題は存在するため,これらを念頭に置いて検査する必要がある.

リンパ球サブセット解析

著者: 谷田部陽子

ページ範囲:P.634 - P.638

Point

●リンパ球サブセット解析は,リンパ球の表面抗原を解析して免疫の状態を把握することに利用されている.

●検査依頼で最も多い目的はCD4陽性細胞数である.ヒト免疫不全ウイルス(human immunodeficiency virus:HIV)患者のモニタリングをはじめ,骨髄移植後や造血器腫瘍患者の治療経過における易感染性の状態などに欠かせない検査となっている.

●従来から利用されているリンパ球サブセットにとどまらず,リンパ球サブセット解析の活用の幅が広がっている.

造血器腫瘍診断

著者: 田中雄三

ページ範囲:P.639 - P.645

Point

●WHO血液腫瘍分類が提唱され,造血器腫瘍診断は形態学,免疫表現型,染色体・遺伝子検査を統合するかたちで分類されるようになった.

●フローサイトメトリー(FCM)検査では免疫表現型が検索できる.

●結果は芽球(腫瘍細胞)比率,形態的特徴を加味して評価しなくてはならない.

多発性骨髄腫の測定可能残存病変検出

著者: 田邊正喜

ページ範囲:P.646 - P.649

Point

●多発性骨髄腫(MM)は新規薬剤が臨床応用された結果,完全奏効(CR)例が増えた.その層別化を図るために測定可能残存病変(MRD)の検査が重要となってきた.

●MRDの検査には,マルチパラメトリックフローサイトメトリー(MFC)法,アリル特異的定量PCR法,次世代シークエンサー(NGS)法があり,MFC法がハードウエア面やコスト面から世界基準となっている.

●抗CD38抗体薬などのモノクローナル抗体薬の使用症例は,MFC法では,バックボーンマーカーの使用などで注意を要する.

成人T細胞白血病/リンパ腫におけるCCR4発現解析

著者: 石垣知寛

ページ範囲:P.650 - P.655

Point

●抗CCRケモカイン受容体4(CCR4)抗体のモガムリヅマブ(ポテリジオ®)の投与前には,成人T細胞白血病/リンパ腫(ATL)細胞のCCR4発現を評価する必要がある.

●CD4陽性リンパ球のCCR4発現のヒストグラムを評価するときは,陽性ゲート率はあくまでも参考値であり,原則的には,主要なピーク(山)を探してその山の分布を評価すればよい.

●しかし,ヒストグラム上でピークが不明瞭だったり,複数のピークを認めたりと,厳密にはATL細胞におけるCCR4発現の評価が困難な場合もある.

●そのような場合は,免疫組織化学(IHC)染色を用いた病理学的なCCR4検査や,ATL細胞に絞った,より正確なマルチカラーフローサイトメトリー検査の併用が有用である.

発作性夜間血色素尿症血球の検出と定量

著者: 堀内裕紀

ページ範囲:P.656 - P.662

Point

●発作性夜間血色素尿症(PNH)は,PIGAの体突然変異によってGPIアンカー膜蛋白欠損血球(PNH型血球)が出現し,これがクローン性拡大することで生じる疾患である.

●GPIアンカー膜蛋白は多種あるが,どの血球にも存在するCD55,CD59もしくはFLAERを使用し,これらの欠損をフローサイトメトリー(FCM)検査で証明することがPNH診断に重要である.

●欧米では溶血や血栓症状が多いが,日本人には骨髄不全症状が多い.骨髄不全症におけるPNH型血球の割合はごくわずかな増加(1%未満)にとどまる症例が多い.

●PNH型血球検出のための従来のFCM検査ではPNH型血球が1%未満の場合の検出感度は低い.高精度FCM法が開発され,1%未満の微量のPNH型血球も検出できるようになった.

CD34陽性細胞の定量

著者: 田野﨑隆二

ページ範囲:P.663 - P.667

Point

●末梢血造血幹細胞移植(PBSCT)においては,移植片中の造血幹細胞(HSC)数としてCD34陽性細胞の量的評価が移植の成否に極めて重要である.

●わが国では外部精度評価が始まったばかりであり,各施設での継続的なガイドライン順守が求められる.

●測定法は,国際血液療法・移植学会(ISHAGE)ガイドラインが国際標準法として用いられ,これを基にして日本臨床検査標準協議会(JCCLS)のガイドラインが定められている.

WITHコロナにおける検査室の感染対策・4

検体検査における感染対策

著者: 汐谷陽子

ページ範囲:P.668 - P.671

はじめに

 東京都立墨東病院(以下,当院)は第一種感染症指定医療機関であり,2020年2月から多くの新型コロナウイルス感染症患者を受け入れてきた.しかし,当初は2019年12月に報告されたばかりの新興感染症であったことから,情報が不足し対応に苦慮した.また,感染拡大に伴う医療体制の見直しや,物資の供給不足などこの1年半の間に状況は次々と変化していったため,悩みながら業務を行ってきた.

 本稿では,これまでの経緯を交えながら当院の検体検査室における感染対策を紹介する.読者の皆さんが所属する施設での対策の一助となれば幸いである.

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目次

ページ範囲:P.568 - P.569

書評

著者: 野口善令

ページ範囲:P.672 - P.672

「検査と技術」5月号のお知らせ

ページ範囲:P.570 - P.570

バックナンバー「今月の特集」一覧

ページ範囲:P.613 - P.613

次号予告

ページ範囲:P.673 - P.673

あとがき

著者: 関谷紀貴

ページ範囲:P.676 - P.676

 行き帰りの道すがら,個人宅の駐車場に置かれたダンボール箱の中に敷かれた毛布の上で,小さく丸まっている三毛猫がいます.名前はミーちゃん,いつもいるとは限らないのですが,通りかかるたびに眺めたり,声を掛けたりします.塩対応が9割で,気まぐれに“にゃ”と短い返事をくれるときもあります.

 今年の初め,大雪の日がありました.静まり返った夜の帰り道に,東京ではめったに聞けない雪を踏みしめる音を聞くと,さまざまな雪の日の思い出がよみがえって来ます.前回は4年前だったでしょうか,COVID-19や世界情勢の変化に翻弄されるとはつゆ知らず,毎年のように続いていた異常気象について,ぼんやり考えていた記憶があります.今日はとても寒いからミーちゃんはどうしているだろうか,いつものダンボール箱の中に姿が見当たりません.暖かい場所で休んでいるのかな,その日はさして気にも止めませんでした.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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