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雑誌目次

論文

臨床検査51巻13号

2007年12月発行

雑誌目次

今月の主題 胎盤 巻頭言

胎盤―その生理と病態

著者: 水谷栄彦

ページ範囲:P.1641 - P.1642

 少子化の時代を迎え,周産期医療に求められるものは,より良い次の世代の誕生に,いかに貢献できるかであろう.本誌「臨床検査」で胎盤が取り上げられる意味の1つは,そのあたりにあると思われる.また,近年周産期医療,とくに産科領域では,妊産婦管理は,手軽に応用できるME(medical electronics;超音波診断)が主流を占めており,生化学的な臨床検査が疎かにされていることへの警鐘の意味も在るのかもしれない.現在,広く臨床の場に導入されているMEによる診断法は,確かに患者へ侵襲が少なく手軽に行えるし,またその医療経済的な意義も大きい(患者には負担となる).しかしながら,MEによる診断は,基本的には生理・病態の変化(結果)を捉えているのみで,その背後にある,生理・病態を制御する本態を捉えるものではない.

 胚は,胎児と胎盤に分かれるが,機能的にはこの両者が一体となって,母体の中で(胎盤を接点として),短期間に発育・成熟する.妊娠は,ヒトの最も基本的な生命現象であり,精子と卵子の合体(受精)から,わずか280日で約3kgの胎児と,約0.5kgの胎盤が作られるという驚異的な生理現象である.したがって,妊娠の生理変化には,非妊娠時(日常的)の生理変化が大きく増幅され表現されていると言えよう.妊娠の生理・病態の解明は,あらゆるヒトの生理・病態の解明の鍵になると思われる.妊娠時にしか存在しない臓器である胎盤は,妊娠の生理・病態を解明する鍵と言えよう.

総説

胎盤の構造と機能(マクロ,ミクロの形態と関連機能)

著者: 瀧澤俊広 ,   石川源 ,   竹下俊行 ,   松原茂樹

ページ範囲:P.1643 - P.1649

 胎盤は,妊娠期間限定の臓器であり,母体子宮内で胎児の発育を支援するための自律した母児間インターフェイスを形作る.胎盤は,胚盤胞由来の栄養膜により形成される絨毛と,それに接する母体の子宮内膜(脱落膜)とによって形成される円盤状の構造である.本稿では,胎盤形成過程にも触れ,さらに臨床との関連を意識しながら,マクロからミクロまでヒト胎盤の基本構造について記載した.

胎盤形成遺伝子―Peg10

著者: 金児-石野知子 ,   石野史敏

ページ範囲:P.1651 - P.1658

 胎盤は哺乳類の個体発生に重要な臓器である.この特殊な機能をもつ臓器は生物進化上どのように獲得されたのであろうか?ノックアウトマウスの解析から父親性発現インプリンティング遺伝子のPeg10が胎盤形成に必須の機能をもつことが明らかになった.Peg10はレトロトランスポゾン由来の遺伝子であり,哺乳類進化の中で有袋類と真獣類の共通祖先が獲得した新規遺伝子であった.このPeg10の由来から哺乳類進化と胎盤の獲得との関係を考察した.

母体の胎児に対する免疫寛容成立機序

著者: 工藤美樹

ページ範囲:P.1659 - P.1663

 同種移植片である胎児が母体の免疫系により拒絶されることなく妊娠が維持されるためには,母体において胎児に対する免疫寛容の状態が形成されていると推測されている.この胎児に対する母体の免疫寛容成立機序に関する研究は広範囲に行われており,種々の機序が推測されている.それらのひとつひとつの機序は妊娠に特異的または非特異的なものであるが,お互いが組み合わさって作用することによって免疫寛容状態を成立させていると考えられている.

胎盤の薬剤選択透過機能

著者: 中島恵美

ページ範囲:P.1665 - P.1670

 胎盤には多くの物質を選択的に透過させる機能がある.この機能は妊娠時期特異的に制御されている.血液-胎盤関門の本態は,合胞体性栄養膜細胞で一面の多核細胞となっている.細胞膜上に発現するトランスポーターが,栄養素の取り込みや代謝物の排泄を担っている.様々なトランスポーターが,胎児側や母体側の膜に局在することがわかってきた.特に,母体側に発現するトランスポーターにより,母体側へ薬剤を排出する機構も存在する.

各論

胎盤機能不全と検査

著者: 久野宗一郎 ,   山本樹生

ページ範囲:P.1671 - P.1674

 子宮内胎児発育遅延や胎児ジストレスなどの原因として胎盤機能の異常がある.このため胎盤機能を評価することが必要とされる.生化学的検査法にはE3,hPLなどがあるが,両者とも測定値のばらつき,個人差が大きいなど臨床的価値は低下している.超音波検査法を用いて子宮や胎児の血流計測を行い胎盤機能を推定できる.VEGFやPlGFなどの血管新生因子が注目され,今後,臨床応用される可能性がある.

絨毛性疾患の診断,治療の新しい流れ

著者: 山本英子 ,   井箟一彦 ,   吉川史隆

ページ範囲:P.1675 - P.1679

 本邦では絨毛性疾患取扱い規約に基づいて胞状奇胎の診断を行っているが,近年の妊娠診断法の発達に伴い,胞状奇胎の診断も早期化している.そのため,全奇胎,部分奇胎,顕微鏡的奇胎の鑑別には肉眼診断,病理診断のみならず遺伝子診断が有用であり,新しいガイドラインの作成が必要と考えられる.また,絨毛性疾患の臨床成績を国際的に比較・検討するためには,本邦でもFIGO 2000 staging/scoring systemを検討する必要がある.

胎盤病理と胎児・新生児疾患

著者: 中山雅弘

ページ範囲:P.1681 - P.1685

 胎盤の病理検査に関してその概要を述べた.特に,胎児・新生児の異常に関連する項目を中心に記載した.子宮内感染症は最も重要なものである.上行性感染症は早産や新生児の慢性肺疾患と関連する重要な病態であるが,その臨床的な意義については紙面の都合上省略した.血行性感染症ではサイトメガロウイルス・パルボウイルスのみ記載した.次いで,子宮内胎児発育遅延・子宮内胎児死亡と胎盤病理の関連を述べ,最後に双胎児の胎盤病理検査法を簡単に記述した.

検査

マイクロアレイによる遺伝子発現プロフィール解析―胎盤絨毛細胞の機能分化における検討を一例に

著者: 福嶋恒太郎 ,   村田将春 ,   蜂須賀雅紘 ,   和氣徳夫

ページ範囲:P.1686 - P.1690

 DNAマイクロアレイ法は,遺伝子のわずかな発現変化を網羅的に解析する方法として近年よく用いられている方法である.本法を用いて胎盤を構成する絨毛外絨毛細胞の血管内皮様分化にかかわる遺伝子をスクリーニングしたところ,低酸素で誘導される転写因子のコンポーネントであるHIF1A遺伝子が抽出された.阻害剤やsiRNAを用いて機能的に検証することによって,本遺伝子がこの分化制御にかかわることを明らかにできた.

母体血中に流入する胎盤由来cell-free DNA/mRNAの臨床応用

著者: 三浦清徳 ,   増﨑英明 ,   石丸忠之

ページ範囲:P.1691 - P.1697

 母体血漿中には,胎盤に由来するDNAおよびmRNAが流入している.これらは妊娠中に母体を通じて得られる胎盤の分子情報である.Cell-free fetal DNAは,胎児の性別診断,Rh型判定および父親由来の遺伝子異常の検出などに臨床応用されている.一方,cell-free placental mRNAの定量化は,妊娠高血圧症候群などに伴う胎盤機能不全を推定する新たな分子マーカーとして期待されている.

胎盤絨毛染色体検査

著者: 中塚幹也

ページ範囲:P.1699 - P.1704

 出生前診断のための絨毛採取による染色体検査は,妊娠初期(10~12週)に行われるため身体的,精神的負担が軽減されるが,技術的に熟練を要すこと,流産率が高いことなどの問題もある.不育症症例の流産絨毛の25~32%は染色体異常であり,数の異常が多いが相互転座やロバートソン型転座も見られる.両親の検査,不育症の原因確定へとつながることもあるが,培養不良や母体細胞混入の問題もある.検査の技術的問題,倫理的問題,本人や家族への心理的影響も考慮した判断が必要である.

トピックス

近赤外線分光法(near infrared spectroscopy)による胎盤酸素飽和度測定

著者: 河村隆一 ,   平井久也 ,   金山尚裕

ページ範囲:P.1705 - P.1708

1.はじめに

 胎盤における子宮-胎盤循環,特に胎盤での酸素動態は胎児に多大な影響を与える.すなわち胎盤が低酸素に陥ると,胎児は低酸素状態に曝され脳性麻痺や神経学的後遺症などの重篤な合併症を引き起こす.胎児のwell-beingを評価する方法としては,現在,胎児心拍数を監視する方法が広く用いられている.しかし,non-stress-testやcontraction-stress-testに代表されるこの手法の疑陰性率は1.0~2.7%と低いものの,疑陽性率が50~75.0%と高い1~4).また,これらの評価法が普及したにもかかわらず,脳性麻痺の発生頻度は減少していないなどの問題点が指摘されている.さらに,胎児心拍数のみでは胎児の低酸素症を正確に検出できないとの報告もある.現在,胎盤機能の評価法としては妊娠中の超音波検査など画像による形態学的評価,もしくは胎盤娩出後に肉眼的,病理組織検査によるしかない.最近筆者らは,母体腹壁から胎盤の酸素動態を測定する方法を考案し,胎盤における組織酸素化指標(tissue oxygenarion index;TOI)を測定したので得られた知見を報告する.

胎盤アルカリ性ホスファターゼ

著者: 原田剛 ,   菰田二一

ページ範囲:P.1709 - P.1713

1.はじめに

 リン酸モノエステルを基質とする非特異的な水解酵素群のうち,アルカリ性領域(pH9~10)に至適活性を有するものをアルカリ性ホスファターゼ(alkaline phosphatase;AP)と呼び,ヒトでは臓器非特異的AP(肝/骨/腎AP;TNAP),小腸AP(small intestinal alkaline phosphatase;IAP),胎盤AP(placental alkaline phosphatase;PLAP)および胚細胞AP(germ cell alkaline phosphatase;GCAP)の4遺伝子がこれまでに同定されている.このうちPLAPは妊娠12週以降に胎盤の微小絨毛,栄養膜上皮の合胞体栄養細胞で産生され,30週から分娩期に向かって経時的に血中濃度が上昇することから,古くはその経時変化をもとに,胎盤機能や胎児の発育の診断に用いてきた.また,PLAPは,胚細胞腫瘍(germinoma)および腫瘍性胎児において高い発現が認められることから,腫瘍マーカーとして用いられている1).本稿ではPLAPの酵素学的特性に焦点を絞り,最新の知見を交えて概説する.

ヒト胎盤コレクチン1

著者: 大谷克城 ,   鈴木定彦 ,   若宮伸隆

ページ範囲:P.1714 - P.1718

1.はじめに

 母胎と胎児の間には血液胎盤関門が存在し,その役割を担う臓器が胎盤である.胎盤は,ガス交換や代謝物質交換の場であり,ホルモン分泌など様々な刺激により,多様に変化する臓器である.近年,筆者らがクローニングしたヒト胎盤コレクチン1(collectin placenta 1=CL-P1)は,胎盤での発現が高く,その推測される生理的な役割について紹介する.

カドミウムの胎盤毒性―環境ホルモン作用を中心に

著者: 瀧口益史 ,   吉原新一

ページ範囲:P.1719 - P.1723

1.はじめに

 昨年(2006年7月),国際的な食品規格設定を行っているコーデックス委員会の第29回総会において,食品中のカドミウム(cadmium;Cd)の国際基準値が最終的に決定された(表1)1).これに基づき現在,日本でも食品安全性委員会において食品からのCd摂取にかかわるリスク評価が行われている.このように現在,国内外でCdの生体影響について大きな注目が集まっている.しかし,Cdの生体影響について初めて知られるようになったのは,1940年代,富山県の神通川流域に住む閉経後の婦人を中心に,Cdを原因物質とするイタイイタイ病が発生したことによる.イタイイタイ病に見られる骨軟化症はCdによる尿細管障害によるものと考えられており,Cdの慢性毒性の主たるものは腎毒性および骨毒性である.その後,研究が進み比較的低濃度での生体影響についても明らかとなってきた.1993年,IARC(International Agency for Research on Cancer)により,Cdはヒトに対する発癌性が認められる物質としてグループ1に分類された.最近では,酵母を用いたDNA損傷の修復阻害作用2)やラット肝臓培養細胞を用いたDNAメチル化酵素阻害によるDNAメチル化異常3)などCdによる発癌の機構についても研究が進められている.一方,1998年,環境省は環境ホルモン戦略計画SPEED '98で,内分泌撹乱作用を有すると疑われる物質として約70種の化学物質をリストアップしているが,その中にCdが記載されている.このように,Cdは哺乳動物の生殖器官に対し広範な悪影響を持つ新しいクラスの環境ホルモンとしても認知されてきている4).そこで今回,Cdの胎盤への影響について環境ホルモン作用を含め概説する.

胎盤のIgGサブクラス輸送能

著者: 柱新太郎

ページ範囲:P.1725 - P.1730

1.はじめに

 胎児血中IgGの大部分は,胎盤を介して母体から輸送される.胎児血中には,妊娠第2三半期の早期から母体由来のIgG増加が認められるものの,その大部分は妊娠第3三半期に輸送される1).正期産で出生した新生児の血清総IgG濃度は,母体のそれよりも高値である.また,免疫グロブリンの中でIgGに選択的に輸送がみられることより,胎盤のIgG受容体を介する輸送機序が考えられてきた.母体血中のIgGが胎児血中に移行するには,胎盤絨毛組織の2つの細胞層,すなわち合胞体性栄養膜(以下,栄養膜と略す)と胎児血管内皮を通過する必要がある.これらの細胞層におけるIgG細胞内輸送には,前者では新生児型Fc受容体(neonatal Fc receptor;FcRn)が関与しており2),後者ではⅡb2型Fcγ受容体(Fcγ receptorⅡb2;FcγRⅡb2)の関与が示唆されている3).胎児に経胎盤移行した母体由来IgGは,免疫学的に未熟な新生児期・乳児早期の感染防御に,重要な役割を果たす.しかし,異常抗体の移行により,溶血,血小板減少,重症筋無力症などの病態が,児に起こりうるという有害な側面も有する.一方,IgGは,そのH鎖定常部の分子構造の違いにより,IgG1,IgG2,IgG3,IgG4の4つのサブクラスに分類され,物理化学的,生物学的性状が異なる.本稿では,IgGサブクラスの経胎盤輸送の特徴と,その臨床的・公衆衛生学的意味を概説する.

羊膜移植

著者: 小林顕 ,   杉山和久

ページ範囲:P.1731 - P.1734

1.はじめに

 羊膜は子宮と胎盤の最内層を覆う半透明の薄い膜(約50~150μm)で,単層円柱上皮である羊膜上皮とその下の基底膜,さらにコラーゲンに富み無血管な実質組織から成り立っている.羊膜の基底膜はⅣ型コラーゲン,フィブロネクチンやラミニンなどからなり,生体内で最も厚い基底膜であるとされている.羊膜の医療材料としての歴史は意外と古く,約100年前より皮膚の熱傷などの治療に用いられてきた1).眼科領域における羊膜移植は,1940年に角結膜化学外傷後の結膜欠損に用いられたのが初めてと考えられているが2),それ以降は眼科臨床使用の報告はほとんど見られていなかった.1995年にマイアミ大学眼科(Bascom Palmer Eye Institute)のScheffer Tseng教授(現Ocular Surface Center所長)を中心とするグループが,難治性眼表面疾患に対する羊膜の有用性を示し,洗練した形で羊膜移植を眼科臨床に再導入した3).この報告を皮切りとして,眼科領域における羊膜移植は世界的に広く行われるようになり,既に標準的な治療法となりつつある.

今月の表紙 腫瘍の細胞診・12

唾液腺の悪性腫瘍

著者: 坂本憲彦 ,   海野みちる ,   坂本穆彦

ページ範囲:P.1638 - P.1640

今回は唾液腺の代表的な悪性腫瘍について説明する.


1.腺房細胞癌:Acinic cell carcinoma(図1,2)

 腺房細胞癌は,全唾液腺悪性腫瘍の約80%を占める代表的な悪性腫瘍である.好発部位は耳下腺で,30~50歳代の女性に多くみられる.漿液性腺房細胞や導管上皮細胞への分化を示す腫瘍で,低悪性度に分類されている.

シリーズ最新医学講座 臓器移植・12

心臓移植(heart transplantation)

著者: 中谷武嗣 ,   加藤倫子 ,   舩津俊宏

ページ範囲:P.1735 - P.1744

はじめに

 心臓移植は1967年に世界ではじめて南アフリカで行われ,多くの施設でも行われたが,治療成績が不良であることより1970年代は限られた施設のみで試みられていた.その後,新たな免疫抑制剤としてのシクロスポリンの導入と,拒絶反応の診断法として心筋バイオプシー法が確立したことにより成績が安定するようになり,1980年代には末期重症心不全に対する治療選択として受け入れられ,これまでに世界では7万例に施行されてきた1).わが国では「臓器の移植に関する法律」が1997年10月に施行されてから,1999年に脳死臓器移植が行われ,これまでに48例の心臓移植が行われてきた2~5).その後,2001年5月から基礎疾患が拡張型心筋症あるいは拡張相肥大型心筋症である症例に対する心臓移植手術は,高度先進医療として承認された.さらに2006年4月からは健康保険において関係学会合同委員会で心臓移植実施施設として選定された7施設での同種心移植術の実施が認められるようになった.本稿においてわが国における心臓移植の現状を概説する.

研究

血中Cペプチド測定試薬「ルミパルス(R)C-ペプチド」の有用性の検討―血中Cペプチド測定におけるプロインスリンとの交差反応性を中心に

著者: 石橋みどり ,   太田敦美 ,   大野明美 ,   大竹晧子 ,   武井泉 ,   村田満

ページ範囲:P.1745 - P.1752

 C-ペプチド測定試薬のプロインスリンに対する交差反応はよく知られている.今回検討を行った測定試薬「ルミパルス(R)C-ペプチド」(富士レビオ)はC-ペプチドのみに高い特異性が確認され,この特異性は末端のアミノ酸配列が重要な役割を果たしていることが示された.糖負荷検体を用いた臨床評価結果から,耐糖能の障害度に応じたインスリン分泌能の低下,インスリン抵抗性の上昇傾向を判断するβ細胞機能の評価に,本試薬によるC-ペプチド値が有用であることが示唆された.

プロラクチン測定における測定法間差およびマクロプロラクチンの反応性に関する検討

著者: 水艸忍 ,   米谷昌志 ,   河田與一

ページ範囲:P.1753 - P.1757

 プロラクチン測定用試薬である「エクルーシス・プロラクチンⅡ」(改良前試薬),「エクルーシス・プロラクチンⅢ」(改良試薬),「アーキテクト・プロラクチン」および「ケミルミACS・プロラクチン」の計4種類の測定試薬について比較検討を行ったところ,測定法間で大きく乖離する検体を認めた.乖離した検体はいずれも「エクルーシス・プロラクチンⅢ」に比較して他の3法のすべて,もしくはいずれかが高値を示した.これらの検体はゲル濾過による分画結果より,従来から問題とされているマクロプロラクチンであることが確認された.さらに従来知られているIgG結合型以外の存在形態が疑われるマクロプロラクチンも認められた.この非IgG結合型と思われるマクロプロラクチンはProtein-Gによる吸収試験においてもIgG吸収後の残存率の低下が認められず,IgG以外の蛋白の結合していることが示唆された.マクロプロラクチンに対する反応性は各試薬によって顕著な差が認められたが,改良試薬である「エクルーシス・プロラクチンⅢ」は,IgG結合型,非IgG結合型ともにマクロプロラクチンの反応性が最も低かった.

学会だより 第39回日本臨床検査自動化学会

検査の実践と教育に役立つ“自動化学会”

著者: 池田斉

ページ範囲:P.1758 - P.1758

 第39回日本臨床検査自動化学会は,さる9月26日(水)から28日(金)の三日間にわたって,横浜市のパシフィコ横浜において開催された.今回の大会長は千葉大学の野村文夫教授である.例年,9月に開催されるため,台風の到来も心配されたが,大会長の日頃の心がけと強運で連日の好天に恵まれた.三日間の展示参加メーカー数は103社,展示場来場者数は7,791名,学会登録者数は2,304名で大盛況だった.

 本学会は検査関連の学会の中でも,実際の業務に最も役立つ学会と思われる.一番の理由は展示場で新しい機器や試薬を目にすることができることである.最新の機器の中から,検査室の次年度計画を現実的に考えられる場である.今回も展示場の盛況には目を見張るものがあった.臨床検査自動化振興会の方々を中心として長年培ったノウハウと,参加メーカー各社の意気込みが伝わってきた.さらに,一般演題が,機器や試薬の使用経験,臨床検体を使用した場合の問題点,現場での種々の工夫・改良など,日々の業務から生まれた研究発表がほとんどである.検査を支える臨床検査技師の皆様の参加が最も多いことが頷ける.

創造と変革に向けて力強い歩み

著者: 桑克彦

ページ範囲:P.1759 - P.1759

 日本臨床検査自動化学会第39回大会が,千葉大学大学院医学研究院分子病態解析学教授 野村文夫大会長のもとに,2007年9月26~28日にパシフィコ横浜の会議センター,ならびに2007年日本臨床検査自動化学会・日本臨床検査医学会共催展示会が同展示ホールで開催された.本大会は,臨床検査の自動化に関するメインイベントであることはいうまでもない.

 大会テーマの「検査室からの挑戦─創造と変革を求めて」は,「日々多数の臨床検体に接しているからこそ,そこから新たな研究領域を切り拓くことができる」との野村大会長の強い思いがこめられている.このテーマにふさわしい価値と興味に満ちた内容が披露された.

海外文献紹介

アルコール摂取と2型糖尿病:アルコール脱水素酵素の遺伝変異の影響

著者: 鈴木優治

ページ範囲:P.1658 - P.1658

 適度のアルコール摂取は禁酒に比較して2型糖尿病の危険率の低下やインスリン感受性の改善につながる.エタノールは,適度に摂取されるとき,アルコール脱水素酵素およびアルデヒド脱水素酵素(ADH)によりアセトアルデヒドおよび酢酸に酸化される.ADHファミリーの4遺伝子は肝のエタノール代謝に関係し,ADH1Cには2個の多型があり,この多型が血液アルコール濃度にどの程度影響するかについては明確ではない.著者らはADH1C遺伝子の多形がアルコール摂取と2型糖尿病間の関係を変化させるかどうかを男女の糖尿病患者および対照者の追跡調査などにより検討した.適度~過度のアルコール摂取[>5g/day(女性),>10g/day(男性)]は女性では糖尿病危険率の低下と関係していた.ADH1C遺伝子型は女性ではアルコール摂取と糖尿病間の関係を変化させた.アルコール酸化速度の遅いことに関係する,ADH1C*2対立遺伝子の数は,アルコール摂取量が≧5g/dayの女性の糖尿病の危険率の低下を弱めた.これらの結果は男性では認められなかった.

術前化学放射線療法を受けた進行子宮頸癌患者の抗酸化状態

著者: 鈴木優治

ページ範囲:P.1690 - P.1690

 子宮頸癌はインディアン女性において最も頻度の高い腫瘍である.著者らは進行子宮頸癌患者における循環過酸化脂質,抗酸化物質および防御酵素活性の変化を評価するとともに,化学放射線療法前後のレベルの変化をモニターした.検討は進行子宮頸癌患者60人(FIGO Ⅲa-Ⅳb)および既往歴のない健康者60人を対象として行った.血液試料は治療開始前,化学療法第2コース完了2週間後および放射線療法完了2週間後に採取した.対照者からは1度だけ採血した.治療前の腫瘍患者では,対照群に比べ血漿過酸化脂質濃度は増加していたが,還元グルタチオン(GSH),グルタチオンペルオキシダーゼ(GPx),スーパオキシドジスムターゼ(SOD),グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)およびカタラーゼ(CAT)は減少していた.化学療法後には,過酸化脂質濃度は有意に減少し,GSH,GPx,SOD,GST,CATは軽い増加を示した.化学放射線療法後には,これらの物質の血液中レベルは正常あるいは正常近くまで戻った.これらの物質の正常化は術前化学放射線療法の有効性についての情報を与えるものと考えられる.

ニューレグリンは骨格筋のミトコンドリア酸化能力およびインスリン感受性を増加させる

著者: 鈴木優治

ページ範囲:P.1697 - P.1697

 ニューレグリンは4種の遺伝子でコードされる上皮成長因子(EGF)の1つであり,転写遺伝子の選択的なスプライシングにより多数のisoformが産生される.それらは骨格筋の成長に不可欠であり,インスリンに関係なくグルコース摂取を誘導すること,およびグルコース輸送体の発現を調整することにより筋肉代謝を調節している.最近の研究で,ニューレグリン受容体は骨格筋において電気的に刺激された収縮および持続的トレーニング間に活性化され,抗ニューレグリン受容体阻害抗体は収縮誘導のグルコース摂取を損ねることが示された.3nmol/lの生物活性なEGF様ドメインを含むニューレグリン-1 isoform,ヘレグリン-β1(Hrg)の成長中のL6E9 nryocyteへの添加は急性および慢性の影響をグルコース摂取に及ぼし,筋形成を促進する.著者らは筋細胞を低濃度のHrgにより長期的に処理し,細胞の酸化代謝およびインスリン感受性を分析し,その作用機構を調べた.ニューレグリンは筋細胞における酸化能力およびインスリン感受性の調節物質として機能することがわかった.

コーヒーブレイク

see you again

著者: 屋形稔

ページ範囲:P.1680 - P.1680

 今年も暮れようとしている.コーヒーブレイクを最初に書かせていただくようになったのは平成4年1号からであるからいつの間にか16年になり,192回を数えることに気がついた.読者は次第に若返って入れ替わるが,書き手は年々老いてきたことになる.読者と共に若返れたらどんなに有難いことか.

 つらつら考えて来年からは今迄のように毎月書き続けることは容赦して戴いて,少しでも清新の気を涵養して倦かずに読んで貰えるように努めることにした.それにつけても今迄この拙ないコーヒーブレイクを読んで戴いた方々には心から感謝したい.

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あとがき

著者: 伊藤喜久

ページ範囲:P.1762 - P.1762

 本誌の今月の主題としては,おそらく初めてと思いますが「胎盤」を取り上げました.妊娠は期間限定の胎児の母体への同種移植状態であり,受精卵の着床から出産まで,母胎内外の環境変化に応じ精緻に恒常性を維持しており,胎盤研究はその窓口の広さ,方法論,研究アプローチの多様性,得られた成果の発展性などいずれの視点から見ても,医学・医療における基盤研究の1つとして位置づけられます.

 しかし,臨床検査との接点は生理検査では超音波検査,検体検査では血清,羊水を対象とした胎盤機能検査,胎児生長評価,異常スクリーニングなどいまだに限られたものしかありません.かつて悪性腫瘍,先天異常のマーカーなど,胎児,胎盤に関連して新しいインパクトのある研究がこの領域から生まれているだけに,発生,分化,成熟に関連した臨床上有用な知見が数多く蓄積されているはずです.優れた研究,医療への実践成果を多方面の領域からご寄稿いただき,検査の視点から“胎盤の持つ魅力,潜在力”を引き出していただくことにしました.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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